第4話 妖精のイタズラ
荷馬車には何やら見知らぬ野菜が積まれていた。
「ありがとうございます。歩きっぱなしで、ちょうど疲れていたところで、助かります」
「礼には及ばんよ、お主らはトロルイモの収穫帰りのついでじゃよ。しかし、にんじんとは珍しいの。観光かい?」
「ハルトは勇者なんだ!」
初めて会う相手に自分が勇者だと告げられるのに恥ずかしいものがある。
「おんやまぁ、おまんさんが伝説の勇者様かい。だけどワシの記憶じゃあ勇者様は女性だと聞いとるが、お主どうみても男じゃの」
「もしかしてハルトは女なんじゃない?!だってイケメンスライムに熱烈に口説かれてたし」
ニッピは口に手をあてて、にやけながらハルトをからかった。
「やめろよニッピ、女なわけないだろ」
『照れ屋さんだね、ハニー』
「もう、お前は喋るなよ!」
「ふぉふぉふぉ、ハルト君のことをうちのイケメン君はとても気に入っているようだね。」
イケメンスライムはどうだっていいとして、どうやら自分以外にもコールドスリープでこの異世界に来た勇者がいて、女性で、しかも伝説級の勇者様らしい。
『ハニー、君こそが真の女神さ、どうしようもないほどに愛している。』
「頼むから、もうやめてくれーっ!」
そんなイケメンスライムの激しいほどの求愛は、ピクシーランドの入口の外観が見えてくるまで続いたので、ハルトはもれなくトラウマになりました。
「ついたぞい、ではワシは向こうの税関で、荷馬車のチェックがあるから、君たちは先にこの正門から入っていきなさい。」
「おじさんありがとう、オイラ凄く楽しかったよ!またね。ムキムキくんもバイバイ!」
「ほっほっほ、二人とも達者でな」
『ムキムキの同志よ、必ず鍛練を怠るな、明日の自分のために!』
『ハニー、必ずまたどこかで会おう、僕は絶対に君のことは忘れない、そのときまで君を愛しつづける。』
なんだか、チャラチャラしたイケメンだったけど、もう会えないとなると、嬉しさ半分以上、悲しさ小さじ一杯ぶんくらい感じてしまう。
「イケメン、僕なんかじゃなくちゃんと可愛い子をみつけてアタックしろよ、もちろんスライムの相手にだぞ。」
荷馬車は反対の道へ進み、僕らは関の正門から街に入ることなった。
「ここまで乗せてくれるなんて、いいまじんだったね。」
「ああ、おじいさんの方は親切だったけど、もうあのイケメンはこりごりだ、結局最後までナンパをやめなかった。」
正門から入ろうとすると、ハルトの1.5倍ほどの大きさの巨人2体が門番として立っていた。
「おい、そこのにんじん、ピクシーランドのものじゃないな。この街に何用だ?」
門番は疑り深いようで、 人であるハルトを不振に思い、入国審査をかけた。
ここで“大昔から来た勇者です!”と答えても余計に不振がられるかもしれない。
正直にユグドラで面接の募集要項にあるルーン文字を解読のため立ちよったことを伝える。
「ユグドラにある異世界連邦で面接を受けるために、このルーン文字を妖精の長老に解ど、、、」
バサッ、持っていた募集要項は茶色いツギハギの小さな妖精が奪い、ピクシーランドの街中へと走り去ってしまった。
「おい!?その紙をかえせーッ!!」
追いかけようと、ピクシーランドに入ろうとするが、巨人の門番が持っている槍を交差してハルトを通せんぼする。
「おい、にんじんよ、ピクシーランドに入りたくば合言葉を捧げよ」
「合言葉?そんなの知らな、、」
「ピクシーランドは愉快で楽しい夢の国!!」
隣でニッピが代わりに合言葉を叫ぶと、門番は槍の通せんぼを解き、道を開けた。
「ピクシーランドへようこそ!ここは妖精たちの住む夢の国!」
揚々と二人の巨人は片手を広げて出迎えた。
「はやくあの妖精を追いかけないと見失っちゃうよっ」
「そうだな、ありがとさ、門番の巨人」
ツギハギの妖精を見失ったが、黄金色のキラキラとした粉を振り撒きながら走りさったのでその跡を追いかけることにする。
ピクシーランドはそこらかしこが、キラキラ煌めき幻想的で美しかった。
妖精が観光客をガイドしたり
ブリキのオモチャがジャグリングしていたり
くまさんが風船を配っていたり
街に入る前とまるで別世界、門番の言う通りここは夢の国のようだ。
キラキラをおいかけると茶色いツギハギの妖精が噴水の側で座りながら、先ほど奪い去った募集要項をじっくり読んでいた。ハルトはそれをとりあげた。
「お~い、なにするんだ!それはボクのもんだぞ、返せ~」
「なにいってるんだ、これは僕の募集要項で僕の名前まで書いている。」
「それでも、それはボクのもんなんだぞ~!ヴヴェェェェーーン!!」
「あーあ、泣かせちゃった。」
ツギハギが泣き出すと、あたりの雰囲気が陰鬱で冷たくなった。寂しい、、、そんな感情が心のなかで押し寄せてしかたない、悲しい。
「あいつらを取り押さえろ衛兵!!」
巨人の衛兵がぞろぞろハルトとニッピを囲いだし、瞬く間に募集要項は奪われた。ハルトとニッピは衛兵に捕まり、ドリアンの馬車に詰め込まれてしまった。馬車のなかは信じられないほど臭い。
「オイラたちは無実なの!」
ピクシーランドに入ったそうそうドリアンに詰め込まれるとは、情けないにも程があるしょうが。