【第19話:ゴゴゴゴゴゴッ……】
大の字になって寝ているオレは、目だけの動きで周りを確認してみるが、暗くて良く見えない。
そのまま見上げると遠くに線のように光は見えているのだが、この遺構の穴の最奥までは十分な光が届いていないようだ。
30分ほど安静にしていたが、ようやく怪我が治り麻痺も少しマシになったので、起き上がって身体の状態を確認する。
まだあちこちに痺れが残るが、動かせない程ではない。
骨折や打撲も全てクルトの実のおかげで治っており、落ちる途中何度も負った大怪我も嘘のように治っていた。
「しかし、この超筋肉痛がキツイ……」
何度も無理やりクルトの実で回復した副作用だろう。
酷い筋肉痛を更に10倍ぐらい増したような痛みが全身を襲ってくるので、歩くのもままならなかった。
「それでも生きてる……ははは、ぐぁっ、笑うと腹痛てぇ……」
学習能力のない自分に軽い自己嫌悪に落ちながらも、思考を真面目モードに切り替える。
アシッドワイバーンからは逃げ切ったが、まだ満身創痍の状態な上に武器はナイフしかなく、今いるのは現在地すら把握できていない何らかの遺構の穴の最奥。
ここが朽ちた遺跡なのかはわからないが、巨大な地下遺跡のようだ。
とりあえず、少なくともこの辺りはダンジョン化していないというのが救いだった。
オレはギルドで購入しておいた『光る魔石』を取り出し、魔力を込めて光を灯す。
この光る魔石は一度魔力を込めると魔力が尽きた時に砕け散るので使い捨てなのだが、魔力を補充し続ければずっと使える上に、その込めた魔力量によって光の強さを調整する事が出来る。非常に便利な魔道具だ。
限界まで魔力を込めた光る魔石は、強烈な光で辺りを満たしていく。
オレのいた部屋はかなりの大きさだったが、光はちゃんと部屋の隅まで届いたようで、この部屋の姿を浮かび上がらせる。
その照らし出された光景は、古びた遺跡を想像していたオレの予想を裏切るもので、思わず息を飲むものだった。
「ここはいったい……?」
現れたのは四方が百メートルはありそうな巨大な空間を持つ広間。
そして何より驚いたのが、その壁面全てに精緻な装飾が施されていた事だ。
「ん? あれは何だ?」
不思議な装飾に好奇心が刺激されて眺めていると、少し奥の壁の中に何か仕掛けのようなものを発見する。
オレは超筋肉痛の痛みに耐えながらもそこまで移動すると、その仕掛けの細部を確認していく。
「何か魔力を感じるな。これは魔道具か?」
詠唱魔法とは別に、魔法陣を使って発動する魔法がある。
もともと魔法陣を使う魔法は、高い魔力制御能力を持つ者のみが使用でき、空中に都度魔法陣を描いて発動させていた。
だが、これを特殊な素材であらかじめ物に魔法陣を刻むなどして、魔力を流すだけで簡単に発動できるようにしたものが開発され、やがて魔道具として普及していった。
オレはその魔道具と思わる仕掛けに魔力を流し込んでみる。
「なっ!?」
驚いてすぐに手を離したのだが、ごっそり半分近くの魔力を持っていかれていた。
オレは普通の人と比べてかなりの魔力量を誇っているそうなのだが、信じられないほどの魔力を一瞬で吸い上げられた。
普通の魔道具ではないと思っていたが、手を放すのがもう少し遅ければ全ての魔力を吸い出されていたかもしれない。
魔力切れを起こせば、今度は精神的に立っていられなくなる。
ただでさえ肉体的に満身創痍なのに、本当に勘弁してほしい。
オレは今のは結構危なかったと冷や汗をかきながら、念のためにと少しその魔道具から距離を取った。
するとその時だった。
ゴゴゴゴゴゴッ……!
目の前の壁 数十メートルが、地響きをたてて動き出したのだった。
~
「これって……扉なのか?」
オレは今いる場所から、少し移動してみる。
ゴゴゴゴゴゴッ……!
またさっきの位置に戻ってみる。
ゴゴゴゴゴゴッ……!
「じ、自動ドアかよ!? デカすぎだろ……」
信じられない大きさだが、この巨大な壁面は感知式の自動ドアのようだ。
「さっきごっそり吸い取られた魔力は、このバカでかい自動ドアの電源に使われたのか……」
罠かと思ってあせって損した……。
「でも、これで何とか先に進めそうだな」
ここの壁の装飾は一見の価値があるが、部屋は巨大なだけで特に何かあるわけではなかった。
オレはこの巨大な地下遺跡から脱出するため、生きて街に戻るため、出口を求めて先に進むことにしたのだった。
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本日は夜にあと1話更新予定です。GW中は一日複数話更新をしますが、
GW明けは当面は一日一話更新になるかと思います。ご了承下さいませ。
これからも引き続きご愛読よろしくお願いします!(*'▽')
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