探検だー
冒険者ギルドを後にした俺はユラの鍛冶をしている間の時間で街の散策をと思ったが気になることがあり街の北西の広場にきていた。
広場のベンチに腰を落ち着けて、区画に入った時からついてきていた木の陰に隠れる女の子を眺めている。
少し警戒が緩くなったようで目の前の木の陰より近い真横にある木の陰になった。
女の子は前と同じように木の陰から顔を出しては引き戻されるという動きを続けていた。
「こんにちは」
女の子が顔を出した瞬間に声を掛けてみると女の子は俺の方に歩いてきてベンチが女の子にとっては高いようでベンチによじ登るようにして俺の隣に座るが俺を見つめているだけで返事はない。
じっと見つめられているとなんて声を掛けて良いのか悩む、また串焼きでも買って間を繋ぐかと考えたが、串焼き1本を買えるだけの所持金がない。
『ユラ、1万G貸してくれ』
ユラに手紙を送ってみるが鍛冶をしているユラは手紙に気付くだろうか?そして女の子は何故じっと俺を見つめるだけなんだ。
女の子を観察していると気付いたことがひとつある、女の子の頭上には名前の表示がないため名前がわからない。
おそらくNPCではあるとは思うが…
『はい』
鍛冶中なのか1万G添付の返事のみの手紙が返ってきた。
「串焼き食べる?」
女の子に聞いてみたらブンブンと頭を縦に振る。
ベンチから立ち上がり屋台に向かうと女の子も俺のあとをちょこちょことついてきた。
「いくつ食べれる?」
屋台の前に来て、せっかくついてきたので女の子に本数を尋ねてみると女の子は自分を指差して右手の指を3本立て、女の子が隠れていた木の陰の方に視線を向けて考えながら左手の指を1、2、3、4と順番に立てた。
「おじさん7本下さい」
「あいよ今から焼くからちょっと待ってな、代金は2100Gだ。
それにしてもマル、なんでお前がここにいるんだ?また館から抜け出してきたのか?」
屋台の台にGを置く窪みがあったので先にG置いていると、屋台のおじさんが串焼きを焼きながら女の子に親しげに話しかけた。女の子はおじさんの前に質問に頷く。
「この子はマルって名前なんですね」
「兄ちゃん、一緒にいて知らなかったのか?」
「えぇまぁ、広場でこの前知り合ったばかりですし」
「見た感じ兄ちゃんは冒険者だな、少し怪しいぞこんな街の寂れた場所で知らない子供に串焼きを奢ろうとするなんて…警官猿に連絡するか?」
「いやあの…呼ばないでください」
警官猿に通報されそうになったのでおじさんに頭を下げる。
「まぁ、なんかマルもなついてるようだし…串焼きも買ってもらえるからな、屋台の前で串焼きを食べろよ俺の前でな。
マルにおかしな真似しないように監視させてもらう」
「…はい」
おじさんはGを回収してから焼けた串焼きを渡してくれた。
マルに3本串焼きを渡すとマルは串焼きを食べ始めた。
「もう一人の分はどうするかな?…食べ終わったら持って行ってあげて」
手にある4本の串焼きを眺めていると、マルが串焼きを食べ終わったようなのでマルに串焼きを渡すと走って木の陰の中に姿を消した。
「マルはどこに行ったんだ?」
屋台のおじさんが訪ねてきた。
「あの木の陰にもう一人いるんです、残りの串焼きを持って行きました」
「あーそうだよな、マルがいるならカクもいるよな」
「カク?もう一人の名前ですか?」
「本当にマルとカクのこと知らないんだな兄ちゃん。
マルとカクはこの街の領主様の館に住んでいる双子の兄妹だよ」
「領主様の子供ですか?」
「違う違うあの2人は、冒険者だった親を亡くした孤児だ。
領主様の館は孤児院も兼ねてるから2人は預けられてるんだよ。
まぁ館を抜け出してきて2人が両親と住んでいたこの区画によく来てしまうんだ…」
「両親を探して…ですか?」
「さぁな…ただ兄ちゃんにはこれだけは言っておくぞ。
マルとカクは両親と一緒に俺の屋台によく来てた2人だ、わかるよな?2人にちょっかい出すんじゃねぇぞ」
凄くおじさんに睨まれた。
「…了解」
ゲームの中なのに重い話だなおい…
「領主の館に孤児院があるってのは…子供を孤児院に置いていく人とかいるんじゃないですか?」
領主は金があるからそういう親もいるよな?
「あぁ!子供を捨てる親がどこにいるんだよ!?子供は授かり物だ!ふざけたこと言うんじゃねぇ!」
凄い剣幕でおじさんに怒鳴られた。
いつの間にかマルが俺の服を握りしめており俺とおじさんを交互に見つめて首を振っていた。
これは、喧嘩してると勘違いしたかな?
