【第105話:冒険者生活が】
それからオレたちは、冒険者ギルドを後にしてぞろぞろと王城に向かっていた。
ギルドから出る際、ドアラの街の冒険者ギルド、そこの受付嬢であるカリンから、
「S級冒険者昇格おめでとうございます! これからもしっかりサポートさせて頂きますので、よろしくお願いします!!」
と書かれた魔法郵便が届いていた事を伝えられる。
いくらオレたちの担当とはいえ、地方の冒険者ギルドの一職員にこんなに早く伝わるものなのだろうか?
少し疑問に思ったのだが、祝ってくれているので素直に受け取っておいた。
そして今は……、
「ところでコウガよ……何度も聞いて申し訳ないのじゃが、この美少女は本当に誰なのだ……? どこかで見たような気がするのじゃが……?」
冒険者ギルドの外で待っていた元魔王と当然のごとく鉢合わせしたので、放っておくわけにもいかず、そのままなし崩し的に合流してしまったのだが、さっきからネギさんがしつこく何度も聞いてくる。
「いやだなぁ。さっきも言いましたが、屋敷を購入しようかと思っているので雇ったメイドさんですよ?」
いつの間に着替えたのか、合流した時にはすでにメイド服を着ていた元魔王。
何か妖精の影が見えた気がしたので、きっと彼女らが用意したんだろうな……。
「……そうか……それにしては……この儂から見ても、一分の隙も感じられないほどの達人のような気がするのじゃが……」
何か呟いているが聞こえなかった振りをしよう。
そう思って下手な口笛を吹いていると、テトラがネギさんに注意してくれた。
「ネギ様。あまりご主人様を困らせるような事はしないで下さい。殺しますよ?」
あれ? 何か言葉とは裏腹に、すごい殺気と不穏な空気を感じた気がしたのだけれど気のせいだろうか?
「い、いや!? 困らせるつもりは無かったのじゃが、すす、すまんかった! そそ、それよりコウガよ! もう城に着きそうじゃぞ!?」
なぜか額に大粒の汗をいくつも浮かび上がらせ、必死に話題を逸らす元S級冒険者だった。
~
「それで……魔王てとらぽっど を倒したと思ったら、原初の魔王であり、邪神でもあるショウハブロという者が現れて……コウガが一度殺されたと言うことか?」
合っているか? と聞いてくるのだが、しっかり否定しておかなければ!!
「いやいやいや!? 死んでませんから!? ギリギリの所で魔法で改造されましたから!?」
映像を見ていた王様『アレン・フォン・トリアデン』様が、
「これって治療か……?」
と何か呟いていたが聞かなかった事にしよう。
ちなみにショウハブロを封じ込めた所の映像などは、うちのジルと妖精女王のクイが何やら協力して、偽造した映像と差し替えている。
どうせならオレの死にかけている所とか、改造シーンも差し替えておいて欲しかった……。
ちなみに、記録結晶は絶対偽造できない物なので疑われる事はないだろう とは、偽造した本人の弁だ。
「コウガは初めてあった時から常識の外の人だったけれど……今度のこれは……もう常識がとかいう次元を超えているわね……」
そして、ビアンカこと第一王女の『ゼシカ・フォン・トリアデン』さんが何か呆れていらっしゃる。
オレがやったんじゃない! と叫びたかったが、この世界の法で従魔の功績や責任は全て主人に帰属する事になっているので、法的にはオレがやった事になり、事実その通りで言い返せない。解せない……。
「ま、まぁ良いじゃないですか! とりあえず魔王の脅威も去った事ですし!」
「儂は『とりあえず』で魔王の脅威を退ける奴は、後にも先にもコウガ一人だと思うのじゃがな……」
こういう時だけ、オレの言い訳に的確に突っ込んでくるネギさん。
「まったく……ネギの言う通りだ。ここまでの事を成し遂げたのだから隠し通す事は出来ぬし公表する事になる。コウガらもそのつもりでおるように。あと、魔王に関する事は他国との協定でも基本的には隠蔽してはならぬ事になっておるから、さすがに倒したとなっては他国にも公表せねばならん」
別に黙ってても全然構わないんじゃないですか~ とか言いたかったが、そう言うわけにもいかず、わかりました と項垂れながら頷いておく。
「それでアレン様。魔王を倒したと公表するとなると、報酬はどうされるおつもりなのですかな?」
つい先日『月下の騎士』の称号と名誉子爵の貴族位、それに多くの報奨金を頂いた所なのだが……。
「恐らく昇爵させて領地でも与えねばなるまいな」
えぇ!? オレの冒険者生活が……。