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66.扉の開閉は用法用量を守って正しくお使いください。




 三回、剥いてみました。

 そうしたら三回が三回とも、中からアスパラが……

 うん? 延々アスパラ? 終わりが見えません……。

 だけど剥けば剥くほど、アスパラの抵抗が目に見えて激しくなっていきます。

 明らかに、不審です。

 これは余程、中に見られたくないものがあるとみました。

 だから根気強く剥いていこうとしたんですけど。


「まどろっこしい」


 一閃。


 ずばぁーっと、縦に鋭い光が走ります。


 私よりも先に、ロロイが痺れを切らせちゃいました☆

 腰を据えてアスパラと遊んでいる状況に疑問を持っちゃったんでしょうね。

 思いっきり顔を顰めていました。

 アスパラは縦真っ二つ。、唐竹割りってヤツですかね。

 ロロイの爪はそんじょそこらの刃物よりよく切れます。

 それでもこんな手に乗る大きさのアスパラを縦真っ二つですからね。

 潰すことなく、綺麗な断面で真っ二つ。

 私の弟分は、とっても器用なドラゴンです。

 竜の人達って大概おおざっぱというか、細かい作業苦手なのに凄いです!

「ちっ……両断できなかったか」

「え?」

 綺麗に真っ二つになった、と。

 私はそう思っていたのですが、なんだかロロイは不満顔。

 首を傾げる私の手元には、アスパラだったモノ……の、皮の下に隠れていたブツが。

「あれ? どこまでいってもアスパラかと思ってましたが」

「芯の部分、一番下には違うモノがあったみたいだ。俺の爪でも裂けなかった」

「真竜の爪でも裂けないブツって……」

 それ、どれだけ強靭なんですか。

 アスパラの皮の下には、なんだかとっても硬い物が入っていた模様。

 緑色のアスパラの残骸を横に避けて、そのナニかを白日の下に晒してやります。


「……鍵?」


 それは、乱心した勇者様達が持っていた『(カギ)』よりも、よっぽど『鍵』らしい。

 見たところ鉄製っぽい、凝った細工の鍵が一本。

「真っ二つになる前のアスパラより、明らかに大きいんですけど!」

「ここは精神世界だから……そういうこともある」

「勇者様、なんで目を逸らして言うんですか?」

 本来なら最初にツッコミを入れるだろう勇者様も、この世界の一部となれば時にツッコミ入れてくれないこともあるようで。

 明らかに手乗りアスパラより大きな鍵への疑問はないんでしょうか。

「この鍵のこと、何か知っているんですか?」

「いや……俺は知らない。だけど推測なら出来る」

「ほほう。勇者様のご意見的に、この鍵の意味は? どこで使うものなんですか」

「それは…………済まない。確証がないんだ、言えない」

「言えないなら、意味深に思わせぶりなこと言わないでくださいよ」

 勇者様は何かを知っていそうなのに、教えてくれるつもりはないようです。

 だけどそんな態度を取られたら困ってしまいます……。

「今まで、他のアスパラは消し炭にしたり埋めたりしてましたが……もしかして、他の勇者様にくっついていたアスパラ共も、最奥部にはこの鍵みたいに何か隠していたんでしょうか」

