第84話:異次元の商人
リクは、シェルの町に蛸男の呪縛から開放した衛兵を送り届け感謝された。
この町の衛兵のレベルは3ぐらい、6レベルに成っている彼らはそのうち高度な役職を与えられる事になるだろう。
スパイかどうか調査される事はあるだろうが優秀な人材は何処も欲しいはずだ。
怪人蛸男は魅了した兵士を戦わせ強い個体を作り出す方法を編み出している、本当におぞましい方法で高レベルの戦士を作り出している。
「蠱毒か。」
1人ごとを呟きながらリク製作所に戻る。
女性従業員が急いで出てきて手を引く、引かれた先には異形の輩が席に座っていた。
余りにも異形すぎて周りの客も引いている、ここに来るお客はそこそこレベルが高くちょっとやそっとじゃ驚かないやつらばかりなのにだ。
3mを越える大男、紫を基調とした服や身に着けているアクセサリーには高級感がある、そして連れている光輝く僧侶と、カエル顔の魔法使い、そして、犬顔の戦士。
あれ?この戦士を俺は知っている、えーと確か。
「ハウンドさんですか。」
「久しいな、あの時は世話になった。」
「確か、魔法のアイテムを取引しただけで世話なんかしてないと思いますが。」
「アレがなければ、あの次元界に囚われて出れなくなっていただろう。」
「そうですか、良い買い物だったのですね。」
犬の戦士と握手を交わす。
「今日は天使の輪が無いですね。」
「まあ、普段は目立つからな、天使の輪や後光は解除している。」
「ハウンドちゃん、そろそろ紹介してもらえないかしら。」
退屈そうに見ていた紫の大男が言う。
「そうだったな、こちらはアンプワーク氏『始りの街』の商人だ。」
「アンプワークよ、よろしく。」
ウインクしてきた。
彼曰く、『始りの街』でハウンドの持っている装備を見て何処で購入したか気になり聞きいたが分からないと言われ、よく見るとエルフ語でリク製作所と書かれていた。
調べた所、『真実の図書館』に来た人間と同じだと判明した。
そして、この次元界に来たらしい。
ハウンドは一度、礼を言いたくて護衛の依頼を受けたとか。
「この物質界まで来るのが大変だったんだから、あなたの同郷には邪険にされるし。」
「同郷?邪険?」
アンプワークは懐から手紙を出して俺に手渡す、内容は日本語で『怪しいおっさん達がお前の秘密を狙っているかもしれない気をつけろ。byカンザキ』だった。
何秒か止まっている俺を満足そうに眺めてから、「リードランゲージの呪文があるのにね。ふふふ。」と言われた。
この世界ではどんな言語も理解できる翻訳呪文が有ったので、当然同種の魔法道具もある。
「失礼しました、彼に代わって謝罪させてください。」
「いいのよ、あなたから見たら怪しいものね。ただし、商談は誠実にお願いするわ。」
「はあ、商談と言っても何が欲しいのですか。」
アンプワークはキラリと目を光らせると、俺の店の商品のリストを見せた、いつ作ったんだこいつ。
「魔法のアイテムよ。こんな小さな町でここの商品が売れると思ってるの。」
「小さい町って・・・この辺りで最大規模の都市ですけど、まあ確かに売れ筋は金貨1000枚以下の商品がメインですね。
高い品は売れていませんがこれで儲ける気は無いので良いんです。」
「私なら金貨10万相当のアイテムでも売りさばく事が出来るわ。あの飾ってる武器凄いじゃない、でも魔法のダガーって人気が無いのよね、それでも私なら捌けるわ。」
でかい体を乗り出して話すと机を挟んでも俺の目の前に顔がある。
余りの迫力に黙っていると、ハウンドが話に割って入った。
「アンプワークは、『始りの街』の商人を生業としている種族だ、そして『始りの街』は全次元界で1番大きな都市だ。商品でこの種族に認められること自体が名誉な事だ。」
確かに『始りの街』は大きかった、1区画歩くだけでも30分ぐらい必要で、目的地に行くには馬車を雇うかポータルを使うかのどちらかだった。
そんな大きな都市で商売をしているれば幾らでも買い手を探す事ができるのだろう。
「じゃあ、売るとして条件は。」
「仕入れ値は売値の7割でいいわ、ただし、品物をうちに届ける条件でよ、うちが引き取り来るなら6.5割ね。支払いも現金一括払いなら6割って所でどう。」
魔法の品の卸値としては一般的な金額だ。
一般的に魔法の品は半分が材料費と相場が決まっている、1割が人件費で残り1割が利益。
店は3割の利益を乗せて売る。
店の利益と言ってもそこから店も場所代などの経費がかかるので手元に残るのは1割ぐらいだ。
うちの商品は材料費が異常に安いからこれでも十分利益が出るのだが足元を見られるのは面白くない。
「うちの利益が無いんですが。」
「支払い条件が一括現金払いじゃなければ6.5割いいわよ、次の月に半分残りは3ヵ月後でどう。」
