第21話 戴冠式と旅立ち
城の大広間には大勢の妖精が集まっていた。背の高い巨人は最後列に、体の小さい妖精は体の大きな妖精の肩に乗っていた。
壇上には司祭の格好をした妖精大臣がバイブルを読み上げていた。式場は荘厳としていた。
「ピクシーガーデンの新しい王よ、私は神の御言葉の代弁者である。あなたはピクシーランドの平和と繁栄をその右腕の白銀の腕輪に、ここに集まった百と二十の妖精たちと共に、誓うか」
ノームはセピア色のマントに身を包んでいた。差し出した右腕の白銀の腕輪をステンドグラスの窓から差し込む光が濡らす。
「誓う」
「ではいまから、戴冠式をはじめる」
妖精大臣の声掛けで、広間の妖精が壇上に向かって並んだ。
「にんじん、君も一番後ろに並ぶんだ。渡すんだろ? 神話を」
並んだ、妖精たちの手には、剣とか巻物とか果物とかが抱えられている。
「わかった」
僕はそう言うと一番後ろに並んだ。
一番先頭にはサラマンドラがいた。
「俺たち兄弟は、みんなノームが王になるって思っていたんだぜ」
ウンディーネもアルヘイムもシーフもいた。
「ママも言ってたよ、ウンディーネ、あなたは一番私に似ているけれど、ノームが一番パパに似ているよって」
王子たちの父親は、先代の王だった。
「そんな俺たちからは五色のゴブレットを贈るよ」
ゴブレット(聖杯)はレインボーカクテルが比重で分かれるように、五色の層に分かれている。
ノームはゴブレットを受け取り、後ろの机に置いた。
王子たちはノームを囲って、みんなで笑いあった。みんなとっても楽しそうなんだ。
ゴブリンは金メッキの弓矢を贈った。
「弓を射てば落ちることなくどこまでも届く、妖精たちの繁栄を願って」
ピクシーのリーダーはこの国で一番の美しい花、聖花を一輪を贈る。セピア色の輝く聖花。
「花は再生と癒し、枯れることなく輝く聖花はこの国の誇りです。ノーム様に和みを与えましょう。」
妖精が羽を舞うと花は薫りを咲かせ、式場は恋心に染まった。
ブリキの隊長は黄金のラッパでファンファーレを鳴らした。
「ノーム様の覇王の武運を倣え、さあ祝福の行進だ!」
式場は轟いた。太鼓が響き、ラッパがか軽やかに鳴り、弦の音色が波打つ。兵隊が城を囲い、マーチを行っているんだ。
工房の魔女蛙も負けじと、プラチナステッキを振って、小さな花火を打ち上げた。光の花火は燃えはしない。美しく、豪華な花を咲かせた。
妖精たちは思うままに祝福した。「今日は忘れられないよ」ノームは照れ笑いを浮かべていた。
ピクシーランドの復興は長い道のりだろう、今日の一日は復興の第一歩。たしかに妖精の街は輝いているんだ。
僕はノームの前に立っていた。
「この街に来て文字通り、めくるめくの日々だったろう?」
ノームは僕に言葉を投げ掛けた。
「そうだな、初めてこの世界に来て、今がとにかく楽しい」
僕は嬉しかったんだ。
「めくるめく時代を締めくくるのはハルトの神話だ。オイラたちの前で読んでくれないか?」
ノームは僕に握る神話にそっと手を当てた。僕は神話の書いてある羊皮紙をそっと両手で開いた。式場は静かに音を消した。
「僕はこの世界に来て、驚きに満ちたこの世界で、戦争に鉢合わせてしまった。けれど、今は思うんだ、あの戦争にはたしかに僕も参加していた。僕はこの妖精の国の誇りと美しさが続くことを望んでいたんだ。妖精の国の偉大な王子、そして僕の大事な友達である、ノームにこの神話を心を込めて贈る」
声は響かなかったが、重く垂れるように、心の隙間を埋めよう。
物語調に記した神話だった。そうだ、僕は物書きが性分だったんだ。拍手の音が背後から聞こえた。
神話を読む声は響かずとも届いたのなら、この拍手はきっとハルトとノームに勇気を与えるはずだ。
僕は名残を感じながら、この妖精の街とその国王に敬意を示して、ノームに神話を手渡す。
「この街が大好きになっちゃったみたいだ」




