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43.宿命の戦い ~帰ってきた闇討t……~






 世の男共の願望(というか欲望)を絵筆一つで具現化する魔境のカリスマ☆エロ画伯。

 突如としてそんな彼に、愛の神からの果たし状(軍手)が突きつけられる。

 曰く、お前のせいで人間達の恋愛成就率下がってんだよ、どう落とし前付けてくれんだよ――と。

 

 ここに避けられぬ宿命の戦いが火蓋を切って落とそうとしていた。

 愛の神と欲の権化、果たして勝利の女神はどちらに微笑むのか……!


 女神だったら顔の良い方に微笑むに決まっている?

 そうとは言い切れない予感が、男達の戦いには潜んでいた。


 屋内で暴れるモノじゃないと、意外にそこはきちんとしているらしい愛の神に促されて一同は場所を移した。

 神殿の裏にご案内(エスコート)された彼らは、愛の神とカリスマ☆画伯を裏庭の真ん中に残して端へと下がる。

 観念したのか。

 腹をくくった、そんな顔でヨシュアンさんはしっかりと大地を踏みしめる。

 肩幅に自然と開かれた両足。集中を高めるような深呼吸。

 愛の神も勝負に余計なモノは必要ないとばかりに、先ほど身に纏ったばかりの薄絹をばさりと脱ぎ捨てる。

 ついでに弓矢も体から離してしまったのだが、良いのだろうか。

 弓の名手と聞いていた神が武器(えもの)を遠ざけたことに、りっちゃんが怪訝な顔をした。

 同じように隣で首を傾げる酒の神に、そっと尋ねかける。

 勝負を邪魔しないようにという配慮が、自然とその声量を下げた。

「愛の神は弓を使うと聞いていたのですが……徒手でも強いのですか?」

「うーん? レスリングを嗜むとは聞いたことねぇんだけどなあ」

 ちなみに本編とは関係ないが、レスリングは地球の古代オリンピックでも盛んに行われていた由緒正しい代物だ。

 愛の神に限らず、この群の神々が嗜んでいても不思議はないが……

「ちょっと待った!」

 このまま華奢な美少年と美少女面の野郎とで男臭い泥仕合が始まるか、と。

 そう思われた時、試合に臨む本人である画伯から制止の声がかかる。

 まだ何の勝負を行うとも、誰も明言しない内に。

 画伯は己の腹づもりを語る為、熱意を眼差しに込めて訴えかける。

「俺も男だし、挑まれた身として勝負は受けよう!」

「その心意気や、よし」

「だけど! 勝負は受けるが……白黒付ける方法は、俺に決めさせてもらう!」

「……へえ? どういうつもりかな。別に僕は、君が自分の有利なように進めようとしても構いはしないが。でも、真意は聞いておこうか」

「真意? そんなの決まってるヨ。あんたが『愛の神』だというのなら……俺は、この勝負で俺に勝たない限りあんたを愛の化身と認めはしないね!」

「!!」

 何の権限があって認めないとか、勝手なことを。

 それこそ何のつもりでそんなことを言っているのか、衆目の理解が得られなさそうなことを画伯が叫ぶ。

 画伯一人に認められないからと、それで何かが変わる訳でもなかろうに。

 だけど認めないと言われた愛の神自身は、何故か衝撃を受けたように体を傾けていた。

「……認めない、とはよく言ったモノだね。君は、僕よりも自分の方が愛の伝道師に相応しいとでも?」

「愛? そんな次元じゃない。俺は、愛じゃなくって。

 

