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42.宿命の戦い ~火蓋は切って落とされた~




 勇者様がとんでもない目に遭っ……リアンカちゃんからの治療を受けているその頃。

 勇者様を生けn……口実にリアンカちゃんの足止めに成功した苦労多き魔境のアダルト組は、酒神様とラブコメの神の先導によって愛の神の神殿へと到達しつつあった。

「っつうか、滅茶苦茶近いね」

「元々眷属であるラブコメの神の活動範囲内に罠を張っていたのですから、近いのも不思議ではないでしょう」

「でもこれだけ近いと、リアンカちゃんの足止めにもどれだけの効果があるもんか」

「…………なるべく早く、ええ、早々に愛の神を捕獲するとしましょう。手段は選んでなどいられません。万が一にも、リアンカ様を危険な目に遭わせる訳にはいかないんですから」

「はいはい。きっちりお膳立てしておかないと、俺らが陛下のお膳に並べられちまうしね」

 魔王城の寵臣二人組の脳裏に、高笑いをあげつつも目の笑っていない……眼光鋭く殺意に溢れたまぁちゃんの姿が思い浮かぶ。

 洒落にならなかった。

 うっすら感じる寒気を気のせいということにして、彼らは愛の神殿に足を踏み入れる。

「ええ、手段など選べるはずもない。神々が如何ほどの者かは知りませんが、陛下の怒りを買うよりはマシです」

「姫殿下とリアンカちゃんは陛下の逆鱗だからねえ」

 魔境では第一級の危険物として尊重される、(くだん)の少女。

 しかしこの天上世界ではただの人間としか見られないのだから、何があるかはわからない。

 彼女の身に危険が及ぶことのないようにと、アダルト組は余計な神経を使っていた。


「それで、この神殿のどこに愛の神とかいうのがいるんすかね」

 精神的疲労を刻一刻と蓄積しつつある魔王の臣下とは違い、サルファは気楽なものだった。

 彼自身、リアンカちゃんに何かあればと思わなくもないのだが。

 しかし立場上、何かがあった際にまぁちゃんから責任を追及される魔族さん達に比べると心的負担も少ない様子。

 まあ、行動を共にしている時点で、何かがあった時に他人面はしていられないだろうが。

「愛神様だったら神殿の最奥ですなり」

 リアンカちゃんが無茶をした際、その結果として負傷とかしちゃった場合に何が起きるのか。

 そのことを把握していないラブコメの神も深刻になる魔族さん達とは違って、どこか投げやりだ。

 拘束されているので仕方ないかも知れないが、何か諦めのようなものを感じさせる従順さである。

 もしかしたら、さっさと自身の上位的存在である愛の神の元までご案内することで、愛の神に助けを求める腹づもりかも知れないが。

「それじゃ、奥まで行くか。他人様の家にずっかずかずか入り込むのも気が咎めるけど、呼び鈴ないし仕方ないよね!」

「誰の姿もありませんし、取り次ぎを頼めないのであれば進むしかありません」

 そうして、彼らは愛の神の神殿に遠慮も躊躇もなくずかずかと上がり込もうとした。


 ……上がり込もうと、した。


 だが奥まで進む、その前に。

 彼らに声をかける者が……


「奥まで進む? その必要はないね」

「あ」

 ちゃっちゃか前を向いて進んでいた一行の、横合いから。

 かけられた声は、透き通るようなボーイソプラノ。

 見ればそこに、妖艶な半裸の美少年がいた。

 半裸。

 半裸……?

「いやむしろ、比率的には七割裸……?」

「八割超えるんじゃね?」

 果たして、この肌色比率を『半裸』と呼んで良いのか否か。

 まずそこが気になった画伯とサルファは、相手の正体よりもまず先にその点について口にしていた。


 彼らの意識を引っ張る、肌色面積の多い妖艶な美少年。

 蠱惑的なその姿は、一言でいえば煽情的。

 キラキラと艶めく蜂蜜色の巻き毛に、白皙の肌を惜しげもなく曝し…………惜しまず曝け出しすぎだった。

 その身に纏っている布は、腰回りの僅かな布のみ。

 精緻な刺繍が施され、真珠や金の粒が縫い付けられているところを見ると、恐らくそれで衣服として完成した布なのだろうが。

 日常をそれ一枚で過ごすには、心許なさ過ぎやしないだろうか。

 太股の半ばまでもない腰布は、少年の細い腰回りを一周することなく。

 僅かに開いた感覚を、細い金色のリボンだか帯だかで押さえている状態で。

 

