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ここは人類最前線8 ~攫われた勇者様を救え!~  作者: 小林晴幸
班別行動A班! ~鬱陶しい男神たち~
27/114

24.突撃! お宅訪問 ~女神への罠(設置準備)~




 やり過ぎたかな、と。

 ほんの少しだけ、ええ、少しだけですが出来栄えに不安を覚えつつ。

 最終的に私達は完成した人形を、画伯たっての希望で新妻エプロンを装着させた状態で鍛冶神様の前に提出しました。

 だって、画伯が「これなら完璧だ……!」とか言うんですよ。

 そんなあられもない姿の嫁人形と対面した、旦那(別居中)の反応はといえば……

 棒立ちの鍛冶神様。その顔面は牛マスクに覆われているので、どんな表情かはわかりません。

 ただ、鍛冶神様の隣にいる酒神様は思いっきりドン引きしているようでした。

 そうですよね……やっぱり、この格好はないですよね。

 人形本体は下着姿デザインなのに、その上にエプロン。

 下着が紐……? え? 布???といった感じなので、正面から見ると裸エプロンとかいう卑猥な最終形態にしか見えません。全力でやらかしちゃった感が全身から滲み出ております。むしろ染み出していそうです。

 これは鍛冶神様もドン引きかな、と。

 私自身が若干引きつつ遠い目をしていたその時。


 鍛冶神様に、動きが。


「お、おお……っ凄い。表情も、肌の色艶質感も自然で違和感がない……化粧も、まるで生きた女人のようだ」

 ……おや?

 これはもしや……まさかの好感触?

 絶対にドン引きされたと思っていたのですが……何かマニア心理に触れるモノがあったのでしょうか。さりげなく色塗り化粧の技術を褒められたヨシュアンさんとサルファが得意げな顔で胸を張っていましたが、私からすると当然の褒め言葉に聞こえたので聞き流しました。何かの反応を返すのは癪ですし。

「これを、儂に……?」

「ええ、ええ。鍛冶神様にお納めいただく為に献上した次第で。どうぞこれでよしなに!」

「むぅ……これ程の物を貰っては、頼みを聞くべきのような気もするが……」

「鍛冶神様ちょっと反応好過ぎませんか?」

「ところで、これはその……見たことのない材質だが」

 そわそわ、毛布に包まったまま堪え切れないと身を揺らす鍛冶神様。

 物作りの神様ですからね。御自分の知らない新素材が気になるのでしょうか。製法は門外不出ですが、「謎の液体X」も出来合いのモノで良ければ御裾分けしても……

「この素材は、そのう……火を付ければ燃えるだろうか?」

 おっと御自分の作品諸共燃やす気ですか。

 私としてはこんな卑猥な色情狂を写し取ったかの如き像は燃やしてくれても一向に構わないのですが、折角の傑作を燃やすと示唆されてヨシュアンさんとサルファの顔が真顔になりました。

 もう譲渡した後なので、文句は言わせませんけど。

「燃えるというか……これは熱にそこまで強くありませんからね。加熱すると溶けますよ。まるで天使に正体バレて悪魔払い仕掛けられた悪霊みたいに、どろっどろに溶けますよ!」

 どろっどろですよ、どろっどろ!

 まるで泥のオバケか何かが沼地でもがいているかの様な、そんな光景を見せつけながら表面からどろどろ溶けていきます。

 別居中の奥さんに色々と物申したいことが溜まっていそうな鍛冶神様も、胸がすっきり鬱憤晴れること間違いなし! そんな酷い光景を拝むことが出来ます。

 そして案の定、鍛冶神様は私の説明に心惹かれておいでのようです。

 私は確かな手応えを感じつつ、思いました。

 もう一押ししてみようか、と。


 なのでご提案してみました。


「鍛冶神様! このお人形に今ならセットで私の薬師としての師匠の師匠が約八十年に作って以来、薬師房の棚に放置されていたっていう邪悪な怪しい惚れ薬もお付けしますよ! それにうちの御先祖様相手に炸裂させて効果のあった超強力麻痺薬も!」