 だとしても、多くは既に消し炭にしちゃった後です。

 今となっては確認も難しい。

「……本当に必要な物なら、絶対になくなることはない。とりあえず、今はあの仕掛け扉の鍵が手に入ったんだ。扉の奥に進んでみよう」

 どうしても鍵が必要になったら、その時に引き返してまたアスパラを探せば良い。

 そう言って私達に先を促しながら、真心様はなんだか少し上の空で。

 何かを深く考えているような、そんな様子でした。


 この精神世界の一部である、真心様。

 つまりは私達の道先案内人に等しい人が、先に行こうって言うんです。

 お城の中は、既に仕掛け扉の中以外、虱潰しに足を運んだ後ですしね。

 徹底的に家探しをした後なので、今更ほかに確認する場所や用事も思いつきません。アスパラの中身案件以外。

 なので、ここは大人しく仕掛け扉の前へと急ぐことにしました。

 途中でアスパラを見かけたら、捕獲する気満々でしたけどね。

 でも、アスパラに遭遇することもなく……さっきまで、乱心勇者様を全m……全員撃破するまで、鬱陶しいくらいそこかしこに溢れていたのに。

 一気にアスパラを見かけなくなったことに違和感を持ちながら、私達は仕掛け扉に向き合います。

 扉のレリーフには、八つの窪み。

 真心様の指示に従い、それぞれの窪みに対応する玉をはめ込んでいきます。

「ええっと、仁・義・礼・智……」

「地震・雷・火事・親父」

「ちょっと待てぇ!? ロロイ、いま明らかにおかしいモノ混ぜようとしただろう! 何はめようとしてるんだ、君は」

「地震・雷・火事・親父だろ?」

「違う! 絶っっっ対に違う!! どっから持ってきたんだ、ソレ。狂った良識達が持っていたのは、偽物(ダミー)だったのか!?」

「いえ、違います。あの、勇者さん? 扉の鍵はこっちの玉ですよね。孝とか忠とか書いてありますけど」

「! あ、ああ……本物はそっちだ。間違いない。……けど、だったらこっちの偽玉はどこから持ってきたんだ……?」

「……ちっ」

「舌打ち! ロロイ、まさか故意の仕業か!」

「その、言い難いんですが。こっちの偽玉はさっきロロイが乾燥ナタデココを削って作っていました」

「何故に乾燥ナタデココ!? そんなもの、どっから持ってきたんだ!」

「さっき、食糧庫で野菜を漁っていた時に見つけた。良く出来てるだろ」

「少しも悪びれないな!? なんでちょっと自慢げなんだ……」

「あ、駄目ですよ、真心様! 上手に作れたんだから褒めてあげなくっちゃ!」

「今まさに被害を被りかけたのに褒めるとか被虐的過ぎるだろ!?」

 そんな感じで、わやわや賑やかにじゃれ合いつつ。

 扉には間違いなく、乱心勇者様達の抱え込んでいた玉が誤りなくはめ込まれました。たぶん。

 さてさて、扉はこれで開くって話ですが。

 開門の呪文か何か必要でしょうか。

「さて、開けるぞ」

 ……呪文は要らなかったようです。

 代わりに、ちょっと手間のかかる仕掛けが一つ。

 勇者様が扉の中央にある紋章に触れると、はめ込んだ八つの玉が明るく点滅し始めました。

 不規則に光ったり消えたりする玉。

 そして、玉が光ったか否かという素早さで光の灯った順に玉を叩いていく真心様。

 うわぁ……勇者様並みの反射神経を持ち合わせていない私には不可能そうな仕掛けですね!?

