第75話:地下迷宮に行く為の準備2
正装のタムールが馬車から降りてくる。
「お久しぶりです。」
「今日は馬車なんですね。」
マリーヌが俺の袖を引っ張る。
「これ、貴族専用の馬車です、本物かは分かりませんが。」
「本物ですよ。」
タムールは優雅にドアを開けて促した、傍から見ると貴族の従者にしか見えない。
乗込みしばらくすると大きな屋敷に着く、引き止められると思ったが門番は敬礼して微動だにしない、問題なくパスした。
マリーヌはこの都市でもかなり大きな貴族の屋敷だと教えてくれた。
「リク様、今日のことはくれぐれもご内密に。」
タムールはそんな事を言いながら屋敷内を案内する。
屋敷の主人が挨拶に来るが一方的に話をしたらどっかに行ってしまった。
晩餐会で会った事があるようだが余り覚えていない。
正直言うと彫りの深い顔は一部を除いてどれも同じように見えてしまう。
マップの端からマーカがもの凄い早いスピードで接近してくる。
確認するとワルザーだった、かなり早いペースでだ、俺の前に来る時には歩いているので急いでいた事を隠したいようだ、相手に合わせ知らない振りをする。
「やっと例の指輪を手に入れたか。」
「はい、手に入れるのに苦労しましたがここに用意しています。」
小さな箱をワルザーの前に置く、ワルザーが手を伸ばしたときに声をかける。
「確認しますが、悪い事には使用しない事とバニラを冒険に連れ出す許可が対価でいいですか。」
「俺に二言は無い。」
「バニラは指輪何個分の価値で計算すればいいでしょうか。」
「?、タムールこっちへ。」
タムールと何か話をしている。
「冒険に連れ出す事と、バード跡地の復興協力で指輪2個分だ。」
「了解です。」
タムールが箱を開ける。
「確かに物は収めましたよ。指輪は3つです、指輪2つはバニラの貸し出し援助で等価交換、残り1つ分の代金は割引も入れて金貨88000枚です。」
マリーヌの含めて3人が驚きの表情を浮かべる。
「こいつは、『3の奇跡の指輪』か。」
「?」
「『1の奇跡の指輪』ですら珍しいのです。」
タムールは説明する。
そう俺が用意したのは、1の指輪で奇跡や願いを3つ叶える事が出来る指輪だった。
「お前馬鹿だろ『1の奇跡の指輪』ですら高価で手に入らないのに『3の奇跡の指輪』を2つも等価交換だと、後で返せと言っても返さんぞ、それともバニラが気に入ったか?」
呆れた顔のワルザー、酷い言われようだ。
「俺のアイテムが予想以上に高価なのは大体想像しています。それに、お客様の満足は予想の上をいって初めて成立します、気に入ってもらえたでしょうか。」
「気に入ったも何も、タムールも付けてもいいぞ。」
「ちょっと待ってください、誰があなたをお守りするのですか。」
タムールが慌てるがワルザーは鼻で笑う。
「俺は実際にこの指輪を使うまでこんな馬鹿げた商談を出来事を信じない。本物か確認したい今指輪を使用するぞ。」
「どうぞ。」
ワルザーは指に指輪をはめる、ゴツゴツした金ピカ宝石の指輪をしても違和感ないのが盗賊ギルドのボスだけある。
ワルザーは指輪を起動する。
「俺の目が白く濁る前まで若返らせてくれ。」
指輪が赤く光り2つの宝石が砕け散った。
光が収まるとワルザーは「おお、目が見える。」と呟いている。
白内障だった目は黒く輝き、筋肉量も増えているようだ。
「2年前に患った病気が直った、どうやら1つの奇跡の効果で1歳を若返らせる事ができるようだな。」
残りの指輪の効果を使用して50代半ばの歳まで若返る。
体からは危険なオーラが滲み出して強さの桁が変わったようだ。
「タムールどうだ今の俺に護衛が必要か。」
「必要では無いでしょうが、手足となる部下は必要です。」
「すいません、お代はいただけるんですよね、もうお前は用済みだとか言わないでくださいよ。」
「有能なクラフトマンを裏切りはせん、金は後でバニラに持って行かせる。バニラはそのまま好きにしろ。」
「ありがとうございます。これからもご贔屓にお願いします。」
貴族の屋敷を後にする、馬車を用意され遺跡調査学会まで送ってもらう。
ダストンに会うためだ、相変わらず忙しそうな中を進むとブルカニロ博士がいた。
「やあ、君達また来たのかい。」
チェロのような響きの声で、にこやかに話しかけてきた。
「ダストンは居ますか。」
指した方角に中庭がある、そこに居るようだ礼を言って中庭を目指す。
中庭では鎖を振り回しているダストンが居た、こちらに気がついて手を止める。
「なんだ今日は小娘は来ないのか。」
「メルカバはちょっと火山まで行ってます。」
ダストンは落胆したように見えた。
「棘付き鎖じゃないですね。」
「練習に棘付を使ったら傷だらけになるからな。」
良く見ると傍らにもう一つ鎖の山がある、メルカバ用だったのだろう。
「メルカバの上達具合はどうですか。」
「ふん、汚いオークの癖にいい勘をしている、上達も早い。」
