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異世界連邦の売れっ子作家  作者: 東雲青橙
妖精の街 ピクシーランド
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第18話 現世と幻想の剣

 レヴィアタンは氷の中に閉じ込められ、微動だにしない。巨大な大蛇の彫刻と化している。赤い嫉妬の冷気は次第に雲散霧消し、消えていく。


 だけど本丸である冥府の門はそびえるだけで、ルシファーとレヴィアタンの脅威が消えたあとでも存在し続け、消えてくれない。


「ぼうや、レヴィアタンと冥府の門のも亡者は今は静かだけど、互いにエネルギーを共鳴して増幅しあっているんだよ。叩くなら今だよ」


「たましいを半分ニブルヘイムに置いてきたけれど大丈夫なの」


 レヴィアタンを氷に幽閉するのに女王はたましいを冥界に置いてきている。


「ああ、正確にはたましいの半分、悪とか欲望のたましいだよ。だから私はもう生きることは出来ない」


 欲望が消え、本能のままに生きることは誰も出来ない。それは王として許されない。シーソーも片割れだとただ沈むだけだから。


「ノーム、最後に王として一番重要なことが何か教えておこうか」


 恐らく、この言葉がこの世での女王としての最後の言葉になるだろう。


「それは、民を思う心でも、よき政治でもない、そんなものは二の次で、ただ自分が王であることを疑わないこと、これが大事で、以外と出来ないことでもあるんだよ」


 冥府の門の亡者は目を開けた、静かな目覚だ、ルシファーに起こされた時ほど荒げてはいない。本来の調子は賢者のように静かな者なのかもしれない。


「はじめるよ、まずはあそこのピクシーの妖精を連れてきな」


「わかった、すぐつれてくる」


 ノームは神速で、ニッピのところまですっ飛んだ。ニッピは突然現れたノームに驚いている。


「ノームなの、金ぴかぴかになっちゃってる」


「ママが呼んでいるんだ。来てくれないか」


「うん、行くね」


 ニッピは不安だったんだろう。無理もない、今からいくのは恐ろしい亡者を乗せた冥府の門の真下なのだから。


 ノームはニッピの肩に手をのせてそのまま冥府の門の下にいる女王のところまで神速を使いニッピを引っ張って連れ出した。ニッピは酔いを感じている。


「わっ、なんだこわい」


 ニッピは冥府の門に驚く。


「小さきピクシーの妖精よ。単刀直入に、そなたの持つ“現実の妖精の剣”をわらわの胸元に突き刺してくれ」


「そ、そんなこと出来ないよ」


 剣を胸元に突き刺す。あまりにも暴力的ことにニッピは躊躇した。


「出来ないじゃなくてやるのじゃ、かまわんわらわはもう長くない、それにお主に頼みたいことはそれだけではない、まず、その妖精の剣はお主にやろう」


「本当に!だけど、それでも胸に尽きさせないよ」


 女王は苛立つこともせず落ち着いて、優しい母のようにニッピに頼み込む。


「ニッピが妖精の剣を突き刺しても誰も傷つかないわ、ただの人助けだと思ってほしい」


 ニッピはためらいながらも頷き、怖いものが通りすぎるのを待つように、目を閉じながら、女王に剣を突き刺した。


「感謝する。これで“現世”と“幻想”の妖精の剣が刺さって肉体と魂が解放されたわ」


 女王の体から魂が具現化して、霧状になって表れ、発した。肉体は生気を失いつつも、立ち続けている。


 冥府の門が騒ぎ始めた。あまり時間はない。


「最後に、ノームとニッピで私の体を左側の亡者の口元に運んで、そして私が右側の亡者に魂を持っていけば、それで終わり」


 冥府の門を閉じるには、有り難いお経でも、荘厳な儀式でも、革命的な魔法でもない。必要なのは魂が分裂し、肉体が滅びるような暴力的な自己犠牲だ。


「最後にニッピにお願いがあるの、私の魂を少しだけあなたの剣に込めてもいいかしら」


「そうなると、旅が少し楽しくなるね」


 ニッピは楽しげだった。


 女王は呪文を唱えると、胸元の妖精の剣が光始めて、生命が宿る。


「うふぁ~ん、よく寝た」


 妖精の剣は久しぶりに目覚めたように、話しだし生まれた。


「それじゃあ、はじめるよ、二人とも。まずは胸元の剣を抜いて」


 ニッピとノームは剣を抜いた。


 危機を察してか冥府の門の亡者は叫び声を増し、大気は震え、草木はなびく。


「時間がないよ、次はわらわの体を左側の亡者に運びな、いいかい、同時だよ」


 ニッピとノームより何倍も大きな体を持った女王を運ぶのに、二人のパワーだけではギリギリだったが何とか宙に浮かべた。女王の肉体はだらんと力を失っている。


 女王と二人はそれぞれ、亡者の口元の前についた。亡者の口元は臭かった。ニッピはその悪鬼に耐えるのに必死そうだ。


「合図をするから3で飛び込ませな」


 女王はカウントダウンを始める。おなじく扉が開き始める。


「1、2の3!!」


 女王の魂と体を吸い込ませた。亡者は声を殺し、口元を動かせながら味わっているようだ。


 しかし、遅かったのか扉が開いてしまった。


 中から、鬼やゾンビや魑魅魍魎が顔を覗かせる。半身を乗り出して体を出してきた。だが、冥府の門の亡者が開いた扉から出ようとする魔物を扉の中に押し戻すように、亡者は扉に入り、同時に扉の四隅から中央に向かって扉を吸い込んでいく。


 冥府の門は次第に小さくなり、消えてしまった。


「おいらたちやったんだ!!」


 二人は喜んだ。ピクシーランドは救われたんだ。

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