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第59話:新装開店

 ここ数日は、新築の工事の仕上げの監督をしたり、現在の宿の改装を行ったりして過ぎっていった。

 既存の宿の改装をしたのはいいが、ドアは仮のドアが付いている、グラバーが気合を入れてエルフに発注したからだ。

 住居だから安い物でいいと言ったのに、「最高の物を納めますぜ。」と話を聞いていない、あいつ絶対馬鹿だろ。


 それから1週間経った頃には新築工事と、店のリフォームも終わり皆が引越し準備をしている。

 店は現在全て休業中、自分の部屋を割り当てられ荷物を運ぶ者や、倉庫の荷造りをする者などでバタバタしている。

 俺は、装飾の綺麗なドアを見ながらボーとしている、確かにエルフはいい仕事をしている細工も細やかで綺麗ではあるが主張しない作り、ドアも重くなく軽くなく。

 でもさ、普通のドアの10倍の値段は酷いだろ、ここ住居だって言っているのに。


 何故か俺は引越し準備から外されている、「旦那様はお客様のご相手をお願いします。」ってお客誰もいないんだけど。

 やる事が無いので、ラッシーを洗うことにした、食品を扱ってもいるので店の中には入れないが綺麗にしておきたい。

 ラッシーの住居は新築の馬小屋の一角にある犬小屋だ、馬の番に丁度良い。 

 馬用の水桶の横に並んでいる。


「ラッシーおいで。」


 新品の犬小屋から喜んで走ってくる。

 新品の首輪をしている。

 この首輪は、言語理解、知力+6の首輪だ、ステータスは8になり人間と同じぐらい賢くなり細かな指示も理解するようになった。

 賢くなってもラッシーは純粋で可愛い。


「犬臭いのでお風呂にしよう。」


 Uターンして小屋に入って顔だけ出している。


「ある程度綺麗にしてないと店に置けないぞ。」


 とぼとぼ出てくる。

 ラッシーを洗っているとマリーヌが声をかけてきた。


「リク何やってるんですか。」

「洗ってるんですよ。」

「そこじゃなくて、石鹸使っている事です。」

「いや、犬用のシャンプーだけど。」

「犬専用のシャンプーって、人用のすら無いのに。」

「石鹸やシャンプー、トイレットペーパーは宿の基本備品にしようと思って大量に作ってあるんだ。リフォームで風呂を作ったからそこに試供品として置いてある。ぜひ使ってみて感想教えてくれ。」


