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85.わざとじゃないヨ! ホントだヨ!



「「「あ」」」

「……あー!?」

 

 不穏な響きの四重奏。

 原因は一つ、私とサルファと、ヨシュアンさんと勇者様の視線の先……

 勇者様の腕にガッチリとはまった……三つの、白銀の腕輪にありました。


 これから色々な意味で……特に貞操的な意味で危ないことするんだから、念を入れてはめておいた方が良いですよ、と。

 そんな善良な思いで私達は勇者様に【業運の腕輪】の装備を勧めました。

 ……が、結果はまさかの勇者様による拒否!

 え、なんで? なんでですか、勇者様!?

 まさか拒まれるとは欠片も思っていなかった私に、勇者様が苦い物を嚙み締めたような顔で言いました。

「効果の程を疑う訳じゃない。だが……魔境の、それも魔王由来なんていう得体の知れないアイテムを、ただ純粋に装備する気になれないだけだ!」

 それはもう、潔いまでにきっぱりとした宣言でした。

 あ、うん……そんなに魔王で作った腕輪が信頼できないんですか。

 安全性への不安という、私達にはどうしようもない理由がそこにはありました。


 でも、それとこれとは話が別ですよね。

 確かに装備する本人の意向だし、尊重してあげたいのはやまやまですが。

 そうそう悠長なことは言っていられないのが現状です。

 現に、勇者様の不憫ぶりを思い出してみましょう。

 勇者様だったら確実に運に上方修正がかかるだろう、この腕輪をはめていなかったばっかりに……今まで、勇者様にいったい何があったのか。どんな災難に襲われまくったことか。


 ………………うん、ふっと思い浮かんだアレコレだけでもよっぽどですよね。

 常人だったらとっくの昔に再起不能ですよ。

 逆に、あれらの災難に遭遇したのが、やったらめったら頑丈な勇者様で良かった!なんて思ってしまったくらいです。


 ……やっぱり、勇者様の意思をないがしろにするのは心が痛みますけど。

 でも心が少々痛むくらい、実際の未来に起こりうる災難の回避確率を上げるためなら……そう、引き換えにすると思えば、勇者様の意思を無視してないがしろにして強行突破するくらい……!!

 勇者様の前途ある未来には換えられない。

 そう思ったから、ここは強引でも無理やりでも、騙してでも装備してもらおうと思いました。


 そして同じことを同時に思ったのが、私だけじゃなかったという話。


「ごめんなさい、勇者様!」

「!?」

 勇者様の不意を衝いて、許可を得ずに腕輪をはめてやりました!

 ……ら、何故か目の前には白銀の腕輪が三本はまった勇者様の真っ白な腕。

 あっれぇー……? 一瞬前には何もはまってませんでしたよー?


 本当に、ほぼ同時に。

 勇者様の腕には、私以外にサルファとヨシュアンさんの取り出した腕輪が見事にしっかりはまっておりまして。

 陽光を照り返し、燦然と輝いておりました。

「な、なんてことを――――!!」

 わぁ、さっすがまぁちゃんのお祖父ちゃんの毛髪で作った腕輪ー、キラキラと宝石(ダイヤモンド)にも負けない煌めきっぷりー。←現実逃避


 前にも言ったけど、腕輪は一度はめたら鍵がないと外せない仕様で。

 そして鍵はまぁちゃんが持っていて……そのまぁちゃんは、現在、絶賛行方知れず中…………。


 わざとじゃない。

 わざとじゃないんですけど…… うん、どうしよう。



 運を左右する、洒落にならない協力アイテムの過剰装備。

 何が起こるかわからない……そんな、爆弾を抱え込んでしまったかの如き緊張感と不安がそこに漂います。

 誰もどんなことになるのか知らなかったから。

 固唾を飲んで、成り行きを見守ることしかできない。

「なんてことを……なんてことを…………」

「勇者様、ごめんなさい。私が言うことじゃないかもしれないけど……そんなに落ち込まないで、元気を出してください」

「本当に君が言うことじゃないな!? ……いや、悪気がなかったことも、わざとじゃなかったこともわかっているんだが……気持ちの整理が、中々つかないんだ。俺こそ……すまない」

「それこそ、勇者様こそ謝らないでくださいよー!」

 やってしまったものは、仕方がない。

 やらかしちゃった加害者(わたし)がいうのもなんですが、取り返しが現時点でつけられないのも確かな話で。

 どうにも出来ないから、今はこのまま行くしかない。

 その事実を、誰に説明されるよりも先に悟り……勇者様は、がっくりと膝から崩れ落ちてしまいました。

 うん、マジごめんなさい。




   ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆




「お前達、止まれ! この先に許可なき者を通す訳にh……」

「退け。お前達こそ、我が歩みを阻んで許されると思っているのか」

「な、お、お妃様……!? 何故、こちらに!」

「何を不自然なことがあろうか。我が背の君が怪我を負うて動けぬという話ではないか。正当な妻たるこの身が夫を案じて見舞うことの何を不自然だというつもりか?」

「ひっ……」

 わあー……奥方様に同行してもらえたお陰様でとっても楽々ですね。

 ええ、通行止めの素通りという点で、とても楽をさせていただいております。

 この神々の郷で一番偉いおっさんの、正妻(よめ)

 その立場と身分と権力がどれ程のものか、私達はお零れにあずかる形で思い知らせていただいています。

 虎の威を借る狐、そんな言葉が頭に浮かびますね。大丈夫、私はそういうの大好きです。

 現に、行く先々でどうやらこの先に来てほしくないらしい誰かさんの指示で関所やら通行止めやら番人やらが待ち構えていましたが……そんなもの、とるにも足らないって感じですね。

 奥方様の歩みを止められる者は、存在しませんでした。

 番人や関所を配置した誰かさんも、事を大っぴらにして『誰か』の耳に入ることを恐れていたようで……誰の指示で通行を止めているのか、明確な名前は出せない模様。

 それでどうして奥方様を止められましょう。

 奥方様に直接指示することが出来るのは、はっきりとその旦那の名前を前面に出した場合限定です。

 というか奥方様がガチで畏怖されまくってるらしく、遭遇する神様方も|尽⦅ことごと⦆く真っ青なお顔で撤退です。何やってこんなに恐れられてるんですか、奥方様!


