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ここは人類最前線8 ~攫われた勇者様を救え!~  作者: 小林晴幸
勇者様を助けに村娘と魔王が出動です
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3.業運の腕輪、皆で試してみました

冒険の前に装備を整える、大事ですよね?



 赤表記で、ほっとして。

 落ち着いたら他の皆の業がどんなものか気になりました。

 特に業の深そうなのが何人かいますし……

 というか、ええ。

「私ひとりだけ業と人望を曝されるのって納得できないんですよね」

 ――という訳で、皆の腕にも割と強引に腕輪をはめてみることにしました。

 異論は勿論、聞きません。

 何人か強固に抵抗して嫌がる人もいそうですが……勿論、聞きません。

 

 特に抵抗もなく腕輪をはめてくれたのは、せっちゃんとロロイとリリフでした。

「でも……ちょっと不安ですの。せっちゃん、良い子ですの?」

「いや、せっちゃんは間違いなく良い子だよ」

 不安そうに、良い数字が出るかわからないと困り顔のせっちゃん。

 はめるまではあっさりでしたが、いざ数字が出るとなると怖くなっちゃったのかもしれません。

 不安そうな彼女の為に、まず自分が曝されようと。

 挙手して数字を見せてくれたのは、リリフでした。

 そして道連れに晒されたのはロロイでした。

「リャン姉さん、主様より先に私の方を見て下さい! 主様も、ほら」

 そう言って差し出したリリフの腕輪は幅広で、リリフの手の甲の半ばまでを覆っています。

 デザインは竜のモチーフを選んだようで、何かの牙と爪が腕輪の紐に編み込まれるようにして装飾されていました。

 中央の玉は、丁度そんな数本の爪に掴まれるようなデザインで固定されています。

 そこに浮かび上がった数値は、「223」。

 …………これって高いのかな、低いのかな。

 自分の数値を見た後なので、余計にわかりません。

 まぁちゃんは平凡な村娘だったら高めで「300」って言ってたけど。

 私の視線が微妙なモノだったのでしょうか。

 リリフが強引に、ロロイの腕を引っ張って袖をまくります。

「……おい」

「どうせロロイも見せるでしょう。私だけじゃ主様やリャン姉さんの不安を払拭出来ないわ」

「……」

 渋々、という様子を隠しもせず。

 それでも素直に見せてくれるロロイは素直な良い子です。

 自分で腕を見やすい様、袖を折り曲げてまくってくれました。

「俺は、こんな感じ」

 適当に選んだのでしょうか、こだわりがあるのでしょうか。

 ロロイの腕輪は、一言で言ってシンプル。

 だけど飾り気が全くないという訳でもなく、中央の玉に寄り添うように、小さな花の絵がついたタイルの破片が編み込まれていました。

 赤い花弁に、緑の葉。

 これは……

「昔、ロロイがくれたお花に似ているね?」

「……っ」

 あれ? ロロイも覚えていたのでしょうか。

 それとも私の言葉で思い出したのでしょうか。

 うっすら頬と耳を赤くして、ぷいっとそっぽを向いてしまいました。

 三歳くらいの時に、ロロイが「リャンねえに、あげ()!」って言って持って来てくれたお花がこんな感じだったんですよね……。

 確かあの花は。

「『マリエラの情念花』……恋に狂った女性の血涙から生えてきたっていう伝説で。花粉には幻覚作用、独特の芳香には人を気鬱にさせる効果があるんですよね」

「っ!?」

 あ、ロロイの顔が青くなった……知らなかったんですかね。

 多くの人を自殺に誘った、魔境でも有名な毒花なんですが。

 あまりに危険ということで、見つけ次第処分することが暗黙の了解と化してますからねー……目につく範囲で生えてきたモノは即座に処分されてきたので、もしかしたら実物がどんな花なのか知らなかったのかもしれません。

