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異世界連邦の売れっ子作家  作者: 東雲青橙
妖精の街 ピクシーランド
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第12話 妖精の鱗粉の力

 リョーシキある行動。ここでニッピの言う良識ある行動とは何だろう?


「良識ある行動って、良い行いのこと?」


「そうだよ、妖精の鱗粉には善と悪を見極める力があるんだ。例えば」


 ニッピはウンディーネの絡まりすぎて、ほどきにくくなった新体操のリボンを上手に丁寧にほどいた。ウンディーネはお礼を言う。するとニッピはぱたぱた羽をふるわせて鱗粉を空中に巻いた。


 鱗粉はさらに光り輝き、ニッピのシルエットが大きくなる。


「見てみてすごくきれいでしょう。良いことをすると、鱗粉が光り輝くんだ。今度は」


 ニッピはハルトの顔面めがけてすっ飛んでくる。


「いてて、いきなりぶつかっちゃ危ないよ」


 ニッピは羽から、蟻のような黒い粉がこぼれ落ち、地面に落ちる前に消えた。不気味だった。


「見て、悪いことをすると、負のエネルギーが鱗粉を侵して、黒くなるんだ。これってオイラの体からあふれたんじゃなくって、鱗粉が黒くなったんだ。だからハルトに振りかけても輝いたり、黒くなるんだよ」


「便利だな、これがあれば、悪いことができないな。すぐバレちゃうし」


 これがあるだけで、司法制度が一気に簡略化できそうだな。いや、むしろ事件当時の善意、悪意なんて再現不可能なのだけれど。


 そういえばツギハギ王子のノームが泣き出した時もあたりが暗くなった。そのときもピクシーランドに溢れる妖精の鱗粉が負のエネルギーに侵され、黒く淀んでしまったのだろう。


「にんじん、お前時間を延ばそうとしてないか」


「そ、そんなことないよ」


 サラマンドラが疑いの目を向けている。


 ちっ、ばれたか、武勇伝なんてすぐに思いつかないだろう。よしこうなったら、創作するか。


「よし、俺が鱗粉をかけてやるよ」


 サラマンドラは、近くまで来て飛んできて、幼い翼竜の姿から、翼をバタつかせ、鱗粉を振りまいてくる。


 善意、悪意を判定する前の鱗粉は白光色だ。先程、ニッピが光らせたときは赤く光を増した。そうなれば成功だ。


「実は君たちのことを以前文献で確認していて、君たちが大好きだったんだ」


 そんなに、好きでも嫌いでもない、むしろ幻獣ならバハムート、タイタンの方が好きだった。


 鱗粉は徐々にグレーになる。失敗したか。


「おい、にんじんお前嘘をついたな、しかも良くない嘘を」


 妖精王子たちはそれぞれの体の色を、激しい濃い色に照らす。ああ、これが妖精の怒りか。サラマンドラからの鱗粉は熱を帯びる。


 ニッピは眉をひそめ、不安そうだ。


「すまない!それでも君たちのことを好きになる、君たちの神話は君たちが誇れるものにしてみせる!それは絶対だ」


 咄嗟に出た言葉、創作なんかじゃない、本心だ。


 すると、鱗粉は青く美しく光輝き、まるでコバルトブルーの海のように聡明だった。


「ハルトやったよ!これなら文句なしの合格だよね、王子たち」


「ああ、一瞬危なかったけどな、このまま俺の鱗粉を無駄にする気なら。灼熱の熱風でも混ぜるつもりなのに」


 あの熱風は灼熱になっていたのか、確実に死ぬだろ。


「ほほ、見事な輝きじゃ、青い光は知性の光じゃ、お主にぴったりよ」


 大臣は手を叩いて、喜んだ。いいものでも見たときのように。


 そのとき、僕がコバルトブルーに輝かせた鱗粉は黒く、さらに黒くなる。周りの光を飲み込む程だった。


「いかん、これはまずい、あってはならんことじゃ」


 黒く渦巻くほど、成長し、暗黒空間を作り上げる。そこから異形のモノが飛び出た。二メートル程の人形で身体中に嘆き叫び、阿鼻叫喚する人顔が体を蝕むように呻き泣く。しかしヤツに顔はない。


 異形とは裏腹に、手先にはルビー、サファイア、ピンクダイアといった一級品の装飾を身につける。首、足首、手首にはホワイトゴールドの枷を五肢にそれぞれはめている。


 一目で理解する。こいつはかなりヤバい、それもただならぬ程に。


 先程から大臣はぶつぶつと呪文を唱える。


 異形のモノは自身の手枷を持ってこちらに走り出した。ぶつかる。それと同時かに大臣の詠唱は完了し、黒紫色の空間が現れる。遅かった、ノームが捕まり枷をはめられてしまった。異形のモノは歓喜なのか、体を小刻みに震えさせる。


「皆のもの、とにかくここに飛び込むのじゃ、すぐに女王に報告しろ。悪魔仁との戦争じゃと伝えい、ここはワシが引き受ける、必ず助けるぞノームよ」


 僕はとっさに長老にもらったペンを、思い切り敵の頭に目掛けて振り差した。青い光線が異形のモノの頭を貫く、だが呻き声が増すばかりだ。ノームは枷に繋がれ離れられない。


「馬鹿者、はよう行かんか。お主にかなう相手じゃない。やつは強欲のマモンじゃ、大罪人が何でこんなとこまで、はよ行かんか」


 大臣は僕の尻を蹴りあげ、空間に放り込んだ。とっくに妖精たちは飛び込んだようで、僕の下敷きになっていた。飛び起きて周りを見渡すと見慣れた大広間だった。


「君たち、それに可愛い子供たち、なぜ突然、異空間移動魔法でここまで来たの?誰の仕業?」


「大変なの、ママ!エントランスでマモンていう悪魔仁が暴れているの!ノームも捕まっちゃった」


「いま、大臣が戦ってるけど相手はヤバいやつだぜ」


「……怖いよ」


 女王の背後に氷の巨花が開く、冷気がおびただしく溢れ出す。怒りだ、今にも怒り狂うまでに、目も血走っている。


「捨て置けぬ、妖精軍全兵いますぐエントランスに参れ、根絶やしにしてくれるぞ、腐れ魔仁が」


 杖を掲げると、広間の護衛が大声をあげる。


 鱗粉が光輝く国で、こんなに平和な国で、戦争がおこるのだ。

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