「彼女の事を汚いといった発言を取り消してください。」
マリーヌの余りの剣幕にダストンは1歩下がる。
「彼女はオークに捕まった女性の子供です、彼女もオークに恥辱されて自分も汚いと思っています、彼女の事を汚いと言う者には私が許しません。」
涙目のマリーヌに詰め寄られダストンは呻く様に声を振り絞った。
「お、おう。すまない。」
非常に雰囲気が悪い、やけに静けさが響く。
「取り込み中すいませんが、これを見てください。」
「ほうこれは珍しい魔法が掛かった棘付鎖だな。」
話を変えたかったのだろう、魔法の鎖に飛びつく。
棘付鎖は特殊な武器で魔法の武器としてダンジョン等で拾うことは滅多に無い、つまりオーダー品という事だ。
「俺は鑑定の技術が無いから分からんが、こいつには強力な力が付与されていることは分かる。」
「神聖、鋭刃、対悪魔、付与の棘付鎖+5です。これを預けます、メルカバが棘付鎖を使いこなせる用になったら渡してください。」
「おい、2セットあるぞ。」
「余分に作ってしまったんです、1個は報酬として受け取ってください。」
「いくらなんでも高価すぎる、俺はこんな物を受け取るつもりは無い。」
付き返されるが強引に押し戻す、変な押し合いに成りながら。
「ぐぐぐ、報酬として高いのなら、これからの依頼として受け取ってください、完全前払いで。」
「ぬぬぬ、だから受け取らんと言ってるだろ、依頼と言っても話も聞かずに受け取れるか。」
「むむむ、とりあえず受け取れよ、アルトシュタインのマックス王子が神剣を探しているそいつの手助けをお願いしたい。」
そう言うとあっさり受け取る、余りにもあっさりだったので躓きドワーフの胸にダイブしてしまったほどだ。
汗臭いおっさんにダイブしてしまったので後でマリーヌの胸に飛び込ませてもらおう。
「マックス王子が来るのか。」
「サウザンド経由で神剣の捜索を協力すると打診中です。」
「そうか、じゃあ皆が揃うかもな。」
「皆?」
「ああ、過去パーティを組んだメンバーが揃うかもしれん。ぐずぐずしていられん。」
そう言うと、ダストンは中庭を出て行く「おーいビショップ、ビショップ冒険の準備をするぞ。」と遠くで聞こえる。
「なんだありゃ。」
「きっと退屈していたのでしょうドワーフは長命の種族です、長く生きると短命の種族の仲間を失い寂しくなると聞きます。
かつての仲間と再会でき共に冒険できるのを嬉しく思って行動に出てしまったんですよ。」
「そんなものかね。」
「母が言っていました。」
「あー、マリーヌのお母さんはエルフだったね。」
「ええ。」
ダストンが居なくなったので遺跡調査学会を後にする。
―――それから1週間後―――
真夜中に声が響く、次元リングが起動してメルカバの顔が見える。
「主よもう起きているか。」
「おい、まだ朝の5時じゃないか。外は真っ暗だろ寝ていたさ。」
「すまない、オークは夜行性で私も夜行動している。」
メルカバからの定期連絡だった、普段は寝る直前に連絡があるが今日は明け方だった。
「目的地に付いた、例の物を設置した。」
「かなり早かったな、じゃあ帰って来い。」
「今から急いで帰る。」
リンクを切ろうとするので引き止める。
「主よどうした。」
「このリングから戻って来い。」
「顔しか出ないんだが。」
次元リング越しにオイルを渡す。
メルカバは何も言わずにオイルを頭から被ると、みるみる小さく成り1mちょっとの大きさに縮小した。
服は小さくならずに裸に成るかと思ったが流石魔法薬だ、装備品も小さく成っている。
「小人薬だ、これならこの輪を超えられるだろう。」
「ではそちらに行きます。」
結果は装備が引っ掛かるが器用にこちらに移動した。
「フル装備では通り難いのが問題です、あと小さくなるので敵がいたときの対応が不安です。」
「巨人薬を使用して元の大きさに戻るしかないな。」
オイルを被りヌメヌメの体がやけにエロい、目のやり場に困っていると、
「主よ、そんなに見つめて発情したか。」
「残念、ちびっ子に言われても全然説得力が無い。おーい誰か、メルカバが帰ってぞ風呂に入れてやってくれ。」
これ以上2人でいるのは危険なので人を呼ぶ。
「キャー可愛い」
「皆で取り押さえるわよ。」
「やめろー」
数人に捕まり囚われた宇宙人のように風呂場に連行されていった。
それから3日ほど経った頃に猫背の商人ブルワリーがバード家の跡地にある小屋にリングを設置したと連絡があった。
最近バード家跡地に建てた粗末な小屋だ、復興の第一歩でここを迷宮探索の前線基地にしようと思っている。
バード家の復興を手伝い村でも作る事ができれば物資の調達を現地できる。
現地で探索者を募り、迷宮の整備をする人を雇う事ができれば神剣を楽に行う事ができるだろう。
地下の怪物からの防衛もできるので一石二鳥だ
これから人が住むための家と守るための最低限の防壁を作り、兵と移住希望者を募る事にしよう。
異世界冒険 165日目




