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異世界連邦の売れっ子作家  作者: 東雲青橙
妖精の街 ピクシーランド
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第16話 今日の決意は未来の轍

 ルシファーは消滅したが、西の空は赤いままで、嫉妬の波に反射し、騒がしく渦巻いている。今にも溢れ落ち出しそうなほど、波は高く積み上がり、高台の丘からの津波はピクシーランドを呑み込み、嫉妬の悪意で埋め尽くされるだろう。


 嫉妬の大蛇レヴィアタンは影のルシファーが消滅したこと。二匹の海蛇が女王によって制圧され、息絶えただ悪意に黒ずむ姿となったため。制御が外れたボイラーのようにレヴィアタンは震え、咆哮を撒き散らす。その口許から赤い蒸気なのか、熱気かが漏れだし、嫉妬の波と同じ霧が、丘を覆う。


「あいつを倒さない限り、ピクシーランドは救えない。あんな卑しいだけの嫉妬に負けてはならん」


 長老は影のルシファーとの戦闘から脱し、氷の女王の近くまで来て、女王に回復魔法を施していた。


 女王の魔力は無尽蔵かというほどに、先ほどから強力な魔法を連続で繰り出している。しかし、体には傷があった。レヴィアタンは体からあふれる赤い霧を集めて、レーザーのように発射する。女王は周りに冷気の壁を作り、レーザーを凍らせてから杖で防いでいるが、飛び散る破片が体をさわる。


 長老の魔法はそんな女王の体の傷口を治す。女王はつらそうだった。完全な治療には至っていないんだろう。傷口からの出血を止めて、悪化を防いでいるだけだった。


 ノームは妖精大臣のそばにいた。鎖を圧して千切り、大臣は腕枷は残るものの自由に移動や、詠唱が出来るようになっていた。


「大臣、僕はママを助けたい」


「ノームなのか、ではルシファーを消滅させたのもお主じゃな。ついに大人になったんじゃな」


 大臣はノームにどこか敬愛した雰囲気があった。


「悪魔仁の本当の目的は嫉妬の津波でピクシーランドを滅ぼすことだけではない。後ろの忌々しい門があるじゃろ」


 冥府の門があった。今は亡者の門番は肩を揺らしながら、静かにうなだれているだけで、門が開くときの叫び声はあげていない。門も閉まっている。


「ルシファーがあの門を開けたのは、神の血があるからじゃ、だからルシファーは自分の影が倒されることも予想してレヴィアタンを呼び寄せたのじゃ、何よりも優先して。周到な男じゃよ、傲りもせんと」


「つまり、どうすればいいんだよ!」


 ノームは焦りから、大臣を急かす。


「レヴィアタンが女王を倒せば、女王の神血に悪意を注ぎ、門が開く。女王がレヴィアタンを倒せば、自身に悪意を注ぎ、門が開く。どちらにせよ冥府の門は二度開き、冥界から悪魔仁が多勢来るな」


 どちらにせよ、絶望的だとノームは感じたんだろう。


「じゃあママはそれを防ぐために……」


 ノームは何かを察した。


「そうじゃ、悪魔学で教えたじゃろう、“冥府の門を閉じるには大命を捧げろ”女王は相討ちを望んでいる。だから相手の魔力を削るために長期戦に持ち込んだんじゃ」


「そんなの嫌だよ、何か方法は無いの?」


「こればっかりは、どうにとて。ワシはヘーラーという神が何とかしてくれると期待しとったがのう」


 血が濁した白髭を大臣はさすった。血が髭全体に広がった。


「この国は女王に救われる。それだけは信じとる。お前さんはこの国の希望じゃ、兄弟で唯一、神血に目覚めた妖精なのだから。ワシの相手なんかせずに、女王の所に行ってあげなさい」


 大臣は妖精の剣と白銀の腕輪を手渡した。


「今のお主に必要なものじゃ、女王がワシに呪い掛けるように言われたものじゃ。ほほ、敵だったころから、女王にはかなわなかったのう」


 白銀の腕輪には光のルーン文字の刻印が彫られている。


「今のお主ならこの文字が読めるじゃろう」


 この時、ノームは光のルーン文字の向こう側に文字が彫られていることに気づいた。光を越える力から、光の先が見えていたから、初めて見えた。


 ノームは把握したようだ。この腕輪の意味と宿命を。白銀の腕輪と妖精の剣はもともと女王像にはめられていたものだ。


「大臣、分かったよ、オイラこの国の王になる」


 ノームは覚悟していた。涙を流し、涙は空気にとけて光の粒になる。


 妖精の剣を構えながら、母である、氷の女王のもとにゆっくりと駆け寄る。


 背後から氷の女王の胸間に突き刺した。


「……」


 情景は止まっても、時間を止めることなんて誰もしてはくれなかった。

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