 それぞれ玉を一つにつき五回は叩いたか、という頃合いで更に変化が生じます。

 真心勇者様が叩いた順に、玉がそれぞれ「ポーンっ」と高い音を立てていく。

 音が鳴った順番に、玉は一つずつ沈黙していきました。

 もう光らないし、音もならない。

 全ての玉が鎮まると、仕掛けも終わったのでしょう。

 ゆっくりと、扉が開いていく。

 扉の向こうには、大きな広間。音の響き方が、広い空間の存在を示します。

 そこに何が待ち受けているのかと、私達は自然と鼓動を加速させながら勝手に開いていく扉を見守る。


 開きかけた扉の間から、緑色の何か巨大な物体がちらりと見え……



 扉が開き切る前に、真心様がパタンと扉を閉じました。



「……勇者様?」

「なんか見えた! 今なんか見えた! ナニか居た!!」

「だからってなんで閉める、勇者」

「扉を開けるんじゃなかったんですか、勇者様」

「今! 今ぁ! なんかチラッと見えた! チラッと見えただろ!?」

「ああ、うん……なんだか緑色っぽい何かが見えたような気がしなくもありませんね?」

「婉曲に言っているが、あれ明らかにアレだったよな!?」

「いいからさっさと開ければ?」

「アレが見えてなお、即座に扉を開けろ、だって……!?」

「開けないと話が進みませんよね。勇者様、真人間に戻りたいんでしょう? だったら扉を開かなきゃ」

「心の準備が必要なので猶予をくださいお願いします!!」

「とっとと開け。往生際の悪い」

「ああ、ご無体な!」

 真心様は本当に心の底から嫌なのでしょう。

 緑の物体に関わりたくないのでしょう。

 この期に及んで潔さが欠片もありませんが、扉を開かせまいと微かな抵抗すら見せています。

 その状況に業を煮やしたのは、堪え性がちょっぴり低め疑惑が浮上中のロロイ君。

 真心様の向こうにある扉を、容赦なく蹴り開けました。


 あ、扉が吹っ飛んだ。


 原因は明らか。

 そりゃ『引く』扉を『蹴り開けた』ら扉の一つや二つぶっ壊れますよね。

 もうこれでは閉められません。

 それを理解せずにいられなかったからか、勇者様の顔がざっぱーと青くなりました。

「観念しろ、勇者」

 そう言ってニヤッと笑うロロイの顔は、なんだかどことなく嗜虐ちっくでした。

「ロロイの背に……っロロイの背に、小姑が見える……!!」

「それどういう意味だ」

 扉が取り返しようもなく吹っ飛んでなお、観念できないのか何やらお騒ぎでしたが。

 それでもいつまでも目を逸らしたままではいられません。

 勇者様よりいち早く、私とリリフは扉の奥……広間らしき場所に、目を向けて。

「…………………………わーお」

「その間はなんだ……!?」

 うん、いや……うん。

 私は「わーお」としか言えませんでした。

 何とも言い難い、微妙な光景が広がっています。

 私達の微妙な反応が、気になったのでしょう。

 頑張って目を逸らしていた勇者様も、ついに観念して目を向けて……

「……見るんじゃなかった!!」

 がっくり項垂れるどころか、今にも床に埋没しちゃうんじゃなかって勢いで四つん這いになり、思いっきり床を殴りつけました。

 言葉に出来ない複雑な思いの籠った拳が、床のタイルにひび割れを刻みます。


 私達が、目撃してしまったモノ。

 大きな仕掛け扉の向こうには、舞踏会が開けそうな大広間と、品の良い玉座と。


 それから今までに見たこともないくらい、大きなアスパラがいました。


 ついでに、今まで撃破してきた乱心勇者様達も。


「……しっかり縛って吊るしておいた筈なのにな。ウナギでも抜け出せないくらいに、ぎっちり、しっかりと」

「ロロイ、さっきからずっと思ってたんだが、君は『ライオット』に何の怨みがあるんだ」

「具体的な怨みはまだない。だが、将来的に怨みが芽生えそうな気がしている」

「不確定なふわっとした未来の『かもしれない』で被害を及ぼされているのか、俺!?」

 意識的にロロイの方を、凝視して叫ぶ勇者様。

 だけどこの状況で、ロロイの方ばかりを頑なに見たり気を付けたりしているのも不自然で。

 ……余程、見なかったことにしたいんでしょーね。


 巨大なアスパラが、背後に背負う形で存在する乱心勇者様(×八)。

 その体は、まるで巨大な曼陀羅図を描くように……空中に、円を描くようにして浮いていました。

 どこの手品師に弟子入りしてきたんですか、勇者様ー?






どんどんエスカレートしていく小姑(ロロイ)攻撃(いびり)

果たして真心様は無事に悲願を達成できるのか!?(真人間になりた~い)

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