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80.お約束の被害者



 ご先祖様の提案と、周囲の理解によって次の行先が決定した私達ですけど。

 ですがすんなり移動、とはいきませんでした。

 理由はサルファのこの一言です。


「ところで勇者の兄さんさー? 追われてるかは知んないけど、美の女神に会ったら厄介なのは確実じゃん。取りあえず変装でもしといた方が良くねー?」


 言っていることは、ご尤も。自然な流れですね。

 ご尤も……だったんですが、勇者様的には見過ごせない点が一つ存在したようです。

 顔を引き攣らせた勇者様が、微妙に視線を逸らしながらも言わずにはいられないという態で指摘しました。

「そう言いながら、何故ドレスを掲げる……」

「え? 女装はもうお約束じゃん」

「やめろ、突き付けるな」

 その方が俺の技能も活きるし☆とサルファ。

 良く言ったと拍手する画伯。二人とも、本当にこういう時は息が合いますね?

「大体、勇者の兄さんの背中翼が計六枚も生えちまってんじゃん? いま半裸だし。なんか服着るんなら、翼を出す為に背中が空いた服になるのは確定じゃん」

「それとドレスに何の因果関係がある! なんでさも当然みたいな顔でドレスを準備しているんだ! ……というかそのドレス、一体どこから、いつの間に!? お前はドレスを常備してるのか!?」

「どうせ背中の空いた服をってんなら、背の空いた意匠でも自然な服=ドレス! これ自然な発想ってやつじゃん?」

「どこの大自然の掟だ、それは。背の空いた服なら、他に……」

「ねえよ」

「なんでそこで真顔になるんだ、お前は!?」

 背中の空いた、自然な服(紳士用)……はて、どうしてでしょうか。

 何も思いつきませんね? 民族衣装系でしょうか。

 唯一出てきたのは、かつて勇者様に着用していただいた半裸にマントに某大型ネコ科肉食獣の覆面というアレでした。アレ、真っ当な服に含めて良いのでしょうか。紳士用であることは確かですが、常時アレを着用している人物を『紳士』に分類して良いかは謎……あ、村の『紳士会』の皆さんなら日常的に着用されていても違和感ありませんね。良いと仮定してしまって問題ないでしょうか。

 勇者様が日常的にアレを着用していたら、脳の病気を疑いますが。

 まあどちらにしても半裸に違いないし、今の勇者様の格好と大差ありませんけどね!

「ドレスは拒否する」

「えー? でもいいじゃんいいじゃん、絶対似合うって☆彡」

「似合うか否かの問題じゃないからな? それ以前の、根本的なものだからな? そもそも俺の性別をお前らは正しく認識しているのか、おい」

「やっだなぁ、男だから女神に攫われたんじゃん☆ 女だったら女だったで、今度は男の神に攫われてたかもしんないけど」

「おい、今ぁあ! 今、最後! なんか怖いことボソッと呟いただろう、おいぃ!」

「男でも女でも勇者のにーさんには安息は存在しないってことで、で、結論だけどさ? どのドレスにする?」

「既にドレスは確定!? って、なんでそんな大量にドレスを所持してるんだ! どっから取り出したー!?」

「実は愛の神様んとこで奥さんに借りてきました」

「……大丈夫なのか、それは。サイズ的にも、恐れ多さとしても」

「というか女神様から男に着せる前提でドレスを借用してきたサルファの手腕が怖いんですけど」

「あ、そこはある程度サイズ調整できるやつだけ借りてきたんで☆」

「ますますサルファの手腕が怖いことに……」

「ほらほら勇者の兄さんさー? 背中にゃ加護のマークが刻まれてっしぃ、翼も出さなきゃなんねーし? それに対応するんならやっぱドレスじゃん。背中の加護を隠すなら、その上にショール羽織ったら自然じゃん」

