【第12話:してみないですけど?】
「ったく! 遅えぞお前ら!!」
実技訓練の講師であり、A級冒険者でもあるその男の名は『ジョゼ』。
さっき移動中にすれ違ったカリンが聞きもしないのに色々教えてくれたのだ。
なんでも彼はA級冒険者パーティー『紅い狐』のリーダーで人気のある有名人らしい。
思わず懐かしい麺類を食べたくなったのは置いといて、この街で3番目に実力があるパーティーのようなので先ほどの殺気も納得できると言うものだ。
遅れてきた3人が怯えながらも整列してようやく全員揃う。
「それじゃぁ今から実技訓練を始める! この鍛錬場は普段はただの広場だが、今はそこの魔導具に魔石をセットして強力なダメージ軽減の結界をかけてある。勿論、首でも飛ばされればどうしようもねぇが、頭と心臓が無事で部位欠損以外なら、何かあってもそこの女がだいたい治してくれるはずだ。安心しろ」
そう言って顎で後ろに控えている女性を紹介する。
「どもーよろしくー」
その女性はあまりやる気が無いようで、投げやりに返事をして手を振っている。
正直、あんまり安心して怪我できない……。
それからオレたちはジョゼの指示に従って、それぞれ自分の武器を構えて適当に素振りをしたりしてみせる。
オレはなんか視線が異様に痛かったので、ちょっと手を抜いて軽めに型を見せておいた。
その後、受講生同士で模擬戦を行うのだが、双子女性が2人とも短剣二刀流で相手をした男2人を圧倒。
オレは残りの男とだったが、相手のロングソードの最初の一撃を絡め取って武器を奪い取り、槍の石突きで軽くこついて5秒ほどで終了した。
今回オレたちは全員前衛だったから模擬戦を行ったが、遠隔武器などを使用する後衛の場合は的を用意して威力や射撃精度をはかったり、魔法職の場合は魔法の精度や威力、効果などを測定する事で確認するそうだ。
「だいたいお前らの実力はわかった! この判定でギルドには報告しておく。依頼の斡旋はこの判定にもとづいて行われるからそのつもりにしておけ。……だけど……そこのお前!」
ん? なんかオレが指さされているようだ。
「はい? オレですか?」
「コウガ、お前何もんだ? お前だけ実力が読めねぇ……。そうだ! お前、直接オレと模擬戦してみるか?」
「え? してみないですけど?」
とりあえず断ってみる。
「こいつ面白れぇな。気に入った! 模擬戦だ!」
どのみち模擬戦するなら聞いてこないで欲しいと言いたい。
仕方がないのでオレはしぶしぶ準備をはじめる。
~
オレたちが模擬戦の準備をしていると、鍛錬場の周りにいた冒険者達が騒ぎ出す。
実技訓練で鍛錬場を追い出されたので、鍛錬場の周りで見学しながら訓練が終わるのを待っていたようだ。
「なんか面白い事になってるぞ! あの新人と講師で模擬戦だとよ」
「講師と直接模擬戦とか珍しいよな」
「講師ってあの『紅い狐』の狂犬ジョゼだろ? 新人相手に模擬戦って話にならねぇよ」
「でもさぁ、実技訓練で講師が直接模擬戦するのって実力が測りきれない時だけでしょ? 初心者講習の実技訓練では初めて見るんだけど?」
「え? ランクアップ試験やってるんじゃないのかよ」
何か色々言われて注目されてちょっと緊張してきたな……。
でも、気にしてばかりもいられないので、準備が終わったオレとジョゼさんは中央に進み出て対峙する。
ジョゼさんは凄腕のバスタードソードの使い手だそうだ。しかもそのバスタードソードは魔剣らしい。反則じゃないのか?(カリン情報)
ちなみにバスタードソードとは、片手持ちのロングソードの剣の部分を少し長くし、柄の部分を両手で握れるようにした片手でも両手でも使える剣だ。
一見良いとこ取りで強そうに見えるが、どっちつかずで扱いが難しく、憧れてバスタードソードを購入したものの、結局両手剣のツーハンデッドソードか、片手剣のロングソードと盾のスタイルに戻る者が多いそうだ。
「それじゃぁ早速おっ始めるか。本気でこいよ!」
「はい! よろしくお願いします!」
模擬戦の礼儀は母さんに嫌という程叩き込まれている。
手を抜いたら相手に失礼だから、最初から全開でいかせてもらおう。