【第103話:話すと長くなるんですけど】
オレ達は妖精界を通って途中でセツナを回収した後、今は王都近くの森の中に身を潜めていた。
ちなみにリリーがギリギリの所で思い出さなかったら危なかったのは内緒だ。
「これから王都に入ったら冒険者ギルドに向かうけど、ゼクト達は今のうちにパーティー名を考えておいてくれよな」
妖精界を出る前、これからどうするのかを話し合ったのだが、基本皆はオレに任せるという話だった。丸投げとも言う。
「あぁ、何か良い名前がないか考えておく」
ゼクト達がどんな名前にするのかを揉めているのを横目に、オレは周りに視線を移す。
多いな……。
「ほんと、これからどうしようか……」
思わず愚痴のような言葉を発してしまったが、覚悟を決めてオレは王都に向けて歩き出したのだった。
~
王都に向かって歩きながら、さっき話した内容を思い返していた。
まずゼクト達だが、彼らは新たに冒険者登録をしてパーティーを結成して貰う。
当面は普通の人族の暮らしに慣れてもらいつつ、依頼をこなしてA級冒険者を目指してもらう事にした。
恐らく彼らの実力なら、A級冒険者になるのは時間の問題だろう。
本当はヴィーヴルも一緒に引き取って……じゃなくて、一緒にA級冒険者を目指してもらおうかと思ったのだが、パーティーは基本5名を超えると経験値効率が極端に悪くなる。
魔物などを倒した時、その身に宿る魔力を吸収して強くなる事がわかっているが、6名以上では何故かほとんど魔力が吸収されない為、冒険者ギルドでも6名以上のパーティー申請は基本認められていないのだ。
そのため、結局ヴィーヴルは『恒久の転生竜』に入って貰う事になった。
ただ、少し心配事があり、問題にならないように祈るばかりだ……。
あと、テトラはオレに仕え、お世話が出来れば他はどうでも良いらしい……。
ジルに頼んで、角にだけ隠蔽の魔法をかけてもらって魔族とわからないようにして貰っているが、何が何でも元魔王とだけはバレないようにしなければいけない。
近いうちに屋敷を購入する予定なので、連れて歩くのではなく、そこの管理でも任せようかと思っている。
歴史上初の元魔王のメイドが誕生する事になりそうだが……。
そして……何故かセツナも成り行きで付いてきてしまっているのだが、当分リリーとルルーの守護神獣として行動を共にするらしい。
とりあえず「ほにゃららキャット」とか適当な名前を付けて、レアな従魔として申請してみようと思う。申請通るだろうか……。
最後に元々の『恒久の転生竜』のメンバーだが、こちらは今まで通りだ。
主にリリーとルルーのご機嫌回復に努めるぐらい?
リルラの方も、どうやら依頼を既に達成し、今は精霊獣で王都に向かっているようだ。
早ければ明日にでも合流できるだろう。
しかし……この状況をどうやって説明したものか。
リルラなら怒ったりはしないで、オレが決めた事ならあっさりと受け入れてくれそうなのが救いだけど。
~
程なくして王都に着いたオレたちは、さっそく冒険者ギルドに向かっていた。
街に入るときに、ヴィーヴルたち竜人やテトラが身分を証明するものを何一つ持っていなくてひと悶着あったが、オレたちが『月下の騎士』の称号を受けた名誉子爵だとわかるとあっさりと入る事が許された。
さすが貴族特権。
まぁテトラに関しては、たとえ彼女が身分証明するものを持っていても、絶対にそんなものは使えないのだが。
あと、セツナはジルのような隠蔽は使えなかったが、ジル同様に身体を小さくすることが出来たので、今は白い子猫のような姿をしており問題は起こらなかった。
ちなみにセツナに雄雌の性別はないらしく、一見すると猫のように見える不思議な白い獣の姿をしている。
オレには若干犬っぽくも感じるのだが、リリーとルルー曰く、絶対に猫っぽい獣だそうだ。
まぁ確かに白い獣の獣人である二人の耳は猫耳っぽいし、尻尾も細身だけれど……。
その後、お上りさん全開ですぐにどこかへ走り出すゼクトたち5人に苦労しながらも、一時間ほどで何とか冒険者ギルドにたどり着いた。
しかし、意外にもゼクトが目を輝かせて先頭きって走り出すのが少し可笑しく、ヴィーヴルと二人で笑ってしまった。
~
ギルドの扉をくぐったオレたちは、そのまま受付に向かうとS級試験の結果報告を理由にグランドギルドマスターに面会をお願いする。
実際に結果報告もするのだが、半分は面倒な事にならないように、色々と融通を利かせて貰えないかお願いするのが目的だったりする。
案内してくれたギルド職員が部屋の扉を開けると、グランドギルドマスターのネギさんが机の上の書類に頭を抱えて考え込んでいた。
今度はちゃんと起きて仕事をしているようだ。
そのネギさんは、執務室に入ったオレたちを見ると、開口一番、
「コウガよ……それで……なんでこんな大人数なんじゃ?」
そう聞いてきた。
「ネギさん、えっと……ちょ~っと話すと長くなるんですけど、今 時間大丈夫でしょうか?」
オレは、それからこの数時間の間に起きた嘘のような多くの出来事を、淡々と話し続けたのだった。