34.うさぎ追いし → 木の根っこ
エロ爺の自供で、爺と兎が頻繁に顔を合わせている場所、というのが判明しました。
二人とも最低で一日に三回は足を運び、自然と一緒に過ごしている場所だそうです。
つまり、罠を張るのに最適な場所ってことですね。
何しろ待っていれば、向こうから最低でも一日三回はやって来てくれる訳なんですから。
虫ではありませんが、飛んで火にいる……というヤツです。
「でもなんでそんな何度も足を来るの?」
罠を設置する為に現地へ向かいましたが、そこは平原と林の際。
目の前には湖があるだけで、何か特別なモノがあるという雰囲気でもありません。
「目的は、その湖じゃ」
ラッキースケベが指差す湖は、何の変哲もない湖に見えました。
天界に来てから、もう何度もこんな湖は見かけています。
ただ特徴を述べるとすれば、鏡のように水面が澄んでいることくらいでしょうか?
首を傾げる私。
でも答えはすぐに知れました。
ちょっと今までお空は曇り模様だったんですが……晴れてきたようで、日が差しました。
すると光を浴びた湖に浮かぶモノが……って。
「この湖は地上と繋がっておっての。鏡として使えば望んだ地上の光景を見ることが可能じゃ」
スケベ仙人の言葉通り。
湖には見慣れた……地上、それも魔境の情景が映りこんでいたんです。
「儂とラブちゃんはこの湖鏡を使ぉてのう……何度も何度も地上の愉快な光景を眺め、楽しみを共有しておったのよ」
湖には、私の凄くよく知っている人が映っていました。
私の大好きな魔族のおねえさん……ラーラお姉ちゃん。
…………と。
その豊かなお胸の谷間に顔面を突っ込み、押し倒す形で転倒したらしい……騎士B(片足ギプス)の姿が。
「き、騎士Bぃぃぃいいいいいいいいいいいいっ!!」
見るも無残な光景です。
場所はどうやらハテノ村の孤児院前。
周囲を囲むように、見慣れた人の姿がチラホラ見えます。
見えた人、みんなが「あちゃー」って顔をしていました。
ちなみに騎士Bの両手はしっかりがっしりラーラお姉ちゃんの素敵なお胸に食い込んでいます。お前、それわざとか。わざとなのか。
この光景……偶然だの事故だのといった言い逃れは許しません。
何がどうなってこんなことになっているのか、理解したくもありませんが……騎士B、私が地上に戻ったら安穏としていられるなんて思わないで下さいよ。
イロイロ準備する必要がありそうですし、今から仕込んでおきましょうか……渾身の、『劇物』を。
「ひょひょひょっ(笑) 今日もようやりおるわい。あの兄ちゃんは儂とラブちゃんの昨今の一押しでのぅ。お気に入りというヤツじゃ」
「……ひょっとして、あの暴挙に関与なんてしていませんよね?」
「関与とな……さぁて、のう?」
思わせぶりなことを言う、ラッキースケベの神。
私は思わず、その脛に……
「たんま! 待って待ってリアンカちゃん!? 相手は仮にも神様だから! リアンカちゃんが何かして、報復されたらどーすんの!」
「離して下さい! 離して、サルファ! あの爺さんの脛を謎の瘢痕と吸盤と目玉だらけにしてやるんですから!」
「本当に何する気なの!?」
状況を察したらしいサルファに、羽交い絞めにされる私。
ちょっとサルファ、気易く触り過ぎじゃありません?