 私も父さんに取り上げられそうになりましたけど、私の状態異常が効かない体質のお陰で免除してもらえたんですよね。

 勿論、毒素が他に類を及ぼさないよう、それなりの処理を義務付けられましたけど。

 まぁちゃんの協力で水晶漬けにして、まだ部屋に取ってありますよ? 机の上に飾ってあります。

 ちなみにロロイの腕輪に表示された数字は「214」でした。

 その後、二人の腕輪には人望値として全く同じ数が加算され、リリフとロロイの数字はそれぞれ「633」と「624」になりました。

 ……活動範囲も人間関係も、二人とも全部重なるもんね。

 似たような数値になるのも、仕方ないのかもしれません。


「私がこれなら主様だって大丈夫ですよ」

 自分が赤だったから、せっちゃんだって当然赤の筈、と。

 リリフの主張は論拠が謎でしたが、私にも同じことが言えます。

 私が(プラス)数値だったんだから、せっちゃんだって大丈夫だ……と。

 皆に大丈夫だと念押しされ、促されて。

 ようやっと、せっちゃんも心が決まったようです。

「それじゃあ、お見せしますのー!」


 せっちゃんの数値は、「504215」でした。


 ついでにいうと腕輪をはめてから時間が経っていたので、人望値はとっくに加算された後でした。

 ですが不自然な数値の開きに、何となく思います。

 業と人望、どっちかが「約500000」で、どっちかが「約4000」だったんじゃないかと。

「姫様、なんでこの腕輪選んだのかなー……? 駄目だ、全然姫様に似合わない!」

 驚きの数値の高さに私達が愕然とする中、ヨシュアンさんだけは別のことが気になるようでした。

 ずばり、せっちゃんの選んだ腕輪のデザインについて。

 ……美意識の高いカリスマ☆画伯には、受け入れ難かったのでしょうか。

 せっちゃんの腕輪は……一言で表すと髑髏でした。

 もう一度言います。


 髑髏でした。


 ええ、と……数珠繋ぎに蜥蜴や蜘蛛のモチーフが並び、中央に一際大きな、せっちゃんの手の甲を覆う程に大きい髑髏がおりまして。

 その片方の眼下に、赤黒い玉がはまっているわけですが。

 怨念を燈した隻眼の髑髏って感じですね……?

 加えて言うと、髑髏は大きく口を開いて何かに喰らいつこうとするような、なんとなく貪欲そうな、無我の叫びでも上げそうな……何とも言えない形相をしています。

「うんと、確かにせっちゃんにはちょっと、なんというか無骨過ぎるかも……?」

「せっちゃん、悪いことは言わねえ。こっちにしとけ? な?」

 そう言ってまぁちゃんがそっと差し出したのは、白い腕輪の本体に黒い揚羽蝶が羽を休める女性的なデザインの逸品。

 うん、私もそっちが良いと思うよ!


 ですが。

 何故か。

 せっちゃんは。

「あに様、姉様、せっちゃん……これが良いですの!」

「「何故に!?」」

「この骸骨さん、悲しそうなお顔をしていますの……せっちゃん、よしよしって慰めてあげたいんですの」

 眉尻を下げて、そう言うせっちゃんの方が凄く悲しそうな顔をするので。

 私とまぁちゃんは、強く言えなくなりました。

 でもね、せっちゃん。

 その骸骨さんのお顔は悲しそうってか……怒ってるとか、恨めしそうとか、世界を祟っているというか。

 邪念に満ちた、そんなお顔だと思うよ……?


「――さて、ここまでは皆、素直につけてくれた訳ですけど」

 往生際が悪いのは、大人の三人。

 まぁちゃんとりっちゃんと、それから画伯でした。

 ……うん、なんか業の深そうな人がいますね?

 この中で、一番冗談で済ませられそうなのは……えっと。

 誰からやってもらおうか、無意識に私の視線が相手を求めて彷徨います。

 頑なに、視線を合わせまいとしながら。

 不意にりっちゃんがヨシュアンさんの身体を押さえつけました。

「やはりこういう普段の行いが見える物は……まずは、行動に問題のあるヨシュアンのものから曝け出すべきですよね!」

「リーヴィル、よくやった! そのまま押さえとけよ」

「ぎゃあーっ!? リーヴィル、リーヴィル!? やめて!」

「抵抗は無駄ですよ、ヨシュアン。貴方はもう逃げられない」

「くっそ涼しい顔して拘束が巧みすぎる! お前、本当に文官!? その辺の軍人より力あんぞ、頭脳労働担当って実は嘘だろっ」

 私が最初の犠牲者を選び出すまでもなく。

 息の合った大人の二人が、最初の一人を生贄につき出しました。

 哀れ、捧げられた画伯の腕には……!?

