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99.そうして軍神は可哀想なことになった



 軍神様の頭蓋骨が、凄いことになりました。

 本当に、凄いですねー……頭蓋骨って、縊れるんですね? 初めて知りました。

「ああ、情けないこと。背の君の血を引いているとはいえども」

「母上! 俺は彼女を愛しておるのです!」

 頭蓋骨が魅惑のくびれを手にしてしまった恐ろしい状況だというのに、軍神さんは元気です。

 慣れですか? 慣れてるんですか? その頭蓋骨の強引矯正。

 後で治るにしても、あまりにも動じなさすぎじゃりません?

 まるで意に留めることも無く、軍神さんは正座のまま身を乗り出して奥方様に抗議しています。

「黙りなさい。聞きたくもない」

 奥方様はそう言って、そっぽを向いてツーンとしてしまいますけれど。

 でも、ですね?

 愛しているとまで言われては、逆にこちらが気になります。

 だって相手、あの美の女神ですよ?

 それを愛しているだなんて……同じ神様なら、美の女神の素行とか性格とか色々知っているでしょうに。その上で愛しているだなんて、そんなモノ好きがまさか鍛冶神様の他に存在しようとは。どんなモノ好きですか。

 軍神さんに、是非ともその感性についてお尋ねしたい。理解できるとは思えませんけれど。

 私がそう思うのも不思議じゃないですよね? 好奇心そそられますよね?

 そこで、気になる点をモロに聞いてみることにしました。


「美の女神の、どこがそんなに良いんですか?」

「顔」


 即答でした。


 なんとも言い難い沈黙に、みんな揃って包まれました。

 奥方様は冷凍したお魚さんみたいな目をしています。

 私達の微妙な空気を察してか、軍神さんは綺麗に整えられたカイゼル髭を撫でつけながら咳払い。

「もちろん彼女は魅力的な女だ。他にも惹かれる部分は多い」

 でも一番に出てくるのは『顔』なんですね。

「特にあの猫のような奔放さ……自由で気まぐれな彼女は誰にも捕まえきれぬ、さながら蝶のような。そのことがより一層俺の胸を熱くする。共にいる時は、彼女が自らの意思でもって俺の側にいるのだと……」

 云々、かんぬん。

 なんかあれこれ言ってますけど、それでも一番に思い浮かぶのは顔なんですよね?

 それ以外にはなんか振り回されたい願望があるんですねぇ、被虐趣味? という疑惑しか感じ取れませんでしたけど。

 自身の即物的な面をうっかり披露し、しかも美の女神の一番好ましい点は顔だと自白してしまった軍神さん。そんな息子さんに、奥方様は呆れた心情を隠すこともなく。

「前々から考えていたのだが、お前、一度女として生きてみた方が良いやもしれんな」

 ――なんか、言い出しました。

 軍神さんの目が、合わせて生気を失います。

 わあ、見事な死んだ目ー。勇者様みたい。

 奥方様は、どうも息子さんの心を更に折っとくことにした模様です。

 おそらく、軍神さんが美の女神との不倫関係を改める気になるように……否、改めたくならないんなら、強制的に改めさせる心算と見ました!

「はっははははは母上ぇ!?」

「何がおかしい?」

「笑った訳ではなく! 何を言い出されるのか!」

「これはもう、お前の股に余計なモノがついておる限り治らぬ病のような気がするのだ」

 ……と、仰いますのは旦那の去勢経験をお持ちの奥方様。(旦那はその後復活したそうですが)

 なんというか、奥方様が言うと洒落になりませんね! 洒落じゃないんでしょうけれど!

「そんな、ひどっ!?」

「男としての存在、全否定したな……」

「奥方様、旦那が最低で結婚生活幸せとはいえなかったせいで男性嫌悪症になってません?」

 結論:全部主神のせいですね!

 奥方様の発言に男性陣は軒並み蒼褪めて距離を取っていましたが、それも無理はありません。

 だって目がマジだった。

「このままじゃ奥方様の息子さんがムスコを失っちゃう!?」

「サルファ、顔それ引き攣ってんの? それとも笑ってんの? 実はお前、面白がってね?」

 ごりごりの筋肉を持つ神が女体化したら、どうなるの?

 特に知りたくもなかったナニかがお目見えしそうな流れになってきました。

「お前達、不倫男を懲らしめる有効な手段に心当たりはあらぬか?」

「おおっと、ここで意見を求められましたよー? これはえげつない発想募集ってことですよね」

「リアンカ、誰もえげつない発想を、とは」

「でも再犯防止ってことですよね? 要は「もう二度とやらねぇ!」って骨身に染みて思わせるってことですよね」

「それは……そうかもしれないな?」

「よーし、勇者からの容認発言も出たとこでまずは勇者から意見言ってみっか」

「ええっ俺!? 俺も意見を出すのか?」

 この展開は予想もしていなかったんでしょうね。

 勇者様はいきなり名指しされて戸惑いを隠せないまま、それでも素直に考え始めました。

「え、え~と……浮気の罪状を書いた看板を立てて、その隣に吊るす、とか?」

「手ぬるいな。次、手本を見せてやれ。ヨシュアン」

「了解~っと。じゃ、勇者君の案に俺なりの味付けをした感じで……誰もがドン引くすっげぇド変態な格好させて、美の女神の神殿の軒先に吊るす、とか」

「ド変態な格好って例えばどんな」

「え~………………そうだなぁ、網目の全身タイツにビキニで、☆型ニップレスに蜂の尻のギミックと羽つけて、頭っから女性用下着被らせた挙句にパピヨンマスク着用、とか?」

