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ここは人類最前線8 ~攫われた勇者様を救え!~  作者: 小林晴幸
勇者様を助けに村娘と魔王が出動です
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6.赤毛の羊飼い 推参☆

前回のラストに突如として現れた謎の声。

果たしてその正体は……(棒)!





 黄金の、羊。

 空に浮かんでいる綿毛の正体は、どうやら羊の様ですが。

 ……『金色の羊』という単語に、連想するモノがありました。

 私の村にもいるんです。金色羊。

 魔境の固有種ではなくって、外来種。

 それも元々は、私達の村が作られる前……御先祖様達が放浪しながらも魔境の外から連れてきたのだという、羊が。

 放浪以前から殊更大事にしていた羊らしく、今でも村で大事に大事に守られている品種です。


 さて、皆様は覚えておいででしょうか。


 檜武人の名で親しまれる私の御先祖様……ハテノ村の創始者たるフラン・アルディークの職業は…………羊飼いです。

 目を逸らしようのない心当たりに、私の顔は複雑な表情で固まりました。

 いえ、天界ですからね……そういや今は神様やってるって言ってましたし。

 そりゃどこかで会うかも、とは思っていましたよ?

 でもまさか……天に来て初っ端から遭遇することになろうとは。

 まぁちゃんも同じ気持ちなのか、私の隣で苦い顔をしています。

 あまり歓迎的ではない子孫の反応も、お構いなしに。

 空に浮かんでいた羊が、ゆっくりと私達の前に降り立ちました。

 その広い背中には、案の定。


 見覚えのある赤毛のお兄さんが膝を崩して座っていました。


 わあ、くつろいでいらっしゃるー……。


 鏡で自分を見て、見慣れた色と同じ色。

 目にも鮮やか、真っ赤な髪に緑の瞳。

 代々受け継いだアルディーク家の特徴を、ばっちりはっきり色濃く体現したそのお姿。

 ……色が同じで当然ですよね。

 この方から髪の色も目の色も、私達みんな受け継いだんですもの。

「わあっ、わあーっ! あに様、リャン姉様! 御先祖様ですの! 御先祖様ですのー!!」

 一人、せっちゃんだけが大喜びではぴょんぴょん飛び跳ねてはしゃいでいました。

 素直に懐けるせっちゃんが羨ましいです。

 一方、私の方は素直に喜ぶのは難しいですね。

「御先祖様……」

「よう、子孫ども。ご機嫌麗しゅう?」

「ご、ご機嫌麗しゅう……」

 村の……いいえ、魔境の伝説フラン・アルディーク。

 武人として名高い羊飼いの御先祖様が、そこにいました。

 というか、「待ってた」って……

 待ち構えてたんですか、御先祖様。

「もしかして、私達の事情を知ってるんですか?」

「まあ天界、暇だし。俺の今の趣味は今を生きる子孫達の観察だ」

「そんな野鳥でも眺めるみたいに……」

「正直言って、野鳥観察よりは面白いぞ。特にお前らは、な」

 にぃっと笑う、その笑顔。

 見覚えのある種類の笑みです。

 そう、とっても見慣れた……悪戯小僧の笑い方。

 うんうん、どう見てもまぁちゃんの同類って感じです。

 若々し過ぎて「先祖」って感じがしません。

 享年123歳だとお聞きしていますが、長く生きた者特有の悟りに近い『老境』って雰囲気がどこにもない。

 多分、今のお姿は御先祖様の全盛期のモノなのでしょう。

 私のちょっと年上、くらいにしか見えないお姿は、全身に活力が満ちて眩しいくらいでした。



 いま、私達の前には。

 御先祖様の持ってきた、大きな鉄板が一枚。

 そしてその上で、とても美味しそうな……羊肉が焼かれています。

 じゅぅじゅぅと、肉汁が弾けて踊り狂う。

 気が高ぶって、全然意識してなかったんですけど。

 思い返せば結構いい時間で。

 そして私達はお昼ご飯を食べていなくって。

 意識した途端に、お腹が空いていることに気付きました。

 そんな私達の前で、御先祖様が手際よく準備してくれた訳ですよ。


 羊肉(食用)を。


 なんか元々、私達に御馳走する為に用意してきてくれていたらしくって。

 御先祖様曰く、『差し入れ』だそうです。

 御先祖様が羊肉に合わせて調合したというオリジナルブレンドのハーブは、とても良い匂いを発生させていました。

 これだけだったら、きっと和やかな食事になったことでしょう。

 しかし、この場にはカリスマ☆エロ画伯と軽薄なサルファがいて。

 そしてご先祖様がこれまたお土産に、と。

 ……なんか馬のお乳で作ったとかいうお酒を出してきました。

「この前、土産にもらったヤツでな。俺もまだ飲んだことねーんだけど、どうだ一献?」

 これでお酒が入ったら……まあ、結果は目に見えていました。

 こうなるのは当然の帰結ってやつだったのかもしれません。

 多分、他にもっと、これよりも絶対に優先すべき話題があったと思うんですけどね?