 こうしてずかずかずんずん、奥方様を誰も止められない状況で真っ直ぐに奥方様は進みました。

 旦那様の静養している、どっかのなんとかいう女神の神殿まで。

 孔雀の引く馬車っていう、謎の乗り物で。

 あ、ちなみに私と勇者様も便乗させてもらいましたよ。

 乗り切れなかった人はご先祖様の黄金の羊に乗って突撃です。


 誰も止められない、そんな行進は一路真っ直ぐに、奥方様を旦那様の元へとお届けするのです。

 前座、頑張ってくださいね……勇者様!


 ちなみに膝枕までなら許すって奥方様が言ってましたよ!

「許可されても、全く嬉しくない……」

 そう呟く勇者様の眼差しは、まるで生ける屍のようでした。


 まあ、勇者様にどれだけの不安要素があろうとも、他に適任がいないので計画は実行決定なんですけどね。

「それで? どう勇sy……勇者子☆ちゃんと主神の運命的(笑)な出会いを演出するよ」

「待て、勇者()ってなんだ!」

「そうですねー……勇者子ちゃんが落としたハンカチーフを拾わせる、とか?」

「確定!? 勇者子はもう確定なのか!?」

「ああ、だったら高い位置から勇者子のハンカチ落とさせて、上手い具合に「ふぁさ……っ」って主神の顔に命中するよう仕組んだらより劇的じゃね?」

「他にもお花畑で眠る勇者子ちゃんとか☆」

「勇者子ちゃんに運命の出会い……白馬は必要ですか!?」

「ええと、曲がり角で主神と激突ついでに胸の中に倒れこむ勇者子さんとか」

「おい、お前たち強引に定着させるつもりだな……!?」

「画伯、画伯はどうですか? 今まで数々の野郎共☆を虜にしてきた創作者としては」

「えー? 運命の出会い……?」

「ちょ、待て! 駄目だ、ヨシュアン殿に考えさせたら駄目だろ!?」

「俺としては……そうだな♪ 『悪党に追われ、車を暴走させる花嫁衣裳の美少女! あわや崖から車ごと転落するところを救うも、遺留品だけを残して姿を消してしまう……危機的状況にある彼女を救えるのは、貴方だけ!?』……とか?」

「うーわー、どっかで聞いたことのあるような展開ですね!」

「聞いたことがあるのか……? 魔境じゃありふれた話なのか、それは」

「謎の美少女が因縁のある相手だったらなお良し! 実は昔命を救ってもらったことがあるとか、別れた女性の子供だったとか。浪漫じゃない?」

「画伯一押しの浪漫、ですか……勇者様、白いドレスにお色直ししましょうか!」

「断固として断る!! ウェディングドレスなんて着ないからな!?」

「そこをなんとか!」

「あはは、リアンカちゃんってば☆ 青いドレスでも問題ないさ。ヴェールとか小道具を工夫すれば、青くったって花嫁衣装に見せることはできるんだよ……?」

 色々と、それはもう色々と案を出し合いましたが。

 結局、画伯の口にした『浪漫』という言葉が決め手となりました。


 という訳で、画伯の意見を採用です。

 悪漢に襲われている美女(?)を助ける……とか、印象に残る出会いですよね?


 勇者様にはより真に迫った演技をしてもらうべく、細かい打ち合わせなどないままに……いつの間にか到着していた、主神が籠っているというどっかの女神の神殿裏手に放り出しまして。

 こちらが適当に用意した『悪漢』に勇者様を襲わせることにしました。

 上手い具合にそこに主神が居合わせる羽目となるよう、仕込みは「奥方様の襲来」。

 いきなり現れた奥方様から逃げ隠れすべく、後ろ暗いところのある主神が逃走経路に選びそうな個所を選んで、計画を決行します。

 さてさて、勇者様には本気で『襲われ、怯え、逃げ惑う』感じを出してもらう為に相応の追っ手を放たないといけないんですけど……あの無駄に根性と反骨精神と理性の強い勇者様が本気で逃げる悪漢って、なんなんでしょうね?

 ちょっと思いつきません……。


 取り敢えず間に合わせで、せっちゃんの『ペット』数匹と水で戻した乾燥イソギンチャクを放ってみようかと思います。

 時間稼ぎのイソギンチャクが場を持たせている間に、ちゃんとした『悪漢』をどうするか考えついてご用意せねば……!

 ちょっと始まりがぐだぐだになってしまいましたけど、計画は臨機応変にお願いしますね! 勇者様!




 

虎の威を借る、でふとリアンカちゃんがス●夫だったらと変な想像をしてしまいました。

その場合、確実にジャイ●ンはまぁちゃんなんだろうなぁ。

勇者様はの●太くんでしょうか?

せっちゃんは……ドラ●もん?

ちなみにしず●ちゃんはいません。


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