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異世界連邦の売れっ子作家  作者: 東雲青橙
妖精の街 ピクシーランド
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第5話 牢屋の老妖精

 ニッピとハルトが、乗せられたドリアンの馬車はとても窮屈だった。おまけに強烈な臭いがする。


「ハルト、まさかオイラたちが連行されちゃうなんてね。トホホ」


 ニッピはこれが、悪いことをした罪人の乗る馬車だと知っている口振りだった。


「どうして、こんなことになっちゃったんだ?ニッピはピクシーランドの住人だろ?」


「オイラたちの国では子供の頃から、災いがおこるから“妖精の女王の5人の子供”は泣かせちゃいけないって教わるんだ。だけど、あのツギハすギがそうだったなんて」


 トホホ、ハルトはとんだ貧乏くじを引いた気分だった。異世界に来て早々、災いを巻き起こすとは。


 ドリアンの馬車は表から開けられ、巨人が二人を外に勢いよく放り出した。


「いてて、おしりがいたい」


 大きなお城がそこにはあった。二人はお縄になり、巨人の言う通り城の裏から地下に潜って、鉄の牢屋に入れられた。


「大人しくしていたら、悪いようにはしない。だが災難だったな、だけど、あのままだと王子は“冥府の門”を開きかねん」


 あのツギハギが本当に女王の子供らしい。巨人の衛兵は後ろから他の衛兵に呼ばれどこかにいった。


 牢屋の中に他にも王子を泣かせてここに連れてこられた、妖精がいた。


「君たちもあのツギハギを泣かせてここに連れてこられたのかい?」


 髭をはやし、杖をついた、年配の妖精がこちらに話かけた。


「長老じゃないか!どうしてこんなところにいるの?オイラたち長老に会いに行くところだったんだ!」


「ああ、王子に勉強を教えてる最中に難しくて泣かせてしまったらしい。泣かれる度に牢屋に入れられては、年寄りの身にこたえるわい」


 どうやら、この老妖精がニッピの言っていた長老らしい。


「オイラたちここに来るの初めてだから、どうやったらでられるの?」


 長老は朗らかな表情だった。この調子なら、エライ目には会わなくて済みそうだ。


「心配せんでもいいぞ、一日ここにいて、明日の朝、牢番に妖精の鱗粉を渡せば出られるぞ」


「なんだ、そんなことでいいんだ。それならオイラ得意だよ。ハルトの分もオイラがだしてあげる」


「それはならん、妖精には妖精の、にんじんにはにんじんの対価がある。にんじんの場合は爪じゃな」


 爪か、たまでも抜かれるのかと思ったけれど、爪は爪で恐ろしそうだ。


「明日の朝、牢番が爪切りを持ってくるから、十の指の爪の先を切って渡せばいい。鱗粉も爪も魔法の薬の材料に使われるだけだ」


 ハルトはホッとしたようだ。ただの爪切りをするだけのようだ。そういえば、長老にルーン文字を解読してもらうためにピクシーランドに来たんだった。


「長老さん、僕は勇者であるらしく、異世界連邦で面接を受けるため、あなたに募集要項のルーン文字を読んでもらおうとここに来ました。紙はさっきの衛兵に奪われたけど、よろしければ、この世界のこと、勇者のことを教えてください」


 長老は目を見開いた。


「君が勇者なのかい、驚いた。だとしたら君は爪を渡すだけではここから出られない。勇者には勇者の対価、そう伝説を対価にしないと」


「じゃあ、ハルトはただではすまないのかい!?」


 おいおい、ニッピ、そんな大袈裟な。


 武勇伝か何かを聞かせればいいのか?それならば作家のときに書いた小説が今は神様に好評です!とかでいいのか?


「とりあえず、君の問いに答えよう」


 老妖精は地べたに腰をおろした。


「今から600年前にセカンドラグナロクという、神と悪魔と人との終末戦争が勃発した。生物は大勢滅び、そのとき現れたのが伝説の勇者エルダ。彼女の槍は天を貫き、大地を揺らし、神をも恐れぬその勇気で世界に平和をもたらした。彼女の持つ槍ブリュンヒルデは大地に根づき神樹ユグドラシルに成長する」


 聞くとすごい勇者じゃないか


「彼女も僕と同じで、大昔からこの世界に来たのですか?」


「そうじゃ、彼女にしかブリュンヒルデは扱えんかった。神器は勇者と神しか扱えん。長くこの世界におる人は勇者になるゆえに」


 なるほど、そうなると、僕は神器を扱えるわけでそれが勇者の特権なのか。


「勇者エルダがユグドラシルの根元に創設したのが、君のいう異世界連邦じゃ」


「ハルトすごいね!神器なんていう、とんでもないものを使えるなんて!」


「しかし、伝説を対価にするなんてどうすればいいんですか?」


 少し間が空いた。長老は何かを考えているようだった。


「正直、わしは“勇者の対価として伝説”について何をすればいいか知らぬ。だけど、伝説となると恐らく課されるのは“妖精の剣の抜刀”を命じられるだろう」


「“妖精の剣の抜刀”ですか?」


「そうじゃ、妖精の国が保有する神器じゃ。長らく勇者と称するものを判断するのに、使われたものじゃがにんじんで抜いたものはおらぬ」


「つまり、その剣を抜くことができれば勇者と認められ、伝説になるんですね」


「その通り」


 そんな誰にも抜けない剣なんて僕に抜けるのか。


「わかりました。いろいろと教えてくださりありがとうございます」


 ハルトは抜けないときどうなるのか?という質問はあえて聞かないことにした。


「とりあえず、明日の朝までゆっくりしなさい、わしはもう寝る」


 長老は翼で体をくるみ寝てしまった。


「ハルト、オイラたちはどうする」


 ハルトはためしに牢屋のドアを押したり引っ張ったりしてみたが頑丈だった。


「とりあえず、扉は頑丈だし明日、大人しく妖精の剣とやらを抜きに行こう」


「オイラももう寝るね」


 ニッピも寝てしまうことだし、ハルトも朝まで眠ることにした。それにしても長老の翼はフワフワして気持ち良さそうだった。

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