第6話 対価としての伝説
「おい、三人とも起きろ!」
朝になり牢屋の番人が三人を起こした。
「ハルト君、ニッピ君、ワシの翼で気持ちよく寝ているところ悪いのじゃけど、そろそろ起きてくれ」
ハルトとニッピは長老の翼でとても気持ちよさそうに添い寝していた。
「あわわわ、すみません、すぐ起きます!」
ハルトはあわてて飛び起きた。長老の翼はまるで、天使の翼のようでとても心地いいので無理はない。
「…う~ん、長老の翼は気持ちいいよぉ 、、、」
ニッピはまだ気持ち良さそうに翼に寄り添っていた。
「ニッピ、起きて、朝だよ!」
「あわわ、ハルトおはよう」
ニッピも実際に飛び起きて、ハルトに挨拶をした。
「妖精の二人はこの小瓶が満たされるように、鱗粉を入れてくれ。そこの男は“勇者”だそうだな?お前は妖精女王がお呼びだ」
なぜかハルトが勇者であることを牢屋の番人が知っている、しかも女王様からのご指名だ。これは、本当に妖精の剣の抜刀をすることになるのか。
牢屋の番人はニッピと長老に小さな小瓶を渡した。
ニッピは羽をはばたかせ、キラキラした鱗粉を集めて小瓶に注ぎ満たした。
長老も翼の羽と羽の間にあるキラキラを指でなぞり少しづつ小瓶に注いでいった。
妖精の鱗粉で満たされた小瓶は光輝き、とても綺麗だった。牢屋の番人は小瓶を受け取り、腰巻きのポケットに入れた。
「よし、それでは、勇者の者よ、お前は俺についてこい。妖精は帰ってよし」
「オイラも着いていってはダメなの?」
「駄目だ、女王様にはそいつだけを、連れて来るように言われている」
ここからは一人で行くことになるらしい。
「僕は大丈夫だから、ニッピは長老と一緒に、先にここから出ておいてくれ。僕が無事出られたら、噴水のところで待っているから」
「わかったよハルト。オイラたちはハルトを信じているから」
「ハルト君、君なら必ず試練を乗り越えられる。大事なのは君の“こころ”だ。悪いことにはならない」
ニッピと長老は後ろに控えていた牢屋の番人に誘導され、先に地上に出たようだ。
「では、俺たちも妖精女王のところへ行こう」
ハルトは牢屋の番人につれられ地上に出た。
すると、巨人の衛兵が3人ほど立っており、彼らが僕を女王のところまでつれていくようだ。
「誘導ご苦労様。ここからは私たちが連れていく。勇者よ、昨日は手荒なことをしてすまなかったな、今から女王のところに連れていく。女王が話をしたいそうだ」
ハルトはてっきり、妖精の剣の抜刀を命じられると思ったが、女王様とお話しをする。たったそれだけか?
「では、いくぞ、勇者よ。」
巨人の衛兵に連れられ、城の中庭を通り、一番高い塔のあるとても大きな門から建て物のなかに入る。
レッドカーペットが敷いてあり、そのまま直進すると、大広間にでた。カーペットの先には玉座があり、女王であろう美しい妖精が鎮座していた。ここが女王の間のようだ。左右には妖精が一列に並んでいる。
「妖精女王様!こちらが勇者である高峰ハルトです!女王の間に連れて参りました!」
巨人の衛兵は大広間に響き渡るほどに大きな声で女王への謁見をはじめた。
よくみると、女王の手には衛兵に没収された“募集要項”が握られている。
「そなたが伝説の勇者と同じ素質を持つ者か、この紙を勝手に読ませてもらった。そなたがただのにんじんではないと分かった以上、勇者は伝説を対価として支払ってもらう。では、妖精の国の伝統、妖精の剣を抜刀してもらおう」
やっぱりか、長老の言う通り妖精の剣を抜刀することになるらしい。
「では妖精大臣よ、この国の宝、妖精の剣を勇者の前へ。」
妖精の剣はクッションの上にのせてあり、ボールペンほどの大きさしかなかった。
「この妖精の剣はとても小さく頼りのないようにみえるが、オリハルコン製で100年の歳月を要しつくられた、神剣。勇者であるなら抜けるであろう。わらわの眼前で抜いてみよ!」
「はい、わかりました。」
やるしかない、ここで抜けなければどうにもならない。
ハルトは目の前の小さな妖精の剣を手に取り、両手の指でつまんだ。
おもいっきり引っ張ってみるが、びくともしないほどに硬い、抜けない。
「どうした、勇者よ、そなたが勇者であるならば、神器である妖精の剣を抜くことは容易いであろう。なにゆえにそこまで労する」
とにかく力一杯こめて剣を抜こうとするが、抜けやしない。
「そこまでか、、、もうよい、そなたが、また我が子を泣かし冥府の門を開かぬよう、牢屋に戻るがいい。刑は追々通告する」
冗談じゃない、このままだと面接を受けられない。
「そんなに子供が危険な存在なのにどうしてほっといているんだ!本当に大切ならもっと大事にしてやれよ!」
ハルトは妖精の女王に啖呵を切った。
「それに、そっちからその紙を奪って来たんじゃないか!」
積もり積もった鬱憤を妖精女王にぶつけると、妖精女王は頷いた。
「確かに、そなたの言い分には一理ある。そなたこの紙によると、もとは小説家らしいな。ではそなたの文章力を見込み、刑の代わりにわらわの5人の息子の神話を書いてもらいたい。それで今回のことは無かったことにしてやろう」
「わかりました。ですが、なぜ子供たちの神話を書くのですか?」
「知っての通り、わらわの子供は泣くと、冥府の門を開きおる。開いてしまえば、冥界の幽鬼に亡者がぞろぞろと現世に現れ、現世が混沌と化す。一度、開けば“大命”で錠をせん限り閉じることはない。わらわの旦那の前国王も開いた門を閉じるのに命を落とした。わらわは子供たちに強くなって欲しいのじゃ、そのために神話を書いてくれ、頼むこの通りじゃ」
妖精女王は頭をさげた、その姿は凛々しくも美しく、ハルトは息をのみこみ、見とれてしまっているようだ。
「頭をあげてください、その執筆わたしが請け負いましょう」