第85話:キングマミーとの戦い
異世界の商人が帰ってからは、あれは誰だと偉い人達に説明を求められたり、魔法のアイテムを補充したり、税金を治めたりと早々と時間が過ぎて行った。
フレデリックとラント2人では人手が不足している。
「パソコンが欲しい。せめて電卓だけでもあれば。」
売上げの書類の山に顔を埋めて現在は机に突っ伏している。
「旦那が来てくれて助かったよ。」
ラントとフレデリックも同じように書類と格闘中だ。
「マリーヌ達がいないとダメだな。」
「宿や店は従業員がいるのでなんとかなりますが、事務処理は流石にまだ無理ですね。」
「商業ギルドのマスターに人を派遣してもらうか。」
「うちの内情を全部知られますぜ。」
俺は脱税とかする気はないが情報が流出するのは嫌だな。
「仕事が多いなら店を閉めるか。」
「死ぬほど働けと言われた事は有りますが、休めと言われた事は無いですね。」
フレデリックは呆れた表情で俺を見るが過労死されたら困るからな、ついでに俺も休みたい。
「決まりだな、リフレッシュ休暇で店は閉店、従業員にも臨時ボーナスを出して順番に休ませてくれ。」
---数日後---
店を閉店して現在は宿だけを運営した、マックス王子達も撤退が完了して2チームを合流させた。
ダークエルフの襲撃も合流した事で俺のヘルプすら必要なくなり快進撃を続けている。
ある段階でダークエルフの襲撃が無くなった。
マップ上を確認すると少数の部隊が活動しているので諦めてないようではあるが。
そうそう、日本人の転移者チームからアイテムが送られてきた。
『ドワーフの7つの秘宝』の1つが回収され残りのアーティファクトは2つ、添えられた手紙には『次は砂漠に行く。』とだけ書かれていた。
このペースなら直ぐに揃ってしまうんじゃないか、俺達も神剣の探索ペースを上げなければならないな。
丁度そんな事を考えているとマックス王子から連絡が入る。
「地下の風景が変わった、アルトシュタイン城の地下迷宮に入ったようだ。」
「ご苦労さんです。」
地下で最も栄えているのはダークエルフだ、この地方全体に張られたダークエルフのエリアの一部がここまで延びている。
しかし、ここから先のエリアはダークエルフ以外のモンスターも出てくるだろう。
他の魔物との戦闘も視野に入れて行動する必要が出てきた。
なぜなら、多くの国は過去の遺跡の上に国を作っている事が多い、遺跡の発掘で人が集まりそこから国が出来ているからだ。
アルトシュタインも例外なく、地下には大きな遺跡の上に作られている。
そして、この国も下水を地下に垂れ流している、これによって地下は富栄養化が進み様々な魔物が住み付いている。
強力な魔物も他の地下と比べると多くなり、遺跡調査には戦力が必須となる。
まあ、地下が悪臭漂う場所じゃ無くなっているのは、掃除屋と呼ばれる魔物が綺麗にしてくれているからでもあるが遺跡の発掘に支障が出ているので本末転倒はなはだしい。
「魔物が増えているはずです、こちらでは知覚出来ませんので気をつけて。」
「分かった、注意して進む事にする。」
マックス王子が次元リングのリンクを切る。
中立の魔物はエネミー識別で反応しない、近づくと急にエネミー反応が出るので不意打ちに気をつけなければいけない。
エネミーサーチのアプリは敵意がないと反応しないので困る、あと幽霊など消えている敵も現れないと反応しないのでこれに頼りっきりになると不意を討たれる。
---半月後---
魔物の数を正確に把握できなかったが、問題は無かったようだ。
半月後には地下の奥深くの神剣の眠る地点まで進む事ができたからだ。
俺は今人工的に作られた迷宮の中に呼び出されていた。
こんな綺麗な地下道があるなんて驚きだ。
「リク、この先に神剣が眠っている。」
「昔の城だろうな。お、リクも来たか、この先に宝物庫がある。」
地図を片手にサウザンドが戻って来た。
一時休憩していた人物が急に立ち上がる、立ち上がってもちっこい子供くらいの種族のギーだ。
「では、我が先祖の剣もこの先にあるのか。」
「ああ、多分。」
「多分?剣を発見したのか」
言い難そうにサウザンドがギーに答える。
「お前と同じぐらいの大きさの骨の剣士が禍々しい剣を持っていた。」