「変態だ! 紛うことなきド変態だ!! 容赦ねえなおい!?」

「それもう自発的に美の女神との関係切るんじゃなくって、相手から切らせにかかってますよね」

「手っ取り早くって良いと思ったんだけど」

「頭から被るのが美女神の下着ならより一層効果的なんじゃね?」

「その結果、軍神は確実に社会的に死ぬけどな……」

 効果的過ぎて、なんとなくもうこれヨシュアンさんの案で良いんじゃないですか?って流れになりかけたんですけれど。でもまぁちゃんはまだ何か考えるような顔を、りっちゃんに向けました。

「ヨシュアンの案が魅力的過ぎるっつっても、たった一つの案だけ聞いて決めるのは早計だよな。リーヴィル、お前だったらどうするよ?」

「私ですか?」

 今度はりっちゃんから案を聞いてみようということですね。

 まぁちゃんに名指しされて、りっちゃんはこてりと首を傾げてみせました。

 ……無垢な仕草に、無邪気さより悪寒を感じたのはどうしてですかね?

「私でしたら、そうですね? 軍神をうら若く美しい乙女の姿に変えた上で喋れないように声を封じ、肌が透ける程に薄い踊り子の衣装を着せて、主神を封じてあるスノードームに叩きこみます。適当な時間に、そうですね……十二時間後くらいに元の姿に戻るように設定しておくと良いでしょう」

「なんかさらっとスラスラ恐ろしいことを言い出したー!」

 りっちゃんの言葉が余程衝撃的だったのか。

 それともその光景を想像してしまったのでしょうか。

 軍神さんが顔を焦燥に満ちたものに変えて、激しい抵抗を示します。

 奥方様に頭を踏まれて、沈静化しましたけど。

「それ軍神さんだけじゃなくって、主神にも威力ある時間差攻撃になりますよね」

「後々がひっでぇことになりそうだ。面白ぇ」

「仮にも軍神、腐っても軍神です。陛下に面倒だと思われる打たれ強さと戦闘力があるのであれば、乙女の姿で主神(ちち)と二人きり、という状況になっても上手く切り抜けて逃げ続けられるでしょう。ギリギリ際どいところまではいくかもしれませんが」

「ほう。背の君と息子、双方一度に懲らしめられて一挙両得ではあるな」

「乙女の姿から元の姿に戻る条件を『時間経過』と『接吻(マウス・トゥ・マウス)』のどちらかの条件を満たすこと、くらいに設定しておけば深刻な事態には発展しないでしょう」

「なる! なってる! 接吻が成立する時点で深刻な事態とは言えないかー!?」

「五月蝿い。黙りや、愚息が」

「ぎゅうっ」

 どうしましょう。

 りっちゃんの案はかなり面白……酷いんですけど、奥方様が乗り気です。

 気に入っちゃったんですね、物凄く。

 他にも案を出せそうな人間は何人かいるんですけど、りっちゃんの案はとてもとても奥方様の琴線に触れちゃった模様です。

「気に入った。いい意趣返しではないか。背の君にはそのくらいせねば、な」

 にっこりと、美しく微笑む奥方様。

 その笑顔には有無を言わせないものがあり……軍神さんの顔が、土気色になりました。


 

 まぁちゃんと奥方様が念入りに軍神さんに呪i……不貞行為を働かなくなるよう、処置を施しまして。

 ヨシュアンさんがスケッチした目を見張るほどの美少女姿に、軍神の姿は変えられました。

 流石は画伯としか言いようがありませんが、本当に流石です。

 ヨシュアンさんが描いた『美少女』は、清楚で可憐ながらも男性の色んな意欲をそそらずにはいられないような、男性の好きそうな美少女でした。しかも作った感がしない、自然な美貌です。

 これまたヨシュアンさんとサルファが見立てた『踊り子衣装』を着せられて、スノードームに吸い込まれていく軍神さん。声を封じられてしまったので、何を言いたいのかはわかりませんでしたが……消えゆく彼の顔は、額縁に入れて『絶望』という題名をつけたくなる程度には悲惨でした。

 うん、自業自得だと思います。

 円満過程で育った私には、不倫行為に平然と手を染める男性に情けなどありません。

 むしろ奥方様に同情しますとも。


「お前たち、色々と済まぬな。世話になった報いは必ず果たそう」

 そして大変満足して下さった奥方様は、快く『オチミズ』の入手を約束してくださいました。今から伝手とコネ総動員で手配して下さるそうです。

 ただ、オチミズは東の神々の秘薬に近い代物だそうで、主神の正妻(※代行)という肩書を持つ奥方様でも手に入れるには時間がかかるとの事。なんか交渉とかあるみたいです。

 だったら空いたその時間で、美の女神を罠に嵌めるか……という話になりました。

「では、これを使うが良い」

 そう言って奥方様が渡してくださったのは、軍神さんの神殿(いえ)の鍵。

 馴染みの情夫の神殿を使えば、美の女神も罠に嵌めやすかろうって?

 

 とても素敵な贈り物だったので、私達は喜んで受け取りました。


 さあ、軍神さんの神殿を乗っ取り占拠にいきますよー!





スノードームの中で繰り広げられた父子の珍事は映像保存され、後日一般公開された。


さて、そろそろ美の女神を〆ようかと思います。

楽し気なことになると良いんですけど!

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