【第16話:ディスられました】
冒険者になって1ヶ月が経とうとしていた。
あれからリリーとルルーと3人で、オレ達は毎日のように依頼をこなしている。
普通は3日に1回ぐらいは休んだりするそうなのだが、オレやリリーとルルーにはDランクの依頼は手ごたえがなさ過ぎるようで「毎日1~2依頼」って感じで日課になっていた。
今日も朝一でグレイトボア討伐の依頼を片づけて、今はギルドへ報告に向かっている途中だ。
グレイトボアってのはまぁ……大きな牙猪だとでも思ってくれ。
「コウガ。明日から3日間なんだけど、ちょっとパーティー活動休みにして貰っても良い? ……にゃ」
リリーが凄く申し訳なさそうに尋ねてくる。
美少女の上目遣い耐性は低いのでやめて欲しい……。
「あぁ、全然構わないよ」
「ありがとう。ちょっと里の仲間が来て説得……じゃなくて相手しないといけないの……にゃ」
会いたくない相手なのか、ルルーは本気で嫌そうな顔してウンウン唸っている。
そう言えばさすがに1か月も経つと普通に2人の見分けもつくようになってきたな。
「そうなんだ。まぁ普通にちょっと休みたい時とかも遠慮せずに言ってくれよな」
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オレ達はカリンに達成報告して報酬を貰うと、二人はどうも今から出迎えの準備をするらしく、このまま宿に戻りたいそうだ。
オレはちょっと小腹が減っていたので、冒険者ギルドの飲食スペースでお気に入りのローストビーフサンドを食べる事にして2人と別れる。
そう言えば町に出て来てから、ずっとリリーとルルーの2人と一緒だったから1人は本当に久しぶりだ。
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とりあえずオレの方はどうしようかな。
休んでも良いんだけど、この8年間休まず特訓続けてきたから、休もうと思う思考パターンが……。
あ。何か目頭が熱いぞ……。
まぁソロ依頼って未だに受けた事ないし、初めてのソロ依頼でも受けてみるかな?
そんな事を考えながらローストビーフサンドを頬張っていると、隣の席から気になる会話が聞こえてきた。
「おい聞いたか? 『深き森』の奥、『朽ちた神殿』の辺りでザックの奴がやられたらしいぞ」
「なんてこった……こないだ一緒に依頼こなした所だぞ……。しかし、一体何にやられたんだ? ザックは逃げ足だけBランク並だったろ?」
「それがな。何でもワイバーンかもしくはドラゴンモドキじゃないかって言う話だ。唯一逃げ切ったパーティーメンバーも大怪我でまだ意識が戻ってないって話だ」
「ひでー話だな。しかし、ドラゴンモドキはアースドラゴン並みに足遅いからザックなら逃げれるんじゃないか?」
「確かにそうだな。そうなるとワイバーンかよ。ちょっと『朽ちた神殿』の辺り一帯の依頼はしばらく控えた方が良さそうだな」
ワイバーンか……。亜竜だからオレのギフトが通用する可能性は低いけど、一回ぐらい試してみる価値はあるよな。
確か『朽ちた神殿』は南門から出て、1日ひたすら南に向かった先にあるとか言う話のはずだ。
明日の朝一で向かってみよう。
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翌朝、オレは朝日が昇る前に『妖精の呼子亭』を出ると、早朝の開門と同時にドアラの街を後にする。
今日は依頼などは受けておらず、時間に縛られないようにコイルさんにも最大3日ほど宿に戻らないかもしれないと伝えてある。
最悪見つからなければ野営する覚悟で、予備も含めて5日分の食料を持ってきている。
水は餞別でもらった水筒があるので何日でも問題ない。
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深き森に入って4時間が経った。
森の中は特訓でも散々歩き回ったので、オレは普通の冒険者より森の中の移動速度がかなり速い。
