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40.あれ? これって勇者君イケニエじゃね……?(byヨシュアン)

 小林、思いました。

 ここんとこの展開は、主要人物(勇者様)がいつになく恋愛してるって……!(ただし枕詞は「偽りの」)

 まあ相手は緑の艶めくアスパラなんですけど!

 これは作品のタグに「恋愛(一方的)」もしくは「恋愛(偽)」あるいは「恋愛(洗脳)」とか付け加えるべきでしょうか……?




 一応の駄目押しで、あの後更に勇者様が正気を復活させてツッコミくれるようなことを何回かやってみたんですが……

 磯巾着の残骸を使って、常人はおろか魔境基準の一般人でもドン引き必至のネタ「海水とほぼ同じ塩分濃度の水に浸して約五分! 増える磯巾着」とかやったんですけどね。

 磯巾着の有する再生能力を利用して気持ち悪いくらい増える光景を眼前で繰り広げたというのに、勇者様の反応は悲しいくらいに(スルー)

 カジキマグロビンタとかもやってみたんですけど、(つい)ぞ望んだ反応は得られませんでした……ここまでやって何もないのも、むしろ逆に凄い気がしなくもありませんが。

 ああ、勇者様……あんなに勇敢に、決して諦めない不屈を体現したお姿を見せて下さった貴方はどこに消えてしまったというのでしょう。

 あんなにキラキラしていた勇者様の雄姿は、もう見られないの?


 愛の神、マジ許すまじ……


 最高戦力まぁちゃんが不在なのはちょっと不安要素ですが、なんとしてでも愛の神をボコって勇者様にかかった精神汚染(のろい)を解かないことには……解けないとか愛の神がほざいた時には、私でも何をするのかわかりません。

 というかまぁちゃんってばせっちゃん(と、勇者様)を救出すべく出動していった筈なのに、今一体どこで何をしているんでしょうか。救出対象(せっちゃん&勇者様)、自力で脱出してきちゃってるんですけど……私がこういうのも何ですが、なんかまぁちゃんが発進した意味が行方不明というか。まぁちゃんそのものが行方不明というか。これを人は本末転倒というのでしょうか。




 ~その頃、魔王陛下(まぁちゃん)


「おるぁ、どこ逃げやがった年増駄女神がぁぁあああっ」

「大叔母上は逃げ足が速いな。目的を見失ったようだし、どうだろうかハニー。共に酒宴でも?」

「てめぇはいつまで勘違いしてやがる!? いい加減、相手の性別くらい気づきやがれ節穴がぁ!」




「取りあえず愛の神を生け捕りにして、勇者様を元に戻させる事が先決ですよね。折檻はそれからで」

「せっちゃんもお手伝いしますの! だからリャン姉様、元気を出してくださいですの」

 私が固い決意を固めている、その横で。

 勇者様にばかり注意がいっていた私は気付かなかったんですけどね?

 知らない間に、りっちゃん達は私の怒り心頭といった様子を懸念して、心配そうに何かの相談を重ねていました。

「どうします? 随分と頭に血が上って……やる気に満ちあふれているようですが」

「あはははは……なんかやる気が殺る気って脳内変換されたのは俺だけかな」

「リャン姉、怒ってるけど悲しそうだ」

「……心配です」

「ええ、そうですね。心配です……やり過ぎて、神を相手に無理をしないか」

「ただでさえ相手の能力は未知数だってのに、リアンカちゃんが前に出ることはないよな。いつもだったら適当に相手をおちょくりつつ、実戦は俺達みたいな戦闘員とか陛下に任せてくれるけど」

「今は、自分が、と前に出かねませんね。怒りで我を忘れる程、稚気な方ではないはずなのですが」

「でも今まであんなに理不尽な怒りを覚えたこともないんじゃない? だったら、さ……初めて覚える類の怒りに常にない行動に出る可能性もあるって」

「そうなると……厄介ですね」

「うん、勘弁してほしいよね」


「「リアンカちゃん(様)が前に出て、危ない目に遭おう物なら……陛下がキレる(ます)」」


 長い付き合いで現役魔王様の性格と思考回路を熟知している魔王城勤めの二人は同時に頷きました。

 それは、阻止すべき展開だと。

 だけど普通に止めても、怒りに燃える村娘が止まる筈もない。

 だったら、どうするべきか?

