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ここは人類最前線8 ~攫われた勇者様を救え!~  作者: 小林晴幸
勇者様を助けに村娘と魔王が出動です
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8.関所破り、そのいち




 御先祖様と一緒に、初めての共同作業です。

 ……お煎餅を焼いている内に、気が付いたら太陽がコンニチハ。

 朝がやって来ました!

 いつの間に、夜が明けたんでしたっけ!

「天界って、もしかして時間の経過が速かったり……?」

「いえ、あれだけ焼けば……夜も明けるかと」

 誰に聞かずとも、皆わかっていました。

 ――今日の朝ごはんは、お餅とお煎餅だと。

 途中までは、程々で止めようって思っていた筈なんですが。

 御先祖様が七輪とか持ってくるから!

 いいえ、海苔とか、他にも色々持ってくるから……!

 とりあえず美味しかったです。

「それで御先祖……正直、昨日の内に話しとけよって感じだが俺らは天界不慣れだ。どこに行きゃあ目的が果たせるのかもわかんねえ。だから聞くが、俺達はまず何処に行けば良い? 天界で生活している、あんたの意見が聞きたい」

 後ついでに道案内してほしい。

 まぁちゃんの言葉に、私は内心で付け足しました。

 この天界って場所はなんだか……魔境とは違った意味で、変な力がどこもかしこも満ちていて。

 魔境に歩き慣れているので、変な力に満ち満ちた場所ってそんなに苦手じゃなかったつもりなんですが……魔境とは微妙に感覚や魔力の感触が異なるせいですかね。

 なんだか、触覚を切り落とされた虫さんのような気分、というのでしょうか……今ひとりで放流されたら、なんとなく道に迷うような気がします。いえ、確信しています。

 私は、きっと放置されたら迷子になる……!!

 …………天界にいる間は、常に誰かの袖なり帯なりを掴んでいようと思います。

「ん、まあ俺もお前らを突き放すつもりはねえしな。っつうかそもそも協力する気がなかったらわざわざ迎えになんざ来ない」

「それもそうだがな、俺らは御先祖の『協力』をどこまで頼りにして良いんだ?」

「俺も子孫を無碍にするつもりはねえよ。道案内くらいならしてやるぜ」

「じゃあ……」

「ただし」

「……は?」

 え? ただし?

 何か条件を付ける気ですか、御先祖さm……

子孫(おまえ)らが可愛く「おじいちゃん、お願い❤」っておねだり出来たらな?」

 何を言い出すんでしょうか、我が家の偉大な御先祖様は!

 ニヤリって笑みが微妙に獰猛で格好良いけどなんか怖い!

 え、ここにきてお強請りしろと!?

「よしきた、いけ。リアンカ、せっちゃん」

 まぁちゃんがしゅぴっと御先祖様を指さします。

 まあ確かに、お強請りは得意ですが……

 相手は伝説に残るような偉大なる御先祖様ですよ? 魔境の偉人ですよ? 人間に限って言うなら魔境の第一人者ですよ?

 そんな方を相手にお強請りしろと?

「はいですの! お願いですの、おじじ様! せっちゃんのこと助けて下さいですのー」

「よし、せっちゃん合格!」

 流石です、せっちゃん!

 この子いま、何の躊躇いもなく関わりの限りなく薄い御先祖様を相手に抱きつきましたよ!?

 そのまま御先祖様のお腹にしがみ付いて、上目遣い!

 本当に、流石です。流石はせっちゃんです。

 でもそれって、よく叔父さん……まぁちゃんやせっちゃんのお父さん相手に披露していたお強請りのやり方ですよね!

 甘えるのに一切の躊躇が必要ない父親と同列扱い!

 相変わらず心の防壁薄くないですか、せっちゃん!

 そして次はお前の番だろ、と。

 私に視線が集中しています……えっと、私にもやれと?

