第19話 聖花の輝き
ルシファーとか、マモンとか、レヴィアタンとかの魔神やら悪魔が退散したことでピクシーランドを覆う病理も次第に薄れていった。
丘の上にいた、王子たちと、大臣と長老と、ハルトとニッピは街に戻るまでに、安全のために隊列を組んで帰郷することにした。
「これはひどいね」
ハルトは思わず至らないことまでも口にする。
魔力温存しながら歩いて帰ることする。丘まで飛行して移動したので気づかなかったが道中、所々に枯れた草花が目立つ、この暗闇に光を照らすはずの花たちは枯れ、潤いを与える草木は朽ちていた。
この惨状から、ピクシーランドが復興するには一筋縄では行かない。それは今回の戦いよりも長いものになるのだろうか。
「悪魔たちがこの街をボロボロにしたことは許しはしない。だから、オイラは母さんが命懸けで守ったこの街と母さんを誇りに思うよ」
ノームはとても落ち着いている様子だ。
ピクシーランドの街並みが見える。たがそこにはかつての幻想的で美しい街明かりは存在せず、暗闇にポツリポツリと淡い光の粒があるだけで、寂しい。
寂しいながらも。街には一番星のように輝く場所があった。それを見るなり大臣は驚いたようだ。
「信じられん、聖花を絶やさず守りきったか!」
「ほほ、あれがあるとこの街もまだ何とかなるかもしれんのう」
そうだ、あの光を僕は覚えている。赤、青、橙の色は、ニッピと王子とで妖精の鱗粉を光らせたときの色に似ている。
「聖花があれば、復興の足掛かりとなって、この街に光を取り戻せる」
大臣は興奮していた。
街につくと、街路の草花はほとんど枯れていた。妖精たちは翼や小羽で体を包み、眠っているみたいだった。街はかつての賑わいはなく、とても静かで落ち着いていた。
聖花のある花畑を通る、街の中でひと一倍光が溢れていた。けれど、そこには黒い灰がつもるだけで、妖精たちの姿はなかった。
「皆、ありがとう」
ノームは礼を言った。そこには誰もいない。
「貴い花への尊い犠牲。彼らには礼を言っても言い切れん。聖花に命を注ぎ、命を絶やしてまでも、残した。まさにこの国の英雄じゃ」
長老は黒い灰を翼で優しく撫でて、供養するように祈りを捧げた。
そうだ、この黒い灰は妖精の鱗粉が悪意で黒く染まったものだ。
街には小さな畑があって、作物は荒れていた。
「おじいさん! 無事ですか?」
「ハルト君かい? もうこの街から出たと思っていたよ」
小柄で鼻の大きなとんがり帽子のおじいさんが後ろに手をつき、へたり込んでいた。
この街の門まで運んでくれたおじいさんだ。
隣には体がくたびれたスライムも二匹いた。中央には一輪の聖花があった。
「何とか一輪、残したよ」
おじいさんはほっとして息を吐いた。
「イケメンスライムも頑張ったな、今は惚れてしまいそうなほど、かっこいいよ」
イケメンスライムはウインクをした。
おじいさんと別れ、長老が聖花について語ってくれた。
聖花はピクシーランドを照らし、妖精たちに精気と活気を与えていた。それは、神様からの贈られた一輪の繁栄だったらしい。“妖精の鱗粉を糧にして一面の花畑に増やしていきなさい”と命じられた。
花畑は妖精たちに安らぎを与えて、時には子供たちの遊び場として賑わい。恋人たちは憩い愛を語り合う。老人は密かに隠れ場所に選び、次世代に花を残した。
僕は花畑の美しさを覚えている。だけど、僕はピクシーランドで花畑が輝いていることを知らなかった。
「僕は王だけど、何をしたらいいの? 自信がないんだ」
まだ城には着いていないが、ノームは街の城に続く大通りで弱音を吐いた。住民に聞こえては不安になるようなパレードになりそうだ。
「ノーム様はまだ若い、だが若い王こそ素晴らしい。博識こそないが、今の荒れ果てたピクシーランドにはあなたのような勇敢な王が必要です。サポートなら我々がいくらでもしましょうぞ」
大臣は長老と目を合わせ、二人でノームに向かって相づちを打った。
「とりあえずは被害状況の把握と被害者と犠牲者の救出。それと街の復興を同時に進め、聖花を少しづつ増やしていかなければ、それには王子たちの力が必要じゃ」
大臣はこの街の今後について話している。これからも良き参謀として活躍しそうだ。
「俺たちに任せてくれ! 聖花なら増やすのは得意だよ」
サラマンドラは翼をはばたかせて、聖花に風を吹かせる。花の頭から沢山の綿毛が飛び出した。
「花の種が生まれれば、街の住人の力でも花を育てられる。お主らやかま神血を持つものの創造の力がなせることなんだ。お主らにしか出来ん」
サラマンドラが作った綿毛は地面に落ちるとすぐに、ぼんやり薄く、赤に輝く新芽が吹く。
続いて、ウンディーネ、アルヘイム、シーフも四方に向かって風を吹かせる。
綿毛は芽吹き、青、黄色、緑の光が現れる。まるで光の絨毯を敷いたみたいに綺麗だ。
「ノームはとても勇敢な妖精で、とっても強かった。それに僕は君を泣かせてしまったけれど、君はもう泣きやしない」
僕はノームを励ました。
「ハルトありがとう。ハルトには神話を書いてもらうんだったね、お願いがあるんだ」
ノームはかしこまってハルトに話した。
「僕が王として勇気が出るような、この街を誇れるような、そんな神話を書いてほしい」
決まっている。
「もちろん。君たちの神話は任してくれないか」