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第66話:迫るオークの軍勢3

「報告します。あと1日で重歩兵が到着します。」

「もっと走らせんか。」


 急ピッチで進んでいる城壁の修繕と補強にオーク長がイラついている。


「城壁の弱い所を木で補強している。」

「木の補強ぐらい直ぐに壊せるのではありませんか。」

「その間に石や土を入れて水を打てば簡単に壊す事はできん。」


 それに加えて、何度か襲撃してきた象の脅威もある。

 今は梯子を作成させているが、砂漠の都市というだけあり材料不足に悩まされている。

 近くの村から木を調達しようとして象の集団と戦闘し部隊は手痛いダメージを受けていた。


 次の日の夕方に到着した歩兵達は疲労の色が濃い。


 オーク長はオーク王に進言する。


「全軍疲労をしているがここは攻めるべきです。」

「うむ、大休止後全軍に戦闘準備をさせろ」


 すんなり意見が通るとは思っていなかったようで首を傾げるオーク長、しかし、事態はもっと深刻だった。

 ここ数日まともな食事を食べてなく全軍限界に近かったのだ。


 先に付いた騎兵や軽歩兵は、狩りを行う時間があり少ないながらも腹を満たしていた。

 しかし、重歩兵は強行軍を続けて食料が尽きていたのだった。




 そして夜。


「皆のもの聞け、これだけオークが集まればあの堅い守りの城とて恐れる事はない。城壁の中の食料達が我々の胃袋のを待っている。さあ剣を取れ、大地を血で染めろ。」

「「ウォー」」


 無謀な突撃では無かった、極めて組織的で正門を囮として城壁の低い箇所に梯子や鉤付きロープを使って進入しようとした。

 正面の囮と言っても破城槌が配置されており決して無視できる物ではなかった。





 オーク軍は予想より早く現れ、しかも、全軍で攻めてくるとは思ってなくリク達は泡を食った。

 早く対応したのはタルトで、正面に弓兵を引き連れて出て行った。


「門が破られるぞ破城槌を近づけさせるな。」


 リクが調整した弓は強力でオークを次々射殺していった。

 破城槌の速度は落ちたが矢では破壊する事が出来ないので焦るタルトに心強い援軍がくる。


「私がいないと何も出来ないのね、『ファイヤーボール』」


 暗闇に火線が伸びる、破城槌に当たると轟音と共に破城槌が半壊した。

 腰に手を当ててドヤ顔のジェラがいた。


「助かった。あと何発いける。」

「へ?」


 タルトのタワーシールドに隠れながら間抜けな声を出す。


「あと、5台在るからな。」

「あと1回分しか準備してないわよ。」

「そうか、とりあえずライトの呪文で門の下を照らしてくれ。」

「それなら。」


 ジェラは『炎の壁』を出現させる、オーク達は門の前に突如現れた業火に進めなくなった。

 何とかなりそうだなとタルトは小さく呟いた。



 スプモーニは敵の本命である低い城壁の上にいた。

 低いといってもコンクリートで高く成っているのでそう簡単に登ることはできない。

 コンパネを鉤付きロープで剥がしコンクリートの壁を見たオークの驚く顔には笑えたが今は笑ってられない。


「矢を休まず打ち込め。怪我をした者は後と変われ。」


 架かった鉤付きロープを冷静に切っていく、梯子からもオークが登ってくる。

 蹴り落としながら激を飛ばす。


「ここを抜かれると戦局が一気に覆るぞ梯子を押し戻せ。」

「おおー」


 兵士達は竿のような物で架かった梯子を押し戻すが矢が雨のように降る中での作業は進まずオークの進入を徐々に許していった。


「太陽の神の名において出でよ黄金の雄牛。」


 エステルの声が戦場に木霊すると光輝く雄牛が3体出現してオーク達を踏み潰す。

 黄金の毛皮に黄金の角、見るからに神々しい太陽神が住む次元界に生息する牛だった。


「梯子を破壊して。」


 雄牛は何度も足を蹴り『ヴモォー』と梯子に突進して行った、ボーリングのピンのように跳ね飛ばされるオーク達とみるみる倒れる梯子に城壁下は大混乱した。


「エステル助かった。」

「雄牛が消えるのに60秒ほどよ、それまでに体制を立て直して。」


 少し息をつけるなとスプモーニは小さく呟いた。 





 少し時間を遡りタルトとスプモーニが出て行った後リクは想定外が多すぎて頭をかかえる。


「こんな大規模な戦闘になるとは思ってなかった。」


 兵糧を無くして部隊の進行を遅くすれば引き返すと思っていたが、逆に速度は速くなり思っていた以上に兵も減ってない。

 実際は1000人ほど兵を減らしているが、後方支援部隊の兵を中心に減らしたので敵の軍勢の勢いは変わっていない。


「今を持ちこたえれば情勢は変わります。」