 確かにお強請りは得意です。

 特にまぁちゃん相手のお強請りは得意です。

 得意ですが……御先祖様に対しては、遠慮なく振舞う事に抵抗感が。


 しかし、当の御先祖様本人が。

 両手を広げて私を待っています。

 わあ☆ 目が期待でキラキラしてるー……


 仕方がありません。

 私だって女の子です、アレはおじいちゃん。おじいちゃんですよ。

 女の子がおじいちゃんにお強請りするのは……きっとおかしいことじゃありませんから。

 私は覚悟を決めて、御先祖様の胸に飛び込――むと見せかけて、脇から背後へ回り込みました。

 やっぱり真正面から、向かいあっては恥ずかしかったんです!

 私は御先祖様の背中に、軽く跳んで圧し掛かりました。

 御先祖様の身長が高過ぎなくて助かりました! 飛び付き慣れたまぁちゃんよりは背が低いから、難なく肩に取り付くことが出来ます。

 このまま「おじいちゃん」と呼べば私も合格基準に達することが出来るはず!

 私は背後からぐいぐい御先祖様の肩に頬を擦りつけ、本当の祖父にするようにお願いしました。

「おじーぃちゃん♪ 私のお願い聞いて……くれないと一服盛りますよ!」

「く……っおじいちゃん…………いい。凄く、良い」

 何故か噛み締めるように、『おじいちゃん』という言葉を反芻する御先祖様。

 ……爺呼ばわりは、そこまで喜ぶようなモノなのでしょうか。 

 御先祖様は特に若々しいお姿なので、呼ぶ側からは違和感が半端ないのですが。

「というか御先祖様、人間だった頃に実のお孫さんとか曾孫さんからおじいちゃんって呼ばれてたんじゃないんですか?」

「俺はそう呼んでもらいたかったんだがよ……どういう躾を親がしたもんか、孫共は一度も俺のことを「おじいちゃん」とは呼んでくれたことがねーんだ。なんでかいっつも、「フラン様」って呼びやがる。血の繋がった実の孫に名前で様呼びって何かおかしくねえか!?」

「ああ……御先祖様が偉大過ぎたんですね」

 生きている頃から偉業を積んで伝説を作っていたような御先祖様です。

 そんな御先祖様の御威光に、お子さん方が遠慮しちゃったんでしょうね……というか実の親に遠慮とか、真っ当に気遣い出来る人がアルディーク家の先祖にいたんですね。実はそっちの方が吃驚なんですが。

「さて……これでリアンカちゃんとせっちゃんのお強請りもらえた訳だが。あと、一人だな?」

「「えっ」」

 私とまぁちゃんの声が揃い、御先祖様の視線は私とせっちゃんをくっ付けたまま……まぁちゃんに向けられていました。

「さあ来い、バトちゃん!」

「って、俺もかよ!!」

 え、御先祖様、まぁちゃんにもおじいちゃんって呼んでほしいんですか?

 そんな両手を大きく広げちゃって……(せっちゃんは腹にモモンガの如くしがみ付かせたまま)。身長180cmを悠々と超す、そこそこ体格のしっかりした現役魔王陛下に「おじいちゃん!」って抱きついてほしいんですか?

 まぁちゃんの顔をそっと見つめると、なんだか物凄く微妙そうなお顔をしていました。

 そうだよね、まぁちゃんはお強請りする側じゃなくって概ねされる側だもんね……!

