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ここは人類最前線8 ~攫われた勇者様を救え!~  作者: 小林晴幸
勇者様を助けに村娘と魔王が出動です
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7.天界攻略法魔境式

 勇者様がいないと話が区切りなく、果てしなく脱線していく……






 御先祖様、フラン・アルディークに振舞ってもらった羊肉を各々たらふくいただいて。

 閉めにチーズクリームのたっぷり詰まったクレープと、よく冷え固まったヨーグルトのムースまでいただいちゃって。

 何となくまったりしながら、天界から勇者様を奪還するにあたって必要な注意事項=神々との対決について必要な作法だのなんだののお話しを聞くこと暫し。

 何故か神様なのに御先祖様も深くは知らないとのことで、実際に知っている事例を何件か教えてもらっただけなんですけど。

 話を聞いているだけでも、神々の試練が物凄く面倒です。

 化け物が待ち受ける迷宮に身一つで送り込まれたりとか、手足を使わずに五百年も掃除していない年季の入った馬小屋掃除を一晩でするように言われたりとか。

 御先祖様が大事に飼育していた黄金羊を勝手に景品にされた挙句、断りもなく無断で食べられちゃった時には御先祖様もぶちキレて、そんなふざけた試練を出した神様をボコボコにした上で股裂きの刑にしちゃったそうです。

 その一週間後には、神の肉体が不死身なせいで何の労なく復活されちゃったそうですが。

 あ、ちなみにその神様はそれ以来、御先祖様のことを極端に避けて回るようになったそうです。無理もないですけど!

 まあ御先祖様は御先祖様で、羊飼いの職業病が出ちゃったのか恨みがそうさせたのか、三百年くらいはその神様を『羊泥棒』に認定して姿を見る度に追いかけ回したそうですが。

 羊飼いの職務に誇りを持っている御先祖様。そんな御先祖様に羊泥棒だと認識された挙句、もしも捕まった時には……うん、その神様、逃げて正解です。

 といかその逸話、うちの御先祖様が天界で腫れ物扱いされているんじゃないかって疑惑が浮かぶんですけど。御先祖様、無所属だって言ってましたが……それ、もしや浮いてるってことですか?

 なんとなく御先祖様は、神様にとっても「怒らせたら厄介」という認識枠に入れられていそうです。やったあ、私にとっては良い後ろ盾☆……とでも思っておいた方が良いかな?


「しっかし、迂遠だな」


 御先祖様による試練の実例をつらつら教えてもらっている最中に。

 まぁちゃんがうんざりした顔で呟きました。

 手間と面倒、嫌いだもんね。まぁちゃん!

 そんなまぁちゃんが、私でも面倒臭いと思うような試練とか……歓迎する筈もなく。

 今も半眼になって、顔をちょっとしかめています。

「一々相手の言うこと聞いて、それを実行するとかよ。めちゃくちゃ挑戦する側が不利じゃねーか。なんだ? こっちに無茶やらせといて、神ってぇのは高みの見物かよ」

「まあ、神々というモノは傲慢なものですからね。地上の人間よりは自分達の方がより優位で上流の生き物だと思っているのでしょう」

「バトちゃんの言いたいこと、俺はよーくわかるぜ。俺も面倒だし。けどなー……お前ら、あの勇者って小僧を連れ帰りたいんだろ? あいつ、複数の神に加護受けてんじゃん。天界に加護を貰った奴が来ちまうとだなぁ、元々加護自体が神の力の欠片から作られた物なせいか、本来の持ち主(カミ)と繋がっちまうんだよ」

「えっ繋がる、ってどういうことですか。御先祖様!? 勇者様……更に何か厄介な事案があるんですか?」

「まあな。見えねぇ鎖で繋がれたようなもんだ。加護は天界に来れば楔に変わる。それも加護を与えた神の側からしか調整出来ねえし。つまり神々の同意を得ないことには、加護を与えた神がいるのとは別の世界まで引き離すことが出来ねーという……」