 下着を着けていない生装備であることが一目瞭然だった。


 そして素肌の上に直接、首飾りだの腕輪だのサンダルだのを装着している。

 装飾品で飾る前に、もっと身につけるべき衣類があるだろうに。

「この少年は、一体……」

 見てはいけないものを目撃してしまったとばかりに、そっと目を逸らしながら。

 それでも一目でただ者ではないことが窺い知れる気配の持ち主であることから、りっちゃんは少年の正体を気にした。

 愛の神の神殿で、これほどに存在感がある者が誰か。

 まあ、聞くまでもないのだが。

 それでも確認をしようと、内心ではちょっぴり「違うと良いな」なんて思いながら、自陣の神に問いかける。

 酒の神は、ぬるい笑みで断言した。

「よう、愛の。お前さん自ら出迎えとは珍しいな」

「丁度庭に出ていたんだよ。妻や娘の好きな花を、いま育てていてね」

「え゛。その防御力ひっくそうな格好で庭仕事?」

「ふふ。僕の肌を傷つけられる根性のある虫や草花なんて存在しないさ」

「それで通用するのか……」

 神々を相手に高い防御力を貫通して危害を加えられる草花や、虫。

 確かに存在しなさそうだが、もしもそんなモノがいたらリアンカ様が喜びそうだな、と。

 現実逃避気味に、りっちゃんはそんなことを考えていた。

 どうやらこの目の前にたたずむ破廉恥美少年が、愛の神で間違いないらしい。

「それにしても、珍しいお客だね。酒の神に、下界の民か……時期から考えて、母上がかっ攫ってきたライオットが関係しているのかな」

 庭仕事で汚れるからと脱いでいた薄絹(透け透け)を、身に纏いながら。

 何でもない口調で、ずばりと事の本質を射貫いてくる愛の神。

 弓の名手の名は伊達ではない。ずばっと射貫くのが彼は大得意だ。

「事を察してるってことは、用件も当然わかってるんだろ」

「母上と違って、僕はこれでもマメにライオットの様子を見てきた方だからね。いつも歯痒い思いをするばかりだったけど、彼が下界で恵まれた関係を構築していたことは知ってるさ。そっちの人間と、魔族達はライオットの周囲で見たことがある」

「ふぅん? 話が早いな」

「早いに超したことはないさ。実を言うと……僕も、この邂逅を心待ちにしていたのだから!」

「「!!?」」

 あの美の女神の息子だと。

 そう聞いていた。

 だけどその情報から受ける印象とは違い、目の前にする愛の神はあまり感情的ではない様子で。

 淡々すらすら話の進む様子に、りっちゃん達はちょっと拍子抜けた思いでいたのだが……

 しかし。

 

 話の途中で、愛の神の感情が乱れる。

 淡々とした様子だったのが、がらりと変わる。


「君ら、僕の試練を受けに来たんだろう?」

 今や敵意を隠す様子もなく、愛の神は一行を……いや、画伯(・・)を睨み付ける。

 そこに込められた感情は、敵を前にした獣そのもの。

 ギラギラと目に戦意を宿し、愛の神は軍手(庭仕事用)を投げつけた。

「あいたっ」

 ぺちっと、軍手は画伯の額に命中する。

 別に本当に痛かった訳ではないが、投げつけられて思わず口にしていた。

 何故、こうまで敵視されるのか。

 それがわからず、画伯の頭に???が乱舞する。

「え、え、え? 何この展開。なんで俺、睨まれてんの」

 言うまでもなく、愛の神と画伯は初対面だ。

 初対面だが……愛の神は、どうやら初めて出会う画伯に物申したいことがある模様。

「……君にはずっと、前々から言わせてもらいたいことがあったんだ」

「俺ら初対面だよね!?」

「初対面? そんなの関係ない。僕には君を睨むに足る理由がある!」

 理由。

 そう、愛の神が、画伯を(・・・)睨む理由。

 それは一体、どんなものか?

 疑問符を飛ばす、下界からのご一行様に。

 愛の神は己の白い胸に右手を当てて、声高らかと言い放った。


「君がやたら完成度高いエロ本を増産してばら撒くから……下界の民の、特に男共の理想が無駄に高くなって困るんだよ!!」


「それ、俺のせいー!?」

「お陰で恋愛成就率が落ちてるんだよ!!? 結ばれる筈だった運命の恋人達が、男側の理想が高くなったせいで破局したり、そもそも関係を結ぶ機会が流れたり。妥協を許したくないなんて言ってさ……これはゆゆしき事態だ! 僕は、君の販路縮小もっと言えば自粛を要求する!」

「恋愛云々については自己責任じゃない? 俺の作品に影響受けた程度で流れる関係なら、どうせ上手くいきっこないって!」

「いいや、そんなことはない。君は自分の影響力を自覚すべきだ。君の存在は、恋愛成就を司る僕にとっては許し難い。今ここで僕からの試練を求めるというのなら、僕はこの機会に君と白黒付けることを要求する!」


 どうやら、『愛』の神的に見過ごせないものが画伯にはあるらしい。

 実際に画伯は知らないことだが、彼の創作した芸術(エロほん)の中のヒロイン達に傾倒して、現実の女性への見る目やら対応やらが辛口になった男性は思いの外多い。

 中には現実の女性とエロ本の女性を露骨に比べて、女性の反感を買った男性も……。

 創作した側に取っては、本を手に取った野郎共の振る舞いにまで関知はしないが。

 それでもこの風潮の元凶を前にして、愛の神は冷静ではなかった。

 実は、前々から男達の理想が無駄に高くなっていくことに頭を抱えていたらしい。


「僕は、君を負かす。そしてエロ本の浸食を食い止める! 勝負だ、エロ本作家ヨシュアン!!」

「そっちの肩書きで勝負挑まれるとか全く想定してなかったんですけどー!?」

 いま、彼らの宿命の対決が始まろうとしていた。


「もう勝手に……出来れば、他所でやって下さい」

「あはははは。画伯、すげー(笑)」

 事の展開に、りっちゃんは頭の痛そうな顔をしている。

 サルファは爆笑し、酒の神はぬるい目を更に温めた。

 そしてラブコメの神は……

「……どうして吾に言及してくれないですかー……」

 愛の神にスルーされまくって、地味にへこんでいた。


 



天界で、神々の試練撃破の流れで。

小林が一番書きたかった対決はコレだったりします。


次回、愛の神と欲の権化ヨシュアンさんが宿命の対決!

その勝負方法は……!?


a.リアクション対決5連発

b.ツイスター的なナニか

c.射撃勝負

d.泥レス

e.「わたしキレイ?」女装deナンパ対決

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