第9話 ペテン師の予言
「ほれ、ピクシーランド名物カガヤキノコのステーキにトロル芋のスープじゃ」
長老は台所から光輝くキノコのステーキを持ってきた。それとスープはシチューのようでお芋が入っている。
「美味しそうだね!オイラお腹ペコペコ」
「遠慮するでないぞ、食べようか」
「ではお言葉に甘えて頂きます!」
ハルトはキノコのステーキにナイフを通し、フォークを刺して口に運んだ。
「すごくおいしい!驚いた、お肉の味がする」
「そうだ、妖精の国のキノコはまさにお肉さながら、イノシン酸たっぷりで食感もお肉なんじゃ。この国でのメインディシュの定番じゃ」
ニッピはぱくぱくキノコのステーキを頬張っている。
「スープもいけるぞ、飲んでみなさい」
ハルトはスープを飲んだ。
「おいしい、ほっこりします。このスープ、まろやかでほかほかで最高です。あのぼこぼこ芋がこんなにとろとろでほかほかだったなんて」
「ほっほっ、トロル芋もガーデンの名産じゃ、ぼこぼこしておるが味はしっかりしとるからの」
3人は食事を終えた、ケルベロチュも昼寝を終えて長老に散歩を求めているようだ。
「では、わしはケルベロチュの散歩に出かけるでの、お主らは神話を書くか、街を散策するか、好きにしなさい」
長老はケルベロチュに首輪を掛けて散歩に出かけた。
「オイラたちはどうする?」
「僕たちにはあまり時間がないから、とにかく街で必要な紙と情報もほしいな、もう一度王子たちと会いたいし」
「今回も案内は任せて!」
「よろしく頼むね」
二人は長老の家から出かけた。また驚くこと長老の家の玄関の扉には鍵も突っ張りもない、ただの引き戸だった。
「扉に鍵がないけど、大丈夫なの?」
「大丈夫だよ、長老は呪いの魔術師だから、誰も入らないし、入られたこともないから。普段はケルベロチュもいるし」
「えっ、それでもやっぱり不思議だね、泥棒がはいるじゃんか。それを呪い殺すの?」
「さすがに、そこまではしないけど前に泥棒に入られたとき、魔法で探しだして、まばたきができない呪いをかけてたっけ、そうしたら、“ごめんなさい!この呪いを解いてください!”って目を手で覆いながら謝りに来たよ」
「なにその怖い話、そして呪いが陰湿だな」
長老が呪いの魔術師ということにも驚きだ。
本当にこの街に来てから驚いてばかりだ。
「おい、そこの人と虫、お前たちに訊ねたいことがある。長老のじじいを知らんか?」
全身黒づくめ、左手に分厚い辞書を携えた男がたっていた。
「シツレイナヤツだな、長老はここにはいないよ!」
「そうか、わかった。わざわざ立ち止まらせて悪いな人と虫よ、君らが長老の家から出るのをみたのでな」
ニッピは腕を組みそっぽを向きながらも黒づくめの無礼な男に返答する。
「あなたは誰ですか?それに人と虫なんて呼ばわりは不快だからやめろよ」
「じゃあなんて呼ばあいい、名乗れ」
どこまでも不躾、無礼、不吉な男だ。
───ふう
(この男には悪い予感しかしない、このまま立ち去ろう)
ハルトは息を払い、男の前を素通り越した。
「ハルト先にいくの!?オイラも行くよ!」
二人はこの場を後にすることにした。ニッピもそのことに従うようだ。
「おい、待てよ」
ハルトは足を止めた。
「何も、俺自身が君らに無礼を働いていることは、理解している。けれど、予言者としてお前らには敬意を払いきれん」
「どういうことですか?あなたは予言者ですか?それとも狂言者の間違いでは?」
「間近で見て確信に値した。やはりお前らは世界に破滅と幸福をもたらす存在に間違いない」
「なんだそれ?それを信じる根拠は一つもないですよね?」
この男やはり不吉極まりない、不快だ。
「まあいい、おれはペテン師と呼ばれているし、それを受け入れ生業にもしている。しかしお前らへのお詫びと感謝と幸先の幸福に報いるなら、お前らの望む“言葉と物”をやろう。受けとれ」
男は紙束をハルトに放りなげた。ハルトはそれを両手で受けとる。
「それは、お前らが必要とするもの。言葉は“汝災いばかり追うなかれ幸福をいかんとしろ”以上だ。俺は往のう」
「待て、」
───ヒュルー
男は黒の衣服を翻し、そのまま空間の狭間へと周りの空気と共に吸い込まれて消えた。
「あいつはいったい、、、」
ハルトは手にしていた紙束を開くと、それは無地で真っ白のただの紙束だった。
「あの黒づくめの男は本当に予言者なのかもしれない、僕たちがちょうど紙がほしいことを事前に知っていたから紙束を投げてきたんだ」
「それでもオイラはあいつのことは嫌いだな、シツレイナヤツだし」
「とにかくあの黒ペテン師はほっといて、神話だよ。紙も手に入れたことだし。そうだ、さっきもらったペンで紙にチョチョイと」
ハルトはオリハルペンを試し書きもかねて長老に伝言を残すことにした。
“貴重なペンをありがとうございます。ハルトとニッピです。家を出てから黒づくめのペテン師と遭遇し、 彼は長老、あなたに会おうとしていました。僕たちは一度城に向かいます”
書き心地はとても気持ちがいい、すらすら書けるし、仕様でインクが不要だ。
「よし、これで大丈夫だろう。じゃあ、城で情報収集して、あわよくば募集要項を返してもらいにいこう」
「そうだね、ハルトの一番の目標だもんね。じゃあ改めてレッツゴー!」
黒づくめのペテン師、彼とはいずれまた会うだろう。
彼は味方なのか敵なのか、
彼が敵で宿敵だとしても、好敵手であることをハルトは祈っている。切に。