「フォールダウンか。」
「多分な。」
よく分からなかったので、ベニーに聞く。
「フォールダウンってなんなの。」
「天使や聖騎士が、堕天使や暗黒騎士に堕ちる事を言います。」
「逆は有るのか。」
「そのような事例は聞いた事が無いですね。」
堕天使や暗黒騎士が元に戻る事は簡単でないようだ。
ベニーと話をしていると戦闘の方針の話を振られるが、「精霊とかを呼び出して物量作戦で良くね。」と答えておいた。
太陽神の僧侶エステルが今回は戦闘指揮を取る事になった。
彼女のターンアンデットは加護の力で滅却になりアンデットを燃やし尽くす。
つまり、アンデット戦の経験が多いからだ。
宝物庫に進む、『真夜中の焚き火』を先頭にマックス王子のパーティが補助、殿は自分のパーティで、サウザンドのパーティが予備兵の構成だ。
剝げ落ちているが進む度に壁の装飾が豪華になっているのが分かる、昔は煌びやかな所だったのだろう。
大きな空間に出る、かなり明るく一番奥には馬に乗った小さな剣士が居た、ただし、人も馬も甲冑から骨が見えているのでアンデットと一目でわかる。
一歩進み部屋に入ると禍々しい気配に変わった、全身から汗が噴出す。
「嫌な感じだな。」
「あれから強力な邪悪な波動が出ています。」
ベニーは部屋の中心の宝石を指差す。
「あれを解呪すれば邪悪な波動は無くなりますが、そう簡単には解呪させる気は無い様ですね。」
中央の石棺がゆっくり開く、左右の石棺からも開く音が聞こえる。
中央からはツタンカーメン?の様な、豪華な装飾と共に起き上がるミイラ、包帯は丁寧に巻かれていて保存の良さが良く分かる。
左右の石棺からは武器をもったミイラが無数にゆっくりとした足取りで歩み寄ってくる。
マップを確認すると一番奥はアンデットナイト、石棺から出て来たのはマミーとキングマミーとなっている。
「一番奥はアンデットナイト、中央のやつはキングマミー、左右はマミーだ。」
「キングマミーですって。」
「アンデットナイトもやばいわ。」
エステルが青ざめる。
「前衛は邪眼による麻痺に気をつけて、麻痺した者が出たらサポートチームと交代して。」
「「おう。」」
「キングマミーを優先的に撃破、魔法は火をメインに使用して。」
「了解。」
ギーが山羊の像を起動して乗る。
他のメンバーは『魔法の袋』から取り出したフィギアを前に投げる。
フィギアはむくむく大きくなると本物と区別がつかない虎や熊などの獣に変化した。
俺は火鉢に硫黄を入れて火をつけ火のエレメンタルを呼び出す。
エステルは太陽神の聖印を突き出すと、1体のマミーが燃え尽きる。
「・・・1体だけ。」
「スケルトンやゾンビなら10体は焼けるんです、それだけ強力なアンデットなんですよ。」
俺の呟きにエステルが口を尖らせて反論するがそれど頃じゃ無くなる。
キングマミーが両手を挙げると前後にクイーンマミーが現れた前門のクイーンマミー後門もクインマミーってやつだ。
綺麗なドレスを纏ったクイーンマミーはさらにマミーを呼び出す、呼び出したマミーは包帯がめくれかけて状態も悪いのが救いだろう、武器も持っていない。
「あのマミーは劣化仕様かな。」
「あの呼び出されたマミーが基本的なマミーです、他のマミーは上級のモンスターです。」
俺の考えが甘かったようだ。
パーティにも緊張が走る、クイーンマミーがもう一体マミーを呼び出したからだ。
「おいおい、無限に増えるのかよ。」
エルフ従者が答える。
「余り参考にならないかもしれませんが、旧王朝の紋章ですね。たぶんライセン統合前の最後の王だと思われます。お后様は2人でした。」
「つまりどう言う事だ。」
「これ以上クイーンマミーは増えないと思われます。」
「それってマミーは無限に出て来るって事だよな。」
エステルは作戦を変更して、中央の宝石を解呪する事にした。
宝石の邪悪な波動がアンデットを活発化させているからだ。
突破力がある俺たちがつゆ払いをして宝石までの道を作り、サウザンド達は宝石の解呪を担当する。
『真夜中の焚き火』団は後方に移動した。
キングマミーとアンデットナイトの動きを見てマックス王子に対応するようにエステルが指示を出す。
