5.いざ天の国へ
☆ 前回のおさらい ☆
天界にやって来た人は環境に適応しようとして、体が勝手にメタモルフォーゼ★しちゃうんだってさー。
『適合しようとしての変化』には個体差があるらしくって、人によっては得体の知れない化け物になったり性転換しちゃったりするらしいよ?
→ 勇者様が真のヒロイン(♀)になってしまう可能性が……
勇者様、ピンチです!
望まぬ過度の変態★しちゃう未来を防ぐ為には、該当者に影響力を持つ神々に後見に立っていただいて、変貌ぶりを調整してもらう必要があるらしい。
そして明かされるラブコメの神の悲しい過去……
というか、前回。
ジュリオってキャラは流れで勝手に生まれてきました。
ジュリオって誰だ? と思いながらも連呼されるその名前。
最初は何かしら再起不能な末路を辿ったのかな、と思いながら書いていたのですが……ふと思ったんです。
あれ? これ、ラブコメの神で良くね?……と。
……魔が差しました。
それまでラブコメの神にはこれと言って設定らしい設定もなかったのですが、いきなり重要な背景が生まれた瞬間でした。
人によっては性転換とか好き嫌いの分かれるネタだと思いますが、笑って流していただければ幸いです。
ようやっと、準備も整いましたから。
私達はシャイターンさんの前に改めて並びました。
「それじゃあ、そろそろ……シャイターンさん、お願いします!」
私のお願いに、シャイターンさんは深く頷き、
懐からステッキを取り出しました。
……何処に入ってたんですかね、それ。
シャイターンさんの格好は布でずるずるの衣装なので、確かにゆとりはありそうなのですが。
もしかして常備しているんでしょうか?
桃色と金色の、やたらファンシーでゴテゴテしたステッキを。
しかもなんか溌剌としたキレの良いフルスイングで素振り始めたんですが。
「シャイターンさん、それは……」
「それじゃあリャン嬢ちゃんや、天界に行きたい者達を連れて並んでおくれ。横に」
「あ、はい……横一列ですね」
物凄く気になりましたが、なんかさらっと流された……。
ああ、こんな時。
勇者様がいたらツッコミどころを逃さず掴んでくれるでしょうに。
彼がいたら、この場は何と言っていたでしょう。
想像するだけ寂しくなってしまいそうですが、私の脳内で勇者様は盛大に「何か平然と取り出したー!? 待て、それは一体誰の趣味だ!? あと今の素振りは何だ? 横一列に並べて殴る気か!」と叫んでいました。
勇者様のことを偲んでいると、シャイターンさんは用意が整ったのでしょう。
彼はこれといった気負いもなく、ステッキを振り上げます。
そんな悪魔さんを見て、ヨシュアンさんがここぞとばかりにはしゃぎ出します。
「待って、それで俺達を殴る気!? 父親にも殴られたことないのに! 俺の美少女めいた美貌に傷が付いちゃうぞ☆」
……わかりますよ、画伯。
茶化さずにはいられない魔境の血ですね。
そんなテンション高いヨシュアンさんの左右を、まぁちゃんとりっちゃんが固めます。
「親父には殴られてなくともリーヴィルには頻繁に殴られてっけどな」
「今すぐ私が殴っても良いんですよ、ヨシュアン」
「いやいや、ヨシュアン君は今日も絶好調だねぇーてぃや!」
「会話の流れからスムーズに殴られた!」
画伯が意気高揚させているようですが、シャイターンさんはお構いなしに軽く私達をぽこんぽこんと叩いていきます。
さっきのフルスイングはなんだったんでしょう……。
全然痛みを感じない軽さで、ぽくぽく叩いてきます。
「これ、何の為にやってんだ……?」
「何、天界というのは面倒な世界でね。取り込んだモノを自らに適応した生物へと作り変えようとする作用があるのだよ。魔族の者達や真竜は自ら身に纏った分厚い魔力の障壁で天界の影響も弾いてしまうし、ほとんど効果は及ばないが……まあ、念の為だ。それにリャン嬢ちゃんには必要だろう」
どうやらこのぽこんぽこんと叩くことで、私達の身体が天界の影響で変なことにならないよう、防ぐ効果をおまけしてくれているとのこと。
本当に必要なのは私だけの様ですが、念の為だとまぁちゃん達のこともぽこぽこ叩いています。木魚みたいに。
というか、いつまで叩くんですか?
