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第67話:決戦

 一夜明けたライセン城壁前、警戒する者、休む者、負傷者を運ぶ者様々だった。


 主要メンバーは休息を取ってから集まった。


「リクの用意した兵器凄かったな。」


 スプモーニはリクの顔を見て一番に言う。


「あれはただの石灰とアルミニウム金属の粉ですよ、兵器って程ではありません。

どちらかと言うと、『創造の竪琴』の効果がチートアイテムなんです。」


 ほえ?っとビッキーの腕の中にあるライアが首を傾げる。

 知性あるアイテム竪琴のライアに皆の注目が集まる。


「『創造の竪琴』って穴掘ったり建物を建造する能力を有しています。

1時間で100人が7日ほど働いた仕事量が出来ます、でも他の人が手伝うと建物が倒れたりと上手く連携できません。

しかし、今回のギミックを組み立てる事の様な単純な作業は大量に素早く出来るんです。」


 そう、建物を建てる行為を人間と共同では出来ない、音楽でプログラムされた作業をなぞるだけだからだ。

 途中で誰かが手伝うと、3Dプリンターの失敗作の様に曲がったまま建てられるのだ。

 だが石を積んだり、積んだ石を落とす単純行動は出来る、狙いが必要なければ複数の投石器に石を設置して発射も無人で出来る。

 高価な魔法のアイテムと、演奏の難易度が高い為に今まで戦闘で使おうと思った者はいないようだが可能性は無限に広がる。

 難しい演奏も竪琴のライアが自分で演奏するので演奏者の心配も無い。


 説明するとタルトとスプモーニが、


「「返したライアの姉妹品って貰ってもいいか。」」

「駄目です。」


 マリーヌが間髪いれず拒否する。


「マリちゃんそんな事言うなよ。」

「そうだよ、クリームなんで5台貰ってるんだぜ。」

「その代わり、ずーーっと喋りっぱなしだ。部屋で瞑想も出来ん、人間なら睡眠不足で死んでも知らんぞ。」


 クリームの反論に黙る2人。


 そんなやり取りを聞きながら、兵器と言われた素材について考える。

 今回用意した生石灰は廃棄された貝殻から精製した物だ。

(貝殻は燃やして生石灰を作り石鹸などの原料にしようと思って集めていた、結局は油と灰で簡単に合成できたので必要なくなった。)

 レベル9になり新しく精製が増えたので貝殻を精製して生石灰を作ったのだ。


 そして、アルミニウム金属も精製したものだ。

 アイテムを分解すると原材料が手に入るので、鉱石を分解したところ、鉄鉱石から鉄、銀鉱石から銀や濃紅銀、銅鉱石からは銅や黄銅鉱を分離できた。

 赤土の中には10%ぐらいの低い割合で酸化アルミニウムや酸化鉄や混じっているが割合が低すぎて工業的に分離して取り出す事は採算に合わない。

 ひょっとしたら酸化アルミニウムと酸化鉄を分離する事ができるのではと試してみたら問題なく分離できた。


 さらに酸化アルミニウムを精製してアルミニウムを大量に作り、それに酸化鉄を混ぜた缶を城壁から吊るしただけで兵器と言うにはおこがましい。

 改めて錬金機器は恐ろしく高性能である事を自覚する。


 レンジャーズの中でも睡眠の必要ないエルフが望遠鏡を担いで帰ってきた。

 この望遠鏡も錬金機器で作ったやつだ、星を見ようと作ったがこんな所でも役に立った。


「報告します、オーク達は休憩しております、食料も馬を潰して食べているようです。」


 騎乗用の馬を潰しての食料確保、向こうも最後まで戦う腹を決めたようだ。

 輜重兵は機能しておらず遥か後方にいる、撤退するなら最後のチャンスと思ったが決戦を選択したようだ。 


「そうか、このまま守りきれば勝てるか。」


 領主の発言にアンドレが反論する。


「もたもたしていると輜重兵が到着するでしょう、腹を満たし武器を補充したオークと戦うのは得策でありません討って出るべきです。」


 前夜に倒してたオークの数は500体、まだ3500体もいる、輜重兵を差し引いても現在3000体のオークがいる事を思えば打って出るのは得策とは思えない。

 こちらは1800人しかいない、リクは手を挙げ発言する。


「こっちの数は半分ですので勝てると思えませんが。」

「今回のオークの主力兵は2500体と思われる、後の兵は後方支援部隊だ、こちらに到着するまでに2000体に、昨夜の戦いで1500体まで減っていると思う。十分勝機はあると思う。」


 タルトとクリームが反論する。


「オークの後方支援部隊が一般人だけで編成されているとは思えん、予備兵として主力の兵を後方支援部隊から補充している可能性が高い。」

「オークの筋力をなめるな、簡単な訓練で人間のウォーリアーと同等に戦える。」


 このまま篭城する事に決まる。

 しかし、俺はずるずる戦うのはよくない気がした。


「俺達だけで一度オークキングを討ち取りに行きます。」

「死ぬぞ。」

「危なくなったときは空を飛んで逃げますよ。皆も来てくれるか。」

「「はい」」


 

