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第71話:望郷:帰還への道

 新『鋼鉄の拳亭』の屋上で作業を手伝っている。


「アカネさん凄いですね美人は何でもできるんですね。」

「そうかしら。」

「溶接技術が無いのでステンレスタンクの完成を諦めてました。」

「私にまかせなさい。」


 俺の主な仕事は猛烈にヨイショすることです。

 カンザキがが「働かざるものは食うべからず。」と何か仕事が無いか聞いてきたので、熱をコントロールする超能力者のアカネに溶接をお願いしてみた。

 『鋼鉄の拳亭』の屋上にステンレスタンクを設置する準備はしていたが溶接技術が無く作成を諦めていたやつだ。

 錬金機器の取り出し口から出せるサイズが1m以内ぐらいだったからだ、諦めて木の樽を設置していたが水質をこだわるならステンレス製が一番だ。

 熱を1点に集中させるのが相当難しいようだ、最初はステンレに穴を開けてしまい失敗の連続だったが今は上手に溶接している。


 下を見ると射撃場で銃の射撃訓練をしている従業員が見える。


 数日間は情報交換や技術の習得で忙しかった。

 その間にオーク軍を退けた事の勲章授与などのイベントもはさんだので、かなり忙しかった。


 自分も銃の扱いの手ほどきを受けていた。

 その内容は分解と清掃だ、射撃訓練は、モデルガンを撃った経験から直ぐに合格点を貰っていたがメンテナンスは素人だったからだ。

 パーティメンバーや従業員にも銃の扱いを習わせていた、分解清掃方法を多くの人が覚えていれば自分が忘れたときの対策にいいだろう。

 付け加えると、ボニーとビッキーが地味に銃の手入れが上手かった。


 メルカバは銃が好きでは無いらしく一通り覚えると日頃の訓練に戻ってしまった。

 皆が基本の打ち方を習うときにメルカバは馬の乗り方を3人の日本人に教えていた、これもギブアンドテイクというやつだ。


 3人の武具や便利アイテムを用意した、特にカンザキには希望の武器を念入りに打ち合わせして作成した。


「本当に丸ノコの刃でいいのですね。火、雷、氷と対霊の4種類用意しました。」


 4種類を4枚ずつ計16枚と、エルフの業物のロングソードに+5と神聖の効果をつけて渡す。

 他の2人にも次元リュック、天使の鎖帷子、エルフの靴、魔法の矢筒を渡す。 


「他に欲しい物があったら店から好きな物を持っていってください。」

「ねえ、ヒイロ頼んでよ。」

「ん、リク下着の複製。」


 どうやら換えの下着を作って欲しいようだ。


「いいですけど、物はあるんですか。」

「ん、換えの下着を持っている。」

「じゃあ貸してください。」


 なぜ今着ているのを脱ぐ。


「ちょっヒイロちゃん、何脱いでるの。」


 アカネは焦って指摘するが俺の手にほかほかの下着が渡される、だいぶ履き古されている。

 まあいいけど、ちょっとシミがあるのが気になるが・・・「クンクン」つい匂いを嗅いでしまう。

 アカネの軽蔑の眼差しを受けながら、複製をする、複製だけでなくデザインやサイズの変更も出来るのでこれは2人に決めてもらう。 


「ちょっと、ブラのサイズ言わなきゃ駄目なの。」

「錬金機器は俺しか動かせないからね、ヒイロと同じサイズならそれでいいけど。」

「違うわよ、耳かしなさいよ。ゴニョゴニョ。」


 へーそうなんだと胸を見たら胸を隠して変態と言われてしまった、今日で彼女の俺の評価は地に落ちたのは間違いない。

 色柄サイズを適当に選んで作成する、ひょっとしたら従業員達も欲しがるかもと思ってだ。

 俺の部屋の一角が女性用下着で埋め尽くされる。


「うわぁ、そんな趣味が有るの。」


 誤解しないでください、俺の物じゃないんです、そんな目で見ないでください。

 俺用の下着も欲しいのでカンザキに下着くださいと言ったら、カンザキにまで白い目で見られた違うって。

 男性用下着も作りカンザキと分ける。