90日手形かぁ。
「早く売る力があるなら2ヶ月にしてもらえませんかね。」
「あら、ちゃんと内容を理解しているようね、この次元には金融システムなんてなかったと思ったのに。まあ、妥当ね。」
目を細めるおっさん、ニコッと笑って俺にウインクしないで欲しい。
「引き取りに0.5割は、ぼり過ぎだと思う所もありますが、こちらに危険が無いのでその条件でいいです。」
「あらやだ、そこまで考えてるのね、うちに働きに来なさいよ。」
「お断りします。」
「ふふ、まあいいわ。」
握手をして商談成立、あとの細かい所はフレデリックとラントに任せた。
出来るだけ豪華な食事を振舞い一番高い部屋に通した、やれやれ急な客人で従業員も驚いただろう。
夜になって、フレデリックが呼びに来る。
「旦那、夜遅くすいません。」
「どうした。」
「アンプワークさんが酒に付き合えと呼んでいます。」
「マジか、めんどくさいな。」
既に結構な量の品を買って貰っているので無下拒む事も出来ない、いやいや酒に付き合うことにした。
行くと、既に気持ちよく出来上がっているおっさんが居た。
既に蛙の魔法使いが酒を飲んで潰れているが残りの2人は警備の為に飲んでいなかった。
いや、光輝く僧侶は食事自体していなかったな、どんな構造しているんだかそちらが気になる。
「あら、いらっしゃい、いい宿じゃない。風呂も綺麗でよかったわ。」
それから1時間ほど飲みに付き合い、魔法のアイテムの話になった。
「もっと、いいアイテム無いのかしら。」
「売れないのでデットストックなら有りますが見ますか。」
「いいわ、持ってきて。」
すっかり酔っていて、『お前の秘密を狙っているかもしれない気をつけろ。』と忠告された事も忘れていた。
自分の部屋に戻って、錬金機器の前に座る。
ダガーでは人気が無いと言われたので、ロングソードやショートボウ+5をちゃちゃっと15本ほど作り、バックに突っ込む。
既に作ってある付加を乗せれるだけ乗せた武器や防具、『稲妻の杖』に『発見のランタン』を合成したアイテムなど、高額商品も詰め込む。
酔った勢いで発見のランタンのスイッチが入り光が部屋を明るく照らした。
俺の真横で、興味深そうにパネルの画面を覗き込んでいる裸の女性がいた。
目が合う、女性は画面に顔を戻し、再度俺と目を合わす、俺の視線に気がつき不思議そうに首をかしげた。
「あのーどちら様で。」
「あ、ごめんなさい、部屋を間違えたのかしら。」
パイプオルガンのような声で囁くと、テレポートの擬似呪文能力を使用してぱっと消えた。
あの女性はシルエットからして光輝く僧侶だろう間違いない、エロい体だと俺は横目で眺めまわしていたからな、酔いが一気に醒める。
毒消しポーションを飲んで、アンプワークの部屋に行く。
『バーン』戸を乱暴に開ける。
「あら、ばれちゃったみたいね、ごめんなさい。」
「どういうことですか。ハウンドも知っていたなら止めてくれよ。」
ハウンドは言い難そうに「すまない。」とだけ言った。
僧侶は既に服は着ているが、わずかなに光りながら頭を垂れている。
「見て来てと頼んだのは私だけど彼らは彼らの命令で動いているのよ。」
「命令?」
「そうよ、ハウンドちゃんやランタンちゃんは神からの命を受けて動いているの。」
ランタンちゃんとはこの僧侶この事だ、本来は天使の種族名を指すようだが、この天使は天使テンプレートに8レベル僧侶が付属している。
ハウンドが天使テンプレートに11レベル聖騎士が付属しているのと同じように普通の天使よりも高レベルな、つまり英雄なのだろう。
「はあ、それはどんな命令ですか。」
「特異点の捜査です。」
僧侶が俺の質問に答える、心なしか光が消えそうだ。
「また特異点ですか、特異点て何なのですか。」
ハウンドとランタンが目を合わせて何か頷く。
「リク殿、盗み見するまねをして本当にすまない、特異点とはターニングポイントとなる現象がこの世界に顕在化する事だ。
この世界が悪に傾くときにそれを打ち破るために神が呼び寄せる人物や物だ。」
「物って事もあるんですか。」
「各次元界に散らばるアーティファクトは神が呼び寄せた物と言われている。」
「悪に傾くってそれほど、強力な悪が近くに居るように感じられませんが。」
「いや、些細な事で大きく歴史が変わる。実際にリク殿がオーク軍を撤退させた事でランスの国が滅びずにアクシビルの国の力が大きく減少した。」
何か違和感を覚える。
「初めてハウンドと会ったときはそんな事言っていなかったよね、俺が特異点てどうやって知ったんですか。
それに捜査ってなぜ捜査が必要なんですか、神が呼び寄せた人物を助けろなら分かるけどなぜ捜査なの。」
