【第23話:主に時間経過的に】
今、オレは足元に横たわるアシッドワイバーンを「ぼーーーっと」眺めていた。
竜や亜竜をはじめ、一部の魔物は黒い霧になって霧散せず、そのまま亡骸を残す。
アシッドワイバーンも亜竜なので亡骸が残るのは当たり前なのだろうが、さっきあんなに苦しめられたのが嘘のように簡単に倒せたので、ちょっと放心状態になっていたのだ。
≪どうだろうか? 我の『神竜の加護』は?≫
「どうだろうかも何も凄すぎて実感がわかないんだけど……?」
そうなのだ。このアシッドワイバーンはジルニトラに倒してもらったのではなく、オレがサクッと倒したのだ。
先日「逃げ切ってぜってーリベンジしてやる!」とか叫んだオレの純真な決意を返して欲しい。
「わぁぁ! コウガ様、ギフトだけでなく戦闘もこなせるのですね!」
何か目をキラキラさせてリルラが見てくるが、どう考えても『邪竜の加護』とこの武器のお陰なのでちょっと後ろめたい。
ちなみに加護の名称はジルニトラは気付いていないようなので話を合わせている……。
「そうだと嬉しいんだけど、オレだけの力だとつい先日アシッドワイバーンに殺されかけてるから、ジルニトラに貰った『竜の加護』とこの雷槍『ヴァジュランダ』のお陰だよ」
≪主よ。その加護は元のステータスに対してかかるものではなく、生物本来が持っている身体能力に対してかかるものだ。あれだけの動きはステータスに頼った戦いをするものには真似出来ないものだ。誇ってよいかと≫
「ふふっ。だそうですよ?」
何かリルラが自分が褒められたようにご機嫌な様子で見上げてくる。
こういう正面から褒められるのは苦手だ……。
「そ、それにしてもこの槍、雷槍『ヴァジュランダ』も凄いな! オレ、詠唱魔法の適正ないから雷属性の攻撃が出来るのは凄い嬉しいよ」
まるで長年使った武器のように手になじみ、攻撃が属性攻撃となって雷の追加ダメージが入る。それに一定確率で麻痺が入るというおまけ付き。
更に嬉しい事に、オレの黒闇穿天流槍術の【雷鳴】を放つと、まさに雷となって放たれ、呆れるほどのパワーアップを果たしていた。
オレは知らなかったのだが『ヴィジュランダ』は伝説の槍らしく、ジルニトラ曰く、
≪その槍は神様が鍛えあげたものを宝珠と交換で譲り受けた物だ≫
だそうで、神様お手製の武器だった……。
ちなみにジルニトラは有名な「竜の宝物好き」を地でいく古代竜だそうで、次元収納という特殊な魔法の倉庫に、装備の類は勿論、伝説に残るような宝石から素材まで誇張抜きで実際の山のように持っているそうだ。
今の時代の貨幣は持っていないが、軽く話を聞く限りでも値が付けれないような物ばかりで、恐らく国がいくつも買えるぐらいの資産はありそうだった。
集めるのが趣味で集めたらもう興味は無くなるらしく、欲しければ全部やると言われたが、ダメ人間になる自信があるので必要な時に必要な分だけ貰うという事でお願いしておいた。
≪ん? 詠唱魔法の適正とはどのような魔法だ? 我は魔法神だがそのようなものは知らぬぞ?≫
「え? 何かと聞かれても答えずらいんだが、詠唱魔法を使うにはその適正がないと使えないというのがこの世界では一般的なんだけど……」
もしかして違うのか?と、問うてみるのだが、話が通じている様子がない。
すると、リルラが補足してくれた。
「ジルニトラ様はそもそも詠唱魔法と言うのをご存じないのではないですか? 確か詠唱魔法は、数千年前に人族の大魔法使い『コペルハーゲン』が、今で言う古代魔法を元に精霊魔法の祝詞の効果を利用して編み出したと聞いた事があります」
≪なるほど。我は数万年以上自我がなかったからな。その間に編み出された魔法なら知らなくて当然か≫
「何か二人の話を聞いていると、自分が凄くちっぽけな存在に思えてくるよ。主に時間経過的に……」
オレが苦笑しながらそんな感想を漏らしていると、ジルニトラが爆弾を投下する。
≪主は何を言っておるのだ? 主は我をテイムして神竜の加護を受けたのだ。もう不老になっておるぞ?≫
「は?」
≪ん?≫
「まぁ♪」
三者三様。若干一人喜んでいる子がいるが、それより今ジルニトラがとんでもない事を言った気がする。
「ぱ~どん? ……あ、もう一度言ってくれないか?」
ちょっと混乱しているようだ。
≪だから神竜の加護の効果で老いて死ぬことはないという事だ。病気や怪我で死ぬ可能性はあるがそれも我が付いていればまずあり得ぬだろう≫
「謹んで加護を返上したいと思うのだが……?」
寿命が少し伸びるぐらいなら嬉しいが寿命が永遠になるのはちょっと……。
≪我のテイムを解かなければ無理だ。あ、ちなみにテイムを解かれると我はまたあの呪いに侵される事になるので、断固として拒否させて頂く≫
さすがにあの知性を持たない獣のような状態に戻すのは危険すぎる……。
「良い事ではないですか! 共に悠久の時を行きましょう♪」
なんかリルラが物凄い喜んでるが、一旦この問題は置いておこう。
少なくとも呪いを解く方法を見つけるまではお預けだ。
「とりあえず当面は困るものではないので、この件は置いておこう……それで詠唱魔法の適正ってのは理解できた?」
ザ棚上げとも言う。
≪うむ。今、古代魔法でどのようなものか見てみたが、何とも効率の悪い魔法だな。これなら主は『竜言語魔法』が使えるようになったのだから不要だろう≫
オレはこの時その竜言語魔法にワクワクしていたが、この後、竜言語魔法の習得難易度の高さに打ちひしがれるのだった。