やがてシャイターンさんが叩き続けていた皆の頭部に、ぽわっと青い光が灯りました。
それを見て、満足気に頷く悪魔シャイターン。
どうやら、シャイターンさんの納得のいく出来栄えとなったようです。
「それじゃあ『お守り』も付けたことだし、早速だが天界への扉を開こう」
「わあ、割とあっさり請け負いますね!」
「天の神々には封印してくれたことも含め、思うところも多分にある。そこに混沌の使者を送りこむのもまた一興。あ、こっちは遠くから存分に見物して腹を抱えて笑わせてもらうつもりなのでお構いなく。ただ出来れば叶う限りの笑える展開を期待しているよ」
「混沌の使者って私達のことですか……?」
シャイターンさんの認識、ちょっとお話合いをさせてもらいたい感じです。
ちょっと私達を微妙な気分にさせながら。
シャイターンさんはピンクのステッキを構えました。
「では……いざ!」
瞬間!
ピンクのステッキが脈絡もなく輝き始めました。
神々しさの欠片もない、安っぽい感じに!
不自然な、五色の光が規則的な間隔で点滅を繰り返します。
なんかピコピコした感じの効果音!?が聞こえる……!
「シャイターンさん、そのステッキなに!?」
「前にヤマダに貰った面白いステッキだ。なんでも彼の地元では小さな女の子から大きいお友達にまで大人気の逸品を黒魔術で再現した物らしい」
「それ絶対に何かおかしいよ!」
「っつうかあのイカレた悪魔の差し金か!」
「このステッキには専用の呪文が付いていてだな? メモによると……ぱらりるぱらりる?どり……? うん、舌を噛みそうだ!」
それでもずっと封印されて退屈を持て余しながら千年以上の時を置物状態で過ごしてきた悪魔さんは、きっと今はしゃいでいたのでしょう。
楽しそうに、律儀にメモを見ながら呪文とやらを読み上げます。
その呪文、必要だったんですかね?
「さあ開け、天界の門……!」
そして悪魔があっさりと天界の門とやらを開きました。
ふわっと触れたら崩れる砂糖菓子の様な柔らかさを持つ、金色の光が輪の形で広がります。
私達の、足下で。
……落とし穴形式ですか?
「えっ」
「きゃ……っ」
「うわ!」
一瞬の間を置いて、落下していく私達。
まぁちゃんが慌てて、私とせっちゃんを抱き寄せました。
ロロイとリリフ、それにヨシュアンさんといった翼を持った人たちが、咄嗟に落下に対する反射からか翼を大きく広げます。
しかし謎の引力めいたナニかの力が、私達を穴の底へと引きずり込む。
「不意打ちとは卑怯なりぃぃぃいいいいいっ!!」
勇者様がいないので、画伯あたりが代わりに何か叫んでいます。
いや、でもあれツッコミじゃないかもしれない。
……と、そこへ。
私達が慌てふためきながらも半ば諦めて天へと落下(矛盾)して行かんとした、そこへ。
予期せぬ闖入者が一匹。
「リアンカちゃーん、まだ間に合う!? 遅くなったけど俺も差し入れ持って来たんだけどー☆」
閉じられていた部屋の扉をバーンッと開けて。
両手を広げて飛び込んできたのは……お前か、サルファ。
宣言通り何か差し入れを準備して来ていたらしく、重箱みたいな包みを手に持っているのはわかりました。
ですが、私達は落下していく最中。
その姿はすぐに見えなくなり、差し入れは受け取ることなく別r……
「おやっ? おやおやおや、遅刻は感心しないな! こんなところにもう一人いるとはシャイターンうっかり! 急いで君も行くが良い」
「えっ」
………………天へと続く穴の、外から。
なにか聞こえてきたんですが。
シャイターンさんとサルファの声っぽい、なにかが。
しかも何か余計なことしませんでしたか、シャイターンさん!?
