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ここは人類最前線8 ~攫われた勇者様を救え!~  作者: 小林晴幸
班別行動1班! ~ナターシャ姐さんの戦い~
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26.ナターシャ姐さん空を往く ~目に刻め、我が雄姿~

 なんだか先頃データがパーになって以来、モチベーションが上がりません……全体的に、お話しを書く気力が減退気味です。

 特に書きかけだったデータが軒並み消滅した「ここは人類最前線」と「獣人メイちゃん」を書こうと思っても気力が中々……これも一種の夏バテなのでしょうか(違)。

 なんとか、夏が終わる前には調子を取り戻したいものです。






「――かかって来いよ、このボケナス。迂闊なお前が安全意識ってもんを理解するまで、俺が懇切丁寧に嬲ってやるよ」


 そう言って、魔王は指先だけをくいっと曲げてあからさまな挑発を向けた。苛立ちから艶然とした笑みが自然と浮かび、その姿は神ですら見惚れる程に美しい。

 惜しむらくは、(おとこ)臭さの漂う女装姿であることか。

 しかし女装なのに漢臭いとはこれ如何に。

「…………驚いた」

 先程、魔王の姿を見失って強烈な回し蹴りを喰らってしまった陽光の神がぽつりと呟く。

 もう二度とその一挙一動を見逃すまいとするかのように、魔王の全身を端々まで視界に納めて凝視しながら。

 どこか憂いの混じる困惑気味の苦笑で、若い男神は己の背を擦った。

「先程の一撃は、かなり効いた。不意を打たれたとはいえ、それだけではなく本物の威力が籠っていた。――神にすら届く一撃。これ程の実力を持つ下界の民などそうはいない。貴女は……魔境の、魔王の縁者か」

「俺がその魔王御当人様だよ、ばーか」

 特に隠すつもりもなかったのだろう。魔王はあっさりと正体を打ち明ける。

 今の御自分がどのような姿をしているのか、一切気にせずに。

 健全で真っ当な男としては不名誉極りない格好であろうと、恥じることはないと堂々とした面持ちで。

 まさか自分の服装のことを忘れているのではないだろうか。

 大概の男性であれば、醜態としか言いようのない無残な女装姿時には正体を隠したがりそうなものだが。

 ああ、だが、魔境の民は面白いことが好きだ。

 彼の地の住民であればこそ、面白がってむしろ正体を晒すものなのかもしれない。

 魔王(二十二歳・♂)は赤黒いドレスの裾を大胆に(から)げて白いおみ足を披露し、言った。

「その薄ら(とぼ)けた頭によくよく刻みこんでやるよ!」

 そして繰り出されるのは蹴り技の連撃。

 空の上だというのに姿勢の制御に危うげなどなく、むしろ空を飛んでいるからこその自由自在な動きを見せる。ありとあらゆる包囲から、魔王は美男の青年神を足蹴にした。

 それはそれはシュールな光景だった。

 何故、ドレスで敢えて蹴りを攻撃手段に選んだのか。

 ちらちらひらひら翻ったレースの隙間から、覗き見えそうな際どい光景。

 大胆にまくれたところでそこにあるのは男の下着(今日はトランクス/下着まで女物で拘るより、そっちの方が面白いという衣装班の主張による)なのだが、実際に目の前で際どい光景を披露されては気にせずにいるのも難しい。それも相手が(どう見ても男だが)女だと思い込んでいるのであれば尚更に。

 今にもドレスの奥まった場所に秘された、見えてはいけないナニかが見えてしまいそうな魔王の足さばき。

 避けることも出来ずに硬直し、全身に重い蹴りを受けながら。

 陽光の神はしかしそれどころではないと叫んでいた。

「は、はしたないではないかぁぁ!!」

 目は釘付け☆ながらも、見えてしまうと狼狽えておろおろ。

 そんな神の様子に、魔王は微妙な気持ちでテンションが下がった。だだ下がりだった。下落しまくって思わず攻撃も勢いが落ちた。

 露出の激しい地方出身の男としては、見えてしまっても何と言うことはないのだが。ドレス効果がここまで覿面に威力を発揮すると誰が思っただろう? 神はとうとう見ていられないと、両手で顔を覆ってしまっている。そのお耳が赤いのは誰のせい?

