第20話 妖精のミソロジー
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ピクシーランドは平和の象徴。輝く聖花は栄華の象徴。氷の女王は美しく、聖花の美しさも敵わない。街の聖花のガーデン、妖精たちが憩うこの世の楽園。花は五色に輝き色めき、レッド、イエロー、ブルー、グリーン、セピアの輝きは、五人の王子の愛らしさ。花はにぎわい、さきわう民に、衰えたる兆しなし。
ピクシーランドの輝きの、源なるは妖精の鱗粉。白く淡い輝きはあなたの心に煌めきあう。妖精たちの命の証。妖精たちの幸せのもと。王子たちは街を駆け出し、幸せを配りゆく。聖花は芽吹き、街は色めき、妖精たちは踊り出す。
四人の王子はすくすくと、殻ぬぎ、艶だし、ツギハギとれて、一人前。セピアのノームはツギハギ王子。五人のなかで、一番の悪戯者。女王は困った、セピアは曇る。それが、平和なピクシーランド。
突如と街を覆う影。悪魔があらわれ大騒ぎ。妖精ノームはさらわれた。街じゅう、そこらじゅう大騒ぎ。女王は激怒、大逆鱗。セピア色は奪われた。街は暗闇、陰鬱、絶望。五人の王子も追いかける。悪魔はどこまでも逃げていく。妖精の丘の上で悪魔が待ち伏せ、ルシファー、マモンが暴れ出す。女王と仲間は戦った。ルシファーは冥界から呼び寄せる。地獄の門番、冥府の門の肩に乗り、うめく声は大気を揺らす。頭を垂れろ、項垂れろ、悪魔艦隊のお通りだ。ノームは渇命、虫の息、女王はセピアを抱えたままに、大蛇レヴィアタンと向かい合う。互角か劣勢か、優勢か。勝負は互角で、押しもせず。アルヘイムはノームを引きはがし、王子はノームを救い出す。ノームは未だ青色吐息。妖精たちの鱗粉が舞うが、ノームの体は透けていく。秋は終わり、冬になる。誰が為に消えるのか。
そのとき空切る光の刃。暗闇は芥に消えていき、空に映る白い像。慈愛の女神ヘーラーの光の恵みが丘を拭う。ルシファーたじろぎ、マモンはふるえる。悪魔マモンを蹴散らして、放蕩してはとろけだす。青色吐息のノームには、光の加護に救われる。ノームに死の福音訪れず。女神は天に還られて。力みなぎるノームはすぐさま、ルシファー退治し、圧倒する。セピア色の光の勇者、ノーム=ルクスペル=アムルシェットの誕生だ。丘の戦争は優勢だ。後は大蛇が残るのみ。
女王は大蛇に苦戦する。あふれる嫉妬に敵わない。西の空は赤く染め上がる。ノームは家老に託された、小枝ほどの幻想の剣。幻想の剣は神秘の宝剣。ノームは覚悟と決意する。剣を携えて、女王に加勢か飛んでいき。ノームは女王に突き刺した。女王は涙を流しだし、ノームをつかみ、持ち上げ、こう言った。“汝が王となるものか”“我こそ王になるものだ”ノームが新たな妖精王。白銀の腕輪はノームの右腕に輝く。とあるピクシーの妖精は王に連れられて、現世の剣に報いるために、母の御霊を解放する。レヴィアタンは母の御霊に葬られ、氷に閉じこめ、死をたもつ。冥府の門がふるえだす。のそりのそりと開きだし、母は急いで御霊と御体を捧げゆく。門は満ち足り、亡者は帰る。女王は登霞し、平和が戻る。ピクシーランドは救われた。しかし、輝きは失せたまま。
今こそ枯れ木に花を咲かすとき、聖花の輝きは絶えてはいない。街の明かりは消えたけど、聖花は五輪残っている。聖花の五輪は王子の五人。街に王子が飛び出すと聖花が芽吹き咲き誇る。聖花の輝きは妖精の街に返り咲く。妖精たちよ踊り出せ。ピクシーランドは春になる。ブリキの兵隊は行進をはじめ、妖精たちは踊り出し、巨人たちは太鼓をならしだす。そうさ、ここはピクシーランド。愉快で楽しい夢の国。
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ハルトは長老の家の書斎を借りて執筆を行っていた。長老からもらったペンはまるで僕が書く内容が分かっているようにすらすら動き出すようだった。書き終えるのに日を三度またいだ。
書き終えると、すぐにでも王子たちに見せてやりたくなった。羊皮紙を丸めて、ひもでくくって、僕はすぐに隣の部屋にいたニッピに報告することにした。
「書き終えたよ! 妖精の街の神話を」
僕は神話を書いた羊皮紙をノームの前につきだした。
ニッピはケルベルチュとじゃれ合っていた。飛び上がってこっちに飛んできた。
「じゃあ、すぐに城に向かおう! きっと王子たちも待ちかねているよ」
ニッピと一緒に外に出ると、ユニマルが馬車を引っ張っていた。ノームが乗っていた。
「そろそろ書き上がる頃だと思っていたよ。そしたらちょうどハルトが家から出てきた」
僕とノームは互いを見つめて笑いあった。僕たちは何も言わず馬車に乗り、王に連れられて街を凱旋する。ゆっくりと城までの道中を楽しんだ。今日はユニマルの機嫌も良いらしい。
「実はおいらは王になってから、街を通るのは初めてなんだ。だから君たちを連れてこの街を通れることが誇らしくて仕方ないんだ」
街の聖花はすくなってしまったけれど、街はたしかに輝いていた。新しい王に民は感動していた。城までの街道には、妖精たちが立ち止まり、拍手をしている。みんなノームを歓迎していた。氷の女王の遺影を抱える巨人もいた。そうだニッピに妖精の剣を渡した巨人だ。巨人は大粒の涙を流していた。顔には笑顔があふれていた。
城につく。以前の氷の城は光り輝く城になっていた。
「僕が魔法で建てたんだ」
「すごいな……」
僕は驚いた。あの気弱でいたずらっ子だったノームが立派な王になっていた。
「それじゃあ僕は役目があるから先に行くね」
ノームは神速に消えた。
馬車から降りて、城に入る。内装はあまり変わってはいないようだけど。エントランスにあった。女王像は五人の妖精像になっていた。真ん中にはノーム、周りにはサラマンドラ、ウンディーネ、アルヘイム、シーフの像だ。
ニッピは誰かと会話をしていた。
「君も彼らと知っているの」
「そりゃ、あいつらは俺のいとこだからよ」
ニッピは妖精の剣だった、剣と話している。女王の魂が入っているそうだ。
「おい、高峰ハルト、お前がちゃんと神話を書ききることを見届けるように女王に頼まれているんだ、お前は部屋にこもりっきりで、俺とは話すのは初めてだったな」
「僕はもちろん女王との約束を覚えているよ、神話を書ききった」
「それでいい」
剣はそういうだけだった。
城の大広間まで、巨人の衛兵が案内をする。
「しかし、にんじんよ、良くやったな。俺は牢屋のお前の面倒を一生、見させられるかと、冷や冷やしたぞ」
縁起でもないことをいう。ハルトはたじろいだ。
「とにかく、今から、ノーム王の戴冠式だ。君は彼に神話を与える重要な役目だ。心して頼むよ」
王の間である、大広間についた。壇上にいるノームはこちらに手を振った。僕は手を振りかえした。
僕の手には神話が握られている。