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一四

 曹沖が目覚めてから10日が経った。


 すっかり快癒して、もう体のどこにも支障がない。

 それでも念の為にと、毎朝華佗は曹沖の下へと問診に訪れている。


 今朝もまた、華佗が問診をしていると、屋敷で働く使用人らの統括役である孝卿が訪ねてきた。


「倉舒様、その、少しよろしいでしょうか?」


 孝卿は何でもない風を装っているが、その実、緊張を隠せていなかった。

 曹沖が病に臥せる前と後とで、明らかに曹沖に接する態度に変化が起きている。

 そのことを曹沖は気付いていた。


 ――ひょっとしなくても、病床で何か“異常”なことを口走ってしまったかしら?


 そのように推測する。


「ええ、大丈夫ですよ。何でしょうか?」

「近く、倉舒様の快癒を祝うため、宴を開こうと思いましてな」

「ありがとうございます。心遣い嬉しい限り。ただ、余りおおげさなものにしないで下さいね」

「心得ております。病み上がりでいらっしゃるし、ささやかな宴としましょう」

「お願いします」


 簡単に会話を終わらせると、孝卿はそそくさと部屋を去っていく。


 ――あの様子では、父曹操も、私の“異常”をご承知なのだと、そう思った方がよさそう。


 孝卿の背を見送りながら、曹沖はそのように判断する。

 この10日、曹沖を溺愛しているはずの曹操が、未だ見舞いに現れないことも、それを裏付けているように、曹沖には思われた。


「ふむ、問題ないようです。ただ、決して油断なさらぬよう。くれぐれもご自愛なされよ」


 華佗が問診を一通り終えると、ここ数日お決まりになった言葉を告げた。


「はい。老子」


 曹沖は素直に頷く。その時、新たに部屋に入ってくる者があった。傍付の侍女である鈴玉だ。


「問診はもうお済ですか?」

「ええ、たった今終わったところです」

「それはよう御座いました。こちらも丁度朝餉の準備が整ったところですわ」

「では、儂はこれでおいとましましょう」

「ありがとうございました、老師」


 曹沖と鈴玉は、華佗を見送ると、朝餉が用意された広間へと向かう。


 渡り廊下を歩きながら、元の体調を取り戻した曹沖の様子を見て、鈴玉がしみじみと言う。


「本当に、ご快癒なされて喜ばしい限りです。一時は、心配のあまり鈴玉は肝を潰してしまうかと思いましたよ」

「心配をかけてごめんなさい。でも、そんな大袈裟な」

「大袈裟なことなどありますか。倉舒様が臥せっておられる間、近くの郷里で倉舒様と年の近い女子が亡くなられたと聞いて。縁起でもないことですが、倉舒様もこのままもしやと……どうかなされましたか?」


 ぴたりと足を止めた曹沖に、鈴玉は不審そうに尋ねた。


「近くの郷里で、女の子が亡くなったの?」

「え、ええ。残念なことですが。それが如何しましたか?」

「いえ、痛ましいことだと思って」


 曹沖は再び歩き出す。


「鈴玉……」

「はい」

「花を……。その郷里に、亡くなった女の子に手向ける花を送ってもらってもいいかしら?」

「花、ですか」

「うん。お願いしてもいい?」

「畏まりました」



 哀悼のためにか、曹沖はそっと瞳を伏せた。


 リメイク作品『信長と征く! 戦国商人の天下取り(β)』連載開始(2018年12月31日)

 興味がお有りな方は、下のリンクからお願いします。


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