 マリーヌを呼んで下着を皆で分けるように言うと女性達の試着会が開かれた事を付け加えよう。


 ヒイロに「お借りした下着ですが」と返そうとしたら「ん、報酬。」と言って俺にくれた、そんな趣味は無いんだけどな、とりあえずポケットにしまっておいた。


 色々落ち着いた頃にカンザキと話をする、これからの方針ってやつだ。


「日本に帰るためにはこの世界に存在するアーティファクトを集める必要があります。

アーティファクトはどの世界にも1・3・7・9個のセットで構成されています。

この内存在が確実に分かっているのは、『ドワーフの7つの秘宝』3つは既に、ランスに存在する遺跡調査学会が所持しているようで話を聞きに行ってきます。

あと、1のアーティファクト『神殺しの剣』が地下迷宮に存在しています、アルトシュタイン城はその地下迷宮の上に作られているようです。」

「その剣ってアルトシュタインのマックス王子が探していたぞ。弱っちいやつだったからたどり着けると思わんがな。

 あと、『7つの秘法』の4つの場所は分かっているのか。」

「大体の場所は分かります、1個はバニラの町にあります。ただ、ドラゴンが封じられているので倒さないと手に入りません。あと3つも大体分かっていますがどれも強力な罠やモンスターが守っているようです。」

「なら俺が取って来てやる、お前はマックスを補助してくれ。」


 へ?、何を言ってるのか分からなかったが、「お前は人を効率よく使う素質がある。」と言われた。


 魔法についてもお互いの意見を交換する。

 カンザキいわく、この世界の魔法は超能力とは違うようで、物理法則も無視する。

 電撃などはアース接地すればダメージが無いはずだが、魔法の電気はアースを無視する。


「放電現象を意のままに操る事は不可能だどうやって放電に方向をつけるか分からん。」

「ならどうして操れるか俺の推理を話します。」


 話が難しくなるので、アカネに席を外してもいいよと言ったら「ふざけないで。」と怒られた。


「知識の図書館での知識と俺の知識からの推測です。」


 と述べてから話し出す。


 この世界には魔法というエネルギーが存在していて、様々な物質と置換わるのではないか、電撃なら電子と置換わり、剣や鎧なら物質と置換わる。

 置き換わった物質は通常の物理法則を無視するのではないか。

 エルフの剣+5を例に話す。

 鉄の物質がそのまま魔法の物質に変わるのではなく、鉄の分子の電子殻の電子が置換わるまたは追加される事で魔法の剣に成るのではないか。

 電子が置換われば変わるほど、強くなり結びつきも強くなる。

 アイテムの強化が+5以上を超えると破壊されるのも、電子殻には32以上の電子が収納できない事に関係している事で説明できる。


「まあ、あくまで仮説ですけどね。」


 アカネは既に机を枕に寝ていた、グーグ寝息が聞こえる。


「この仮説の根拠はあるのか。」

「仮説の根拠を話すと長くなりますよ。

 錬金機器で判別不明となったことはつまり、この世界のに構成されている物質とカンザキ達が持ち込んだ物質が違うからです。」


 カンザキが難しい顔をするが話を促すので続ける。


「他の次元界に行ってきました。天国のような次元界がありました、地獄も存在します。

 天国には光輝く鉄など珍しい物質も在りましたが錬金機器で判別できない物ではありませんでした。

 そこで思ったんですが、俺達の住んでいた世界はこの世界とは違う物質で作られているんじゃないかと思ったんです。」


 カンザキは自分のナイフと剣を見比べて「そんな風には見えんが」と呟いている、アカネが目を覚ます。

 

「量子レベルの違いだとしたら。」

「量子レベル?」


 アカネがまた寝た。


「そうです、素粒子が実は振動するひもであるという事つまり、あらゆる物質はクォークやレプトンで構成されています。それぞれが6種類のフレーバー・・・いや説明が難しくなるので簡単に言うと12種類で構成されています。