「おじさんと俺は仲良しだぞ…なぁおじさん」
「…あぁそうだ、生意気な兄ちゃんだがムカつく兄ちゃんだが腹立つ兄ちゃんだが好きじゃないからな」
マルはそんな俺達を見てあからさまにホッとした顔を見せた。
ちょっと待ておじさん…嫌ってるとしか言ってないが?
マルもそれで安心するのか?
「ほらマル、また迎えに来るはめになる領主様の使用人達が大変だろ?今日は帰りなカクと一緒にな」
マルはおじさんの言葉に頷いて足早に木の陰にいた子供と一緒に広場を後にした。
カクと呼ばれた子供は後ろ姿だったので男の子か女の子かはわからなかった。
「ほら兄ちゃんも…マルとカクは諦めて帰りな」
なんで狙ってるみたいな言い方なのかな?このおじさん。
「言っておきますけど別に誘拐や犯罪まがいなことはしませんからね」
「はんっどうせ可愛いマルに魅せられたんだろ?しっしっ」
「確かにマルは可愛いですけど…犯罪者扱いしないでください」
「ほら可愛いって言った、認めた、最低」
「聞けよ人の話!」
「冗談だ」
あっけらかんと冗談といい放ったおじさんの頬を捻りたい。
「まぁなんだ、あの2人はよく領主様の館から抜け出すからな、冒険者は街へ街へ移動しての仕事だが、街にいる間の暇な時でもいいマルとカクと遊んであげてくれ。
俺の前限定でな」
「…おじさん」
結局信用してねー。
『鍛冶終わった、シズカさんとの待ち合わせまで時間あるから片付け手伝って』
ユラから手紙が届いたのですぐ戻ると返事をしておく。
「あぁ街にいる間はよく暇があるから寄ってみるよ」
ユラの鍛冶の間は暇だから話し相手は欲しかった。
「ありがとよ」
広場からプレイヤーギルド管理施設に戻りいつものようにユラが作成した武器を手紙に添付して送る作業をする。
作業が終わったので管理施設から外に出ると相変わらず着ぐるみ姿のユラが待っていた。
「ありがとあにぃ」
「鍛冶レベルは上がったか?」
「まだ28、まだまだだね。そういえばあにぃ、1万Gは何に使ったの?」
「ん…色々とな。北西の区画で出会った……」
マルという女の子の話をユラに全部話した。
「なんかあにぃってVRMMOの違った楽しみかたをしてるような…」
ユラに変な人を見る目で見られた気がする。
「まぁ人それぞれだよね、道具屋でMP回復薬とHP回復薬を買っておこうよ」
武器屋の隣にある道具屋にユラに連れられて入る。
「いらっしゃい」
体格の良いおじさん店員は入店してきた俺達に挨拶をすると、すでに入店していた別のお客のプレイヤーの商品説明に戻る。
ユラは別の男性店員がいるレジに向かう。
「MP回復薬を50とHP回復薬を50下さい、全部中級の物で」
「はい、全部で7万Gになります」
レジの台の上に回復薬が入った小瓶が並べられ、ユラがGを払い回復薬を触ると次々に消えていくのでアイテムバックに入れているのだろう。
「よしこれで準備は終わりかな?あにぃに回復を15ずつ送っておくね、中級回復だからHP回復は1本で5000回復、MP回復薬は1本で1000回復するからね」
「ありがとう、じゃあ待ち合わせ場所に行くか?たぶんちょうどいい時間だと思うぞ」
「うん」
道具屋を出てから街の出入り口に向かって歩いていると教会前で戦闘服の白装束を着こんだシズカさんに会えた。
「あっユラさんにコウさん…ユラさん着ぐるみ…」
「シズカさん遺跡調査よろしく」
シズカさんに抱きつくユラ。ユラ…シズカさんは着ぐるみ姿で戦闘するのかと驚いてるようだぞ。
「はっはいよろしくお願いします」
「シズカさんよろしくお願いします」
「コウさんもよろしくお願いします」
「じゃあドライ平野遺跡探検だー」
隣同士で歩くユラとシズカさんの後をついていく。
ポルダの森にてシズカさんがコロコロに矢を撃ち倒す。
「聖霊と契約したのに弓は持って行くんだね」
シズカさんが構えている弓を指差してユラが聞いた。
「はい、聖霊達に戦闘はしてもらうんですけどせっかく取ったスキルなんでレベルを上げたいと思いまして」
「そうだよね、『マジックウィップ』」
ユラは魔法の鞭でツリーモドキを掴むと、振り回してツリーモドキやコロコロに当てて同時に倒す。
「冒険者ギルドで受付をしてるとプレイヤーさん達の話を聞けるんですけど、
職業は弓術みたいな武器を装備できるスキルを極めると増えるんじゃないかと噂があります。
あっ凍らせて」
シズカさんが手を前にやると手の向きにいたコロコロの集団が凍りつく。雪の聖霊の仕業か。
「噂か…でもシズカさんが弓術を極めてくれたら職業が増えるかわかるね『ファイアーボール』」
ユラが放った火の玉はツリーモドキを燃やし倒す。
「まだ先は長いですよ。力を貸して『やっ』」