「く……っ? そう畳みかけられると何故か反論材料が見当たらない!?」

 勇者様はそろそろ観念したらいいと思います。

 ええ、サルファと画伯と、ついでに面白いこと大好きな私とご先祖様がそろい踏みですから☆

 ご先祖様も興味を示してきたようで、ご先祖様……だけでなく酒神様もさりげなく勇者様とサルファの二人を注目しています。物理的に距離も徐々に寄ってきていますね。あ、うん、食いついた状態でしょうか。

 これで勇者様の女装を推し進めようとするのは三人と二柱、合計五。

 リリフとロロイはどっちでも良さそうですが。二人は中立ってとこですかね。

 せっちゃんは……

「勇者さん、お綺麗になっちゃいますのー? きっとすっっっごぉく美人さんになりますの!」

 せっちゃんも楽しいことは好きですし、どんなことでも楽しめる子なのでにこーっと笑ってきゃいきゃいドレスにはしゃいでいます。せっちゃんもそういえばお人形遊び好きでしたしね!

 そう、よくまぁちゃんの髪の毛をせっちゃんと二人で弄り倒したものです。

 まぁちゃんの髪の毛、長いし綺麗だし、手触りも指通りも素敵な感触で。せっちゃんも私も、まぁちゃんの髪の毛で遊ばせてもらうのは大好きです。

 ……それを思い出したのか、キラキラした顔で髪飾りを選び始めましたよ?

「せっちゃん、気が早いですよ」

「リャン姉様?」

「先にドレスを選ばなくっちゃ☆ 髪飾りを選ぶなら、どんな服に合わせるのか考えなくっちゃ!」

「!! 流石はリャン姉様ですの!」

「って、そっちか! 問題点はそこなのか!」

「勇者様はどれが良いですか? ゴールド系、シルバー系……宝石を使わないなら生花とかも良いですよね!」

「そこじゃない……そこじゃないんだ……っ!」

 誰も味方がいない! と、勇者様は地面に両手両膝をついて嘆きまくりです。

 なんだか勇者様のこの態勢も、現実世界ではとっても久々に見るような気がします。

 こうなって、その上で本当に女装を免れる余地があると彼は思っているのでしょうか。


 そうして、案の定。

 勇者様は押し切られてしまいました。

 というか私達が押し切りました。否定材料の見つからない理由をアレコレ挙げて。

 安心安定の実績を持つサルファが、しゃきーん☆とメイク道具を構えます。

「ふ……っ 俺が輝く時がきた☆ というか勇者の兄さんを輝かせる時がきた!」

「もうどうにでもしてくれ……」

「好きにしちゃって良いの?」

「……その言われ方、なんか嫌だ」

「もー、なんか最近、俺の活躍ってこういう時ばっかだからさぁー。光れる機会は、逃さず目敏く掴んでおかないと☆」

「そしてその為に犠牲になった俺……」

「美の女神も妬んで憤死する程の超絶美人さんにしてやんよ! 勇者の兄さん元から素材の時点で滅茶苦茶輝きまくりだけど!」

 最近サルファが活躍できた機会といえば……まぁちゃんを女装させた時くらい?

 本当に活躍の機会が少ないからか、活き活きと嬉しそうに楽しそ~うに勇者様の顔面を弄り倒しています。

「リアンカちゃ~ん、アイシャドウの色は何系にしとくー?」

 だけど化粧の意見は私に聞くっていう。

 どうせ勇者様にはわからないでしょうし、私が答えますけど。

「じゃ、そこは紫で! 高貴な印象強める感じでね」

 ……私が答えるはず、が。

 何故か私より先に画伯が答えておりました。

 でも流石は画伯! 勇者様の印象を損ねることなく、より高める方面の注文に文句などありません!

 紫という色を勇者様に充てるのは新たな路線改革っぽいですけど、勇者様の顔で似合わない筈がありません!

「紫かー、紫ね。紫も種類いっぱいだけどー、濃ゆすぎるのはアウトかな。勇者のにーさんに妖艶な色を足してもアレだし、妖しさ艶やかさは抑えつつ、気高さ+でー、高潔な清楚さを感じさせるようにー」

 何かぶつぶつと呟きながら、画伯の希望に応えて指を走らせるサルファ。

 その手際の良さは感心するしかありません。

 というかどんな手の動きをしているのか、手際が良すぎてわからない!