指揮は任せて自分は与えられた仕事に専念する事にした。
マリーヌとボニーによってワンド・巻物からファイヤーボールが開放される。
武器を持ったマミーが火に包まれ、宝石までの道が出来る。
(完全に破壊できてない数体はサウザンド達に任せる。)
2体目を召還したクイーンマミーをどうにかしたい。
「メルカバ、スカーレット前衛を排除しろ。」
「グヲォー」「了解」
メルカバは野獣の咆哮を上げるとジャララと鎖をマミーに叩きつけ、そのまま鎖を絡めて引きずり倒す。
スカーレットはマミーの攻撃を避けながら火を噴き火達磨にする、あれは『火吹きポーション』だな。
クイーンマミーは何か唱えたが中断された、アンデットながら戸惑いの動きを見せる。
ベニーが静寂の呪文で封じたからだ。
火の精霊を強引にクイーンマミーに突っ込ませる。
竪琴が搔き鳴らされる、『勇気鼓舞』の呪歌だ心の底から勇気という熱い塊が沸き出て来る。
そのおかげか、マミーの恐怖の視線による被害は出ていない。
今の状態で俺にできることは少ないのでメルカバのサポートをする、弓でマミーを攻撃すると灰に成って崩れ落ちた。
少し余裕ができたので、周囲を見ると燃え上がり動きが鈍ったマミーにボニーが止めを刺している。
クイーンマミーは火の精霊が殴り倒してマウントしている。
受け持ちの分は片付いたようだ、急に部屋の雰囲気が変わったので宝石を見るとサウザンド達が宝石の邪悪な波動を聖なる波動に上書きしていた。
青く輝く宝石はアンデットの力を一気に削いだ、見るからにアンデットの動きが鈍くなる。
後方を守る『真夜中の焚き火』団は増え続けるマミーに手を焼いていたが聖なる波動でマミーの動きが鈍ると殲滅速度を速めてクイーンマミーに迫っている、手助けは必要ないようだ。
マックス王子のパーティはキングマミーと戦っている。
苦戦しているようだった、狼男も、リザードマンも武器を持ったマミーにてこずり攻撃を受けている。
しかも、攻撃を受けた箇所は呪いの効果で風化して回復を受け付けない、もし致命傷を負えば生き返る事も困難な状態まで崩れて風化してしまう。
マックス王子もキングマミーの攻撃に弾き飛ばされ床に尻餅をついている状態だ。
助けに行こうとしても、距離が遠く間に合わない。
キングマミーの杖が振り下ろされる。
影から飛び出したサウザンドが盾で受け止めるが杖が光り発生した衝撃波で膝をつく。
サウザンドは頭から血を流しながらも盾を押し戻そうとするが、ビクともしない。
キングマミーは邪悪な笑みを浮かべている、余裕でサウザンドを押し潰す。
再度杖が淡く光り誰もがダメかと思った瞬間、キングマミーの胸に剣が生えた。
キングマミーは後からアンデットナイトに刺し貫かれていた。
キングマミーは杖を振りかざし衝撃波をアンデットナイトに打ち込むと、アンデットナイトは衝撃波で壁に叩き付けられた。
キングマミーを刺し貫いている剣は強く輝き、『血を引き継ぐものよ、我を取れ。』と発声するとパラディンのギーが同じように光り輝く。
ギーは手綱を引くと反転してキングマミーに走りだした。
キングマミーは杖を振りかざそうとするが体が動かない、赤い光の目だけ下に向ける。
サウザンドが短剣をキングマミーの影に刺している、『影縫い』で縫い付けているのだ。
「おい、ギー早く来い数秒しか持たんぞ。」
ギーは山羊から飛び降り、刺さった剣に手をかけキングマミーを切る。
『グォォォー』
呪いの叫び声と共に崩れ落ちると休息に風化した。
『流石でございますな、血を引く者の力見せていただきました。』
「聖騎士アザーの剣で間違いないな。」
『左様でございます、呪いの力で永きをここに閉じ込められておりました、開放されれば悪を撃ち滅ぼすため力に成りましょう。』
俺達が残りのマミーを殲滅するまでアンデットナイトは動く事はなかった。
全員の回復も終えアンデットナイトが守る宝物庫の入口に集合する。
アンデットナイトのステータス確認をする。
ステータスオープン、名前:アザー・ジョバンニ・ソードゲイル 種別:アンデット(副種別:セイント)秩序・悪(秩序・善)ステータス・・・・。
よく分からんがジョバンニを見つけた、アンデットとセイントの2つの相反する能力を内在しているようだ。