それと道中は、ゴブリンとオーク、はぐれのキラーアントぐらいとしか遭遇しなかったので、戦闘に時間を取られなかったのも大きいのだろう。
予定していたよりかなり早く『朽ちた神殿』まで辿り着いた。
朽ちた神殿は地上より地下に大きく広がる神殿で、地上の見える範囲はほとんど朽ち果ててしまっている。今でも残っているのは数mほどの白い石の残骸が散乱しているだけだった。
そして地下はBランクのダンジョンに指定されているのだが、そのダンジョンの入口付近で珍しい人物と再会する事になった。
「誰だ! 陣形D!」
今からそのダンジョンに入ろうとしている5人組のパーティーが見えたのだが、そのパーティーのリーダーに気付かれてしまったようだ。
即座に仲間に敵を迎え撃つ指示を出せるのは、幾度と死線を超えてきたベテランならではだろう。
「ジョゼさん、お久しぶりです。オレです。コウガです」
そう言って警戒を解いて欲しいと両手をあげながら挨拶をする。
そこにはパーティー『紅い狐』がいたのだ。
「おいおい。コウガは何度オレを驚かせれば気が済むんだよ? ……って!? お前ひとりでこんなとこまで来たのか!?」
ジョゼさんは他に誰かいないのか周りの気配を探ったようで、オレが一人でここまで来た事に気づくと、また驚いていた。
何度もほんとにすみません……。
「ジョゼっち……言ってるそばからまた驚いているし。この子の行動にいちいち驚いていたらキリがないと思うよ?」
この人は確か実技訓練の時に回復役で来てた人だ。
確か名前が『テンテン』で、カリン情報だとエルフの血が4分の1混ざっているクオーターエルフ?らしい。
「何だよ。まだこいつ何かあるのか?」
「この子のパーティー『恒久の転生竜』って言うんだけど聞いたことない? 最近話題よ。それに冒険者登録1か月で、もうCランクの試験受ける許可が出てるとか」
なんかまたジョゼが驚いているのに申し訳なく思っていると、顔を知らない残りの3人が話しかけてくる。
「へぇ~、この子が前にジョゼが言ってた規格外って子かい?」
「なんだ。思ったより華奢じゃな」
「コウガ君でしたっけ? 君はこんな所になんで一人でいるんです? 正直異常な行動に見えるんですが?」
1人目の女性と2人目のドワーフっぽいおじさんは単にオレに興味津々といった様子だが、眼鏡をかけた3人目の男性はオレの事を疑っているようだ。自分でも不審に思うので仕方ない……。
「まぁ普通に考えりゃぁ気でも狂ってるのかって思われても仕方ない行動だな。それで……お前は本当にこんな所で何してるんだ?」
ジョゼさんは一瞬目に警戒の色を滲ませると、続きをひきとってここにいる理由を問うてくる。
「えっとですね。ここらでワイバーンが現れたって小耳に挟んだので確かめに来たんです」
オレは素直に言う事にした。何か情報を持っているかもという期待も少しあるし。
「ワイバーン? ワイバーンならここから更に南下すればいつかは遭遇するだろうが、そんなの確かめてどうするんだ?」
「ジョゼっち情報遅いよ。この辺りで襲われた冒険者がいるそうよ。コウガっちは調査依頼でも受けたの?」
やっぱりこの辺りであってるようだ。
それに南下すれば他のワイバーンでも出会えるかもしれない。
「そうですね。ちょっとギルドの依頼ではなく個人的な依頼なんですが、その調査って所です」
「それにしてもこんな森の奥深くに一人とか正気かよ」
「えっと……オレは『静かなる森』の中の 名も無き村 出身なんで、森はかなり慣れてるんですよ」
オレがそう言うと、今度はジョゼさん以外が驚いた顔をする。
「へぇ~辺境過ぎて幻の村とか言われてるとこじゃないの。凄い村から来たのね」
「そうじゃな。それなら一人で森に入るっていうのも少し納得じゃ」
とりあえず うちの村 が若干ディスられてる気がするが、納得してくれたようなのでお礼を言って立ち去る事にした。
ちなみにジョゼさんはどんな村かを知らなかったので、驚きようがなかっただけらしい。
オレはこうしてワイバーンの情報を掴み、もう少し南下してみるのだった。