シズカさんが射った矢がツリーモドキに刺さり凍りつき砕けた。
なるほど雪の聖霊の力を矢に付与したのか。
「でも楽しみだよね『ウォータースライサー』」
ユラが放った水の刃はツリーモドキ、コロコロをなぎ倒していく。
…2人は和気あいあい喋りながら魔物を倒していく。
俺は黙々と魔物を斬る。なにか寂しい気持ち。
ドライ平野に入るとMP温存しながらと言うことで、ポルダの森の時とは違い襲ってくる魔物のみを倒して進む。
ようやく遺跡入り口の周りを囲む3つの石が見えてきた。
そしてドライロックの姿も見える。
「あわわわ、あんな強そうな魔物がいるなんて」
シズカさんは3メートルを越えるドライロックに分かりやすく動揺している。
「大丈夫!…あにぃやって」
『ソードスラッシュ』
「一撃…」
ユラに指示されて直線上のドライロックを3体倒すと遺跡入り口までの道は開かれるが、シズカさんは口を開き唖然といった表情になる。
「遺跡の中も魔物もいるだろうから、ドライロックは無視しよう。」
ユラが呆けているシズカさんの手を取って走り出したのでついていくと、そのまま遺跡入り口の地下への階段を駆け降りていく。
「うわぁなんか神秘的だね」
「そうですね、壁が光っているなんて」
階段を降りきると階段を中心にした空間に出た。
壁の中に緑に光る石があり、その光は壁全体を覆っており、その神秘的な壁の光は呆けていたシズカさんを魅了し元に戻してくれた。
「で、どの道が正解かな?」
壁には一定間隔で縦、横幅3メートル程の穴があり、通路になっているようだ。
「通路は10ある、別れてそれぞれの道を確認したほうがいいんだろうけど…魔物の対処もあるから1つずつ確実に行こうか」
「賛成」
「頑張ります」
シズカさんは手元に紙とペンを取り出した。
「シズカさんそれは?」
「こっこれはマッピングをしようと思いまして」
「あにぃマッピングって?」
「通った道を地図に描くことかな」
「ふーん、でもシズカさんの手が塞がっちゃう」
「だっ大丈夫です、私には雪の聖霊達がいますから」
「そっか聖霊ちゃん達期待してるよ」
『うん頑張る、シズカのために』
地面の砂が舞い、砂文字を作る。
「遺跡調査だからマッピングは必要だったな、前に廃鉱山カルイの調査依頼の時もマッピングしておけば、岩に潰されなかったかも」
「えっえっ、潰されたんですか!?大丈夫ですか!?」
シズカさんがユラの肩を握り身体を揺さぶる。
「あにぃだけだよ、私は大丈夫…ってもう終わったことだよ」
「そっそうですよね…取り乱しました」
「んんっ…じゃあ気を取り直して、シズカさんにはマッピングを、あにぃと私、それに雪の聖霊は戦闘だね。
みんな一丸となって頑張りましょう!」
「はい!」
「おー」
ユラに背中を押されて、強制的に俺が先頭になり通路に入る。
コウ:人族Lv36
職業:剣聖Lv5:聖職者Lv2:冒険者Lv31
HP:11940
MP:4470
STR:597
INT:437
VIT:570
AGI:651
DEX:484
LUC:820
スキル:光の剣Lv1(2/100)、聖なる光Lv1(1/100)、剣匠Lv1(28/100)神速Lv1(26/100)ヒールLv1(2/10)キュールLv1(2/10)瞑想Lv19(4/10)ソードスラッシュLv21(6/10)ファイアーエッジLv1(1/10)ウォーターエッジLv1(1/10)
称号:創造の女神リアルの加護:剣豪に認められた者
装備
頭:
右手:ロングソード
左手:
上半身:駆け出し冒険者の服
下半身:駆け出し冒険者のズボン
足:シューズ
装飾品:羽飾り
装飾品:
所持金8880G
ユラ:ドワーフ族Lv38
職業:魔法使いLv9:商人Lv16:冒険者Lv32
HP:4160
MP:3500
STR:159
INT:350
VIT:183
AGI:263
DEX:197
LUC:151
スキル:ファイアーボールLv26(3/10)、ウォールLv1(7/10)、瞑想Lv23(6/10)、ヒールLv1(1/10)商品配送Lv14(7/10)目利きLv7(5/10)商人の資質Lv13(3/10)鍛冶Lv28(3/10)鑑定Lv2(4/10)生産強化Lv14(8/10)フライLv1(1/10)解体Lv13(4/10)マジックウィップLv2(4/20)ウォータースライサーLv2(11/20)マジックアップLv1(1/20)
称号:
装備
頭:
右手:魔法使いの腕輪
左手:火伝の指輪
上半身:着ぐるみ『ベンガル』
下半身:着ぐるみ『ベンガル』
足:シューズ
装飾品:羽飾り
装飾品:商人バッチ
所持金113672G




