第三話
そして一週間がたち、寮室にそれぞれ使用人が就く日になった。決まりとして自分の部屋に待機して、担当がくるのを待つ。そしてどうやら就く使用人達はあくまで見習い使用人、つまりは自分たちとになような学生に近い状態の使用人らしい。
「言って無かったが、今日部屋それぞれに就くのは見習いの使用人達だ。見習いといえど使用人だ、報酬は発生する。一応皆と同じような歳なので仲良くするように。」
デビウスの説明だと、どうやら最低でも月に金貨10枚は部屋主が払わねばならない。寮生は学院から月に最低金貨30枚をもらえ、これは自分の順位によって増額されていく。そして寮にも生活費として月に5枚金貨が必要になる。これからはそれに使用人への報酬が10枚プラスされ最低でも15枚の金貨を基本的に消費する。
「どんな人が来るんだろ。」
気難しくないといいけどなぁなどと考えていると。
トントン
っとドアをノックする音が聞こえたので、急いでドアを開いた。
「今回、カイル・エワイト様の部屋の担当をさせていただくフィーナ・ライトです。よろしくお願いいたします。」
普通ならここでよろしくなどの言葉を返すところだが、カイルは言葉を失った。フィーナ・ライト。白髪の肩辺りまで伸びた髪。大人びているようで少々幼いような顔立ち。カイルは彼女に一瞬見惚れてしまった。
「...え、あ、こちらこそよろしくお願いします。とりあえず入って。」
「はい、失礼いたします。」
カイルはフィーナを部屋に入れてとりあえず、何をどこまでやればよいかなど仕事の内容決めや、報酬を渡す時期などを話した。
そしてカイルは少し気になったことを聞いてみた。
「えっと、なんで俺の部屋に?」
「ご迷惑でしたでしょうか...」
「あ、いや、そうじゃなくて。その、なんでこんな綺麗な人が俺の部屋に来たのかなぁって。」
そういうとフィーナはいろいろと教えてくれた。
どうやら彼女達は、自分たちと同じ時期にこの学院に入学して、1ヶ月いろいろと使用人について勉強する。その後、成績の上位者から自由に部屋を選んでいくようになっていたらしい。そして彼女はその中で2番目に選んだらしく、ここを選んだ理由は「特に理由はないなく、自分の使用人番号と同じ部屋番を選んだだけなんです。」と少し顔を赤らめて、申し訳なさそうに言っていた。相当悪いうわさが流れていない限り皆自分たちが就く部屋番を気にしたりしないらしく、他の使用人たちも似たような選び方らしい。
ある程度フィーナが説明し終えると。フィーナがポツンと一言発した。
「でも、私はエワイト様の部屋に来て良かったと思います。」
「...というと?」
「貴族の部屋に就いてしまうと過剰に仕事を求められたり、家の感覚で命令されてしまうなどのことが多くあるらしく、とても大変だそうです。エワイト様は貴族ではないとのことなので、そのあたりの心配はないかと一人で安心しているということです。」
「...俺がその話の貴族みたいな事をしないとも限らないんじゃ?」
「先ほどの仕事の内容決めや、報酬の件のお話をさせて頂いた際に、とても誠実な方と思いました。それにそのようなことを言う方は基本的に優しい方です。」
とフィーナは笑顔で返してきた。そんな彼女にカイルは。
「まぁその、とりあえずこれからよろしくお願いします。」
「こちらこそ、これから担当として精一杯頑張らせていただきます。よろしくお願いします。」
というような無難なやり取りで照れを隠しながら、学院でのまた新しい生活が始まった。
そしてこの時、カイルはこれからフィーナと同じ部屋で生活することを知らなかった。