「チッ……そういう思い上がった奴等は、驕った面が煎餅みてーに潰れるまで殴ってやりてぇな」

「ぺらぺらだね、まぁちゃん!」

「あに様、せっちゃんはザラメのお煎餅が良いですのー!」

「リーヴィル、至急ザラメ持ってこい!」

「いきなり言わないで下さい!? そんなもの用意していませんよ。そして煎餅の材料もありませんから! 焼く気ですか、今、ここで!?」

「ザラメだったら此処にあるぞー。ザラメだけ、な」

「何故……どうして都合よくお持ちなのですか、檜武人殿!?」

「何故かって? それは……ザラメが其処にあるからさ!」

「答えになっていませんね!?」

「わあ、ピンク色のザラメですの! 可愛らしいですのー!」

「苺の果汁染み込ませてあっからな。ほんのり甘酸っぱいぜ?」

「本当だ☆ すっごいピンクーぃ❤」

「……ヨシュアンが言うと何故か卑猥に聞こえますね」

「やっだリーヴィルってば過剰反応! むっつり過ぎて俺困っちゃう!」

「私の方がより貴方の脳に困ってますよ……! いっそ貴方の頭の方をよりピンク色に染め上げて差し上げましょうか? 物理的に」

「ヤダ止めて! ごめん、俺が悪かった。っつーか、その手に持ってる凶悪なのはなにかな!?」

「これですか? これは……武器です」

「それは見ればわかるけどさ。モーニングスターの亜種かなんか?」

乳切木(ちぎりき)、あるいは契木というらしいですよ。親戚から借りてきました」

「なにその素敵な名前。やべ、なんか俄然興味が湧いてきた! ちょっとリーヴィル、そこで立って構えてみて!」

「ちょっとお待ちなさい。また私をモデルに何か書こうとしていませんか!?」

「デッサンだけ、デッサンだけで良いから! 顔はちゃんと別人に変えて書くから!」

「顔だけ変えても意味ありませんからね!? 衣装や髪型が私と同じであれば同一視されるかもしれないじゃないですか!」

 わあ、大変。

 りっちゃんが大変。

 いつもは頼まずともツッコミを入れてくれる勇者様がいたけれど。

 その勇者様が今は不在ですからね!

 ここ最近、勇者様にツッコミ任せっきりで肩の荷下ろして楽をしていたりっちゃんが、一人だけじゃツッコミ回しきれずに額を押さえています。頭痛かな、りっちゃん。良い薬があるよ、りっちゃん!

 とりあえず頭痛に効く薬と神経に効く薬、あるいは永遠に悩みを忘れられる薬……どれを処方するべきかな。

 私が首を傾げながら鞄を漁っている間にも、お煎餅を焼こうとするまぁちゃん達の試行錯誤が続きます。

 御先祖様の用意した、まだアツアツの鉄板。

 そこにザラメを投入しようとして……

「……って、米がねーよ!!」

「やっと気付いたんですか、陛下!」

「リーヴィル、米! もち米でも良い! もしくは上新粉とか……」

「ありませんよ! ありませんからね!? そんな都合良く……」

「上新粉ならあるぞー。あと、うるち米」

「でかした御先祖!!」

「だからなんで都合よくお持ちなのですか!?」

「物の用意が良いねぇ、檜のにーさん★ どんな事態を想定して持ち歩いてんのか謎だけど(笑)」

 ……どうやら、せっちゃんご希望のザラメお煎餅は時間を置かずに私達の前に並んでくれちゃいそうです。

 お煎餅って一から作るとなると、普通は数日かかるもんですが。

 …………でもこの面子ですからねー。

 漲る魔力で無茶を通して、数日くらいの時間はすっ飛ばしそうです。

「待ってな、せっちゃん! 今、美味い煎餅作っから。リーヴィルが!」

「わぁい、ですのー! せっちゃん、楽しみですの!」

「ってリーヴィルが作るの!?」

「まったく、仕方ありませんね……少々お時間をいただきますよ」

「そして何の抗議もなく作業を始めるという……馴らされてんね、リーヴィルってば!」

「あれ、まぁの旦那は何してんの?」

「俺か? 俺は……煎餅に塗る用のタレでも作るか。あと調整くらいはしてやるよ。ああ、そうだヨシュアン、お前が焼け。火属性強ぇんだから火加減見んの得意だろ」

「俺にも取り分もらえるなら良いですけどー」

 そうして、暫し。

 食事を終えた筈の私達は、それから無言で共同作業に入りました。

 お煎餅を作る、という共同作業に。

 実際に挑戦でもしてみない限り実感は出来ませんが、お煎餅って作るのにとっても手間がかかります。

 何しろ捏ねたり蒸したりついたり数日は天日干しにしたり……

 それを面倒と思ってしまえば作れません。

 だけどこの場では、誰も否を唱えることなく身を入れて、黙々と作業を続ける私達。

 御先祖様と私が米粉(まぁちゃんが粉砕した)や上新粉を捏ねるところから蒸すところまで。

 蒸し上がった生地をついたり、水に晒したり、練ったり、りっちゃんが基礎を作り。

 そして普通は数日を要する天日干しを、光属性の竜であるリリフが無理やり短縮させるという……

 生地に手を加えて、最終調整を担当するまぁちゃん。

 まぁちゃんをお手伝いしながら、鼻歌を歌い始めるせっちゃん。

 手間のかかる工程のことごとくを、魔法という名の素敵なズルで極限まで縮めていきます。

「呼吸を止めて三日間♪ あなた死にそうな顔したから……」

「ははは、せっちゃーん? それ、何の歌だ……?」

「えっとー……うーんと? 忘れちゃいましたの!」

 用意の整った生地を鉄板で焼くのはヨシュアンさんです。

 細かいところまで目の行き届く凝り性ぶりが良い方に作用したらしく、今は鷹の様に鋭い職人の目で加熱されていく様子を観察しています。

 サルファは真剣な顔つきで鉄板と向かい合うヨシュアンさんの正面に位置し、焼き色を付ける為のタレを塗ったりといった補助に回っています。

 そして焼き上がる端から、ロロイが粗熱を取る為に用意した網の上に並べたり……

 ……あれ? そういえば私達、なんでお煎餅とか作ってるんでしょう?