 何度も化粧のパレットと勇者様の顔を筆やら何やらが行き来して、どんな順番でどこに何を塗ったのか全然把握できません! ほんのちょっと瞬きしたり視線を逸らした隙に、勇者様の顔がどんどん美女として完成していく……! 残念ながら技術を見て盗むなんて到底不可能です。

 サルファの技量は際立ちすぎて、真似できそうにありませんね。

 今度時間のある時に、ゆっくり教授してもらう以外に獲得できそうにありません。

 他人の特殊技能を盗むのは早々に諦め、私は私に出来ることをすることにしました。

「サルファー、勇者様のお衣装はどんなものにしたら良いですか? 化粧に合う色の系統だけでも教えてほしいんですけど」

「やっぱ青系かな☆ まぁの旦那に着せたドレスは赤黒だったじゃん。それに対比させる感じで、青系に差し色は白と紫のドレスとかないー?」

「なるほど! そうしたらまぁちゃんと再会した時に並べて立たせる楽しみがありますね!」


 私達はこの時、知りませんでした。

 まぁちゃんのあの衣装が……私達が張り切って誂えた、渾身の女装が。

 度重なる神々との喧嘩やら追いかけっこやら喧嘩やらで、すっかり襤褸切れと化して廃棄処分待ったなしの有様になっていようなどと……というかまぁちゃん今いったいどんな格好しているの!?


 最早二度と叶わぬ、あの女郎蜘蛛なまぁちゃんと勇者様の相対する場面を期待しつつ、私達は勇者様の女装をまぁちゃんの時に負けず劣らず張り切って誂えていったのでした。

「俺、これなんて良いと思うな☆」

「まさかのセーラー服!」

「ってなんだその衣装、凄まじく着たくない! 俺に何を着せる気だ!?」

「おい、せらー服ってなんだ?」

「酒神様、『セーラー服』ですよ! 何百年か前に魔境を訪れた異世界からの異邦人が局地的に広めた異世界の伝統と格式ある衣装だそうです」

「伝統と格式……? こんなぺらい衣装で? スカートは短いし、上着もへそが出そうな丈なのに」

「なんでも、異世界の女戦士の装束だとか……正装として正式な場にも着ていくことの出来るものだと言い伝わっていますよ?」

「異世界……つまり、俺達の知らない異文化か。女戦士の衣装なら、動きを阻害しない為に丈が短くてもおかしくない、か……? けど上から鎧をつけたとしても、腹部丸出しはやべぇだろ。内臓守れないじゃん」

「っていうか、勇者の兄さん割と足ごついからミニスカートは駄目だって。今、上品で高貴なお嬢様系の化粧してるんだから、その衣装は合わないってー」

「チェッ……駄目かぁあ。もうちょっと筋肉削って足が細くなればイケたか?」

「薬で性転換させてみます? 解毒剤が手持ちないのでいつ元の性別に戻れるかは不明ですけど」

「お願いやめて!? これ以上、俺をわけのわからんイキモノにはしないでくれ……っていうかお願いですから男でいさせてくださいお願いします!!」

「わあ、お願いって三回も言われたー。勇者様、必死ですね」

「そうさせているのは一体誰だ!?」

 そんな感じで、きゃいきゃい、場合によってはぎゃいぎゃい勇者様を弄りまくった結果。


 

 美の化身の如き、女神以上に女神のような奇跡の存在が降臨しました。



 その出来栄えを見て、御先祖様が呟いていたんですけれど。

「この里の主神、重度の女好きで節操ねぇんだが……コイツこのまま連れてって大丈夫なのか?」

 ……その言葉が何より不穏ですね!

 楽しみ過ぎたことは認めます。認めますが。

 やっぱり、やり過ぎでしたかね……?

 



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