「ちょっと待って下さぁい!? 一体いつの間に効力試したんですか!」

 狼狽しきった声を上げるりっちゃんに、私はちょいっと指で示してみました。

 十五分前に私から薬を嗅がされ、それからずっと床に転がっている御先祖(フラン・アルディーク)様を。

「アレお昼寝してるんじゃなかったんですか!? てっきり退屈して寝ているんだとばかり……」

「実は私の仕業でした」

「平然と罰当たりなことを……!」

「あはははは☆ 流石、リアンカちゃん。先祖を敬おうって気持ちが欠片も見つからないね」

「いえ、一応敬う気持ちはありますよ? 相手は魔境に人間の村を拓いた偉大な御先祖様です。尊敬していない筈がありません。ただ行動に示していないだけです」

 大丈夫、うちの御先祖様は大らかで心の広いナイスガイ☆なので許してくれます。多分。

 許してくれなかったら生贄を捧げて勘弁してもらおうと思います。早く勇者様を救出しないとですね!

「うちの御先祖様に効いたくらいです。これ、絶対にあの鼻持ちならない某女神にも効きますよ。とびっきりです」

「それは凄まじい……!」

 倒れ伏すうちの御先祖様に青褪めた顔を向ける酒神様の横で、私のおススメに鍛冶神様が感嘆の声を上げておいでです。イケる、と私は思いました。ここは他の面子にもご協力いただきたいところですね。

 私は鍛冶神様に見えないところで、ヨシュアンさん達にも「何か提供しろ」と指の動きで伝えました。

 すると、ヨシュアンさんが頷きと共に一歩を踏み出し、

「それじゃあ俺からはこれをお届けするよ! 俺特選☆絶対に抜け出せない緊縛術、部位別百五十の縛り方――!」

「ヨシュアン! 貴方は一体なにをどこから取り出してるんですか―――!!」

 また何か、卑猥な本……いや、冊子? を出してきました。

 それから流れるように、りっちゃんの怒鳴り声と平手の一撃が炸裂しました。あれ、おかしいな……りっちゃんは術師で肉弾戦闘には弱い筈なのに、軍人の筈のヨシュアンさんが張り倒されて痙攣しているんですけど。

 そんな彼らの様子を見て、鍛冶神様がびくっと肩を震わせて縮こまりました。っておぉい!? 逆効果! 逆効果ですよ! 委縮させてどうするんですか!


 ヨシュアンさんが出したブツは、いつもの画伯の芸術(笑)じゃありませんでした。

 描かれているのは肌色一直線の乙女ではなく、縄の絵……。

 なんだなんだと訝しげに見守る私達に、画伯は説明しました。

 曰く、これは人体の縛り方を絵付きで説明した画期的な解説書なのだ、と――著者名を確認したところ、ヨシュアンさんの著作であることに違いはありませんでした。ヨシュアンさんのいかがわしい副業案件かと思いきや、こちらは軍人として培った経験(捕虜捕縛術)の集大成だそうです。軍人としての知識をこういう変なところでバラ撒くのやめようよ、ヨシュアンさん……。お陰でりっちゃんが盛大に勘違いして危うくヨシュアンさんをゴリゴリに絞るところだったじゃないですか。