 リクのパーティメンバーは励ますが、戦闘を行わずに完勝できると言った手前もあり頭が痛い。


「ぐずぐずしてないで行くわよ。」


 短気なジェラに促されはっとする、悩んでいる場合ではない。


「エステル、ジェラ少し時間を稼いでくれ。今からアイテムを作るので後の者はちょっと待ってくれ。」


 簡単に出来るアイテムのはずだと前置きをしてタッチパネルを確認する。


「直ぐ来なさいよ。」

「待っています。」


 エステルとジャラを見送る。

 大量の魔法のアイテムを作っている時間は無いが、魔法のアイテム以外なら直ぐに大量に作る事が出来るだろう、たぶん。





 城壁にオークの梯子が再度架かりどんどん登ってくる。


「弾幕薄いよ!何やってんの !」


 スプモーニの元にアンドレがレンジャーズと共に救援に来るがオークの数に押されだしている。

 登って襲い掛かってくるオークに剣で応戦するアンドレとレンジャーズ、状況は極めて劣勢だった。


 何処からともなく音楽が聞こえてくる。

 曲と共に山羊に乗った子供が城壁を疾走する。


「往くぞ、ランスチャージ」「メルメルメェー」


 山羊に乗った者は子供ではなく小さな種族の聖戦士のギーだった。

 壁歩きの呪文を山羊にかける事により壁を走り梯子を叩き壊していく、登っているオーク達は成す術もなく梯子から落ちていった。


「みんな私の歌を聴けー、少しの勇気を出せばオークなんか蹴散らせるわ。」

「「体が熱い。」「「ウォーいくぞ!!」」


 ビッキーが竪琴を弾く、勇気鼓舞の歌は兵士の心に届き城壁に残されたオークを押し戻す、哀れオーク達は情けない声を上げて落ちて行った。


「こっちの準備はOKよ。」


 バニラが大声で合図を出すと知性を持つ竪琴のライアが竪琴を掻き鳴らす。

 次々組み立てられるギミック、吊るされた缶に火が灯される。


「何も起きないじゃないか。」

「私に言われても解らないわよ。」


 スプモーニはバニラに文句を言うが逆切れされた。

 敵味方共にザワザワした所で缶が一気に燃え出した、燃え出したというよりも噴火したと言った方が適切だろう。

 慌てたのはオーク達でマグマが上から降ってきて辺りは悲鳴が聞こえる。


「盾を上に掲げろ。」

「鉄の盾が溶けるぞ。」

「この火は水で消えない。」


 人口密度も高く逃げる事もできない為、阿鼻叫喚の地獄が繰り広げられる。

 梯子も一瞬で灰になり下では呻き声が聞こえる。


「魔法か。」

「錬金術の一種みたいね。」

「どうなってるんだ。」

「知らないわよ馬鹿。」


 またも逆切れされスプモーニはこれ以上聞くのを諦める。

 バニラとギーは袋から鉄の玉?をばら撒く、スプモーニもバニラに渡された袋の中身をばら撒く。


「これなんだ。」

「酸化銅とアルミの混合物らしいわよ。先ほどの缶の中には酸化鉄とアルミの粉が入ってるの、火をつけると燃えるんだって。」

「燃えるってレベルじゃないぞ、魔法以外で消えない火なんて見た事無いぞ。」


 話をしていると城壁の下では爆発音がした。


「確かに・・・とても早く燃えるって聞いたけど異常ね。」


 缶の中にはアルミの粉と酸化鉄が混ぜられていた。

 テルミット反応と呼ばれる反応でアルミニウム酸化鉄を還元したときに高温を発生する。

 そしてアルミニウムと酸化銅はより激しく反応して爆発を起す、テルミット反応で落ちた火の塊がアルミニウムと酸化銅の混合物の反応を促した。


 炎の滝と爆発物によってオーク達は攻める事が出来なくなる。


 そこに、ベニーとスカーレット、ビッキーが降り立つ。


「私1人でも良いのよ、後衛2人は気をつけてね。」

「将を討ち取らねば終わりそうも無いですからね。」

「微力ながら助力しますわ。『ライト』」


 走り出す3人、3人の装備には高レベルの耐火が施されてあり火の粉を弾いていた。

 『火玉の数珠』から玉を外し投げる、オークは吹っ飛び前方に空間が空く、そこにスカーレットが飛び込みオークを倒していく。 

 竜巻のような攻撃にオーク達はバタバタ倒される。


「キリが無いわね。ビッキーお願い。」


 ビッキーは魔法の言葉を唱え発声をする、破壊の音波が前方のオークを蹂躙する。

 そこにベニーが『稲妻の杖』のチェインライトニングを起動させる。

 4方に広がる電撃で周辺のオークは全滅する。


「あと少しで届くわよ。」


 オークジェネラルまで直線に伸びてくる暴力にオーク達は我先に逃げだす。

 オークジェネラルは必死に迎撃を指示するが一度混乱した指揮は簡単に戻らない。


 兵を投入するが爆散した所で赤い閃光がオークジェネラルに伸びる、スカーレットが神速の速さで迫り素手の打撃が叩き込まれる。


