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ここは人類最前線8 ~攫われた勇者様を救え!~  作者: 小林晴幸
勇者様を助けに村娘と魔王が出動です
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1.氷漬けの悪魔

皆さん、覚えておいでですか……?

奴が再登場、です。



 

 拝啓、父さんと母さんへ。

 

 勇者様が誘拐されました。

 誰にって?

 美の女神とかいう、金髪熟女(むちむち)にです。

 お友達は大切にしなさいって、誰かが言ってた気がするし。

 ここはちょっくら助けに向かってしまおうかと思います。

 誰がって?

 勿論、私とまぁちゃんとせっちゃん、皆で行ってきます!

 お土産に女神の髪の毛毟ってくるつもりなので、帰ってきたらカツラを作りましょう!

 楽しみにしていて下さいね。

敬具


「……よし、これで良いかな」

「リアンカ、お前ホントにその手紙一枚で済ます気かよ」

「だって家に帰って父さん達に説明してたら、絶対止められるし」

「俺も本当のとこは止めてーんだからな? そこんとこ忘れんなよ」

「それでも私のことを心配して付いてきてくれる、まぁちゃんのことが大好きだよ!」

「チッ……調子の良い奴」

 不愉快そうに言いつつ、まぁちゃんの機嫌は悪くありません。

 むしろ、実は天界に出撃だーってちょっとわくわくしてるんじゃないでしょうか。

 これはもう割切っているようで、私が同行しても自分が守りきれば問題ないと意識を切り替えた顔ですね。

 実際、天界に殴り込みをかけるのがどれだけ大変か……私にはよくわかりませんが。

「――陛下、リアンカさん、現実逃避はそのくらいで。それより天界に行く術について調べる方が先です」

「幸い、魔王城には沢山過去の資料があるし。皆で手分けして探せば、具体的な方策も見つかるんじゃないかな……運が良ければ」

「歴代の魔王を辿れば、何名か天の神々に戦をしかけて天界まで到達した偉大な方々がいらっしゃいますからね。彼の軍勢に参加した文官の記録まで含めて確認すれば、有力な手がかりも得られる……かもしれません」

「その資料全部、だから沢山なんですねー……」

「沢山っつか、膨大過ぎだろ。誰か目録くらい作っとけよ……」

「いいえ、陛下……これは目録の目録が必要なレベルです。実際に確認したところ、資料庫の管理人によれば目録の目録の更にその目録まであるそうです。それでも把握が難しいので、更なる目録を作る検討を練っているところだとか」

「それ本末転倒だろ……?」

 今、私達は魔王城の積み上がる資料に圧殺されそうな書庫の一つに来ています。

 主要なものに関しては魔王のまぁちゃんも、ちゃんと把握しているみたいですが……流石に、天界へ行く方法的な小技についてはどこに記載されているのか悩ましいみたいで。

 だったら資料を一から当たるかと言われると、この量は……内容をざっと確認していくだけでも、下手すれば百年単位で時間が足りません。

 過去の資料を管理する文官さん達も手伝ってくれるんですが……彼らもそれぞれ自分の担当する資料については深く理解しているんですけど、それ以外となると全然だそうで。

 だから今から、書庫の文官さん達に自分の管理する範囲で資料の心当たりがないかどうかの調査をするところです。

 でも過去の資料は本当に沢山だから。

 中には管理担当者不在状況のまま、数百年規模で放置されている空白地帯も……割と、たくさん。

 もしも探している具体的な内容が、そういう空白地帯に紛れていたらアウトです。本当に資料に一から目を通して行く羽目になります。

 さて、どうしたものかな、と。

 途方に暮れていたんですけど。


 現実逃避がてらに、そっと視線を逸らして……私は自分の幸運に感謝しました。

 目に入った、微かな光。


 おや、これは……?


 それが何の光か悟った瞬間、私は走り出していた。

「おい、リアンカ!?」

「まぁちゃん、あったよ!」

「は? 何が!?」

「天界に詳しい人の、心当たりー!!」

「マジかよ!?」

 ダッシュです。

 それはもうダッシュで走ったんですが……

 即座に足が遅いと、まぁちゃんに担がれました。

 途端、ああ私の足って遅いんだなぁと自分で納得する程の加速。

 私では絶対について行けない速度だけど、他の皆は平然とそれに追随している。

 すみません、私ったら鈍足で…………いや、みんな人外だったな。

 人間の足でついて行ける方がおかしかった。

「それで!? どこ行くって?」

「まぁちゃん、このまま――シャイターンさんの暖炉に!」

 その言葉で、まぁちゃんも。

 他の皆も、「心当たり」の言葉に納得したようでした。

 シャイターンさんはかつて神々に封印された古参の悪魔。

 敢えてわざわざ神が封じる程の、力ある悪魔です。

 力だけでなく知識も豊富で、古い悪魔(ひと)な分、神々の事情にも通じている……って聞いたような気がします!

 そんな彼は現在、魔王城の一室で暖炉の上に訳あって飾られています。

 ……うん、全身バラバラ状態で各個封印されたので、全身の部分(パーツ)が揃うまで魔王城でオブジェごっこしてるんです。

 いえ、自力では動けなかった名残なんですけどね?

 でもそう言えば私、皆に言ってましたっけ。


 シャイターンさんのバラバラな部分、全部集めたって。


 ……言ってなかった気が、凄くします。

 でも説明する時間はなかったので。

 皆は、天界へ行く方策について意見を聞こうとしているのだ、と。

 そう思っていたんでしょうが。

 私は部屋へ(まぁちゃんが)飛び込むなり、叫びました。


「シャイターンさん! 保留にしていたお願い、叶えて欲しいです! どうか是非、私達を――天界に送って下さい!!