「なぁに想像したのさ、リーヴィルー」

「……そのニヤニヤ顔を止めなさい。ヨシュアン」

「こーのむっつりさんが☆」

「………………」

「っておあぁ!? ちょ、たんま! たんま、リーヴィル……そのモーニングスターどっから出したぁぁぁああああっ!?」

「画伯! 画伯! ここで刺激するのやめましょう!? 命は惜しくないんですか! 他人様のお宅で刃傷沙汰は迷惑ですよ!」

「大丈夫ですよ、これは刃傷じゃありませんから。刃はついていませんので、血が出る心配はありません。鍛冶神様のお宅を血で汚す心配もなく安心ですね?」

「ちっとも安心できねぇ! 良いか、リーヴィル……打撃武器でも酷くやったら血とか肉とかイロイロ飛び散って結局掃除が面倒なんだからな!」

「うっわぁ……画伯さん、気にするのはそこなんだ」

「にしても、やけに実感が籠ってますね」

「俺、こんなんでも軍人だから。色々と経験豊富なのさ☆」

「それではその経験にも此処で終止符を打って差し上げましょう」

「りっちゃん、ガチで殺す気ですか!」


 最終的にこの騒動のせいで、鍛冶神様に全力で怯えられました。


 なんか下手なことしたらモーニングスターで殺されるって思ったみたいです。

 神様なのに私達如きにそこまで危機感を? と疑問に思いましたが、それも鍛冶神様がさりげなく気にしている方向を見て納得しました。

 あ、御先祖様……

 どうも、最終的に御先祖様がモーニングスターを振り回すかもしれないという恐れに突き動かされていた模様。うちの御先祖様が振りまわすのは、モーニングスターではなく檜の棒ですが。

 一緒に行動していますからね、仲間以外の何物にも見えませんしね。私、子孫で庇護されていますし。

 麻痺薬を盛るような子孫ですが。

 それでも庇護する御先祖様はやっぱり心が広い。大らかさんです。


 色々と勝手に入り込んだ鍛冶神様(ひとさま)宅で暴れたり騒いだりしてしまいましたが。

 最終的に、鍛冶神様は私達のお願いを聞く気になって下さいました。なんでだ。

「なんか、もう早く帰ってほしい……目的を達さないと、出て行ってくれないんだよね?」

 牛の覆面越しで隠れている筈の鍛冶神様の目には、諦念が浮かんでいるような気がしました。

 そう言いつつも、私達が献上した『美の女神像』と麻痺薬と、画伯のお勧め緊縛術を記した冊子はきっちり確保している辺りが何とも言えません。

 視線の片端で、一本だたらとゴーレムが大きな焚き火(キャンプファイヤー)の準備をしているところが見えました。盛大に燃やすんですね? どうぞどうぞ存分に燃やして下さい。ファイヤー。

「それじゃ、物は相談なんですけど……」

 折角、鍛冶神様がその気になって下さったんです。

 私は態度でちょっと遠慮を見せながらも、事情の説明を始めました。

 どうやって勇者様(まおとこ)に悪感情を抱かせずに説明するかが微妙に難しい気もしましたが、今までの女神の所業を思えば特に言い繕わずとも事実をそのままお伝えして問題がない気もしました。

 それにしても勇者様に間男の称号は絶妙に似合いませんね。激しく違和感。

「な……っ美の女神(ハニー)が捕えて新たに連れ込んだ犠牲者(あいじん)が、お前達の友だと!? それでわざわざ天界まで取り戻しに…………なんということだ」

 なんと勇敢な、とか。

 そこまで出来た者を初めて見た、とか。

 鍛冶神様が驚愕と称賛混じりに声を上げます。

 どうでも良いですが、今さりげなく『犠牲者』って言いませんでした?

 勇者様には何故か不思議ととてもしっくりくる表現ですが、犠牲者って……!

 鍛冶神様が奥方のことを実はどう思っているのか、その所業をどう考えているのか……なんだかその辺がうっすら透けて見えるような。

「……わかった。儂が作った枷を外す方法を求めてきたのだな。良かろう」

「じゃあ、助けてくれるんですか? 女神に囚われた哀れな犠牲者(ゆうしゃさま)を……!」

「リャン姉さん、リャン姉さん、本音抑えて。勇者さんが泣いちゃいますよ」

「大丈夫です。本人この場にいないので問題ありません」

「お前達にはコレを渡そう」

 そう言って、鍛冶神様は私達に槌? みたいな物を差し出しました。

 それはあくまで「みたいな物」であって、私の知る槌とは何だか違うんですけど……赤と黄色の二色で、軽快な印象を受けるソレは、まるで子供の玩具のようです。

「これは……?」

 ですが貰える物は有難くいただくに限るので、私はソレを受け取りました。


  → 村娘(リアンカ) は 『鍛冶神の神器(ピコっとしたハンマー)』 を 手に入れた!