背中の方から焦ったサルファの様子が伝わってきます。
どうやら本当に、焦っての行動みたいですが。
「爺さんも! 何かやったのかやってねぇのか知らないけどさー!? 無事、五体満足で解放されたいんなら不用意な発言は慎もうぜ!」
「なんかよぅわからんが……危険な娘さんのようじゃのぅ。桑原くわばら……」
「自分も神なのに雷神様拝んでどうすんの……?」
少々湖に映った問題多き映像に心を乱されもしましたが。
此処が罠の設置場所として好ましいことは理解しました。
「じゃあ、後は兎狩り用の罠を仕掛けるだけですね」
「ですが本物の兎という訳でもありませんし……仮にも神に属する方を生捕にするとなると、どんな罠を仕掛けたものでしょう」
「古典的に落とし穴とか? ああいうシンプルで古典的なのって、効果があるから残ってるんだろ」
「画伯だったら、女の子を捕まえる時にどんな罠を張ります?」
「えー……? 外堀から埋めて、社会的に逃げ場を潰すとか?」
「心理面の話じゃありませんよ。わかってますよね? 物理的なお話です」
「神様だし、見た目によらず頑丈そうだし。少々の怪我を大目に見てもらえるんなら、物騒な罠でも大丈夫なんじゃない? むしろ殺しにかかるくらいの気持ちでやらないと、神様なんて捕獲できない気がするの、俺だけ?」
中々話は物騒な方向に進みかけているようです。
まあ女の子を生捕だぁ★なんて言っている時点で物騒なことに変わりはありませんけれど。
でも女の子相手とは思えない手加減無用の意見が出る出る出てきます。
そんな中で、ふと。
案内役だとの言葉通り、大体道案内に徹して此方からお願いしない限りは傍観に徹している御先祖様にも意見を窺ってみたくなりました。
何しろ相手は気持ち悪い兎でも神は神ですし。
ここは同じく神の一員である御先祖様から良案をいただけないものかと思った次第で。
「御先祖様ー」
「んー?」
「何か助言とか注意点とかありませんか?」
「助言、ねえ……兎なんてわざわざ生捕にしねぇだろ。だって食うもん。俺は大概殴って捕まえてたが、生捕する方法なぁ」
確かに、兎を生きたまま捕まえることに腐心する人は少ない気がします。だって毛皮に用があるにしろ、肉に用があるにしろ、お命頂戴系ですし。
でも今回私達が捕まえる兎は、中のヒトがいる訳で。
何も本物の兎を捕まえる方法をご教授いただこうという訳じゃあないんですが。
「そういやぁ、俺の爺さんがな? 婆さんと所帯を持って腰を落ち着けるまで、若い頃はあちこち転々として傭兵働きをしてたっていう経歴の持ち主なんだけどよ」
「ほほう……それはまた、なんというか活動的な経歴をお持ちですね?」
「その爺さんがどっかで聞いた小噺に、こんなのがあるそうだ。
――ある所に、毎日ただ勤勉に畑を耕す農夫がいた。それ以外に働く術も知らず、畑を耕すだけの日々……しかしある日、農夫は見た!
勢いよく駆ける兎が、勢い余って切り株に衝突するところを!
頭からいった兎は臨終。農夫は労せずして兎を手に入れ、思ったという。これからこの切り株を見張っておけば、何もしなくても兎が手に入るんじゃね?……と」
「それ、駄目なヤツですよね」
ただの臨時収入だって割切るところですよね、それ。
御先祖様が何を話したいのか、よく分かりませんけれど。
そう言えばここにも切り株があるなぁ、なんて。
林との際にぽつんと一つの切り株があります。
あれ? 切り株近くに、足を滑らせたような跡が……割と新しい跡ですけど、誰か先客でもいたんでしょうか。
「以来、真面目に働いていたことも忘れて農夫は毎日切り株に張り付いていたらしい。ちなみに兎が切り株に衝突することは、その後一度もなかったそうだ。
……っていう小噺を皮肉って、罠に切り株使わね?」
「あ、嫌がらせですね! お前は実際の兎より間抜けだって揶揄したいと見た!」
「実際に兎が切り株にぶつかって死んだ事例なんぞ俺は知らん。だけど、まあ……兎以下かはともかく、切り株に引っ掛かったら「お前、頭まで兎並みかよ」と爆笑してやる心づもりではある」
「御先祖様にはお世話になってますし……折角ですしね! 御先祖様の希望は最大限に取り入れますよ!」
ええ、何か方針とか、やりたいことがあった訳でもありませんし。
これも良い目標と思って受け入れ、罠に取り入れるのも一興です。
切り株を最大限に使った罠……目にモノ見せてくれますよ、兎娘!