「セイントの副種別を持っている。
しかも、名前はアザー・ジョバンニ・ソードゲイル、つまりジョバンニを見つけた。」
ギーが驚いて言う。
「祖父の名前はアザー・ソードゲイルです。」
「ギーこのアンデットナイトはお前のおじいちゃんだな、たぶんセイント化したときに名前が増えたんだろう。」
『そうでございます、アザー様はダークエルフの呪いによりアンデット化しました、単身ダークエルフの城に突入し力及ばす捕らえられ、語るも涙の話なのです。』
「おい、その剣鞘に入れて黙らせろ、ずっと喋ってるじゃないか。」
イライラしたマックス王子がギーに言う、剣は文句も言いながらも鞘に入れられると静かになった。
「リク、アザーは味方か敵かわからんのか。」
「俺には分かりませんね。」
近づくと、虚空の目玉に火が灯る。
ガクガクと震えると骨の手を伸ばす、グッと手を握るようにしている。
「王子、宝石が。」
「まずい、やつを止めろ。」
後で悲鳴が起きる、見ると中央に設置されている宝石に亀裂が入り粉々になった。
『宝石の力を奪わせてもらった。そして、何人も、ここを通す事はできない。』
アンデットナイトいや、アザーは両手を合わせると黒い光が手の間から発生し剣となった。
しかし、俺はステータスが、種別:セイント(副種別:アンデット)に成っているのに気がついた。
「正気になったのでしょ。」
『うむ。だが、この奥の剣は何人にも渡すことはできない。人には過ぎた代物。』
「どうしてもその剣が欲しいのですがね。」
『ならば力を示すがよい。』
ギーが前に出る。
「おじい・・・いえ、聖騎士アザー、『長年連れ添った私と貴方の孫で貴方を解放して差し上げましょ。思えば、アザー様が神の啓示を受け・・・』」
おい、ギー、良い所剣に全部取られてるんじゃないか。
ギーは剣を鞘に戻すと、1つ咳払いをして、「私がお相手します。」と言った。
『ギーか、大きくなったな。来るがよい。』
ギーとアンデットナイトの戦いが始まった。
ギンッと剣と剣が打ち合い、お互いの鎧が弾け飛ぶ、双方の強力な魔法の剣は衝撃波でも鎧を簡単に削りダメージを蓄積させていく。
肩で息を切らせているギーは剣に「さっきみたいに光るやつやってくれ。」と話しかける。
『アレは、7日に1度しか使用できません。』
間単に断られたな。
マックス王子が俺に耳打ちする。
「なあ、ギーの使っている剣って俺達の使っている剣より弱くないか。」
「純粋な魔法の剣として比べると+3だから弱いな。」
あ、ギーが倒れた。
『まだまだ修行が足りん。』
マックス王子は剣を抜き構える。
「だが1対1で戦うだけが戦いではない、パーティで当たらせてもらう。」
『よかろう。』
アザーの影が立ち上がり人の形を成す、その数3つ。
2つの影はマックスパーティに急速に接近する。
ドワーフ従者が1つの影を受け止め、リザードマンがもう1体の影を受け止める。
アザーは馬型の影に乗り突撃のポーズをとる。
マックスは慌てずフィギアを取り出し前に投げる、人形はみるみる大きくなり軍馬となる。
鞍に手をかけ騎乗し剣を受ける。
『やるではないか。』
「そこらの魔法のアイテムとは格が違うのだよ。」
3度打ち合うと、エルフ従者からの援護射撃が絶妙なタイミングで放たれる。
魔法の矢はアザーを打ち抜くと光と炎が爆発し大きな穴を開ける、人間なら即死のダメージだ。
マックスはエルフ従者を絶妙な位置取りで隠蔽し、再度狙撃させた。
剣で打ち合い動きが止まったときには既に矢は放たれ、光の線を残しながら同じ箇所に矢が刺さる。
爆発と共にアザーは落馬し動かなくなった。
『見事だ、しかし、お前の力で勝ったのではない、仲間と武器の性能のおかげだという事を忘れるな。』
「ああ、分かっている。」
『ワシもその事が分かっていれば・・・ギーよ仲間を大切にしろよ。』
「はい、肝に銘じます。」
『最後に孫に会えてよかった・・・王子よ孫を頼んだぞ。』
魔力を失い急速に時間が進んだのだろう、アザーは光を発すると黒い灰と成って崩れ落ちた。
後はこの宝物庫か、って既にサウザンドが罠の解除と開錠を平行して行っていた。
異世界冒険 208日目まだ冒険は続く