 私がしっかりと握るのを見届けてから、鍛冶神様は重々しく頷いて説明を始めました。

「これには儂が作った品に込められた魔法を無効化する力がある。……ハニーの神殿には同居していた頃に儂の作った作品も多く残されておるからな。友を救いに行くのであれば、枷だけでなく儂の魔法そのものを無効化できる物の方が良いだろう」

「鍛冶神様、なんでそんな危険物を女神様の神殿に放置したんですか……案の定、女神用に作った枷を再利用されて被害者激増じゃないですか」

「……突発的に別居を始めて以来、ハニーの神殿に立ち入らせてもらえずにいるからの。儂。私物を回収させてほしいと便りを出しても無視されて……」

 突如、鍛冶神様が足下にわだかまっていた毛布の海に突っ伏しました。

 そのまま肩を震わせながら……おいおいと泣き始めたんですけど!?

「ご、ごめんなさい鍛冶神様! 泣かれるとどうしたら良いかわからないんですけど!? え、酒神様、これどうしたら良いんですか!?」

「……そっとしておいてあげてくれ、娘さん。鍛冶神(ブラザー)も辛いんだよ。嫁に存在そのものをなかったことにされてさ……」

「鍛冶神の旦那、超切ない……リアンカちゃん、ちょっとこれどうにかしてやらねぇ?」

「化粧道具しか持っていない癖によく言えますね、サルファ。人の身で神を助けるなんて荷が重いですよ」

「でも助けてもらって一方的に放置というのも……」

「りっちゃん、でも私達に何をしろと……」


「鍛冶神様に、あの性悪婆を引き渡すとか」


 ぽつりと零したロロイの一言に。

 私達は全員で顔を見合わせました。

「それはつまり捕獲して身動き取れない様に全身の自由を奪った上で、俎板の上の鯉の如く『ご自由にお取り下さい』状態で鍛冶神様に贈呈すると……?」

「リャン姉、俺そこまで言ってない」

「けど間違ってはないよね☆ うっわ、それ賛成! どんなことになるのか考えると、俺なんかちょっと胸がドキドキするよ」

「趣味が悪いですね、ヨシュアン。ですが……あの女神に目にモノを見せるにも、(それほどに嫌っている夫が相手であれば)良い手やもしれません」

「ついでにしっかり世に被害を振り撒かないよう、御亭主の方できっちりと手綱を握っていただきたいものですわ。主様やリャン姉さん、そのご友人に、これ以上のご迷惑がかからないように!」

「手綱を握るって……あの繊細な鍛冶神(ブラザー)に出来るかな」

 これは良い案ですね、と互いにうんうん頷きながら意見を出し合う私達。

 酒神様はそんな私達を、うわぁ……とでも言いたげなドン引き顔で見つつ、御兄弟を案じておられるようですが。

 ……どうやら酒神様は忘れておいでのようですね。

 酒神様曰く、『繊細』な鍛冶神様。

 そんな酒神様が、少なくとも過去に一度。


 既に自分の嫁を戒める為に、手枷を作ったという『事実』を。


 いま現在、女神は自由に野放し状態なので手枷を使ったにしても延々と束縛しておくことは出来なかったようですが。

 少なくとも『素養』はあると思うんですよね。

 勇者様の周辺にお馴染み、『ヤンデレストーカー』の素質が……

 いや、もしかして現状、既に女神の身辺調査やら廃品漁りやらをしている時点で現行犯と化して……深く考えない方が良さそうですね。

 何にしても女神の加護の恩恵で長年ストーカーに悩まされてきた勇者様です。その勇者様を思いっきり苦しめる肉食女神が逆にストーカーの餌食になるのなら、これは意趣返しとしてやはり良い案に思えます。

 復讐すべき被害者(ゆうしゃさま)の意見まだ聞いてませんし、報復の方法も他にあるかもしれないので最終案ではありませんが……検討の必要があります!

「そうだ……今度こそ本当に監禁してしまえば…………」

 なんだか鍛冶神様がぶつぶつ言っていますけど、なんだかあちらも乗り気の様ですね! 何となく期待されている気がしますし、ここはご要望にお応えした方がみんな幸せってものですよね。


 ……え? 女神の幸せ?

 そんなもの最初っから考えていませんが問題ありますか?




次回:あの人があの神様と接触!?

赤黒いドレスを可憐に翻し、極まれ渾身の回し蹴り――!!


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