表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
77/114

74.加速する混沌

その頃、地上階では阿鼻叫喚の地獄絵図が!




 勇者様の精神世界産、魔王兄妹による攻撃によって勇者様の精神世界は救われました。

 ……うん、纏めるとそんな感じです。

 未だ私達はまぁちゃんらが監禁されていた地下空間にいるんですけどね?

 『私』が目を覚ましたことに気を取られて気付くのが遅れましたが、この場は『矢』が破壊されて影響を脱した為か、一変していました。

 ついでに階段の上の方から、どこかで聞いたことのある気がする戸惑いと狼狽に満ちた悲痛な悲鳴八重奏が聞こえてきたような気がしましたが……それも気にならないくらい、私達の周囲の変貌は凄いモノでした。


 暗くて、先が見通せなくて。

 その癖、その場に存在する人や物質は淡く浮き上がって見えていた謎空間だったのに。


 今のこの場は、絵本の一場面並みに幻想的で神秘的なキラキラ空間に変わっています。


「なんでしょう、この劇的Before/After」

 あまりの変わりように、微妙な気持ちがこみ上げます。

「なんでも何も、そもそも本来がこう(・・)だったんだ」

「え? じゃあさっきの真っ暗闇空間がAfterだったんですか?」

 私達がいる場所は、そんじょそこらの地下室ではありません。

 自然な採光の降り注ぐ地下室です。

 それも、奥まった壁の一面にクリスタルが嵌め込んであって、ですね?

 水晶から削りだした一枚板の向こうに、水底の光景が広がっていました。

 これ、確実に向こう側って湖の底ですよね。

 すいっと魚が泳いで横切っていきます。

 水と、水晶を間に挟んで差し込む光は淡く、優しく。

 そして水の色に染まって、ゆらゆらと室内に青い光を広げている訳です。

 地下空間が白い建材で作られているので、青い光の揺らぎがとてもわかりやすい感じです。

 うん、物凄く凝ってますね。この世のモノとは思えない美しい地下室です。

 というかこれ、実際にある光景なんでしょうか?

 このお城が勇者様の故郷の持ち城を心の中に投影したモノだとは聞いています。

 でもこの地下空間を現実に作り出そうと思ったら、物凄い手間暇と時間とお金がかかりそうです。あと権力。

 ……あ、でも勇者様ってお金と権力なら持ち合わせていましたね!

 ご先祖様から受け継いだ古城ということなので、勇者様が築城した訳じゃないんでしょうけど。

 あれ? 築何年か知りませんけど、『古城』なら少なくとも数百年単位で築年数経ってますよね?

 ………………築城が何百年前の出来事か知りませんけど、技術力が低下するってことはより一層時間と手間暇が必要だったんじゃ。

 人間の建てたお城なら、魔法の力に頼ったって訳でもありませんよね……?

「なんだかこのお城、物凄いお宝のような気がしてきました」

「歴史的、文化的、建築史的にそれぞれで価値が認められている城だけど」

 さらっと真心様が仰いました。

 そんなお城を個人所有。

 流石は王子様。勇者様ってば財力半端なさそうですね。


 

 ところで勇者様の精神汚染の元凶『矢』は破壊した訳ですが。

 展開を考えると、汚染源が消滅して勇者様も正気に戻ってめでたしめでたし、となりそうなのですが。

 これで終わり、ではないみたいです。

「確かに汚染源は始末したが……残ってる影響を片付けねえとな」

「アスパラか……」

「アスパラですか……」

 いい加減に、みんなちょっとうんざりでした。

 しつこすぎます、アスパラの猛威。

 報知していても良いことはないと、私達は残るアスパラを廃棄処分にする為、階段を上っていきました。

 真心様の思惑通りなら、精神汚染の元凶が消えて『良識』様達がそろそろ正気に戻っている筈ですが。

「どんな悲惨なことになってるんだろうな……」

「ロロイ、顔、顔。うっすら笑顔が隠しきれてないわよ」

 果たして、カレーに取り込まれていた彼らは一体どうなっているのでしょうか!

 私達の足は、自然と駆け上がる速度を上げていきました。


 

 そうして、ついに私達は見てしまったのです。

 アスパラと融合した我が身を嘆き、絶望に追い縋られながら、必死に離脱しようと自由を求める囚人達……良識様達の、儚い抵抗を!

「真心様、なんだかどうしようもない感じになってる気がするんですけど……本当に、これで良かったんですか?」

「どうだろうか……これが最善だと思ったんだが、自信はなくなってきたな。痛いほどに、彼らの気持ちが理解できるから」

 本当に、助け出す前に矢を破壊して良かったのか。

 あの光景を見ると不安になって、ついつい聞かずにいられません。

 私の疑問に、真心様は遠い目をなさっておいででした。

 矢が破壊されて、正気を取り戻してしまわれたのでしょう。

 そしてその衝撃で、起きてしまったと見ました。

 八人の、勇者様の良識さん達は元気に、多彩に。


 先程とは別の意味で狂気に陥っていました。


 まさに阿鼻叫喚の地獄絵図!