 交渉の結果、最終的に一度まぁちゃんが「じぃさん」と呼んだことで渋々納得して下さいました。

「んじゃ人間として生きてた頃の唯一の未練も晴らせたし」

「あはは、御先祖様ってば! さりげなく重い!」

「取敢えずは御案内するとしますかね。まずは何にしても、あの神群の居住区域に行かなきゃ話になんねえ。っつうことであの神々の集落に向かうぞ」

「おー!」

「おー、ですの!」

「実は此処、天界の外縁部でな。天界の一部ではあるが、まだ神々の支配地からすっと領域外なんだよな」

「は?」

「神群それぞれの集落(なわばり)をぐるっと囲う壁があり、更にはそれらの集落全てを囲って天界の端から端までぐるっと壁がある。それぞれの門を突破して向かわねーとな」

「初耳だぞ、おい。まだそんな七面倒臭ぇことがあったのかよ」

「元々は魔王の軍勢からの侵攻対策らしいぜ?」

「ああ、うん……まぁちゃんの御先祖様達の功績だね! これ、まぁちゃんだけは面倒って咎められないんじゃないかな!」

「チッ……」

「ということはつまり、最低で二回は関所破りをしなくてはならない、ということですね」

「腕が鳴るね☆ 鳥魔族の有用性ってヤツを見せる時か、もしかして!」

「空からは越えられねーぞ」

 御先祖様の無情なお言葉に、ヨシュアンさんが真顔になりました。

 考えてみれば、大概の魔族さんは魔法で空を飛んだりします。

 そんな中でも翼のある方々は飛行能力に特化しているものですが。

 その数が一人や二人じゃないのも確かで、魔族対策の壁がそこを見落としている訳が……ありませんね、ええ。

「各神群が持ち回り制で門番やってんだけどな? 大概が『門の神』とかそれに類する奴を派遣してんだよ。そいつらの神としての力が働いて、門以外からの侵入は弾かれちまうのさ」

「では正面突破ですか……陛下がいるので、出来なくもないでしょうが」

「神が手引きすんなら、外縁部の門なら素通りだぞ?」

「それ早く申告して下さい! では、関所破りは一回で済ませられ……」

「俺は魔境関係者ってことで知れてるし、連れが魔族とあっちゃ素直に通してはもらえないかもしれねーがな」

「どっちですか!? 関所破りは一回で良いのか二回すべきなのか、はっきりして下さい」

「あと一時間くらいで、確か外縁部の門番が交代する。その時が狙い目だな」

「交代の隙を突く、と?」

「いや? 次の門番担当二名の片方に、俺の顔が効くんだよ」

 にたぁっと、御先祖様が悪い笑顔を浮かべています!

 どうしよう、この笑顔……見覚えのある誰かにそっくり!

「効く……? 利く、ではなくて?」

 似たような意味ですが、効くと利くでは少し意味合いが異なります。

 効くは効き目があるということ。

 利くは役に立つ機能という意味。

 だけど御先祖様の言葉選びは……何だか、意味有り気です。


 その意味を私達が知ったのは、一時間後のこと。


「う……う、う、うっわぁぁあああああああああああっ!! すまない! すまない! 許してくれぇぇぇぇっ」

 門番の片方が、御先祖様の顔を見るなり全力ダッシュで逃げだしました。

「おうおう、相変わらず足の速いヤツだな……もう背中が見えねえぜ? 千里眼持ちだから、いっつも初動が早ぇんだよな。気配に聡くて」

「檜武人殿……あの、今しがた逃げて行った神に、何を?」

「あ゛? 俺が何かされた方だよ!」

 不機嫌そうに顔をしかめる御先祖様、曰く。

 たった今しがた風になったあの神様は、かつて御先祖様が手塩にかけて大事に大事に育てていた金色の羊さんを勝手に試練の景品にした挙句、勝手に殺して食べて、しかも毛皮を勝手に人間の挑戦者さんに与えてしまった前科があるそうな。

 ……えっと、その神って御先祖様が昨日言っていた、あの?

 御先祖様、その神様にきっちり報復したって言っていませんでしたっけ……ああ、報復したから現在進行形で猛ダッシュが定番化している訳ですね。

 残されたもう一柱の門番さんも、御先祖様のことを見て硬直しています。硬直したまま、だらだらと汗を滝のように流しておいでです。

 同じ群の神様がペアになって門番をしているとしたら、きっと今の脱兎☆神と浅からぬ交流があるのでしょう。

 うん、とばっちりでも来ないかと怖がるのも無理ありません。

 御先祖様は蛇に睨まれた蛙よろしく油を生産中の神様に、しれっと一言、

「通るぜ」

 ……とだけ告げて、本当に咎められることなく門を通ってしまいました。

 連れの私達まで、ご一緒に。

 私達の顔ぶれ……半分以上が魔族さんと魔王家の方なんですけど、門番さん達ってば通しちゃって良いんですか?

 





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