 この世界は違う種類のフレーバーが存在するか、少し違うクォークやレプトンで構成されていると思います。」

「全然理解できんもっと分かりやすく教えてくれ。」


 黒板に絵を書く、酸素原子に水素原子を2つ付けた水の分子の絵だ、矢印を書いて水素を抜き出し書く、陽子と電子の図だ。

 それを拡大させて素粒子の中にABCD…Lまで12個書く。


「これが俺達の居た世界の素粒子、こっちが今の世界。」


 同じような絵を描き、素粒子の中にA'B’CD…LMと13個書いた。 


「ダッシュは同じ働きで違う素粒子、素粒子の数の違いは構成が違うことを現してます。

 ビックバンの発生時に素粒子の数がランダムで決まるといわれています。」

「仮定だろ。」

「俺達のいた世界は、分子間力が計算よりも弱いと聞いたことがあります。

 ビックバーンが発生した時点で分子間力が決定するなら俺達のいた世界は平均よりも弱い分子間力の世界に生きていた事になります。」

「ますます分からん、本来の力で世界が構築されるとどうなる?」

「ビックバーンが起こったら直ぐに収縮してエネルギーの塊になります。」

「・・・もし分子間力が弱かったら。」

「星も何も生まれずにただ無限に広がる空間が出来ます。」


 黒板に10の500乗と書く。


「この数字はなんだ。」

「ひもの振動のパターン分だけ、いや簡単に言うとビックバーンの発生時に別れた世界の数です。つまりパラレルワールドの存在する数です。」


 カンザキが絶句した。


「ただ、生物の発生しない世界を差し引くと、千に1つ、万に1つになってしまうかもしれませんが、それでも膨大な数のパラレルワールドが存在していると思います。

 この世界の底辺、基礎に成っている次元界で日本人の子孫に会いました。

 日本と言ってもパラレルワールドの日本で第二次世界大戦を経験してない世界の日本人の子孫でした。」

「なら俺達も違う世界から来てるのかもしれないな。」

「いやそれは無いです、別の世界間を超えるのには莫大なエネルギーが必要です。

 転送された日が同じ日なのを考えると同じ日本から転送されたと考えるのが妥当です。」


 食堂から茶碗を持ってくる。


「これが今の世界です。」


 茶碗に水を注ぎ、いろんな色のボールに物質界、地獄、天国、元素界と書いて浮かべる。(ボールは子供用に売れるかも思って作ったスーパーボールだ。)


「このボール(物質界)に住んでいると思ってください。他のボールに行くには魔法などを使用したりボールが重なったときに出来る扉から他の世界に侵入します。

 ダンテもウェルギリウスに導かれ、地獄、天国と彼岸の国を遍歴してます、西暦1300年の復活祭前の金曜日が扉の開く鍵だったのでしょう。」


 もう一個の茶碗に水を注ぎ同じようにボールを浮かべる、そこに塩を入れる。


「この茶碗は今俺達の居る世界です。」


 しかし、塩水の為同じように浮かばない。


「違う物理法則で成り立つ世界です、本来なら俺達の住んでいた日本との接点は在りませんが。」


 茶碗同士をぶつける。茶碗の水がこぼれ一瞬繋がる。


「この時に俺達は転送されたようです。大体理解できましたか。」


 カンザキの頷く顔を見て続ける。


「茶碗の底辺に鍵の街と呼ばれる大きな街がありました。ここの図書館には茶碗の中の世界の知識が収められていました。

 しかし、他の茶碗の知識はつまり日本が存在すると書かれた本は有りませんでした、でも異世界の日本人は存在しています、つまり他の茶碗が存在しているってことです。

 元の世界に返るためにアーティファクトを集めてそのエネルギーを使って帰りたいと思っています。」

「じゃあ、明日はアーティファクトを見に行こうか。」


 カンザキはアカネを担ぎ上げて上の部屋に戻っていった。


 明日は史跡調査学会に行きアーティファクトを借りる事が出来るか聞きに行こう。

 史跡調査学会のビショップとダストンはサウザンドのパーティメンバーだった、アポはとってある。


異世界冒険 154日目

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