 ……エロの代弁者だから! 」


 瞬間、サルファの腹筋が崩壊した。

 地面に崩れ落ちる勢いで笑い転げ、息切れして喉をヒューヒューと鳴らしている。

「だ、だ、断言しちゃった☆ 画伯のおにーさん……!!」

 そんな陽気で明るくイイ空気を吸ってるサルファとは反対に、頭を抱えてしまったのはりっちゃんで。

「どういうことです。魔王城(うち)の馬鹿がなんかほざき始めましたよ……!!」

 何か言い出した画伯の行動を、暴走と受け取ってだろうか。

 ヤツは恥を晒しに来たのかと、りっちゃんは憎々し気だ。

 魔王のお目付役であるところの青年は、魔王の部下にまで監督責任がある訳でもないだろうに。

 だが付き合いの長い同僚が変なことを言い出すのは耐え難かったのか。

 顔を盛大に引きつらせ、隣に立っていたラブコメの神の襟首を掴み、がっくんがっくんと揺さぶりだした。

「え、ちょ、おぇ……吾に言われても困るとですよー!?」


「俺は断言する! 愛のないエロはあっても、エロのない男女の愛は有り得ないと!!」

 いきなりの暴言!

 画伯は真っ向から『プラトニックラブ』の概念を切り捨てる!

 純愛を貫く皆様の顰蹙を全力で買いそうな暴論である。

「人は、求める相手のどこかしらにエロを見いだして意識するようになると思うんだ」

 それは極論というものです、画伯。

 己の主張をこれでもかと前面に押し出し、押せ押せ論調で愛の神に押しつける。

 この主張を受け取って!とばかりに押しつけられた愛の神は、しかしゴクリと唾を飲み込んだ。

 緊迫感漂う深刻な顔で、愛の神はゆっくりと頷きを返す。

「……確かに」

「ちょ……っ納得しちゃいましたよ、あの神!!?」

 まさか肯定するとは思わず、りっちゃんが発狂しそうだ。

 画伯の気迫に飲まれたのか、それとも元々そう思っていたのか。

 どちらとも知れないが、頷いてしまったからには画伯が調子に乗った。

「エロと強く繋がる、愛! その神であると言うからには、地上に置いてエロ画伯の異名を取った俺を見事に納得させてもらおうか! エロ方面だって余裕で拾う、そんな俺が感服してしまうような偉大な神だと! そこを俺に認めさせるような神なら、俺の画業人生を賭けても良いさ」

「それは僕に対する挑戦だね? 良いよ……その言葉、悔いることは許さない。エロ? 結構じゃないか。太古の昔から地上の人草が繁栄してきたのは僕の与える愛あってこそのもの、エロはその派生物に過ぎないのだと思い知らせてあげるよ」

 なんだか壮大なことを言い出したようでいて、その論調の要点は『エロ』。

 神と、寿命の限られた下界の民の、これ程にしょうもない争いがあって良いのだろうか。

「そうです。ええ、きっと、ヨシュアンは自分の得意分野に相手を引き込んでしまおうとしているのでしょう。そうに違いありません」

「現実逃避気味なとこ悪いけど、あれどっちも本気っぽく見えるのは俺の気のせいじゃないよな?」

 もう頭を抱えて現実の直視を避け始めてしまった、りっちゃん。

 そんなりっちゃんの隣で、笑顔を消すことが出来ずに感想を言ってしまうサルファ。

 観衆を置いてきぼりにして、愛と欲のぶつかり合う仕様もない戦いが始まろうとしている。

 この時点で、りっちゃんはあまり良い予感はしないなと思った。

 その予感は的中した。


「――ってことで、いざ愛の神よ! リアクション勝負5連発で勝負だ☆」

「良いだろう、その勝負……受けて立つ!」

 最初のお題は『はちみつ』だぞぉーう☆

 そんな声が、鼓膜を直撃した瞬間。

 りっちゃんはどこからともなく取り出した乳切木(ちぎりき)を振り下ろしていた。

 何の為にって?

 それは勿論、殴る為にさ☆


 → りっちゃん の こうげき!


「あんたら馬鹿ですかぁぁあああああ!」

 よい子の精神衛生を守る為、公序良俗をただす為。

 りっちゃんは世の良識を乱す悪い子達に鉄槌(※乳切木)を下そうと渾身の一撃を放つ!