 ねえ、私はそう思うんですよ? ……画伯?

 私の笑みが引き攣った、話題が画伯の口からポロリ。

「ねーね、ねえねえ♪ 檜武人のフラン様ぁ?」

「ヨシュアン、失礼ですよ。魔境屈指の偉人を相手にそのような……」

「気にすんな、無礼講だ。そんで? 俺に何か質問かよ」

「あはははは♪ 参考までに聞いてみたいと思ったんだけどー……フラン様は女性の下着(ラッピング)清純(シロ)派? それともセクシー(クロ)派?」

 まぐまぐと羊さんを私達が食み食みしている中。

 お酒が入って陽気になった、ヨシュアンさんの声がはっきりと響きました。

 そしてりっちゃんが、ぶふぅっとグラスのお酒を噴き出しました。

 そのまま咽る、咽る、ものっそい咽てる!

 うん、気持ちはわかるよ、りっちゃん大丈夫か!

 というか、ヨシュアンさん……天上世界(こんなところ)でなんて質問を!

 驚愕に目を見張る私達。

 しかし質問されたご先祖様の方は、あまり動じる様子もなく。

「ああ? 布切れ一枚になんざ興味も何もねーよ。大事なのは中身だろ、中身」

「わあ☆ フラン様、(おとこ)だね!」

 どうでも良いと、心底どうでも良さそうに語る、その口ぶり。

 なんか赤裸々に語られちゃったんですけど。

 止めて、先祖の生々しい話なんて聞きたくない……!

 画伯、男の飲み会のノリで猥談するのは止めてください!

 そう私が口にするより早く、次の質問を繰り出したのはサルファでした。

「えー? フランの兄さんって奥さんいたんでしょ? 奥さん相手には実際のとこ、どう? こだわり(フェチ)とか無かったわけー?」

「話を掘り下げるのは止めろ、サルファ……!」

 調子に乗った質問に、まぁちゃんの手が伸びる。

 サルファの顔面をわしっと掴んでアイアンクロー!

 まぁちゃん、素敵! その調子でサルファをどうにかしてほしい。

 だけど私達にはどうにもしようがない方が、サルファの質問に乗ってしまう。

「あ? 嫁か? ……そういや、結婚前に夜着と下着について好みを聞かれたことがあったな」

「えー? それでなんて答えたんですか、フラン様」

「資料を提示されてどれどれどうのって説明受けたけどよ、そんなもん見てみねぇと確かなことは言えねーだろ? 特に嫁にどれが似合うかなんざ実際に着せてみねぇと。っつう訳で、俺は結婚前の嫁に言った」

「なんて? なんてなんて?」

「どうしても判定してほしいっつうんなら、実際に見本品着て寝る前に見せに来い。その時に査定してやらぁ――ってな。ちなみに十日後に嫁が出した結論は、背伸びし過ぎず自分の身の丈にあったモノが一番っつってたぜ」

「あの、御先祖様? ホント、生々しいんで……こっちには純真無垢なせっちゃんもいるんで! 本当にもう、その辺で……!!」

「そ、そうそう! 本当にそうですよ! 他にもっと重要な話題があるんじゃありませんか!?」

 話の際どさがレベルを上げてきたので、私とりっちゃんが中心となって御先祖様に物申します。

 もっと他に話し合うべきことがあるんじゃないか、と。

 御先祖様は私達が何をしに天界まで来たのか御存知の筈です。

 だったらそれに合わせて、何か助言とかないのかと無理やりせがんでみました。

 すると、どうやら御先祖様も何か言いたいことがあったらしく。

 あっさりと話題転換の求めに応じて、さらっと重大なことを口にしました。

「天界ってのは、下界の人間が馴染むに難しい場所でな。身体が完璧に馴染んで、問題なく生活できるよーになるまでは『後見神』を立てる必要がある。あの勇者って野郎は馬鹿みてぇに加護かけられてたろ? 天界(こっち)じゃそいつら加護をやった神全部が後見として保護者代わりに立てられる」

「ええと、勇者様に加護をかけた神様って言うと……陽光・美・愛・幸運・選定の五柱の神様達ですよね」

「そう、そいつらな。そんで身柄は後見に預けられるってぇことで……地上に連れ戻そうと思うんなら、後見全員の許諾が必要だぜ?」

「「「え」」」 

 初耳……いえ、知らない世界の決まりごとなので、初耳なのは当然なんですけど。

 今さらりと、なんか厄介な情報を耳にしたような……。

「下界の人間が、神を相手に意を通そう――っつうなら、遥か昔っから方法は一つ。要求を通したい神が出した試練を達成するっきゃねー訳だが」

 お前ら、準備してっか?と。

 そう言って御先祖様は、新たに焼けた羊肉をサルファの口に突っ込みました。

 ……熱かったんですかね?