「仕方がありません」

「ま、しょうがないよな」

「彼女が無理を押して行動することのないよう……こちらで(あらかじ)め、危険を廃するべきでしょう」

「お膳立てしといて美味しいとこだけ直ぐに手を付けられるよう、露払いしといた方が陛下の意にかなうってものかな」

 同じ結論に達した魔王の部下達は、ほとんど同時に同じ意味の溜息を吐いた。

 厄介事は率先して自分達で担い、魔王が過保護に大切に守っている少女達の負担を無くす。主君の意を汲み、自分達の判断で動く。やるべき事はやらねばならない。それが、彼らの職分なのだから。

「ってことで、まずは俺達が先行すべきだよね」

「足止めは……ああ、勇者さんの状態を理由にしますか」

 長い付き合いがある。二人に間に、細かな打ち合わせは必要ない。

 内心を隠してにへらっと笑い、ヨシュアンは平静さを欠いた少女の元に近づいた。

 何となく身の危険を感じて、今の彼女には近づきたくないなぁとか思いながら。


「リアンカちゃん!」

「なんですか、画伯」

「愛の神を絞めるのは良いと思うし、俺も賛成なんだけどさー?」

「なんだか含みがありますね。でも?」

「うん、そう。でも。俺、思うんだけどさ? 愛の神ボコるより先に、勇者君の惨状どうにかしといた方が良くない?」

「その『惨状』を改善する為に、愛の神をボコるんですが……」

「ああ、いやいやそっちじゃなくってさ? その、外見……的な?」

「???」

「いや、俺の美意識的に見るに堪えないんだ! あの無残な格好が!」

「!!?」

 言われて、私はハッとしてしまいました。

 あの美意識の高い画伯のことです。彼が耐えられないという程、勇者様の見た目は…………ああ、うん、確かに酷いですね!

 正直、勇者様の美貌ならどんな格好だって耐えられると思います。

 でも今の勇者様は……半裸で、手首は拘束されていて、両目は赤い結晶体で封じられている上に三つ目。しかも背中に三対の翼付きです。

 勇者様の美貌効果で見苦しいって程じゃない気がしていましたが……言われてみると、なんか酷いような気もしてきました。

「あれどんな特殊なプレイ中?って感じじゃん。しかもボロボロで見窄(みすぼ)らしくなっちゃってるし……あんな卑猥な格好で放置している間に陛下が戻ってきてみなよ。リアンカちゃんや姫の前であんなの放置とか、陛下にバレたら俺らが監督責任追及されちゃうってば」

「卑猥、ですか。言われてみれば、そんな気がしないでもないような……」

「取りあえず直せるところは直して、治療できるところも改善しといた方が良いって。リアンカちゃんでも治せる額の目とかさ、あそこらへんの治療が済んでから行動すべきじゃないかな。そっちの方が勇者君の負担も減るだろうし?」

「ヨシュアンの言う通りですね」

「りっちゃんもそう思う?」

「ええ。身体に異常が出たまま行動させれば、その分負担になるでしょう。彼の身を案じるなら、おざなりに済ませるべきではありません」

「あ、ただ両腕の拘束はそのまんまにしといた方が良いと思うぜ。今の勇者君ってほら、正気じゃないって言うか錯乱してるっつうか……普段と違うってだけで何するかわかんないし? 異常行動に出るかもしれないから、手は封じとこう」

「うーん……二人がそう言うなら、そうした方が良いような気もしますが。でも一刻も早く、正気に戻して差し上げたいですし。愛の神にも思い知らせて差し上げたいですし?」

「……そこは俺達が止めたんだからさ。俺らで先に行って愛の神がどこにも逃げないように拘束を試みるってことでどう? それが無理でも足止めしておくさ。そうしたらリアンカちゃんも逃げられる心配なくって安心じゃない?」

