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異世界連邦の売れっ子作家  作者: 東雲青橙
エルフの街 リザ=トワイライト
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第23話 珍獣にご用心

 ピクシーランドの夕焼けは時が止まった世界に居るようだ。この世界がどこまでも橙色に染まっていく。この世界で初めてできた友達は僕たちの門出を祝ってくれた。妖精王子たちは五色のカーテンを空に浮かべた。僕は長老からもらったペンで空に彼らの似顔絵を描いた。喜んでくれるといいな。


「いいなあ、オイラにも描いてくれよ」


 ニッピがうらやましく思ってくれたから、これはこれで、良しとしよう。


「行ってらっしゃい、仲間たち! ピクシーランドは愉快で楽しい夢の国!」


「じゃあな、二人とも、またな」


 巨人たちに手を振って、二人は大ぶりで振り返してくれる。この街から来た道と反対の道を進む。大樹に向かって進んでいるが、立ち続けるその樹は果てしなく大きいらしく、距離は結構あるらしい。


 まず向かうはリバイバルマウンテン、恐ろしい閻魔のいる地獄だ。ニッピが案内してくれるそうだが、僕にはその道のりが全く見当がつかない。


「案内してくれるんだね、だけど今にも噴火しそうな火山なんて見当たらないし、結構ここから遠いんじゃない?」


「ここからは見えはしないよ、だって山は山でも、海底火山だから」


 海の真下に山があることは、理科の授業で習ったけれど、そこに行く方法なんて習っちゃいない。


「まあ、オイラに任せてよ、だけど任せてばかりじゃ、物語の旅路は退屈になっちゃうよ、この地図をあげるから自力でこの目印の街まで競争だよ、あと早くしないといつまで経ってもつくことはできないよ、ハルトそれじゃあね!」


 ニッピは飛んでいった。「ちょっ・・・」あれ、もう姿が見えない。


 まさか、説明もなしに、地図だけ置いて、いきなりおいていくなんて。ニッピってそこまでいい加減な妖精とは思わなかった。


 ハルトは異世界でひとりぼっちになってしまった。


 これでも、僕は大の“大人”というやつなんで、全く怖いという事なんてないわけなので、うん、本当に。ただ、少し平地の多い、田舎町に来たと思えば。通りすがりのどっからどう見ても普通の山羊とか羊とかが、前を横切る風景とかも、微笑ましい限りじゃないか。


 その微笑ましい山羊は首をキリンか!というぐらい伸び縮みさせながら闊歩する。


 羊は毛で隠れて見えなかったが、足が十本に目が八つ。完全に奴らの躰は“化け物のそれ”だった。


「うん、訂正、訂正。この世界、控えめに言ってやばい」


 山羊か羊のような化け物はハルトの目の前を通り過ぎようとはせず、ちょうど道の真ん中で停止した。


「ワレ?」彼らと目が合った。確かに、ワレって言った。


「あ、お疲れ様でござあますぅ」ハルトは笑顔で咄嗟に挨拶をした。考えれる限りの丁寧な挨拶のつもりだが、まるで間抜けなことに気づいていない。


「ワレエーー!! 我々ハ悪エ悪、笑エタナ、馬鹿ニシタナ、頭割ッテヤル!!」


 ハルトの中途半端な挨拶のせいで、ワレワレ喋るビックリ動物を怒らせてしまったらしい。


「自分で悪って言う悪はお前ぐらいだよ!」


 ビックリ動物の山羊は首を長くして反時計回りにぶんぶんと回転させている。隣の大木をなぎ倒すほどの威力だった。多分、あれをくらった後の僕の姿があの大木なんだろう。そうだ、これアカンやつだ。僕のエマージェンシーランプが急点滅しながら、警告音を鳴らす。