 サルファ、悶絶。

 その様子を淡々と観察しながら、御先祖様は尚も続けます。

天界(こっち)は神の部族別に応じて集落みてぇなくくりで住み着いてる区画が変わるからよ。あの神共の住んでる区画まで案内はしてやるぜ。だがあくまでも神に意を通してえのはリアンカちゃん達人間だ。神の俺が代わりに受けてやる訳にはいかねえし、お前らが自分自身の力で達成しなきゃならねー。今の内から対策は練っとけよ、神五柱分」

 さらりと、とんでもない爆弾を投下して。

 御先祖様は私達の力を測るような目で見ています。

 神々が後見?

 その許諾が必要?

 ……意を通す為の、試練?

 正直に言いましょう。

 私は思いました。


 ……なんて、面倒な。


 勇者様を取り戻す為に、労力を惜しむ気はありませんけど。

 どんな試練を出されるか、わかったものじゃありませんから。

 結果として時間がかかってしまえば、勇者様(の貞操と精神面)は……

「私は、廃人になった勇者様を連れて帰りたい訳じゃないんですよ。五体満足、ちゃんと正気を伴った勇者様が良いです!」

 もう引籠られるのも子供返りされるのも御免です!

 いえ、余裕がある時なら付き合って差し上げても良いんですけど!

 でもあの健やかな勇者様が病んだら、と思うと……

 もしかしたら、こうして和やかにご飯を食べている猶予などなかったかもしれません。

 慌てて立ち上がろうとする私を、だけど御先祖様が制しました。

「安心しろ、ちょっとは時間も稼いである。ひとまず今夜いっぱいはあの勇者って野郎の身柄も無事だろうさ」

「……時間稼ぎ、ですか?」

「ああ。他所の神との会合に出てた、あの女神んとこの主神をボコっといた」

「え、凹ったの?」

「出先で殴っといたんでな。帰還はちょいとばかし遅れる筈だ。後見を立てる為の儀式は、主神にしか取り持てねえ。勇者って野郎も今夜は安眠できるだろうよ」

「え、ええ……御先祖様、偉い人殴って怒られないの?」

「俺、無所属だし。何故か闘神だし? 戦いの神が喧嘩吹っ掛けて何が悪い」

 わあー……うちの御先祖様が通り魔的犯行っていうか、それまさに通り魔そのものでした!

 しかも全く悪びれていません。

 この太々しさ、物凄く見覚えがあります。

「ま、一応は名目も付けて襲っといたがな」

「名目、ですか? 一体どんな名目をつければ主神を凹に……」

「お前らも知ってんだろ。去年お前んとこの下級神に地上に呼びつけられたんだけど、この落とし前はどうつけてくれんだおるぁっつって殴っといた」

 どんな濡れ衣被せて殴ったのかと思えば、言いがかりは言いがかりでも本当にあった言いがかりでした。

 あ、それ持ち出したら相手も反論できませんね!

 だって実際にあったことだから!

「わあ、流石はまぁちゃんの御先祖様☆ 性質悪いね!」

「リアンカ、お前の先祖でもあるからなー? 俺だけが性質受け継いだみてぇに言うなよ?」

 というか御先祖様って、神様の群れ一つ分の長をボコボコに出来るくらい強かったんでしょうか。

 そしてそんなことをして許される立場なのでしょうか。

 神々の基準は良く分かりませんが……でも、檜武人だし、なあ。

 魔境に残る数々の逸話を思うと、そのくらい強くてもおかしくない気がします。何しろ御先祖様は魔王も認めた伝説の武人何ですから。

 ああ、いや、でも、どうなんでしょう。

 神様の群れ一つの長(主神)と、魔王だったらどっちが強いんでしょうか。

 初めて足を運ぶ場所は、色々基準がわからなくって困ります。

 果たしてここ、天界で、私達の常識(※魔境基準)を通用するのでしょうか。

 実際に遭遇して、まぁちゃんでもぶつけてみて、測ってみないことには何とも言えない。そんな気がしました。

 多分、何事も。

 まぁちゃんを基準に測れば間違いはありませんよね!






ちなみに巻き添え喰らったサルファの持ち物。

 常備品(鎖鎌、ピッキング道具他)

 リアンカちゃんに差し入れする予定だったメイク道具一式

 おやつに食べる予定だった揚げパン(カレー)

 どさくさにシャイターンさんにポケットにねじ込まれた飴ちゃん 


寝巻について補足

フラン「ちなみに個人的にだが、嫁の夜着はクマの着ぐるみのヤツが一番似合ってたぜ。お揃いは断固拒否したがな……!!」


りっちゃん「ヨシュアン……女性の同席している場で、猥褻な話題はどうかと」

ヨシュアン「え? 猥談??? そんなのしたっけ……?」

りっちゃん「………………アレ、貴方にとっては日常会話のレベルなんですね」

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