第17話 ノーム=ルクスペル=アムルシェット
女王は刺された箇所を凍らせた。妖精の剣は人間の小指ほどなので致命傷には至らないわけだが、痛覚は刺激を逃がさない。
「ぼうや、立派になったねえ、それにこれは妖精の剣だね」
女王は胸に刺された剣を抜こうとも、取ろうともしない。目を閉じて傷みを味わっている。
「ママ、今まで落ちこぼれで困らせてご免なさい。だけどこれからは僕が皆を守るから」
女王が怯んでも、レヴィアタンは攻撃の手を休めないばかりか、チャンスとばかりに急所を狙う。
「そうはさせないよ」
ノームは迫撃でレーザーをかわす。一発、大きめの光の迫撃がレヴィアタンの胸元に直撃して後ろに仰け反った。さらにノームは光の障壁でレーザーを防ぐ、そして一発、二発と迫撃を浴びせた。流石は悪魔界第二位、嫉妬の魔神だ。体力がありあまるのか迫撃にすら、叫びをあげるだけで、致命傷にはなっていない。
光の障壁はレーザーを通さない。
「ぼうや、その剣を刺したということはわかっているだろうね?白銀の腕輪をこちらに寄越しな」
ノームは白銀の腕輪を手渡した。妖精の剣は女王に刺さったままだ。
「さあ、“王位継承の儀”を始めるよ」
氷の女王は膝間づいた。女王は両手でノームの小さな体を浮かせて、右腕に白銀の腕輪をはめた。
「汝が妖精の王になるものか。王たる我に剣を突き刺し、我は汝に屈服し王位を継承する。百と二十ある妖精の頂点に立ち、その幸福と発展に自身を捧げることを白銀の腕輪に誓うか」
女王は頭をあげてノームを見上げる。
ノームは次の誓いの言葉をしっている。
「我、汝の誇りを知りたる者。王に君臨し、百と二十ある妖精のさらなる幸福と発展に自身を捧げることを誓う。この白銀の腕輪こそ妖精王との誓い」
白銀の腕輪は目映く輝く。
「汝に妖精の王として名を授ける。“愛に輝くも者”ノーム=ルクスペル=アムルシェットよ、ここに王位は継承されたり」
辺りの光は収まった。
これで、王位は継承されたのだ。ピクシーランドの新しい王はあの泣き虫ノームだ。だけど彼はもう泣き虫なんかじゃない。勇敢な王なんだ。
光の障壁は消滅する。
「ノーム、そなたがこれからはピクシーランドの正当な王じゃ。とにかく目の前のレヴィアタンを倒そうぞ。わかっているな。わらわはあやつを倒し。この命を持って冥府の門を引っ込ませる」
「わかった。覚悟は出来ているよ」
氷の女王はレヴィアタンを倒し、冥府の門を再度開かせる前に大命で錠をする。
「よし、ではいくぞ。背中の妖精の剣にそなたの神力を注いでおくれ」
ノームは剣に手をかけ、魔力を込める。ヘーラー神による、光の白腕の加護から込められた魔力は神力と呼ばれ、無尽蔵に光が溢れだす。凄まじい魔力だ。
「これは、すごいわ。女王としても高揚が隠せない、あなたのお父さんを思い出したわ」
ヘーラーは貴婦人、処女、淑女、寡婦、あらゆる女性の象徴であり彼女らを加護する存在だ。女王も泡沫のおもいに心を馳せているようだ。
「これでいいかい?」
神力はこれ以上ないくらいに、女王に注がれたようだ。
「アイスヘルオブニブルヘイム!!」
冷気は空間を歪ませて縮め、旋回しながらレヴィアタンに向かって放たれた。
レヴィアタンに衝突する。胸元から氷始め、全身に広がる。いくら暴れようが、レーザーを放とうが、氷の幽閉からは逃れられない。
「ニブルヘイムの神の娘ヘルから永遠の氷をわらわのたましいと引き換えに呼び寄せた。永遠に逃れられまい」
レヴィアタンは氷付けになった。氷は赤く、嫉妬の情念は冷えきっている。仰け反り天を仰いでいるが、昇天はしない。とこしえに氷の呪縛に囚われるだけだ。
嫉妬の大蛇は暴れない。ただ氷の中で死を待つばかりだ。