 八つの口から迸る、必死な悲鳴の多重奏!

 というかさっきとは様相が違いますけどやっぱり乱心しているようにしか見えないので、本当に正気に戻っているのかどうか疑わしく思えます。

 それでも泡を吹いて気絶、みたいな生き足掻く努力を放棄している人が一人もいないのは立派ですけども!

 でも本当に、同一人物の別側面ではありますけど反応が多彩ですねー……

「にゃぁぁああああああああああっ! にゃぁぁああああああああああああっ!! にゃあああああああああああああああああああっ!!」

 若干一命、狂気に呑まれて猫になっていました。

 人語を忘れる程、衝撃だったんですか。勇者様……。

「ひぐまぁぁあああああああ! ひぐぅまぁぁぁあああああっ! ひぐまぁぁぁぁぁあああああああああっ!!」

 そして一人は、何故かひたすら「ひぐま」という単語を繰り返し叫んでいました。何故、ひぐま。何が彼をひぐまへと駆り立てるのでしょう。

 意味がわかりませんが、救いを求めているんだろうなという必死さは伝わります。

 自分でもカレー地獄から必死で抜け出そうと藻掻き、暴れ、自由を得ようとじたばたしておいでです。

 でも体ががっちりカレーに埋没しているので、暴れようにも満足に体を動かすことが出来ないようです。

 藻掻く端から、手足にカレー(?)が絡んで身動きが取れなくなっていくっていう……

 そしてそんな、良識(×八)を取り込んだカレーを囲んで踊る魔境出身者達の輪。え、なにその状況。楽しそう。

 でもこれはキャンプファイヤーじゃありませんよ? 囲んで踊るのは、ちょっとおかしい気がします。

「真心様、ご自身の同胞達を見てご感想を一言」

「誰か早く助けてやってくれ!?」

 そう言いながらも、まずは自分が実践行動!

 血相を変えて、真心様は飛び出して行かれました。


 私達の目の前では、カレーが暴れていました。


 心なしか……いえ、確実に先程よりも大幅に縮小しています。

 カレーが侵食する範囲も狭くなりました。

 でも代わりに、まるで制御を失ったみたいで。

 無作為に、ただただひたすら暴れています。

 暴れる為に暴れる、みたいな無軌道ぶりです。


「ふっとぼぉぉおおおる!!」


 しかも鳴き声が、私達の知るアスパラの鳴き声とは別種のナニかになっていました。

 あとついでに、カレーとアスパラの色が変色して赤紫色になりつつあります。

 もうあれをアスパラと言って良いのかどうかも謎です。

「と、とにかく! 良識(×はち)をカレーから引っこ抜いて助けないと!」

「それより先にアスパラを潰しましょう!」

「それやったら良識が一緒に巻き添え食らって死ぬだろう!?」

 良識が死んじゃったら、それはもう私の知る『勇者様』ではない訳ですが。

 この世界の『私』はただひたすらアスパラを亡き者にしたいようです。

 引き留めようとする真心様を振り切り、『私』が何かを投げつけるのが見えました。

「あれは……」

 うーん? 何か見覚えがありますよー?

 あれは、確か魔境植物の……



 マンイーター。



 カレーに着床後、急速に目を生やし、根を伸ばして。

 硬い種を突き破り、怪奇植物があっという間に増えました。

「しゃぎゃぁぁあああああああああっ」

 わあ、おっきなお口ー。

 鮮やかに開花した、大きな花の真ん中には人間を丸呑みに出来るサイズの大口が開いています。

 鮫のような、ぎざぎざで鋭利な牙がばくばくがちがち噛み合わされて金属みたいな音を立てます。

「あはははは、真心様? お花が笑いましたよー」

「だからそれはもう良いって!」

 焦りの滲む顔で、顔を引きつらせる真心様。

「こ、このままじゃ……逃げようのない良識達がぱっくり食われてしまうんじゃないか!?」

「「あ」」

 うん? いま『私』も「あ」って言いませんでした?

 怪訝な思いで『私』を見ると、にっこりと白々しい笑顔の額に一筋汗が……

「あ、後先考えずにクリーチャーを増やすなぁぁあああああああっ!!」

 真心様の絶叫が響き渡る、シャンデリアの下。

 アスパラカレー(?)v.sマンイーターの戦いが始まろうとしていました。

「なんでいきなり怪獣(植物系)大決戦が始まっちゃうんだー!?」

 頭を抱えて叫ぶ姿は、とっても目に馴染む光景ですが。

 なんでと言われてもこの展開は私にも読めませんでしたし。

 先の予測が完璧に出来る人間がいたら、この世界はとてもつまらないモノになってしまうと思うんです。

 それでも未来予測が完璧に出来る世界をお望みなのですか、勇者様?

 

 




さあ、次第に収拾がつかなくなって参りました!

次回は唐突に懐かしいアレが登場するかもしれません。

怪獣と言ったら……どこぞのアレですよね?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