「あ、待って陛下! どうせつけるんなら、そっちの腕輪じゃなくってその左に三つ隣のヤツ! その白と黄色の羽根飾りの方が良い! そっちの方が俺に似合うから!!」

「お前、実は余裕あんだろ」

「数値の高さに自信がないことだけは確かですって!」

「けど別に見られたくねえって風じゃないな?」

「単に面の皮が厚いだけでは? 本人も周囲は自分の行いをわかっていると、諦めがついているのでしょう。恥じてはいるようですが」

 なんだか、魔王城の主従三人組は最初っからヨシュアンさんの数値は-振り切りだろうと決めてかかっているみたいですけど。

 その結果を見て、私達は行いの良し悪しとはわからないモノだと突き付けられることになりました。


 ヨシュアンさんの(カルマ)値、「613」。


 自分達よりヨシュアンさんの数値の方が高いことに、若竜二人が床に手をついて項垂れました。

 画伯自身も吃驚しています。

 そんなに衝撃的だったんだね……。

 誰もが「こいつよりは自分の方が高いだろう」と思っていた予想を裏切られた瞬間でした。

 腕輪さんはヨシュアンさんの何を評価して、この数字を出したのでしょう。

 それとも私達が信じていなかっただけで、ヨシュアンさんはそれなりに善行を積んでいたのでしょうか。

「何故……」

 特に最初にヨシュアンさんを生贄に差し出したりっちゃんは、到底納得がいかないという顔で。

 微かに唇を震えさせています。

 何かに敗北したと、まるでそう言いたげに揺れる瞳。

 そしてどことなく、己を顧みて不安そうな顔をしました。

「あ、数値が変動する……人望値が加算されるよ」

 どんな結果になるものか。

 軍人としてのヨシュアンさんの評価や、周りの評判は私にはわかりませんけど。私人としてのヨシュアンさん……いいえ、画伯の評価なら何となく私にもわかります。

 野郎共に讃えられて、女性に物申したげな顔をされる。

 それが、画伯です。

 友人としてなら楽しい人だけど、恋人にするのはちょっと……と、前に村のお姉様方が仰っていました。

 最近、画伯の著書の一部……『洒落にならない女体化シリーズ』とやらが一部の女性にも俄かに人気があるそうですけど。

 さてさて、画伯の人望は……

「…………長いですね?」

「今までになく、数値の表示に時間がかかりますね……」

「そんなに腕輪さんを悩ませる結果なんですの?」

「ヨシュアン、どれだけ愛憎に満ちた人間関係を構築しているんですか」

「いや、いやいや、俺もちょっと不安になって来たんだけど……」

 あまりに長く、数値が変動し続けるので。

 最終的に数値が固定化された時には、私達みんなで覗き込んでしまいました。

 果たして、そこには――


 「9999999」


 なにこの数字。

「え、これ故障?」

 当のご本人が、顔を引き攣らせて誰にともなく尋ねます。

 うん、私も故障かと思いました。

 ですが腕輪の管理者である、まぁちゃんが言いました。

「これ、測定不能だな」

「は?」

「この腕輪が表示できる、限界値超えてるっつうことだろ」

「はあ!?」

 再び、誰もが驚きました。

 え、画伯の人望どうなってるの。

 少なくとも一千万超え……?

