第86話:地下宝物庫
サウザンドは、扉の前でざっと罠の確認を行っていた、ボニーも近くで成り行きを見ている。
魔法の罠はどうとか、パターンはとか、レクチャーしている。
「サウザンドさん、罠があります、魔法系の罠ですね。」
「おおっと、見落としたか。
魔力の痕跡をたどるのは難しいから俺のような熟練者でも見落とす事がある。
俺がサポートするから解除してみろ。」
「はい、この魔力回路を切ればいいんですね。」
「おう、慎重にな、そこ迂回して・・・。」
ボニーとサウザンドは10分ほど穴を開けたり、コネコネと針金を入れたりを繰り返し罠を解除したようだ。
お互いの手を打ち鳴らし成功を喜んだのも束の間、鍵の解除に取り掛かった。
長くなりそうだなと思っていると、後では深刻な顔をしたベニーとエステル、ビショップの僧侶勢が深刻な顔をしていた。
「巻物を使い果たしましたね。」
「リムーブカースの呪文を多く用意しておらん。」
「高レベルですから仕方ないですわね。」
狼男のベンが怒られた子犬のように小さくなっている。
マミーの攻撃を受けた所が風化して回復しないのだ。
他のメンバーを優先させて呪いを解除してあぶれたようだ。
彼の希望で最後になったとか。
「奇跡の指輪の力を解放しましょうか。」
「流石に勿体無いぞ。」
「そうですが、命に代えられないので。」
「神剣を手に入れたら地上に戻ればいいでしょう。」
目的地なので拠点に戻ればいいだろうとなった。
「オオカミさんいいとこあるじゃないですか。」
背中を叩きながら褒める。
「風化したところが取れるからそっとしてくださいっす。」
「「ははは」」
周りで笑いが起きる、皆緊張が解けているようだ。
『ガチャ』
「開いたぞ。」
サウザンドに頭を撫でられているボニーがいる。
「それ浮気ですね。」
「ば、馬鹿違うって、」
「バイオレットさんに言いつけますよ。」
「リク大明神様、マジで止めてください。ああそうだ、ボニーの腕前はいいぞ、センスがある『次元の鍵師』の技術も盗賊技能に通じる物がある。」
話題を変えるてきやがった、まあいいか。
「中に入っていいのか。」
マックスは待ちきれないようだ。
宝物庫で間違いないようだ、神剣は金銀財宝その中でも一番奥に設置されていたが、一番目立っていた。
入ろうとするマックスをエルフ従者が止めて、罠を確認しながら先導する。
テキパキと罠を確認する姿からエルフ従者はスカウトだったのかと思っていると、サウザンドが。
「なあリク、ジョバンニを見つけたんだろ、消えたと言っても3人目のセイントなんとかならないか。」
「アザーが滅びたときにジョバンニ処か、セイントの痕跡すらないんですから無理ですよ。」
「振り出しか。なあ、インテリジェンスソードよ。」
ギーとぺちゃくちゃお喋りしていた、剣は返事をした。
『我が名はソード・オブ・ジャスティスジャッジメント、JJとお呼びください。』
「呼ばねえよ。それより、アンデットナイトがセイントを発現した経緯を話せ。」
『アザー様と出会ったのは「出会いから話すな、要所だけでいい。」そうですか残念ですね。』
いいぞ、的確に突っ込むサウザンド。
『 アザー様は地下都市のダークエルフと死闘の末、第1位の司祭を葬りました、ダークエルフは身の危険を感じると脳食いと手を組みアザー様を捕らえました。
その後、拷問と洗脳繰り返しましたが、アザー様の心は折れることは有りませんでした。
しかし、蜘蛛の女神は生きているアザー様にアンデットナイトに変える呪いを使いました。
そして、生きながら蜘蛛に腸を喰われアンデットと化しました。』
サウザンドはまだ続くのかという顔をしている。
『私もそのときに取り込まれ、暗黒剣と化しました。
ここのダークエルフの宝物庫には神剣が封印されており、誰も使いこなせない物でしたが生きていないアンデットならば使えるのではないかと装備させたときに、神剣の力によりセイントの力を授かり正気に戻ったアザー様は周りのダークエルフを滅ぼしました。
その後この地は封印され、キングマミーと邪悪な波動で封じられました。
アザー様も神剣を装備し続けると肉体が崩壊することから神剣を戻しこの扉を守ることにしました、アザー様の意思を継ぐ者が現れるまで。』
「アザーからは邪悪な波動を感じたが、ここを守っていたのだな。」
『守っていましたがダークエルフは狡賢く神剣から余り離れられないのをいい事に邪悪な波動で少しづつアザー様の心を蝕み洗脳していったのです。
もう少しで完全にダークサイドに心を奪われるとこでしたが皆様が邪悪な波動を止めたので動く事ができました。』
宝物庫の奥では、「王子神剣です。」「これが神剣か。」などエルフ従者とマックスのやり取りが聞こえる。
そして悲鳴が聞こえる、悲鳴?
