【第104話:目標であり夢だったんだけど】
グランドギルドマスターのネギさんは、オレの話を聴き終わった後も、虚ろな表情を浮かべて呆けていた。
オレが嘘を言っていないのは、途中の説明で使った記録結晶の映像を見て信じてくれたようなのだが、まだ現実味に欠けているようで、どうしたら良いのか考えが纏まらないようだ。
「こんなわけのわからんレベルの事……儂一人で決められるかぁ!!」
そして突然切れた……。
ギルド職員が何事かと部屋に飛び込んできて必死に取り押さえようとしているが、さすが元S級冒険者。
駆け寄るギルド職員をちぎっては投げとまるで収まる様子がない。
そんな光景に今度はオレたちが呆気にとられていると、
≪ネギよ。落ち着くのだ。精神安定化魔法でもかけてやろうか?≫
ネギさんも一番の原因であるジルに心配されたくはないだろう。
だが、問答無用で精神安定化魔法を放つジル。
うん。たぶん余計なことするなと止める前に撃っちゃうだろうなぁって思ってた。
しかし、意外と今回は良い仕事をしたようだった。
「あぁ……すまん。ちょっと取り乱してしもうたわ」
精神安定化魔法の効果が良い感じで出ているようで、先ほどまでの取り乱しようが嘘のように落ち着いている。
「じゃぁ……とりあえずもうお主ら『恒久の転生竜』は、皆んなS級って事で」
もう決定じゃからと言って、部下のギルド職員を呼んでさっさと指示を出していく。
「え? あ、あの! 私たちは試験辞退して受けてないです!……にゃ」
リリーが慌ててそう言うのだが、
「あの6魔将の二人を圧倒しておいて何を言っておる。もう色々合わせ技でS級合格じゃ」
と言って、職員への指示を変える事は無かった。合わせ技ってなんだ……。
~
それから暫くして、ギルド職員がノックもせずに少し興奮気味に部屋に飛び込んできた。
「ギルマス! S級冒険者様用のギルドカード一式の手続きが終わりましたので、お持ちいたしました!」
S級冒険者の誕生。しかも複数人同時という事で興奮しているようだ。
しかし、そう言って持ってきたギルドカードの数は5枚。
「あれ? 5枚? ……多くないですか?」
オレ、リリーとルルーで3枚で良いはずだ。
「もう面倒だからリルラの分も用意させておいた。それと残りの1枚はヴィーヴルの分だ。竜言語魔法を使いこなす竜人。しかも、あの古代竜ヴィーヴルの知識を受け継ぐ上に、一族の姫じゃろ? おまけにお主らのパーティーに加わると言うし、極めつけにお主の従魔でもあると言う。こちらも合わせ技でS級合格じゃ。そもそも、もう全員S級にしておいた方が問題回避の上でも都合が良いんじゃ」
だから合わせ技ってなんだ……。それに最後に本音が漏れてるぞ……。
リルラに関しては、もう試験を終えてこちらに向かっているという話をしていたので、先に用意させたと言うのはまだわかる。
報告は終わっていないが……。
記録結晶は見なくて良いのか……? とか、S級冒険者の授与ってそんなに軽くて良いのか……? とか色々言いたい事はあるが、とりあえず置いておこう。
しかし、ヴィーヴルは絶対にもう問題回避のために授与する事にしただろ!?
たしかにS級冒険者パーティーに一人E級とかトラブルの臭いがプンプンするのは確かなのだが……。
まぁヴィーヴルが驚きながらも一人仲間外れにならずに済んだと喜んでいるし、もう諦めよう。
しかしオレ……S級冒険者になるのって最終目標であり、夢だったんだけどな……。オレの夢……。
「あと、ホレ。これも受け取れ」
オレが軽くショックを受けて凹んでいると、皆のギルドカードの他にタグのような物を2枚渡された。
「これはいったい?」
「それは一定以上の強さの従魔に特別に発行される高位従魔の証じゃ。その中でも最上位のSランクのな」
セツナとジルの分だそうだ。
何かあって街に入れない、などと言うことが起こらないようにという話だった。
要約すると「街に入れないからとジルを一人にするな」だと言う風にオレは理解したが。
その後、結局ゼクトたちにもB級のギルドカードが渡される事になってまた少し話が拗れそうになったが、ようやく一通りの手続きを終える事になった。
「これで冒険者の昇格の手続きとかは、一通り終わりじゃの」
こうして、冒険者ギルド始まって以来のS級冒険者が一度に5人も同時に誕生すると言うイベントは終わりを告げる……はずだった。
「さて……では次は王城に向かうとするかの。一緒に来て報告してもらうからな」
まだ終わらなかったようだ……。