 トイレットペーパーも普段使うやつじゃ無く高級ホテルで使われているふわふわの物を設置しておいた。

 ラッシーをジャーと流しながら。


「宿の位置がこの都市の端っこの所だから高級路線で宿を運営しようと思ってるんだ。」

「ちょっとまってリク、それなんですか。」

「手押しポンプか、便利だろ。」


 よく異世界物語で主人公がポンプの製造をする事があるが確かに便利だ、アホらしくて釣瓶つるべを使って水の汲み上げなんかやってられない。

 電気が無いので諦めたが本当は電動ポンプを設置したいと思っていた。

 なぜかと言うと井戸の水が綺麗では無いからだ、よく見ると水に濁りが有る。

 日本の水道は濁度や、細菌の量を役人がきちんと管理しているが、ここの水は誰も管理していない。

 日本の水と比べるのは間違いかも知れないが綺麗な水、出来れば地下40mぐらいの所の水を汲み上げたいと思っていた。


 そして、新築の屋上に貯水タンクを設置する予定だった。

 汲み上げた水を貯水タンクに貯めれば誰も水汲みを必要としなくなるからだ。

 問題は2点ポンプとタンクだ、問題の1つポンプは解決している。

 ポンプの変わりに『魔法の水差し』を作ったからだ、水を無限に注ぐ事ができるアイテムで水質も確認したが、ここの井戸よりも綺麗だった。

 『魔法の水差し』は地下の深い所の水やお湯を吐き出す事ができるアイテムと推測していた。

 あと、このアイテムは水の排出量の調整が難しかったのでタンクで水を貯めて使う予定だった。


 2つ目の問題のタンクはスロットマシーンで作る事が出来なく、ステンレスの板を用意した所まではいいが溶接する道具が無いことで挫折した。

 ステンレスタンクからコンクリートタンクに変更をする予定だがまだ図面すら作っていないし重いので建物の上に置けない。コンクリートタンクを置く敷地も無い。


 『魔法の水差し』は、排出する水の種類を変更できた。海水にしたり温水にしたりと変更する事が出来た。


 お湯を使い放題にしたかったので、貯水槽の建造は高級宿には外せないアイテムと思っている。

 ただ、温水は温泉のような成分だったのでステンレスタンクと相性が悪い、貯水せずに垂れ流しできる場所例えばお風呂での使用になるだろう。



「このポンプもっと作れますか。」

「こんな物は構造さえ分かれば誰だって作れるぞ。」

「うちの専売にしましょう。」

「売るのは面倒だからグラバー商会や、ギルドマスターに売ればいい。いや、設置が出来る所に売れば販売設置メンテナンスが出来るからそれが出来る所に売ってくれ。」

「探しておきます。」




 さらに1週間が過ぎ引越しと開店準が整った。

 開店セールを行い魔法のアイテム20%引き、宿泊も50%引きを行った。

 現在は夜になり食堂では盛大なパーティが行われていた。


 客単価を、今までの10倍にしたため宿泊客は少ない、客もフィ師匠やカザードなど知っている客ばかりだった。

 驚く事に姫様も御忍びで来てくれていた、副将軍を助さん格さんのように従えて。


「見て、トイレ水が流れるよ。しかもふわふわの紙が設置されてるわ。」

「キャー、ライオンからお湯が出続けてる。石鹸もあるし、髪専用の石鹸もあるわ。今からお風呂入っていいかしら。」

「姫、脱いじゃ駄目です。お止めください。国の威厳が。」


 副将軍2人があわあわしている。

 お姫様は日々城の中でストレスが溜まっているのだろうか。


「オープンセールを行った割りに客数が少なかったですね。」

「元々魔法のアイテムは一般人向けでは無いですし、来ているメンバーがそれなりに凄いので一般人は近寄らないでしょ。それに・・・。」


 とマリーヌが言葉を濁す。

 副将軍2人は渋い顔をする。


「オークの出兵で皆戦争の準備で急がしいのだ。」

「ではこちらも準備をしなければいけませんね。」

「準備とは、何をする気だ。」

「上手くいけば戦闘以外の方法で敵を完封できると思います。」


 実はオークとの戦闘準備をしていた。

 マリーヌには商業の流れ、ビッキーには過去の戦闘情報、ボニーやキャッシーには戦場になるライセンの町との情報交換。

 盗賊ギルドのワルダーも動かしているもちろんそれなりの対価を支払っているが。

 従業員のレベルアップも含めて周辺の魔物の討伐をして、出兵時の兵士の安全の確保などなど。

 オーク兵の挙兵の裏を取っていると、兵站は隣国のアクシヴィルが受け持っている。


 オークがそれほど増えていないのは経済的に強くないからだ、肉体的には恐ろしく力強いが、飲まず食わずでは戦えない。

 しかし、農業が発達していないので主に狩猟で生活している、増えるはずが無い。


 ある程度大きくなると、村などを征服して村人を奴隷として働かせて食べ物を得ているようだが、そんな事で生産性が上がるわけがない、逃げ出す人々も多いだろう。


「オークの補給線はアクシヴィルが受け持っています。補給線は細いと考えられます。」

「兵站の破壊をするというのか。相手も対策をしていると思うぞ。」

「まあ、食料と共に動かれたら手の出しようもありません。でも一度ぐらいなら損害を与えられると思います。輜重隊と共に移動させ行軍を遅らせます。遅れれば食料も多く必要です。」


 黒板に状況を記入していく、姫様も興味を持ったようだ。

 

「不足した食料などは何処で調達すると思いますか。」

「現地調達だな。」

「現地で買うか奪うかどちらかだと思います。丁度今は麦の刈り入れ時期です現地調達を狙っての挙兵でしょう。」


「商業ギルドと国庫からお金を出して、周辺の麦を全部買う事は難しいですか。」

「無理だな、商業ギルドだけでは足りないだろう、国庫はそれほど余裕が有るわけじゃない。」

「ではこうしましょう。王家の保障の元で紙のお金を作ります。それで一時的に買い取ります。お金は戦争が終わったら金貨に戻せるとしたらどうでしょうか。」

「紙のお金なら複製されるのではないのか。」


 札束を『ボン』と机の上に置いた、福沢さんの顔が王様の顔に変わったお札だ。 


「これの複製が作れるなら作ってください。透かしや、ホログラムの技術はまだこの世界には無いと思います。」

「この紙だけでも素晴らしい均一性だ。透かしの作り方など想像できない。」

「おい、これ文字が浮かび上がってくるじゃないか。」


 皆わいわい光を当てて細かな偽造防止を探している。


「問題は戦後の混乱だな。金貨を用意できるのか。」

「混乱はすると思いますが、金貨は何とかなると思います。まだ経済学が発達してないので分からない方も多いと思いますが、流通するお金の量が増えると物の値段が上がります。そして、戦争中となると物資が不足して飛躍的に上がるでしょう。」

「確かにそれで儲けるものもいる。」

「お金の価値が下がり麦の価値が上がれば麦を換金して金貨を用意すればいいのです。」


 換金のタイミングを間違えると大変な事になるけどね。

 しかし、人的被害が少なくなれば復興は早い、人も物資も被害を受けてしまうと立ち直るのに10年近く必要になるだろう。


「分かりました、王には私が掛け合って説得します。」

「協力していただけるなら姫様に、知力+6のサークレットと魅力に+4の効果がある『豪華なる王錫』をお渡しします。これで交渉能力も上がると思います。」

「これを貰ってもいいのですか。」

「先行投資と説得出来たときの成功報酬です。」


 ガッツポーズをする姫様、あかんやろ威厳が無い。


「とにかく食料を買い占めて住民の避難をする。あとは、行軍を遅らせるように何度か奇襲をして敵が突出した所だけを叩くという作戦で行きましょう。ライセンでは既に村や集落の非難が始まっています。」

「ならばこちらも動かねばならないな。」


 城での作戦会議に呼び出されたりと忙しかったが戦争の準備は順調に進むのであった。



異世界冒険 94日目

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