急に現れたエネミーマークには、超能力蛸男とある。
駆けつけると、神剣を持った蛸男とマックスは対峙していた。
エルフ従者は血だまりの中でもがいていた。
ステータス確認、サイキッカー17レベル。
蛸男はマックスが切りかかる前に超能力を発動する。
マックスはその場に倒れこみ喉を掻き毟る。
「が…息が、」
「フフフ、皆さん動かないでください、王子を殺しちゃいますよ。」
蛸男はマックスの頭を踏みつけながらけん制する、ミシミシと音がする。
「今日は、念願の神剣が手に入りましたので、気分がいいので皆さんを見逃して差上げましょう。」
「ま・・待て。」
蛸男は虹色に輝き消えた。
ヒューヒュー息をしているマックスがエルフ従者に這い寄る。
「パウロス、大丈夫か。」
「王子、私はもう一緒に旅ができません。」
「ゼーゼー、何を弱気な事を言っている。」
「私には分かるのです。」
エルフ従者の脇腹に刺さった短刀からは血だけでなく光が漏れている、そしてエルフ従者をどんどん光に変えている。
マックスは回復の呪文を指示するが、クレリックのエステルが首を振る。
「無理だわ、ただの傷じゃないわ。」
傷の具合を確認しているジェラが説明を補足する。
「分解の呪文と同じ効果のようね、このままだと肉体も残らず消滅するわね。
でも奇跡の呪文なら治せると思う。」
奇跡の指輪を使ったが、一時的に元に戻るだけ、短刀を抜かなければ回復させることができないようだが短刀はどうしても抜けなかった。
エルフの従者はどんどん光に変わっていく、薄く体が透け始めた。
光の流出は幻想的で綺麗だったが、パウロスの命の光と分かっているので全員顔をしかめて見ている。
「パウロスしっかりしろ。」
マックスは消えゆく体を抱きかかえながら涙を流している。
「頼む、だれか助けてくれ。」
装備すら完全に消え分解のプロセスが終了したかのように最後に短刀が光となり崩れ散った。
助けてくれと何度もつぶやいているマックスは動かない。
マックスの涙が落ちた所が虹色に輝く。
≪…な……おれに…いえ…と≫
「…なのか。」
うわ言のように虹色の光と会話をしたかと思うと急に立ち上がる。
「リク、奇跡の指輪を。」
リクは、言われるまま指から外してマックスに渡す。
先ほど1つ奇跡を使い残りが2つの宝石の指輪をマックスは装備して
「指輪よ回廊を開け。」宝石が1つ砕け散る。
虹色の輝きは大きく拡大して1mほどの大きさになると、中から薄く透き通った男が現れる。
精神体と誰かが呟いたのが聞こえる。
男は手を振りかざした、何かの力を使ったのだろうか急激にプレッシャーが増大する。
耳が痛くなる、気圧も上がっている。
気圧の上昇と共に金色の光も集まってくる、空間に散ったエルフ従者の命の光が集まっている様に、宝物庫の外から金色の光が急速に流れ込んで一つに集まった。
透明な男は握った手を開くと小さな光球が閃光を発した。
皆の視力が戻るとそこにはエルフ従者の姿があった。
虹色の輝きも、金色の光も、精神体の男の姿も無く、そしてエルフ従者は傷すら無かったように佇んでいた、ただただ静寂が辺りを支配していた。
リクだけは異常事態を理解していた。
エルフ従者の種別に(副種別:セイント)が付き、ヨハネ・パウロスの名前は、ヨハネ・ジョバンニ・パウロスと成っていた。
「セイントが発現している。」
「「え!」」
リクの指摘は皆の驚きで迎えられた、マックスを除いてだが。
「そうだ、セイントの力は未来からの贈り物だ。」
エルフ従者は目を開き続ける。
「そうです、アザー様の中にあったセイントの残留エネルギーと未来からのセイントのエネルギーで生かされています。
現在の私は生と死を同時に内包しています。」
今度はマックスが言葉を続ける。
「つまり、あの『怪人蛸男』から神剣を取り戻し、時空の宝珠を使って過去に戻りパウロスを復活させないといけない。
それができなければ、パウロスは死ぬしセイントも手に入らない。」
「それができなければ世界は悪に大きく傾くでしょう。」
誰も話の急展開に頭がついていってないが、リクだけはSF物の知識で理解していたので指摘をした。
「失敗するならタイムパラドックスが起こる、君の蘇生は絶対成功するんじゃないか。」
「そんな事はありません、私の復活は細い道なのです。『同一のアイテム』と『人の力』が無ければ成功しません。」
エルフ従者の説明では、同一のアイテムとは『奇跡の指輪』で回廊を開くにしても同じアイテムの必要があり、残り1個の奇跡が封じられた指輪はマックスがその時が来るまで預かる事となった。
人の力とは、拡散したエネルギーを強引に集めることが出来る者、リクと同じ時期に転移した3人の超能力者の力が必要とか。
あと、『神剣』や『時空の宝珠』この2つは絶対外せないと言っている。
その説明はタイムパラドックスを説明してないよと思ったがリクはあえて突っ込まなかった。
しかし、この世界に転生させられたのは偶然じゃなく必然なんだと肌が泡立ったがこの事についても誰にも話さなかった、代わりに。
「シュレーディンガーのパウロスさんよろしく。」 と挨拶だけした。
パウロスは「シュシュ?レデ?」と困惑しているが無視した。
こうして神剣の捜索は新たな局面を迎えることとなった。
異世界冒険 218日目