「ええっと、それでなんでしたっけ?」

「……一方的に試練を与えるだけで自分達は労しない、高みの見物気どりな神々が気に入らない、と仰っていたところですよ。陛下が」

「ああ、そういやそうだったな」

「煎餅に夢中になって忘れてたでしょ、まぁの旦那ってば☆」

「……なんかお前に言われっと、無性に腹立つな?」

「俺の扱いすっごい理不尽!」

 サルファの扱いが悪いのはいつものことですね、ええ。

 いじけた様子で手に持った刷毛を弄っている姿に、誰も気遣いの声をかけません。これもやっぱりいつものことだと思います。

「まあ良い。それでなんだ? 思ったんだけどよ」

 さらっとサルファのことを流して、話を続けるまぁちゃん。

 その手元は私が提供した紫蘇を刻んで梅干しと和えている真っ最中。

 手を止めないままに、生産性のある魔王陛下は言いました。


「しち面倒臭ぇ試練とかわざわざ馬鹿正直に受けずとも、試練を出される前に問答無用で倒しちまえば良くねーか?」


 まぁちゃんの言葉が、余すことなく私達の脳に浸透すると同時に。

 この場の魔族さんと真竜族の二人……つまり魔境の誇る戦闘民族(のうきん)さん達は同時に、ぽんと軽く拳を自分の掌に打ちつけました。せっちゃん以外。

 あ、ちなみにせっちゃんは粗熱の取れて完成した煎餅一号(苺ザラメ)を両手で握ってぱりぱりと食している真っ最中です。

「文句のある奴ぁ、拳で黙らせる。それこそ魔境流だろ」

 つまり試練ではなく、説得(物理)で無理やり要求を通す、と。

 それはさぞかし……高度な言語能力に基づく説得でしょうね。肉体言語的な。

「変わってねーなあ、魔境! バトちゃんも先祖に良く似てんぜ」

「あ? それ、てめぇのことかよ。御先祖」

「俺じゃねーよ。魔王家の方」

「昔の魔王と似てるってか? 当然だろ、だって魔境の魔王だぜ?」

「そりゃそうだ」

 けらけらと笑う、御先祖様。

 その笑顔はとっても楽しそうです。

 でもどことなく懐かしそうな顔をしているので、過去に魔境で生きた日々を思い出しているのかもしれません。

 それはさぞかし……充実した日々だったろうなぁと思うのです。

 だって御先祖様はハテノ村を一から作り上げた人ですよ?

 それはもう、充実していて当然じゃないですかね。

 御先祖様も生きていた当時、魔王を相手に拳で要求(※ハテノ村の建設)を強引に通した類の人です。

 なので、まぁちゃんの言葉が気に入ったのでしょう。

「良いんじゃねーの? それでこそ、魔境! 俺も積極的に手伝ってやるよ」

「まあ、武力で制覇するっつっても、幸運の女神だけは素直に試練受けねーとなんねえだろうが。幸運の女神に愛想尽かされたら、勇者が真剣に死んじまいそうな気ぃするしな」

「あの女神はどっちかっつうと無害だ。それは良いだろ。けど他に厄介な神がいるぞ? それをどう制圧していくか……お前らのやるところ、是非とも見せてもらいたいもんだぜ」

 にぃっと企む悪童みたいな笑みを浮かべて。

 御先祖様は、懐から新たなうるち米(追加分)を取り出しました。

 ……まだお煎餅作り足すんですか?


 求める望みがあれば拳で以て奪い取り、譲れない信念があれば武力で以て貫き通す。

 それが魔境の覇者種族、魔族さん達の基本理念。


 

 

 

 あれ? なんでリアンカちゃん達、お煎餅作ってるんだろ……?

 ↑予定になかった行動(いつものこと)


 ちなみに小林は本格的なお煎餅作りとか挑戦したことすらありません。

 作中の工程はネットで調べたものですが、誤りがあったら済みません……だって、まぁちゃんが勝手に作り始めたんだもの。


2/4 せっちゃんの歌っている曲に注意を受けたので変更しました!

 中高生時代に友人が歌っていた替え歌ですが……誰が作った替え歌か思い出せない…………

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