 やったね、自由に攻撃し放題だ☆

 相手が無防備無抵抗となったことで、魔王の攻撃がここぞとばかりに苛烈さを増した。

 別に狙っていたわけではない。偶然の副産物だ。

 だけど露骨に隙を見せられて見逃す甘い男ではないのである。

 魔王陛下の妹君と従妹以外への対応は、醤油並にしょっぱいのだ。

 神のボディはあっという間に鞭打ちみたいな痣だらけだ! 全身がみるみる傷ついていき、身に纏った衣はボロボロになっていく。お陰で露出度が六十%増しだが、傷だらけで半裸度がどれだけ増そうとその光景を見て喜ぶようなお客さんは此処にはいなかった。もしも某女神が居合わせていたならば、恐らく垂涎モノだったことだろう。

 それでも陽光の神は、それどころではなかったようだが。

 恥じらい満点に頬を染めて、動揺が口から飛び出る青春。

「み、見えてしまうぞ! 良いのか、見えてしまうぞ! 見てしまう! そうなったら此方は男の責任を取るに(やぶさ)かでないがだが――良いのか!? 貴女への責任を取ってしまっても、良いというのか!」

「血迷ってんじゃねーよ、このすっとこどっこい」

 魔王のグーパンが、動揺のあまり血迷う陽光の神の顔面にめり込んだ。殴ることに何の躊躇いもなかった。

 魔王が身につければただ綺麗なだけの装飾品(ゆびわ)も立派な凶器。特にダイヤモンドが良い働きを見せてくれることだろう。

 陽光の神の一部の隙もない美男子顔に、一筋の赤い線が走る。

「のわぉぅ!? 自分の血なんぞ千年ぶりに見たぞ」

「チッ……鼻も潰れやがらねぇのか。どうなってんだ、てめぇの顔面強度」

「……くっ。どうやら目を瞑っている場合ではなさそうだ。貴女は油断が出来そうにない。将来は尻に敷かれてしまうな」

「何気どりなんだ、てめぇは! 誰も男の責任取れなんざ言ってね―だろうが。むしろ取られて堪るかぁぁああ!!」

 顔面にイイ一撃を喰らってしまったからだろうか?

 それまでは恥じらって頑なに目を瞑っていた男神が、すぅっと目を開く。そこにあるのは驚くほどに真摯な眼差しだ。

 陽光の神は、恐ろしい程に真剣な顔をしていた。

 その形の良い鼻から赤い血がたらり。

 ようやく本気になったか……魔王は神の眼差しに、相手が今までの舐めた態度を捨てたことを知る。これまでのように、やられるがままサンドバック状態を甘んじる気はないだろうと。