 しかし。

「あぶねっ」

 → 画伯 は ひらりとみかわした!

「ふふ、鋭い攻撃だけど――大振りなのはいただけないね」

 → 愛の神 は ひらりとみかわした!

 蜂蜜の瓶を片手にすちゃっと身構えていた顔だけは極上のお二人さんは、りっちゃんの攻撃を察して機敏な身のこなしで回避していた。

 小回りだが鋭い動作に反応して、瓶の中で黄金色の蜂蜜がとぷんと揺らめく。

 身ごなしだけは流石は軍人、戦闘職と讃えたくなる見事さだが、画伯の右手に掲げられた蜂蜜瓶を見るだけで賛辞の言葉は感心しちゃった皆様の頭から消え失せる。

 代わりに、惨事めいた何かを予感させる言葉が脳裏に浮かんだとかなんとか。

 愛の神もヨシュアンさんと同程度の俊敏さを披露して下さったあたり、細身の少年という見た目そのままの脆弱な身体能力ではなさそうだ。蠱惑的な小悪魔美少年、という外見以上に、どうやらその性能は高いらしい。

 しかしその運動能力の素晴らしさも、回避するその瞬間だって手放すことなく掲げられたヨーグルトの瓶(※どうやらリアクション勝負第二のお題で用いる予定だったらしい)が陽光を弾いて存在を主張するごとに、どんどん良い意味での印象が薄れて消え果ていく。

 代わりに皆々様の脳裏に浮かぶのは、「ああ、この神も残念枠なんだな」という妙な納得のみ。

 どうやら愛の神と画伯は、良い意味でも悪い意味でも好敵手といえる存在のようだ。

 それが、一連の流れを目撃した者達の下した結論だった。

 これもまた神の一面に過ぎず、未だ接触したばかりの愛の神が持つ全容とは言えないのだろうが……

 それでも、現時点で見せつけられた諸々だけで既に腹いっぱいです★とサルファは笑い転げながら思っていた。


「チッ……外しましたか」

 心底悔しそうな口調で、りっちゃんは珍しく舌打ちを零す。

 その滅多にない姿に、額に一筋の汗を流しながらも画伯は不敵にニヤリと笑った。

「はは。いつもいつでも食らって堪るかって」

「僕はこのエロ本画家と雌雄を決せねばならない。邪魔はしないでもらおうか。横やりは不快だ」

 余裕と強がり、その両方を内包した笑みだった。 

 それに触発されたのか、りっちゃんと対峙するようにヨシュアンさんの隣に並んだ愛の神までもが、画伯に続いて言葉を重ねる。

 これはどうしたことだろう。

 いつの間にか対立図式が、闇討ち仮面(りっちゃん)vs.愛欲タッグになりつつあるのは……場に居合わせた観衆達(※限定三名)の、ただの気のせいだろうか。

 予想外の展開に、高みの見物を決め込んでいるサルファは壁に懐くほど笑い転げている。

 酒の神も半笑いで、いつの間にか観戦体勢を整えて酒まで用意していた。

 ラブコメの神は、

「…………どっちも禿げると良いです」

 誰からも顧みられない現状に、ぼそっと小さな声で呪詛を吐き続けていた。





お願い、りっちゃん。

みんなの公序良俗を守って!


※勝負内容はリアクション勝負の予定でしたが、この愛欲タッグに真面目にやらせると卑猥な色にお話が染まってしまいそうな感じになったので割愛させていただきます。

 いつか、宿命の対決~真打~として番外編あたりで再選願えたら……そう思わなくもないですけれど。

 でも頑張ってお色気シーンが書けるようになってから出直した方が良いかな、とも思います。

 今の小林が書いても、残念なコメディにしかなりませんから……!

 真面目に卑猥で逆に笑える。そんな演出ができるようになりたいものです。


 ちなみにリアクション勝負、実現していたら第三のお題は「バナナ」でした。


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