 ハルトは回れ右をして、走って逃げた。なんとか逃げ切れそうか。後ろから、俺を忘れんなと言わんばかりに、黒い糸が飛んできて、ハルトを絡め取った。


 あ、これって、僕オワタ。そうかと気づいたときには遅かった。足が十本、目が八つ、これってなあんだ。


「ヤギリンガルとヒツジグモよ。彼らに笑ってはいけないなんて、今時、ゴブリンのガキでも知っているわ、それとも趣味かしら。あなたって節操がないのね」


 耳の長い美少女、ファンタジー世界の永遠のヒロイン。エルフが短剣で僕の蜘蛛の糸を切り払った。僕はその場で尻餅をついた。


「速く逃げるわよ、こいつらは見た目の通り馬鹿で目も悪い、捕まらず、木に隠れながら、ジグザグに逃げれば簡単に逃げられるわよ」


 僕とエルフは雑木林に逃げ込んだ、ヒツジグモの吐いた糸は木に遮られて、僕たちには届かない。ヤギリンガルは疲れてへばっていた。逃げるなら今しかない。雑木林には他の何匹かのヒツジグモが草を食べていたけれど、襲っては来なかった。


 僕たちは逃げ切れた。「ハアハアハア」僕は息を切らしていた。そんな僕の隙を突いてエルフは懐にあった、長老からもらったペンを横取りした。


「おい、何するんだ、人助けの次が泥棒とは、節操がないっていうのはどっちだか」


 エルフは怪訝な顔をした。


「人聞きの悪いこと言わないでよ、誰があんたみたいな鈍間なにんじんを助けるものですか、私は最初からこのペンが目的よ、知らない?この国では、命を助けられた人は助けた人が、何でも好きな物を贈るのよ、そんなことも知らないの?ホント、あんたってゴブリン以下ね。試しに、それっ」


 エルフはペンを一振りしてみる。


「アチッ」


 ペン先から根元が赤く光る。エルフは熱さで、ペンを落とし、尻餅までついている。


「ペンは主人を選ぶというけれど、ペンに嫌われたみたいだね」


 エルフが僕をにらみつける横で、僕は落としたペンを拾う。


「アツッ、このペン僕にまで矛先を」


 エルフはスカートの裾をはたいて立ち上がる。


「あなたみたいな鈍間なにんじんが、神具を持っているなんて、誰が思うものですか」


 不死鳥の羽根、オリハルコン製のペン。長老からもらった、大切な贈り物。


「熱くなったのは、私の魔力に反応したからよ。エルフの魔力は強力かつ純粋だから」


 強力な魔力を持つエルフがこんなにも華奢なことに、彼女を汐らしく思い、笑ってしまったことが、ハルトの過ちだった。


「何よ、笑ったりなんかして、私のことを馬鹿にしてるんでしょ」


 ―――ドカラ、ドカラ、ドカラッドカラ


 遠くで聞こえていた、馬の足音が近づいてくる。


「やばい、あいつらが来た。お願い、少しだけ力を貸して」


 泥棒までされたけれど、彼女のことを助けない理由はあるのだが、それでも誰もが、彼女を助ける理由なんて見つけてしまうだろう。それに、せっかくだからこのペンを使ってみたい。


「エルフの少女、君の名前は?」


 ハルトは、冷めたペンを拾う。


「少女なんて失礼よ、エルフは見た目以上に壮年なの。私はエイミ」


 ハルトは林に木を描いた。その木は隠れるにはあまりにもバレバレな白く縁取られただけの絵だった。エイミは腰にぶら下げた巾着から、見覚えのある粉を順番に、木にふりかけた。妖精の鱗粉だ。木は彩られ一本の平面ジオラマが完成した。


 ―――ドカラドカラドカラ、ドカラ、ドカラ


 馬は僕たちには気づかずに走りすぎた。黒く毛が異様に逆立った馬には、剣を抱えた黒衣の男が乗っていた。


「ありがとう、あなたには助けられたわ」


 ハルトはエイミに向かってわざとらしく聞き耳を立てた。


「この世界で僕に命を助けられたエイミさんですよね?」


 すこし、嫌らしかったかな。大臣からもらっていた地図をエイミに開いて見せた。ちょっとばかりリバイバルマウンテンまでの道案内をしてもらおう。


「僕はここに行きたいんだ、よかったら連れて行ってくれないか」


「はあー」エイミはため息をついた。


「お前で良いか、時間もあまりないし」


 そういうと突然、エルフは僕に寄りかかる。僕の両手を握って上目遣いになった。甘えるような瞳は赤くきらめように僕を誘惑する。


「あなたの事が好きになっちゃったみたい、どうか私と結婚してください」


「はい! 喜んで!」


 そんな安い告白に落ちるほど、今日の僕はどうかしていたのだと思いたい。

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