エルフ少女への説得(脅し)
細い路地に入り込んだ。
薄汚れていてわかりづらいが、可愛い顔をしており耳の長いエルフの少女、マナミの肩をガッシリと掴んで、後ろから押すようにしながら移動していく。
人と人がすれ違うのも苦労しそうなほど細い路地を進み、しばらく言ったところで壁が凹んだようになってスペースができたところにまでやってきた。
ここなら、話し合いをしていても邪魔が入らないだろう。
そう判断して俺はマナミへと話しかけた。
「マナミ、おまえは今いくつなんだ?」
「……もうすぐ12歳」
「そうか、まだまだ食べ盛りの時期だな。親はいないのか?」
「……いない」
いかんな。
どうもマナミは俺を誤解しているようだ。
俺はおかしな、怪しげな、変質的な人間というわけではない。
決して不審がられるような存在ではないのだ。
まずはそのことを説明して、マナミから不安を取り除いたほうがいいかもしれない。
「腹が減っていると言っていたな。マナミはどんな食べ物が好きなんだ?」
「食べられる物ならなんでも食べる。けど、お肉がほしい」
「おお、肉が好きか。あの串焼きはうまかったか?」
「美味しかった。ほんとにまた食べさせてくれるの?」
コテンと首を横に倒して聞いてくる。
それと同時に串焼きを食べたときにのことを思い出したのか、お腹からグーと音がなった。
親がいないとか言っていたし、かなり食糧事情が悪いのかもしれない。
「ああ、この後買いに行こうか。そのかわり、俺のお願いも聞いてもらうけどな」
「……お金はないよ」
「そんなことわかってるよ。さっきも言っただろ。俺はおまえに食べ物をやろう。だから、おまえは俺にとって必要なものを用意してくれたらそれでいい」
「でも、私何も持ってないよ」
「大丈夫だ。マナミがトイレにいくときに必ず俺に一声かけてくれたらそれで十分だ。何も問題ないさ」
さらっと説明すればあまり抵抗なく受け入れてくれるかと思った。
だが、俺の説明では今ひとつマナミは俺がいいたいことを理解できないみたいだった。
何を要求されるのかと、ビクビクしているようにみえる。
仕方がない。
思い切ってはっきりと誤解のないように言うしかなさそうだ。
「実は俺は悪い魔法使いに呪いをかけられているんだよ」
「えっ、たいへん。大丈夫?」
「ああ、今すぐに死ぬような呪いじゃないからな。だけど、その呪いのせいで、俺は女の子のおしっことうんこしか口にできない体になっちゃったんだよ。だから、俺の食事のために、マナミのうんことおしっこがほしいんだよ」
「ヒイイイ」という声が路地に響いた。
さすがにまだ幼い子供であっても、俺の発言が普通ではないというのが分かるのだろう。
思いっきり引いている。
だが、ここまできて俺も引き下がるわけにはいかなかった。
通報なんかされてみろ。
事案じゃすまなくなるかもしれない。
「頼む。このとおりだ。こんなこと相談できるやつはいないんだよ。俺を助けると思って引き受けてくれ」
「そ、そんなこと言ったって……」
「お願い、助けてくれ。ちゃんとマナミに食べるものを用意するから」
うう、と呻くような声を上げるマナミ。
だが、さっきまでの様子と違って食べ物をやるといったときには耳がピクッと反応して動いていた。
やはり相当に腹が減っているんだろう。
それに俺が呪い云々と言い始めたとき、すぐに俺を心配するような発言をしていた。
悪い子ではなく、むしろ心の優しい子なんだろう。
そこをついていくしかない。
「俺もマナミと同じなんだ。ずっと食事ができてないんだよ。ここで断られたら明日にでも死ぬかもしれない。そうなったら俺もマナミを呪うからな。俺が死んだらマナミのせいなんだからな」
「ええ、わ、私のせいになるの!?」
「そりゃそうだろ。これだけ頼んでいるのに断ってるんだから。俺が死んだら今度はマナミが魔法使いの呪いを受けるかもしれないな。そうなったら明日からでも、マナミの食べるのもはうんこになるんだぞ」
「そんなの嫌だよ。おねがい、そんなのやだー」
「じゃあ、ここで約束してくれ。マナミは俺が死なないように、これから毎日うんことおしっこを食べさせてくれるって」
「わ、わかった、わかったから。約束するから! だから呪わないで」
「よし、約束だぞ。ちゃんと約束したからな。約束破ったら、嘘つきも呪われるからな。覚悟しておけよ」
「うう……わかった……ちゃんと約束守るから」
ガックリとうなだれてしまったエルフの少女。
どうやら俺の誠意を込めた説明に納得してくれたようだ。
こうして俺はこの世界に転生して初めて、自発的に俺に食べるものを用意してくれる女の子を手に入れた。
ちょっと年が若いが、ギリギリセーフだ。
これからは毎日この子の排泄管理をしていくことにしよう。