 何がどうなって、そうなっているのか。

 画伯ですら人望の謎が理解出来ずに頭を悩ませました。


 私達は、知らなかったのです。

 画伯の著作が、この大陸のどこまで広がっていたのか。

 そしてその著作に対する高評価が、そのまま画伯への称賛に繋がっていたことを――


 バードさんの販路拡大、販促行脚の結果だった。


 その後、りっちゃんに装備してもらった腕輪からは「2372」、人望を足して「14211」という数値が表示されました。

 しかし画伯の人望値を見た後ではあまり驚きはありませんでした。

 あれだね、あまりに画伯の数値が高過ぎて自分がちっぽけに見えます。

 まぁちゃんは物凄く渋った。

 「魔王の数値が+な訳ねーだろ!」と半分キレ気味に叫ばれる程、曝しを拒まれました。

 でも皆の数字を見た後だよね?と。

 私とせっちゃんのお強請りも重ねて迫りに迫り、渋々ながらも腕輪を付けてもらって……

 出てきた数字、「8825」。

 普通に高いんですけど。

 そのことに、まぁちゃんが怪訝な顔をします。

 更には人望値加算で、今度こそまぁちゃんは『魔王』に対して殺到する世界中の恐怖や憎悪で凄い-値になると思ったみたいですが。

 加算された結果の数値、「666661」。

 合算値、せっちゃん以上に高いんですけど。


 誰よりも魔王のまぁちゃん本人が、釈然としない様子で。

 これ、-値が出てこないって訳じゃありませんよね?

 故障している様子はないみたいなんですけど……

 一体どういうことだと、わからないまま。

 それでも全員、大なり小なり運が良い方向での補正がかかることは確かです。

 これ、このまま全員装備していこうぜ――ということになりました。


 

 皆でわいわいぎゃあぎゃあ業の数値に騒いでいる間に、むぅちゃんが私のお薬袋も届けてくれて。

 それだけでなく私の決意を知った友人知人からの差し入れも持ってきてくれました。色々。ええ、色々。

 私の持って行く物は勇者様用の腕輪と薬の詰まった背負い袋。

 それから腰のポーチに加えて、過去の勇者さん達の遺物を少々拝借することと致しまして。

 武器と防具はこんな感じになりました。


 武器 勇者の遺物

 なんか良く切れる短剣です。薬物塗布の痕跡があるんですけど、それで錆の一つもないあたりが凄く怪しいです。暗殺用ですかね?


 頭部 鏡の髪飾り

 安心安定の魔族さん謹製です。鏡の部分に反射の魔法がかかっていて、致死攻撃を三倍にして跳ね返す凶悪仕様ですよ!


 胴体 勇者の遺物

 なんか得体のしれない革製の胴着です。なんというか、初めて見る質感……。

 一見してわかりませんけど、常に胴着の外側内側の両方に空気の壁が発生しています。その空気の層が攻撃を反発するようになっているみたいです。


 右腕 いつものリボン

 これはずっと前に貰った誕生日の贈り物です。いつも右腕に巻いているんですけど、せっちゃんとまぁちゃん合作の刺繍入り!

 ……魔王兄妹の魔力が籠っていて、謎のアイテムと化しています。


 左腕 業運の腕輪(幸運6012+補正)

 たった今の今まで騒いでいた原因ですね。私の業+人望って本当に高いんでしょうか。


 両足 勇者の遺物

 なんかすっごく身が軽くなるブーツです。軽い!という印象を高める為か、全体的に羽根のモチーフで装飾されています。

 ……可愛いんですけど、なんか画伯とお揃いっぽくて微妙な気持ちになるのは何故でしょう。

 

 それぞれの装備にはちゃんと名前があるっぽいんですけど、私はあまり実用品のそういう点は気にしない主義です。

 うん、凄いものって結構その辺にごろごろしているものですよね?

 敢えてわざわざ名前とか調べるのは面倒なので。

 そのあたり、放置して出発しようと思います。


 何となくまだ心許無い気はしますが。

 これで、神様殴りに行っても大丈夫かな……?

 




みんなの数字まとめ(業値→人望加算後)

リアンカ 3711→6012

まぁちゃん 8825→666661 

勇者様  ?????

せっちゃん 500000→504215

りっちゃん 2372→14211

画伯 613→測定不可(9999999)

ロロイ 214→624

リリフ 223→633


ちなみに三歳時のロロイがリアンカちゃんにあげたお花は、赤いガーベラに似た感じの架空のお花です。



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