【第17話:死の気配】
オレはジョゼさん達『紅い狐』と別れてから、遺跡をぐるりと周るように調査してみたが、ワイバーンがいたような痕跡を見つける事は出来なかった。
「そう簡単に見つからないかぁ。少し南を調べてみるかな?」
オレはそう呟くと、周りを警戒しながら歩みを再開する。
~
朽ちた遺跡から南に歩く事30分。
気配に気づいて不意打ちこそ回避したものの、それは突然オレの前に舞い下りてきた。
「ワイバーン!!」
人が付けた分類上は竜ではなく、姿形は似ていても別物とされている亜竜の1種。
近くで見るその威容は竜そのもので、一般的なドラゴンより一回り小さいとは言え体高3mを大きく超える巨体は脅威そのものだった。
「あれ? 3mを超えてる? ちょっとワイバーンにしてはデカすぎやしないか……?」
オレの教えて貰った知識では、この世界のワイバーンの大きさは大きい個体でもせいぜい体高3mぐらいのはずだ。
しかし、さきほどオレを不意打ちしてきたワイバーンは小柄なドラゴンにせまる3m以上もある。
考えている間もワイバーンがこっちの都合で待っていてくれるはずもなく、その鋭い牙や爪で攻撃をしかけてきた。
「くっ!? 黒闇穿天流槍術【雲海】」
オレは雑魚戦の時のような出し惜しみはせず、最初から奥義全開で戦闘を開始する。
この【雲海】は、体の左右交互に槍を高速で円運動させて相手の攻撃をはじく技だ。
誤解を恐れず簡単に言ってしまえば、切り上げるように槍をぶん回し、地面を抉るように這わせて無数の砂や石を相手に叩きつけて攻防一体とする技だ。
並の相手なら止まって繰り出すだけで攻撃を防ぎ、目潰しといくらかのダメージを与える効果のある技なのだが、こんなデカ物相手に立ち止まって使うのは危険なので、ワイバーンの攻撃を受け流す位置に移動しながら使用している。
ガガガガッ!!
寸での所でワイバーンの攻撃をいなしていくが、これは思ったよりキツイ……。
特訓で対人戦は嫌と言う程やってきたが、これだけ大きい魔物との戦いは初めてで間合いをはかるのが難しい。
「それに1ヶ月程度の冒険者生活じゃ、たいしてステータス上がってないな。はじくだけで手が痺れる……っぞっと!」
危ない。尻尾の薙ぎ払いが飛んできたので、後方に高く飛んで咄嗟に攻撃をかわす。
薙ぎ払いの後ワイバーンの動きが鈍り、あきらかな隙が出来た。
今しかないとオレはぶっつけで初めてギフトを使用してみる。
ギフトは授かった段階でその使い方を理解する事が出来るので、長年使い続けた技のように【ギフト:竜を従えし者】を放つことが出来た。
オレの体が薄っすらと光を発すると、螺旋状の光がワイバーンに向かって行くのだか、そのままなんの手応えもなく消えて行く。
「ダメか!」
オレは一度仕切り直そうと距離を取る。
しかし、ワイバーンとの距離を取ったその時だった。
ワイバーンが鋭い牙がギッシリと並んだ口を大きく開けて、まるでドラゴンブレスを放つような姿勢をとったのだ。
ドラゴンブレスは竜言語魔法の一種だ。ワイバーンに竜言語魔法は使えない。
「なんだ? ワイバーンはブレスは使えないはず……はっ!?」
その先入観がオレの回避行動を遅らせてしまう。
知識では知っていてもオレは実践経験が浅すぎた。
ワイバーンはドラゴンが放つような強力なドラゴンブレスは使えない。
しかし、普通のブレス攻撃を放つ亜種がいるではないか!
「アシッドワイバーンか!?」
しかし、それに気付いた時にはその広範囲な攻撃を避けるには遅すぎた。
扇状に吐きかけられる強力な酸の霧は、見る間に視界を覆い尽くす。
オレは【雲海】でいくらかの毒霧は散らして防ぐ事は出来たが、少なくない量を浴びてしまう。
「ぐぅっがっ!?」
全身をチリチリと焼かれるような強烈な痛みが襲う。
確かアシッドワイバーンの酸のブレスは、遅効性の麻痺毒も含んでいたはずだ。
暫くすれば体が痺れて動かなくなってしまう。
このまま戦っていれば……殺される……!?
そもそもワイバーンがBランク上位の魔物なのに対し、アシッドワイバーンはAランク下位の魔物だ。
濃厚な蜜のような死の気配が忍び寄ってくるのを感じ、オレはこの世界で初めて死を身近に感じる。
正直、オレは母さんに鍛えられて強くなったつもりでいた。
ステータスはまだまだ低いが、技で補えばそうそう遅れを取る事はないと奢っていたのだ。
しかし、それは正々堂々正面から接近戦で戦った場合に限ってだ。
対人において、魔法や遠隔攻撃を絡めて攻められれば危ないのはわかっていた。
しかし、魔物の使う特殊な技、毒や麻痺などの状態異常などへの理解が甘かったのを 今更になって思い知らされる。
「くっ! 逃げないと!」
相手は空を飛べるアシッドワイバーンだ。
脳裏に浮かぶ己の死を振り払い、オレは絶望的な逃避行に挑むことになるのだった。
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