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異世界連邦の売れっ子作家  作者: 東雲青橙
妖精の街 ピクシーランド
15/26

第14話 西の空は嫉妬する

 だが、西の空に出現した冥府の門は現れただけで、正確には、まだ開いてはいない。


 門の両肩に埋め込まれた門番、いや亡者はその呻き声を荒げるばかりだった。


 その声はダイレクトにここまで響き、空に浮いて初めてわかる。街のどよめきが消えてしまった。


 王子たちのブランコは冥府の門に向かって飛び進む。


「私、あれを知ってるわ」


「あれは何だよ、弟は無事なのか」


 ウンディーネは正体をしっていたようだ。


「あんたたちは自分のことなのに鈍感ね、あの門は妖精のなかでも、私たちみたいに神血を持っている妖精に、悪意を流し込むと表れるのよ。一度開いたら、悪意が溢れ出す、とっても危険なもの」


 危険じゃないか、確か妖精にとっては悪意が瘴気になるんだろう。


「それじゃあ、ノームが危険じゃないか」


 ハルトは王子たちを見上げる。


「俺は信じないぜ、だってノームは俺たちのなかで一番優秀なんだぜ!だってツギハギであの鱗粉の溢れようだぜ」


 アルヘイムはビリビリと鈍い電気を発する。まるで血走っているみたいだ。


「そうだ、シーフなんて、風使いなのにこの弱さだぜ」


「……うるさい」


「サラマンドラとシーフ、ケンカしないの!ノームは大丈夫よ、冥府の門の柱にされても、魔力があれば耐えられる。ママが何とかしてくれるわ」


 ピクシーランドの街並みは以前の賑わいはない、ただマッチとかランタンや魔法の小さな明かりが、所々にあるだけで、とても寂しい。悪魔が光をすべて枯らしてしまったようで、街は静寂に包まれている。


 ブリキのおもちゃは心を燃やしてランタンにしていた。ただ静かに座ったまま動かない。その周りには、小さな妖精が暖をとるように集まっている。妖精たちは震えている。


 ピクシーガーデンには妖精が集まっていた。花畑に咲く花は鱗粉で育てられたため、その花粉と蜜は、今の妖精たちにとって最後の希望だった。絶やすことなく、希望を繋ぎ止めるように、花に鱗粉をかけていた。残りの花は多くはない。花畑は枯れてしまったんだ。


「オイラたちのふるさとが、こんなにボロボロになっちゃうなんて」


 ニッピは泣いていた。


 冥府の門からの亡者の呻き声は次第に激しくなる。その声に呼応するように門が小刻みに震える。あの大きさだ、地鳴りとなってここまで響く、ピクシーランドは大混乱だ。


 門の扉が中央から開こうとしている。隙間から赤い水がこぼれた。そのままゆっくりと扉が開こうとしている。


「ヤバイよ、マズイよ、どうしよう、門が開いちゃうよ!」


「おい、シーフ!もっとスピードをだせよ!アルヘイムもおどおどすんな、飛ばすぞ」


「わかったよぉ」


 門がゆっくり開くと、二匹の海蛇が飛び出した。海蛇の大きさはちょうど丘にある針木ほどあり、海蛇から赤い水が溢れ出す。雨が降った後のように丘は水浸しになった。


 そして門が完全に開くと、門の中から、“そうか、門の大きさはこのためか”とわかるほど、巨大な大海蛇が現れる。


 ハルトは目にしたとき、事の重大さを理解した。


───そうだ、たしかにあれはレヴィアタンじゃないか


 ハルトはその悪魔をしっていた。蛇は嫉妬の象徴。赤い海は嫉妬を集めたもので、その嫉妬はすべてを飲み込む。


 ハルトとニッピと王子たちは丘の近くまできた。


「もう少しで着くぞ、アルヘイム、飛ばしてくれ」


「よし、任せろ」


 アルヘイムは電撃を加速する、ハルトは体が痺れ、痛みを感じていたが、王子たち構わずに電気を共有してスピードを増していく。ニッピは少し遅れて後ろで追いかけていた。


 大海蛇の悪魔、レヴィアタンは咆哮をあげた。魔方陣を二匹の海蛇と共有しながら、呪文を唱える、正面に赤い嫉妬の水が溢れ、盛り上がった。魔神が攻撃を仕掛けようとしているのだ。


「あれ、マズくないか、こっちを狙っているような」


「何を言ってんだよ、ハルト、もう引き返せないぜ」


「それに、もう着くわ」


 戦っているのが三人同士だとわかった。一人は女王でレヴィアタンとその取り巻きの海蛇と戦っている。魔法で足場を氷にして身動きを止めていた。戦況は有利に見えたが、盛り上がる嫉妬の水には手が回っていない。


 水は高さを増していく。


 もう一人は妖精大臣だった。相手は強欲のマモン。こっちの戦況は不利だった。明らかに肉弾戦でマモンが押している。距離を取るのに精一杯だ。


 最後の一人は長老だ。戦っているのは黒い影の天使だった。こちらも長老の防戦一方、というより、長老は逃げる他ないのか。相手も追いかけ回すが、攻撃はしなかった。ただ長老が逃げ回るばかりだ。


「着いた」


 ハルトはブランコから飛び降りた。離れたところで、レヴィアタンと戦う女王をみると、その左腕にノームを抱えていた。


「おかあさーん、助けに来たよ!」


 サラマンドラが声を張り上げた。


「サラマンドラ、それにウンディーネにアルヘイム、シーフまでいるじゃない。どうしてこんな危険なところに来てしまったの?」


 女王はこちらに気をとられたのか、油断した。その隙に二匹の海蛇の口から水の刃が襲った。一つは避けた、一つは当たってしまった。軽い切り傷で済んだのが、不幸中の幸いだ。


「アルヘイム!!あなたの電速で、ここまできてノームを引き取って頂戴!」


「わかった、すぐ助けるから」


 アルヘイムは電気を纒い城で見せたよりも速く、一瞬でノームを女王から引き取り、ここまで持ってきた。


「これで戦いやすくなるわ」


 女王は魔法で杖を大きくして、両手杖にかえ、先程よりも強大な魔法を扱う。たちまちに二匹の海蛇を圧倒した。


「ノーム!しっかりしろよ」


 ノームは息をしていない。ただツギハギから余計に多く鱗粉をこぼしている。姿は透けていた。


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