「二人が時間を稼ぐ、あるいは捕まえるまでやっておくので、その間に勇者様の体を診ろと?」

「俺はそっちの方が良いと思うな☆」

「私も、やはりヨシュアンと同意見です」

 なんだか二人とも、やけに頑なな様子で意見を通してきますが。

 でも言われると、確かに勇者様の外見が可哀想な感じなんですよねー……。

「リャン姉、あの額の目って早い内に処置しといた方が良いだろ」

「そういえば、時間が経てば定着して元に戻せなくなると言っていませんでしたか?」

「あ」

 ちょっと、内心で思案に暮れていると。

 若竜の二人からうっかり忘れていた大事なことを指摘されました。

 そういえば、その通りです。

 あの額の目って放置しておくと元に戻せなくなっちゃうんでした……!

 勇者様が正気に戻った時、三つ目が一生消えないと知ったらどう思うか。

 ……ちょっと見てみたい気もしますが。 

 でも勇者様を(さいな)みたいわけじゃないし、一生物の被害を押しつけたいとも思えません。

 そもそも額の三つ目は、どんな経緯でそうなったのかは謎ですが、大本をただせば薬を落とした私の過失です。

 洒落にならない事態になる前に、あの三つ目だけでも引っぺがしておいた方が良さそうです。

 それなりに手間がかかるので、時間もかかりますが。

「りっちゃん、ヨシュアンさん、本当に愛の神を捕獲しておいてくれますか?」

「大船に乗った気で任せといて」

「最善を尽くします」

 二人がそう言ってくれたので。

 私はまずは、勇者様の応急手当を先に進める事としました。

 背中の翼はどうにもなりませんが、他はどうにか出来る筈!

「リリフ、ロロイ、お手伝い頼めるかな」

「なんでも言ってくれ、リャン姉」

「私も、お手伝いできることがあれば」

「じゃあ、まずはドリルを用意して?」

「物理的に抉るんですか!?」

「ドリルじゃなくって千枚通しでも良いか、リャン姉」

「それしかないなら、仕方ありませんね」

「思いとどまって下さい、リャン姉さん! ロロイも、わざとでしょう!?」

 

 勇者様の治療に専念する為、この場には私と助手を務める若竜二人。

 それから少しの間離れていた反動か、私の側を離れたくないと言ってくれた可愛いせっちゃん。

 そして治療される患者(勇者様)とご先祖様が残ることになりました。

 

 私が勇者様を診療している間、愛の神の身柄を押さえに行く人達とは別行動です。

 本当は治癒魔法に長けたりっちゃんにも居残ってほしかったんですけど……愛の神捕獲班の面子が心配な人達ばっかりだったので仕方ありません。

 そちらにはりっちゃんを筆頭に、ヨシュアンさん、サルファ、酒神様が人員に数えられます。

 あ、あとそれから某着ぐるみですね。

 一応、愛の神の眷属だということですから。道案内と顔を知らない愛神の面合わせの為に、兎の着ぐるみはりっちゃんが連れて行くことになりました。

 脱走防止の為、鍛冶神様に幾つかお裾分けしてもらった拘束用神器の一つを兎の着ぐるみには使っています。

 本体は直径三㎝くらいの玉なんですけど、子機として首輪がついています。美の女神に使うことを想定して鍛冶神様が作っただけあって、精緻な彫刻の施された倒錯的な首輪なんですけどね。

 この首輪を着ぐるみの中の人に嵌めるや、あら不思議。……本体の玉から半径百m以上離れると、自動的に首が絞まって身動きがとれなくなるという傑作です。

 ちなみに本体は紐を通せるようになっていて、首飾りや腕輪なんかに加工可能。今はりっちゃんが革紐を通して首から提げています。勿論、兎に奪われることを警戒して服の下に隠した状態で。