 何度か説得を受けるが断り7人でライセンの城門を出た。

 メルカバとスカーレット、ボニーを先頭にビッキーと俺、後にマリーヌとベニーの構成だ。


 オーク軍に近づく、1kmほど離れた所で狼を連れたオーク数人やって来る。


「止まれ、和平交渉か。」

「今から、昼まで時間をやるささっと元の国に帰れ、帰らねばその首を取りに行くと伝えろ。」


 メルカバの言葉は乱暴だったがそんな所だ、オーク達はゲラゲラ笑い出した。


「こいつら正気か。」「勇者様ご一行だったか。」


 メルカバはボニーに手を差し出す、ボニーは矢筒から『ライトニングジャベリン』を取り出しメルカバに渡した。

 ジャベリンを放つと雷となりがオーク達に襲い掛かる。


 オーク達は雷に打たれ倒れる。

 狼も雷に打たれたが雷を回避する個体も数体いた、当たった狼も雷1発では死なないようだ、よろよろ立ちあがる。


「人間よ本気だのだな。」

「え、狼が喋った。」

「あれは魔獣、砂狼です、高い知能が有り狼と同じと思っていると痛い目に合います。」


 確かに今までの狼より一回り大きい、立ったらメルカバよりも大きいだろう。

 ステータス確認、モンスターランク5でオークよりも強かった。


「軍を引くのなら追撃しないと約束します、もし敵対行動を取るのなら容赦はしません。」

「人間風情が今この場で消し炭にしてやる事もできるが。」


 周りの狼もグルルと唸っている。


「やりますか、敵対行動を取ると受け取っていいのですね。」

「・・・ふん、この話の内容を伝えればよいのだな。帰るぞ。」


 ブレス吐けるのか、流石にこの距離でブレスを吐かれたら無傷ですまない、肝が冷えた。




 狼達は走っていった。

 先頭のリーダー格の狼に並び文句言う。


「このまま引き下がっていいんですかい、あいつ等など全員でブレスをはけば瞬殺ですよ。」

「これまでの戦いと、3ヶ月前のオーク一族の敗走には共通点が多い、今のジャベリンも何かのマジックアイテムだった。」

「じゃあ、やつらが砂鉄オーク団と呼ばれた強力な一族を滅ぼしたと言うんですかい。」

「ああ、あのハーフオークの首に押された印は間違いなく砂鉄オーク団の所有印だ。

それに俺達が戦争の引き金を引いたらまずいだろ、あくまでこの戦いはオークに先頭を立ってもらわねばな。」

「そうでしたね。」


 狼達は凶暴な笑みを浮かべて走っていった。




 リク達はパラソルを出して、折りたたみ椅子と机で休憩、軽い昼食を取って1時間するとオーク達が動く。

 オーク達はオーク達で砂鉄オーク団を全滅させた首謀者と思っており、引くことよりも倒す事に重きを置いた。

 ただ、砂鉄オーク団の二の舞になる事は避けたいようで既存の兵士の中でも英雄クラスを組織する事にした。

 

 オークの構成は、戦士3・斥候職2人・僧侶2・魔法使い2という構成どのオークもレベル7~10。

 その後には騎兵、(馬は潰してしまい徒歩の騎兵隊だ。オークキングは非常に後悔していた事を付け加える。)を従えて20人ほど追従している。

 オークの騎兵の中でも高いレベルの者を従えていた。最高レベルは5段々下がって、レベル1の者は戦士の職業レベルを持っている。 



 リク達は交渉が決裂した事を悟った。

 ただ、狼達がオーク集団から休息に離れていくので仲たがいしたのかとリクは思った。


「近づく前に殺るぞ。」


 悪魔将軍戦で負けた事もあり交渉が決裂したときには一切手加減無用と意思統一している。


『ジャカ』


 400m前後の所で弓を構える。

 オーク達は距離があるのでまだ気を抜いていた。


「+5の矢を使用許可、術者を狙え。総員発射。」


 7人が弓を射る、オークが反応する前に計16発の矢が発射される。

 追加攻撃・遠距離・誘導・神聖・火・雷付与コンパウンドボウ+1の弓に、オーク殺し鋭刃付与の矢+5のセットだ。

 普通のコンパウンドボウは400m先の目標まで矢を届かせる事ができる、実戦での有効射程は200mぐらいだ。

 このコンパウントボウは遠距離の魔法が付与されていて2倍の飛距離がある。

 既にオーク達はこの弓の有効射程距離に入っていた。


 オークが反応する前に術者が蜂の巣になり、魔法使いのエネミーマークが消えた。

 

「あの距離から狙撃してくるだと、前衛盾を構えろ。」


 盾を構えるが体を全部を隠せていない、7人相手にタワーシールドが必要とも思っていなかったのだろう、リク達は矢を次々放つ。

 前衛の戦士が2人倒れる、リーダらしきオークが「回復は出来んのか。」と叫ぶ。


「無理です、攻撃の手数が多すぎます回復が間に合いません、ゴフッ。」矢が喉に刺さり倒れるオーククレリック。

「ここで止まっていたら殺られるぞ、総員突撃。」


 騎兵と共に走り出す。

 悲しいかな、鎧を着ての全力疾走ここにたどり着くまでに60秒以上必要だろう、腕のいい射手なら10発ほど矢を射る事ができる。

 しかも魔法の追加攻撃の効果があり20発は撃つ事ができる。


 200mほど進んだ所で半数が地面とキスをしている。

 さらに100mほど進んだ所で残り半数減る、5人の生き残りは向かってくるかと思ったが全員ゲロをはいてうずくまっている。


 400m走を鎧着て走ったのだから酸素不足で動けないのだろう。

 明らかに顔色が悪いオーク達を無慈悲に倒していく。

 リーダを残して全滅した。

 リク達は歩いて近づく。


「降伏の伝令でしたかね。」

「貴様が、異能能力者か。」

「俺には戦う力なんて無いですよ。アイテムを作るだけが取り柄です。向こうの情報を教えてくれれば捕虜としての待遇を約束します。」

「なら貴様を殺せば戦況も変わる。」


 オークは渾身の力を込めて剣を抜き切りかかって来た。

 スカーレットが剣を叩き落とし、メルカバが両断した。


「ではこっちのターンです、オークキングを倒しましょ。」

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