「上等だ……少しは歯ごたえがねぇと、噛み殺す気にもなりゃしねえよ」

 バチリッ

 魔王の全身を取り巻いて、鋭く何かの弾ける音が響く。

 三つ四つ、五つ六つ――音は連続し、連なって大きな一つの衝撃を生み出す。

 バチバチと光と音を伴って、魔王の身体は闇の色に光る小さな(いかずち)と、可視化する程に濃密な魔力で覆われた。

「バチッといくぜ……!」

 異質な気配を漂わせながら、魔力は魔王の手足に集中した。

 纏いつく。手足を部分的に守る鎧のように。

 そして、格闘家の使う武器のように。

「……!」

 神の顔色が変わる。

 深刻に、切羽詰まったモノへと。

 ソレ(・・)を喰らえば自分でもただでは済まないと、直観が告げる。

 守りを固めようとしてか、陽光の神の全身を黄金の炎と光が取り巻いた。

 太陽を司る神と、武名を馳せる魔王の勝負。

 一気に見た目だけはそれらしくなってきたようだ。

 何とも絵になる光景だが、それもどれだけ()つことか。

「敵意を持って対されては、こちらも相応の態度を取らねばなるまいな」

「敵意も何も初っ端から喧嘩売ってきたのはてめぇの方だろーが! あれだけのことをしといて挑発なんざしてねぇとは言わせねえ」

 言い置き、魔王が動く。

 それまで魔王の動きに合わせて生々しく蠢いていただけの(ギミック)(蜘蛛)が突如、その先を陽光の神に向けたかと思うと……その先端から、白いモノが噴き出した。

 蜘蛛糸だ。

 制作者である某画伯の技量とこだわりが燦然と光り輝くことに、芸も細かく本物の蜘蛛(の、魔物)の糸である。

 その強靭な糸は登山用ザイルもワイヤーにも勝り、強靭。

 まさかそう来るとは思っていなかったのだろう。

 意表をつかれた陽光の神は咄嗟に避けるが……避けそこなった左半身、特に腕と大腿部を中心に、白く粘つく糸が絡みついた。

 身の自由を奪われたとはいえ、そこは神。地上の蜘蛛(の、魔物)の糸如き、何程の物ではないと引き千切ろうとしたのだが……

「一瞬ってなぁ、結構命取りなんだぜ?」

 その時には、神の眼前に魔王がいた。

 彼我の距離は三十cm未満。全力で至近距離だ。

 互いの鼻と鼻がくっつきそう――そんな近いところで目にした魔王の尊顔に、神の目が見開かれる。何事か言おうと僅かに開かれた口。だがその口は、何事も口に出すことなく即座に閉じられることとなる。


 魔王がお見舞いした、額への一撃。


 頭突きの重い衝撃で。


 意表を突かれてばかりだ。

 陽光の神は困惑しながら、頭突きの痛みに顔をしかめる。

 ここまでの打撃を通すとなると、これはいよいよこの『女性(・・)』はただ者じゃないらしい。

 だが神も、戸惑うばかりでは――やられてばかりでは、ない。

 一瞬だ。音を立てて、蜘蛛の糸は内側から燃え落ちる。

 再び自由を取り戻した手足を、神はくゆらせるように動かした。

 不思議な動きは、炎と光を招いて空中に円を描き出す。

女性(・・)にあまり手荒な真似はしたくなかったが、致し方無し。神が一方的に傷つけられるなどあって良いこととは言えないからな。……よって受けよ、太陽の抱擁を」

 今まで良い様に凹られていたとは思えぬ言い様だ。

 だけど言うだけはあった。

 次の瞬間、神の全身から噴き出した光は、眩過ぎて魔王の視界を白く焼き染める。

 大技の気配がした。

 油断は許されないと、視界を封じられながらも魔王は身構える。

 相手が属性による攻撃を選択する限り、未だ防ぎようはあった。ただし神の本気が相手となれば……防ぐにも避けるにも、また耐えるにもそれ相応の覚悟がいる。

 相手は『陽光の神』――光と炎、そして熱。

 それらを防ぎ得るには……

 考えるより早く、身に染み付いた闘う本能が防衛本能へと切り替わり。

 身を損なうことなく守る為、全身に力を漲らせる。

 しかし魔王の用意が整うよりも、前に。

 身を守る意志で全身をガチガチに固める、前に。

 陽光の神が終わりを告げた。

 ――勝負の終わりを招く、文言を。


「喰らうが良い! これぞ我が力の神髄――神の、根性焼きを!」

「……って根性焼きかよ!!」


 その時、彼の身のこなしはまるで……彼の不条理と戦う戦士(ツッコミ)、人類の希望、某勇者が乗り移ったかのようだった。

 根性焼きなる不可解な技の名を耳にするや否や、魔王の身体は即時対応!とばかり瞬時に動いていた。

 先程よりも割増して、キレのある動きで。

 その叫び声と同時、魔王の膝蹴りが神の顔面……丁度鼻梁の辺りに命中した。むしろめり込んだ。

 それは先程魔王が拳を入れた場所と、寸分違わず同じ場所。

 顔面の中心であり、急所である鼻への重い一撃(二度目)。

 呻き声と共に、勢いよく鼻血を吹き出し……

 

 神は、沈没した。





神様、まだ余裕?

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