罠を巡らせ、茂みに潜んで三時間後。
気持ち悪い兎の着ぐるみを着込んだラブコメの神はひょこひょこ歩いてやって来ました。
そして、兎娘は見ました!
きっちりと等間隔にずらりと並ぶ……大量の切り株を!
その異様というか、明らかに人為的な光景を前に兎娘の叫び声が聞こえます。
「な、なんなのですか、これぇぇええええええっ!?」
※ 切り株です。
見渡す限りの切り株がそこには並んでいる訳で。そして切り株と切り株の間を、赤・青・黒・白と四色の綱が張り巡らされています。上空から見れば、網目模様が展開されているとわかったことでしょう。
これだけの切り株用意するの地味に大変だったんですよね!
綱を張り巡らせるのもそうですが、何より木を伐採して(フランがやった)、切り株を集めて(リリフとロロイの仕事)、きっちり等間隔になる様に移植するの(りっちゃん&ヨシュアンさんお疲れ様です)に随分と時間をかけてしまいました。
その成果を前に、驚きおろおろ狼狽える兎女神。良い反応です。
でも、その次はちょっといただけません。
おろー、うろー、と周囲を見回し、得体が知れないと思ったんでしょうか。
ふよっと兎の着ぐるみが宙に浮きました。
飛んでやり過ごすつもりですか!?
そうは問屋が卸しません。むしろ卸す前に差し止めます。
飛んでいこうとする兎娘に、私は即座に手首を利かせて投げ放ちました。
風に乗って、すぃーっと飛んでいく紙飛行機。
まぁちゃん達と無駄に鍛えた腕は衰えてなんていません。
狙い過たず、紙飛行機はすこーんっと着ぐるみの額に突き刺さりました。
「ひょぇっ!? な、な、なんなのです!?」
驚いた兎は額に突き刺さって風に揺れる紙飛行機を掴み取ると、恐る恐る広げて……
そこに書かれた文面を読み取ったのでしょう。
一気に脱力したように、地面にへたり込みました。
……兎女神に放った、紙飛行機。
広げたそこには、こう書かれている筈です。
ラッキースケベの神の筆跡で……
『ドキドキはらはら☆いたずら5000連発! YOUはこれを突破できるのか!?』――と。
わなり、うさ耳を振るわせて着ぐるみ女神は叫びました。
「五千って多すぎやしませんですか!?」
つい調子に乗りました。
ちょっと仕掛けを凝り過ぎたので、総数がえらいことになったのはわざとじゃありません。
結果です。ただの結果なのです。
「……もぅ。でもなんだぁ……ラッキーちゃんの悪戯なのですかコレー」
だったら無視するのも悪いですね、と。
こちらの思惑通りです。思わず、ニヤリと笑っちゃいますが。
目の前の異様な光景をラッキースケベの神が仕掛けた友情仕立てのドッキリだと思ったのでしょう。その時点で素通りという選択肢を見失い、兎女神は受けて立つことにしたようです。
それが、友情だと信じて。
実際には罠全体に確かにラッキースケベの神が関わってはいるんですけれど。
全体の総指揮、監督、共に私なんですけどね。
さてさて、兎さんはうまいこと罠にはまってくれるのでしょーか!
次回、ラブコメの神が酷い目に遭います。(確定事項)
ラッキースケベの神の加護
→ ラッキースケベが発生する確率が上昇する。
具体的にいうと平均的な一般男性の日常でちょっとエッチな事故が発動する確率の、百五十倍くらい。※個人差があります
元々ラッキースケベの星の下に生まれてきたエッチな事故との遭遇率高めな人だと、加護も相乗効果を引き起こして一気に一千倍とか超えたりする。ただし事故に巻き込まれる相手は選べない。