「神と言っても1柱ではない、さらにその神々を作った大いなる神がいる、その大いなる神があなた達を呼び寄せたのだ。
現在は大いなる神と通信する手段が無いので、現象が生じてからしか知ることが出来ないのだ。」
現象って何だと思っていると、僧侶が補足する。
「現象とは、歴史の流れが大きく変わる点の事です、この世界には善と悪の神々が争っていますが神は未来視を持っているのでなかなか大きく歴史を変える事は出来ません。
流れを変えても再び流れが戻されるという戦いを続けているのです。
ランスの国もアルトシュタインの国も最近の予言ではアクシビルの国に滅ぼされると成っていましたが生き残ったのが確定しました。」
「確定したってのは事実なんですか。」
「オーク軍が壊滅した時点で確定しました。」
余程自信がるのだろう、ハウンドも頷いている。
「捜査と言う点に話を戻すとだな大いなる神は2柱いる、どちらの神が召還したかつまり特異点が善か悪かどちらかを確認する為にに遣わされた訳だ。」
「で、結果は?」
「リク殿と、もう1人のカンザキと言う男どちらも悪ではないし、悪にそそのかされている訳でもないと結論付けた。」
面白くなさそうに聞いているアンプワークは「そろそろいいかしら。」と話を遮った。
「リクちゃん、あなたが作った武器はほぼ全部神聖の付加がされているのよね、『始りの街』に大量に流れれば勢力図が変わるかもしれないわよ。
簡単に作れるならもっと安く売りなさいよ。」
「情報を盗み見た人に言われたくないですね。」
こんなやり取りをしていると、連絡用の次元リングが起動する、マックス王子からだ。
「リク起きているか。」
「どうしました。」
「すまない、蛸男の集団が手レポートして来ている。」
「大丈夫ですか。」
「撃退したが、何体か逃がした。こちらの戦法を相手に知られた、巻物の数も不足している。」
次はエレメンタルや、魔法の人形を使った戦い方の対策をしてくるだろう。
「どうしますか。」
「この道は諦めて撤退しようと思う。」
「分かりました気をつけて。」
「ああ、エレメンタル召還や魔法の罠を起動しながら撤退する。」
余程急いでいるのだろう、通信はここで途切れる。
マップを確認すると確かに蛸男が次々テレポートしている。
マックス達のマーキングが急激にスピードを上げて撤退しているのが分かる、まあ大丈夫な感じだ。
「すいません、緊急事態だったので。」
「ふーん、ねえ蛸男と戦っているの?」
「蛸男達の集団の近くを通ったから邪魔しているんじゃないですか。」
「彼らは、そこまで執念深くないわよ。何か有るんじゃない、例えば悪の神が特異点の行動の邪魔をしているとか。」
「つまり俺が原因ってことですか。」
「分からないわよ、例えばって話よ。」
確かに最近蛸男とか、ダークエルフに立て続けに襲撃を受けている。
「ねえ、リクちゃん、蛸男の集団の規模を調査しなさいよ。」
「どうしてですか。」
「それはね、あいつらの都市が行方不明で探している者が存在するからよ。
小さな町レベルでも結構な情報になるのよね、恨みって怖いわね。」
俺は、懐から地下の地図を取り出す、蛸男だけのエネミーマークを地図に記した地図だ。
「こんなでいいのかな。」
「祖先の脳があるってこれビンゴじゃない、蛸男達の真の都市よ。
待ってこれどうやって・・・やっぱり特異点者の能力は異常よ。
この情報を私に預けなさい、あなたの能力を盗み見したののお詫びに蛸男達を何とかできるかも。」
「なんとかしてくれるなら、幾らでも持っていってください。」
地下の地図を3部ほど渡す。
リクが退室してから、アンプワークはハウンド達に語りかける。
「あなたの能力、物を作るって事は理解できたけど多機能すぎて理解できないわね。」
「そうですな。」
「それに商売人としても甘いわね、この地図売りますといっても高値で買ったわよ。」
「まあ、恩人なのでお手柔らかに頼みます。」
「ふふふ、そうね搾り取る心算はないから安心して。」
---翌日---
他の高価なアイテムもかなりの数を購入して次元移動の呪文を使って帰って行った。
ハウンドとランタンはアンプワークを送っていってから自分の次元界に帰って報告をするようだ。
気になることは、帰り際にハウンドに「ランタンに気にいられたようだな。」と言われたことだ。
つい最近個としての意識を与えられ初めて意識した異性のようだって、どう考えてもトラブルの素にしか思えないのですが。
ランタンは体の発行を消すと見えなくなる特技が有ると教えてくれたが、そちらよりテレポートが自由に使えるって事の方が重要でしょって思うのは俺だけか。
どじっ子で天使ってトラブルメーカーな気がする、今日の事は頼むから忘れてほしい。
異世界冒険 198日目