女神を殴って勇者様を救い出したいんです! 」


 私の必死なお願い、全てを込めた叫びでした。Let’s 罰当たり!

 私のポーチの中には、封じられた悪魔(シャイターン)の破片。

 それを全部揃えた人は……シャイターンさんにお願いごとを叶えてもらえるって話でしたよね!?

 飴ちゃんはもういらないので……是非是非、叶えて欲しいです!

「リアンカ、お前……シャイターンの(パーツ)、どこで拾ってきてたんだ」

「カリカちゃんが咥えてきました」

「お前のここぞって時の運の良さにゃ、まぁちゃんも吃驚だぜ……」

 呆れているのか、感心しているのか。

 私が腰のポーチから取り出した、蒼い氷の球体……シャイターンさんの欠片をまじまじと見て、まぁちゃんは微妙な顔をしました。

「ふぬ? 何やら訳ありのご様子で」

 一方、既に私がシャイターンさんの最後の欠片を持っていると知っていた、当の悪魔ご本人は慌てることなく。

 私達が生まれるずっと前から、うちの御先祖様の夕飯に混入していたところを、発見されたその後からずっと。

 ずっと長いこと、暖炉で磔状態のまま、長々と隠し芸の披露と子守だけを暇潰しに安穏とした暮らしを送って来ていた悪魔さん。

 彼は感慨深げな様子で、しみじみと呟きました。

「――今までを振り返るに、ふと思ったのだが」

「はい?」

「このまま……この暖炉で暮らすのも、悪くはないなぁと。このままでも良い気がしてきた」

「えっ」

 土壇場で何を言い出すんですかね、この悪魔。

「おいこら、敷地代取るぞ。不可抗力っつーんならともかく、五体満足になった後まで魔王城(うち)で隠居暮らし出来ると思うなよ!」

「むぅ? 無情! 今まで子供時代の君達と遊んで来たではないか! その時間を敷地代に換算してだな?」

「時々てめぇの旧友が訪ねてきちゃ、夜通し宴会してたじゃねーか。団体で! その時の飲食代まで請求しねえことに感謝しやがれ」

「魔族だって混ざっていたではないか! まぁ坊の両親だって一緒に隠し芸を披露したりと楽しく参加していたのだぞ!?」

「つべこべ言わず、昔日を惜しんでねぇでとっとと完全体に戻りやがれ!」

 うっかり暖炉の上生活の続行も良いもんなぁ惜しんじゃったようで。

 復活を拒むような素振りを見せたシャイターンさんに、まぁちゃんが尖った声で叱りつけます。

 暇だったら、シャイターンさんの土壇場の駄々っ子ごっこにお付き合いして、他愛ないお喋りだって楽しんでも良かったんですけど。

 シャイターンさんは本心から嫌がってる訳じゃないし。

 彼の性格もちょっと捻くれた部分があるので、多分これは私達をちょっと困らせたくなっただけなんでしょうけれど。

 今は何より、勇者様です。

 彼の心身の無事を案じれば、時間は少しでも惜しいから。

 まぁちゃんも口では見捨てるようなことを言ったり、私の方が大事だからと勇者様の冥福を祈るようなことを言いますけど。

 いつもより少しだけ苛々している空気が微かに感じられます。

 それは焦りというよりは、弱かったけど。

 案じていない訳じゃないから。

 少しは心配しているみたいだから。

 シャイターンさんの焦らすような言動に、いつもより沸点低く行動に出ました。

 私の手元にあったシャイターンさんの部品を、素早く拾い上げ。

 問答無用で、シャイターンさんに投げつけました。


 まぁちゃんの肩は、強肩でした。

 強者の代名詞『魔王』の面目躍如、流石と拍手をしたくなるほどの真っ直ぐな投速です。

 しかも私の気のせいじゃないなら……なんか、抉り込む様な捻りと雷撃を纏ってませんでした?

 これもう攻撃だろ、と。

 そう言いたくなる投擲は、シャイターンさんの眉間にクリーンヒットしました。

 しかも跳ね返りません。

 あの勢いなら跳弾しそうなものですが、跳ね返らずにシャイターンさんの頭部にめり込んでいます。

 元々はシャイターンさんの一部だから、でしょうか。

 そのままめり込んだ蒼氷は、溶けた氷が大地に浸み込んでいくように、シャイターンさんの身体に吸収されていきました。

 シャイターンさんの目が、カッと開きます。

 悪魔さんの全身が、ギラギラした七色の光に包まれました。

「元気、溌剌! しゃいたーん!!」

 そして聞こえる、何かの掛声。

 あれ、ご本人で言ってるんですよね?

 光が薄れ、消えた時。

 そこには今までと違うシャイターンさんが……。


 頭、あります。

 胴体、ありますね。

 そして左腕、右腕……欠けることなく。

 両足も角も尻尾も翼?も揃って完璧です!

 服だってちゃんと着ちゃってますけど、どこに隠し持ってたんでしょうね?

 ……え? これも込みでオプション扱い?

 私は道化みたいな恰好がお似合いだと思っていたんです。

 ですが、古代の神像みたいなずるずるした衣装も結構似合っていますね。

 似合っていることに、何故かがっかりする胸の内。

 ……期待外れも良いとこでしたよ!



 こうして、シャイターンさんは復活しました。

 その真の姿は……腹立たしいことに、割と真っ当な姿をしていました。



 

そうです。あの悪魔はこの為の伏線だったのです。

ちなみにシャイターンさんの登場に関しては「ここは人類最前線6」の章題「そして式典の当日に」あたりと「ここは人類最前線7」の「10.悪魔でも無理なこと」をご参照ください。

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