「軽いわ、女の非力さが災いしたな。」


 決して軽くは無い攻撃を受けているのだが将軍と名の付くオーク、素手の攻撃で怯む訳にはいかなかった。

 オークジェネラルのダブルアックスを寸前で見切るスカーレット。


「当たらねばどうって事無いわ。」


 扇風機のような斬激を避けながら、打撃を加えていく。

 オークジェネラルが膝を着くと「必殺!」スカーレトの拳がオークの心臓を捉える。

 1瞬だがオークジェネラルは動けなくなりその一瞬をスカーレットは見逃さなかった。

 計8発の連撃を叩き込む、この攻撃は敵を肉塊に変えるのに十分な威力であった。


 3人が城壁下に参戦して5分ほどでオークジェネラルを失い城壁のオーク軍は撤退する事になった。


 



 正門は正面門で激しい矢の応酬があった。

 正門はジェラの呪文『炎の壁』が今だに門を守っているが髪から滴る汗からも分かるように疲労が濃い。


「ジャラ大丈夫か。」 


 答える素振りすら見せないジャラ、ハリネズミの様に成りながらジェラを守るタルト2人は限界だった。

 タルトはタワーシールドが破壊されそうだと分かっていたが動けなかった。

 ジャラは集中を切らすと炎が消えてしまうため動けないでいた。


「待たせたな。」

「クリーム遅いぞ。」


 異次元バックから白い粉をばら撒くクリーム、見るとリク達も同じように白い粉をばら撒いていた。

 それにしても大量だなとタルトは思ったがオーク達は苦しそうに呻く者、目を押さえて城壁から落ちる者など効果は抜群だった。


「毒か。」

「いや、酸化カルシウム、ただの生石灰ですよ。大量の貝殻を精製して作ったんです。」


 リクが粉を撒きながら答える。

 生石灰は水に溶けると水酸化物イオンを生じる簡単に言えばアルカリ性になるということだ、目に入れば痛みや刺激によって見る事が出来なくなる。

 リクは目くらましに石灰を撒いたが、思った以上にダメージがあり驚く。


「ボニー行きます。」「メルカバ出る。」


 ガスマスクを付けて飛び降りる2人。

 『稲妻の杖』に『発見のランタン』『+5のオーク殺しの矢』を合成した光る杖を2本持って飛び降りるボニーと薙刀を持って飛び降りるメルカバはオーク達を次々屠って行った。

 マリーヌとリクも後から続く。


「マリーヌ露払いを頼む。」「はい、『ファイヤーボール』」


 マリーヌは呪文を唱え火の玉を発射する、吹き飛んだオーク達の空間にボニーとメルカバが突入する。


 ボニーは『稲妻の杖』に灯された青い光を纏い、バトントワリングの様に2本の杖を操り美しく舞った。

 美しくも『+5のオーク殺し』の効果が付属している杖は効果が絶大で1撃でオーク達を屠る、まさに撲殺天使。


 メルカバはダイヤモンドダストを振り撒きながら草を刈り取るようにオーク達を上下に分けていった。

 薙刀を持った姿は死神の姿にも見える。

 


 芝刈機に刈り取られた様にオークの道が出来る。

 殿しんがりのリクは再び塞がるオークの道を強行突破で強引に通りながらマリーヌの背後を追走する。


「あと少しでオークジェネラルまで届くぞ。」

「一気にいくわよ。行けぇメルカバ。」

「任せろ。」


 ボニーは2本の『稲妻の杖』の能力を開放する、2筋の稲妻がオークを吹き飛ばした跡をメルカバが走る。

 俊足の効果が付いたブーツは元の身体能力が高いメルカバの足をさらに早くしていた、オークジェネラルまで刃が届く。


「オークもどきの小娘が、屍をさらせ。」

「死ぬのは貴様だ。」


 激しい打ち合いが続く、加勢にと近づくオーク達はミキサーに巻き込まれるようにバラバラになる。

 そんな激しい打ち合いも長くは続かなかった、オークジェネラルの傷が戦闘継続できる領域を超えて一気に均衡が崩れる。


「小娘、自分の力量だけと思うな、武器の性能に助けられていると思え。」

「そんな事は分かっている逝け。」


 ねられたオークジェネラルの首を大きく掲げるメルカバ、周りのオークが後ずさる。


「我々の勝ちだ、こうなりたくなければ故郷に帰るが良い。」


 後ずさりをするオーク達これをきっかけに撤退していく。



 こうして初日で2体の将を失い離れた所に陣取るオーク軍、逆にライセンの軍勢の士気は上がるのだった。


異世界冒険 123日目


取得経験点


経験値:3085を得た。


総計経験値:42031



マリーヌ:Lv5→6Lv

ビッキー:Lv7

スカーレト:Lv5→6Lv

ボニー:Lv6→Lv7

メルカバ:Lv7

ベニー Lv5→Lv6

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