頭上の方から「あ~れ~っ!?」という間の抜けた悲鳴が聞こえてくるにあたって、私達は顔を伏せて項垂れてしまいました。
落下しながらも、私も両手で顔を覆って俯くしかありません。
これは想定していなかったよ、シャイターンさん……。
どうやら天の国への、予期せぬ道連れが追加されたようです。
「あいつ、連れてってどうすんだよ……」
「でも放置は出来ないんじゃないですか、陛下」
「……いや、別に放置でも良いな。何となったら天界に置き去りにしても問題ねえか」
「陛下、陛下、あの兄ちゃんってマルエルさんの曾孫だか玄孫だかじゃありませんでしたっけ」
「あ゛ー………………そういや、そうなんだよなぁ。流石に放置はまずいか? マルエル婆への義理的に」
「変なお荷物が出来ちゃいましたね……」
全員で項垂れました。
せっちゃん以外。
「旅は道連れ世は情け、ですのー! みんなで行けばきっと楽しい旅行になりますの」
「せっちゃんせっちゃん、これ旅行じゃないから。殴り込みだから」
「リャン姉様? 違いがわかりませんの」
せっちゃん的には旅行も殴り込みも同じだそうです。
ああ、でも。
うん、わかるよ、せっちゃん。
魔族さん的にはその二つ、あまり変わりませんもんね……。
方々に出向いた折には、必ずと言っていいほど武勇伝(修羅系)をこさえて戻って来る。
旅行ついでに何かやって来るのは当たり前。
ついでに魔王城の主催する『遠征』で人間の国々に喧嘩吹っ掛けに意気揚々と遠出する。
そんな魔族さん達の武勇伝を、私もせっちゃんも聞いて育っています。
うん、ものすごくたくさん。
アレ聞いて育ったら、確かに旅行と殴り込みが同じ意味かのように刷り込まれてもおかしくありませんね。
思えば私も初めて魔境の外に出て、勇者様の国に行って。
それから方々をぶらぶらしながら戻って来ましたが、思い返してみれば武勇伝らしい武勇伝はなかったように思えます。←リアンカちゃん的に特別なことをした心当たりはないらしい。
きっとこれが、この殴り込みが。
今後一生ものの、誰かに語れる私の『武勇伝』になる。
ふと、そんな気がしました。
これが、武勇伝になるとして。
自分ひとりの力で成し遂げられないことを恥じるつもりはありません。
誰か(主にまぁちゃん)を動かすことが、私の力だとでも胸を張りましょう。
なんだか気分が高揚してきました。
今なら、色んな事が上手くいく気がします。
「よし、やる気出てきた……!」
「なんだ突然。リアンカ、どうした」
「まぁちゃん、せっちゃん! 楽しく殴り込みしようね!」
「はいですの! せっちゃん、頑張って加勢しますのー!」
「俺の従妹と妹が物騒なんだが……まあ良いか。可愛いし」
こうして、私達は士気も充分に。
遠い空の上へと到達したのです。落とし穴から。
ちなみにシャイターンさんが作った光の穴をぽんっと抜けたら、そこは何故か雲の上でした。
「わあ、わかりやすく『天の国』って感じー……」
「でもわかりやすいのは、良いことです」
さて、天界に来たことはわかるけど。
ここから何処に向かえば、目的を達成できるのかな……?
どうしたもんかと、今後の方針への思案に暮れて。
周囲を見回した私達。
時間差を置いて穴から飛び出してきたサルファが、未だ状況を掴めない様子でキョロキョロしていましたが。
奴のことは放っておいて周囲の状況を探ります。
そんな、私達の。
頭上から。
いつか聞いたことのある声がかかりました。
「よう、待ってたぜ」
頭上!?
思いもよらぬ場所からの声に、がばっと顔をあげて声の出所を探すと。
本当に、私達の丁度真上に。
ぷかぷかと空に浮かぶ……金色の綿毛が目に入りました。
えっと、綿あめ……?
困惑する私達の、途方に暮れた顔に。
特徴的で、村でもよく聞いた獣の声が降り注ぐ。
「 ヴェ゛~ 」
それは、どこからどう聞いても。
明らかに、羊の声だった。
急遽、巻き込まれる形でサルファ参戦☆
人物紹介欄の最後にサルファも付け加えておきました。
そして天界について早々。
あのお方が合流です!