「善良な神になんてことをするですかー……」

「黙れ、勇者様の誘拐実行犯その一!」

「まだ根に持ってるですか!? あれは吾の本意ではないですなり。美の女神様に指示されて、仕方なく!」

「ってか下界の恋愛喜劇を見て腹を抱えて笑うのが日課って、少なくとも善神じゃなくね?」

「邪神かどうか聞かれると果てしなく灰色感がありますが、まあ善でも邪でもありませんね」

「吾は愛の神様に比べたらまだマシなりよ!?」

 兎のその言葉で、思いました。

 そうですか、愛の神は邪神なんですか……と。

 まあ、この兎の上司ですしね。この兎の上位の性格と想定しておいた方が良さそうです。



 こうして私達は、勇者様達と合流早々また別行動と相成りました。

 今回は私と勇者様は一緒ですけど……こんな変わり果てた勇者様を見ているのは辛いし、近くにいてもなんだか勇者様じゃない気がして……一緒にいる筈なのに、未だ勇者様と別行動しているような気になります。

 本人は目の前にいるって言うのに、変ですよね……。

 落ち込んでいる私を、せっちゃんが心配そうに撫でてくれました。

「リャン姉様、お元気になって下さいですのー……」

「ごめんね、せっちゃん。私がこんなんじゃ駄目だね……勇者様を取り戻す、為にも」

 そうです。

 どうしていつまでも落ち込んでいるんですか、私。

 まだ活路が消えた訳じゃない。

 いざとなったら愛の神を痛めつけて、でも……

「リアンカちゃん、リアンカちゃん!? なんか不穏な気配漂ってんだけど!! 心を鎮めて、鎮めて!」

「ハッ……私は何を?」

 いけません。さっきからなんか発想が物騒な方向に寄り気味なんですよね……余裕がない証拠です。

 急いては事をし損じる。偉大な先人の言葉に倣いましょう。

 確実に事を達成する為にも……冷静さと慎重さを失うのはまずいですよね。


「ところで儂……もう帰ってもええかの。なんか存在忘れられてそうじゃし」

 所在なさそうにポツリと言ったのは、エロ爺(ラッキースケベの)神でした。

「ふふ? 別に貴方のことを忘れていた訳じゃありませんよー?」

「な、何故じゃろうの? 忘れられていないことに安心するよりむしろ不安が高まるんじゃが」

「そりゃ……私が『こうする』つもりだからかも、し・れ・ま……せんね!」

「!!?」

 この湖を見た時から、決めていました。

 この爺は、こうするって。


「ご先祖様、お願いします!」

「ま、良いぜ」

 ご先祖様にも、気軽に協力いただいて。

 私は、エロ爺を。


 湖に投げ捨て……いえ、突き飛ばしました。


 ご老体を相手に無体な?

 いえいえ相手は神ですよ?

 相手が年上だろうと年下だろうと、私より強くて生命力高くて、頑丈な生き物に遠慮は無用です。私はそのことを生育環境(まきょう)で学んで大きく育ちました。

 

 私が突き飛ばした爺が、湖に着水する瞬間。

 ご先祖様が『羊飼いの杖』を一振りすると、あら不思議。

 

 ……折しも、湖に映っていたのは下界の光景。

 何がどうなってそうなったのかラーラお姉ちゃんを押し倒す形で馬乗りになっていた騎士Bが、ラーラお姉ちゃんから顎に掌てい食らって吹っ飛んでたんですけど。

 それがまた何がどうしてそうなったのか、騎士Bがお姉ちゃんを巻き込んで転倒する光景が繰り広げられようとしています。

 だけどその湖が、ご先祖様の力によって虹色に輝きを放ちました。

 輝く湖に、沈むエロ爺。

「ふ、ふぉおおおおおおおおっ!?」

 本神の抵抗虚しく、沈み込んでいくエロ爺。


 爺はどうなったか?

 答えは明瞭です。


 爺は湖に映っていた光景の、その現場に飛ばされました。


 ラーラお姉ちゃんと騎士Bの間に割り込み……お姉ちゃんと、入れ替わる形で。


 輝きの消えた湖は、静かに凪いでいます。

 その水面には、綺麗にはっきりとした映像で。

 騎士Bが、爺を巻き込んで縺れ合い、諸共に倒れ込む光景がくっきりと映っていました。

 



 下界に爺遺棄。

 ラーラお姉ちゃんの代わりに騎士Bのラッキースケベに巻き込まれるが良い!


 次回、勇者様の治療という名の人体実験が……!?

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